米石油・石炭業界、気候変動に関する虚偽報告の疑いで司法当局が調査開始

(写真:ロイター/アフロ)

今月末に開催されるCOP 21での合意形成に向け、米政府は州や自治体と連携して様々な気候変動対策を発表しています。8月に発表された発電所のCO2排出規制では、石油・石炭産業が盛んな24州が環境保護庁に意義を申し立てており、これに対処すべく様々な策が採られています。

その一環として、石油・石炭業界に対し、過去の財務報告書で開示した気候変動関連の情報が証券取引上の虚偽・不正行為に当たる疑いがあるとして、司法当局が調査に乗り出しています。

気候変動と投資家保護法を結びつけたのは、ニューヨーク州の司法当局。同州の投資家保護法は全米で最も厳しく、これまでに連邦法では立件が難しい多くの企業犯罪を裁いてきました。

石炭最大手が虚偽報告で和解

州当局は先日、米石炭最大手のピーボディ・エナジーが、気候変動によるビジネスリスクを故意に過小報告し、証券取引上の虚偽・不当行為を禁止する州法に違反していたと発表。罰金等は科さないものの、同社は同日公表した財務報告書を含め、その後の適切な情報開示に合意し、和解に達したとしています。

当局の発表によると、同社が故意に情報開示しなかった気候変動に関するビジネスリスクとは、発電所のCO2排出規制が施行された場合に米国内の同社石炭売上が33%以上減少すること、1トンに付き20ドルの炭素税が課された場合に2020年の石炭発電需要が13年比で38~55%減少することなど。さらに、同社が有価証券報告書等において引用した国際エネルギー機関(IEA)の石炭需要予測のうち、気候変動関連規制が施行されないことを前提とする“現行政策シナリオ”のみを故意に使用したことも指摘されています。

これを受け、ピーボディは同日発表した四半期報告書で、IEAが“新政策シナリオ(排出量規制や化石燃料への助成金廃止等を想定)”を基準としているにも関わらず、同社が“現行政策シナリオ”を繰り返し強調したことを明記し、両シナリオによる今後の石炭業界予測値を記載。今後開示する資料においても、将来的な規制の可能性やそのリスクを明記し、IEAの予測を引用する場合は特定シナリオのみを使わないことに合意しています。

シュナイダー州司法長官は会見で「本件は、石炭やその他化石燃料関連の企業が、地球に与える損害と消費者や利害関係者に与えるリスクに対して誠実になるための第一歩だ。同社や他の化石燃料関連企業が情報を全て公正に開示すれば、投資家はこれら企業が地球に与える損害について長期的且つ真剣に考えることになるだろう。」と語っており(NYT)、調査が業界全体に波及する可能性を示唆しています。

石油・ガス大手の調査も開始

これを裏付けるかのように、当局はこの数日前、米石油・ガス大手のエクソン・モービルを召喚。当局は詳細を明らかにしていないものの、ニューヨークタイムズ紙は、当局が気候変動に関する虚偽報告の嫌疑で同社の調査を開始し、過去数十年分の情報を提供するよう要請したと報じています。

実はエクソンの気候変動の情報操作に関しては、これ以前から話題になっていました。

事の発端は、ロサンゼルスタイムズ紙と、ピュリツァー賞受賞経験のある非営利報道機関インサイド・クライメート・ニュースが、今年9月から10月にかけて発表した記事です。

両紙は、エクソン社の過去の内部資料調査や元社員へのインタビューを行い、長期にわたり同社の気候変動に関する動向を調査したとのこと。

記事によると、同社は70年代に気候変動の研究において先端を走っており、化石燃料燃焼によるCO2の排出が気候変動に与える影響とその対応の必要性を把握し、自社事業への適応策を練っていたそうです。ところが、80年代に気候変動の脅威が議論されるようになり、国会で討議され始めると、表向きには気候変動懐疑派の立場にまわり、懐疑派の科学者に対する多額の資金援助や政治家へのロビー活動を開始。2000年代に入り同社の活動に対する批判が高まると、08年に懐疑派科学者への資金援助を停止、現在は気候変動を認める発言もしている、としています。

ニューヨーク州当局の対応は、両紙の報道を受けてのことと見られてます。もしこれが事実であれば、40年にわたり虚偽報告が行われていた可能性がありますから、ピーボディのケースよりも遥かに深刻です。

さらに、この報道を受け、気候変動対策推進派の科学者や市民団体ら60名以上が、連邦司法長官に対して同社への調査を要請。司法長官からの反応は未だありませんが、大統領選候補のヒラリー・クリントンやバーニー・サンダースもこれに賛同しています。

記事の発表後、多くのメディアがこの件を報道。エクソン以外の石油大手にも波及する可能性が論じられ、また、タバコ業界がタバコの中毒性や有害性を隠蔽していたことが判明した90年代の判例と比較し、当局の調査次第では同様の大型訴訟に発展する可能性もあると言われています(NYT等)。

気候変動は将来的な予測であり、100%の正確性を断言することはできませんが、全米で気象災害の規模と頻度が増していることは事実であり、対策が急務であることは明らかです。日々凄惨な気象災害が報道されている昨今、長期にわたり繰り広げられた気候変動論争にいよいよ決着がつくのか、注目が集まっています。