正規雇用かフリーランスか、シェアリング・エコノミー時代の働き方

(写真:ロイター/アフロ)

不要なモノや場所を貸し出したり、空いた時間に労力や技術を提供する、スマホアプリを介した個人間の取引がアメリカで盛んです。

利用者とサービス提供者を繋ぐ仕組みを提供しているのは、日本にも進出している空き部屋貸し出しのエアビーアンドビー(Airbnb)、自家用車による送迎サービスのウーバー(Uber)やリフト(Lyft)、食料品買い物代行のインスタカート、手紙の代筆から日曜大工まで様々な労力を提供するタスクラビットなどのベンチャー企業。身の周りのあらゆるものを使い、スキルに応じて個人がお金を稼げる時代になってきています。

こうした仕組みは、“個人の余剰なモノ・場所・時間を共有することで成り立つ経済”という意味で「シェアリング・エコノミー(共有型経済)」と呼ばれています。あるいは、必要なだけモノやサービスが提供されることから「オンデマンド・エコノミー」、単発の仕事を受発注するため「ギグ(単発の仕事)・エコノミー」とも呼ばれます。

いずれにしても、資源を有効利用でき、コストが安く済み、企業に属さずに個人が生計を立てられ、人と人との繋がりや信頼が生まれ、地域内で良質な人間関係が構築されるといった側面があることから、持続可能な社会の在り方と見られています (詳細は著書)。

世界各地で頻発する訴訟

しかしながら、モノやサービスを提供するのは営業許可を取得していない個人ですから、法的に曖昧な点が多いうえ、既存のビジネスとも競合するため、業界や自治体からの訴訟が絶えません。

空き部屋シェアのエアビーアンドビーとニューヨーク州の係争に関しては以前の記事に記載しましたが、その後の州側の調査により、提供されている空き部屋の72%が違法であったことが判明し、取り締まりが強化されています。他都市では、法規制を改正して制限付きで認めるところも出てきています。

相乗りサービスのウーバーも、進出している米各都市・世界各国で自治体やタクシー・リムジン業界からの訴訟が相次いでいます。日本では今年初旬に福岡で試験営業されましたが、白タクに当たるとの国交省の通達により業務を停止、現在は営業免許のあるタクシー・リムジンの配車サービスに特化しているようです。

規制違反の是正から労働問題へ

これまでは、こうした事業自体に関する訴訟や議論が多かったのですが、昨今はサービス提供者の労働問題に議論の焦点が移ってきています。

シェアリング・エコノミーは個人間の取引が前提であり、企業はそのための仕組みを提供するというスタンスですから、企業と個人は雇用関係にありませんし、取引に必要な経費(たとえばウーバーであれば、ガソリン代や車のメンテナンス代)はサービス提供者の負担となります。

サービス提供者の中には多額を稼ぎ現状に満足している人もいるようですが、多くの場合、経費を引くと大した儲けにならないというのが実態のようで (Forbesなど)、本来企業が負担すべき費用を個人に押し付けているだけではないかという批判が高まってきました。さらに議論は発展し、健康保険や年金などサービス提供者の福利厚生に関しても企業側の責任を問う声が出ています。

一方で、シェアリング企業は投資家からの人気が高く、ウーバーは企業価値が510億ドル(6兆1,500億円)と言われています(Reuter)。これを元に、企業側の経費負担を主張する人も多いようです。

こうした事情から、今年に入り、サービス提供者が社員待遇を求めて提訴するケースが増えてきました。

足並み揃わぬ企業の対応

提携する運転手から複数の訴訟を起こされているウーバーは、運転手の多くは非正規社員としての自由度を求めており社員になることを望んでいないと主張し、異議を申し立てています。これに対し、フロリダ州とカリフォルニア州は運転手を同社の社員とみなす判定を下しました。

さらに、サンフランシスコの連邦地裁は、これをクラスアクション(集団訴訟)と認定。クラスの対象となるカリフォルニア州の提携運転手は16万人いますが、同社は昨年以降、運転手との契約に集団訴訟時の権利放棄を盛り込んでいるため、実質的には、それ以前に契約していた運転手1万5千人程度が対象となるようです(Reutersなど)。

その後も同社に対する訴訟は止まらず、同社は徹底攻勢の構えを見せていますが、その一方で、大学と提携して無人運転による送迎サービスの開発に着手したり、有名レストランの料理を宅配する新事業を開始するなど、敗訴に備えた準備にも余念がありません。

また、同様の訴訟を起こされている買い物代行のインスタカートや梱包配送サービスのシップは、提携する個人を社員として雇用することを発表しています。

大統領選でも議論、新しい時代の働き方

社員として雇用されれば、”個人間の取引”というシェアリングの前提が崩れますし、無人運転になれば労働機会自体がなくなります。相次ぐ訴訟により、確立しかけたシェアリング・エコノミーの在り方が揺らいでいます。

さらに、議論はシェアリングに留まらず、フリーランスとしての働き方にも及んでいます。

アメリカでは、副業を含めてフリーランスで収入を得ている人は労働人口の34%にあたる5,300万人に上ります。弁護士やコンサルタントなど高い技術を持つスーパー契約社員も増えており、2020年までに労働人口の半分がフリーランスになるという予測も出ています(Forbesなど)。

シェア・ビジネスのサービス提供者の中には、フリーランスの副業として、あるいは老後の楽しみとして活用する人も多く、社員待遇を希望しない人も少なくないようです。ウーバーが主張するように、雇用という形に縛られず、個性を活かして自由に仕事をしたい人が増えてきているのかもしれません。

この問題は次期大統領選の争点としても扱われ、先日、民主党の主力候補ヒラリー・クリントンが”ギグ・エコノミー”の労働者保護を主張したのに対し、共和党のジェブ・ブッシュやランド・ポールが反規制を唱えて応酬しています(WashingtonTimesなど)。

シェアリングは、都市化やネット文化により希薄になった人間関係を改善し、物質主義から物を大切にする社会へと変化する可能性を秘めています。従来の規範に従って一律に社員かフリーランスか、保護か規制かと迫るのではなく、新しい時代の働き方を支える柔軟性のある規制と保護が必要なのではないでしょうか。