アメリカで広がる信頼の輪、払いたいだけ払うレストランが急増中

(写真:アフロ)

顧客が払いたい金額を払う形式の飲食店が、全米で急増しています。

この仕組みはペイ・ホワット・ユー・ウォント(Pay What You Want:PWYW)と呼ばれ、推奨価格を提示している店もあれば、提示がなく顧客が価格を決める店もあり、払える額により料理の量を増減できる店もあります。専属のシェフやウエイター・ウエイトレスを雇用している店もあれば、ボランティアが運営しているところもあり、1時間のボランティア作業の対価として1食無料で提供する店もあります。そして、こうした店のほとんどが、オーガニックや地元産の新鮮な食材を使った高品質な料理を提供しています。

PWYWを採用する目的は、レストランに行くことが難しい低中所得層にも新鮮でおいしい料理を食べてもらうこと、そして、善意と信頼の輪を広げ、地域内で助け合うこと。つまり、格差是正と地域社会の充実です。政府の対策に頼るのではなく、地域内で住民自らが問題解決を図ろうとする取り組みです。

地方都市から全米へ

このコンセプトが広く認知されるようになったきっかけは、2003年にソルトレイクシティにオープンしたワンワールドという小さなカフェとされています。メディアが取り上げたことで同店のPWYWの仕組みが知られるようになり、全米各地から同様の飲食店を作りたいという問い合わせが相次いだため、その後同店はPWYW型飲食店の設立運営支援を行う財団を設立。現在は店を閉めて他店の設立支援に専念していますが、これまでに同財団の支援の下でオープンしたPWYWレストランは全米で60近くに上り、さらに20ほどのレストランが設立準備をしているそうです。

2010年には、全米チェーンのファストカジュアル、パネラ・ブレッドが同社の財団を通してPWYWスタイルのパネラ・ケアズをオープン。翌11年には、歌手ジョン・ボン・ジョヴィの財団が出身地ニュージャージーにPWYWレストランのソウルキッチンをオープンし、PWYWの概念はさらに広く知られるようになりました。

気になる事業性は?

大手企業のスポンサーを付けて平日の夜など特定の時間だけPWYWを取り入れている美術館はアメリカでは珍しくありませんし、PWYWで楽曲を販売して成功したミュージシャンもいますが、飲食店として常時この仕組みで運営することは事業として成り立つのでしょうか。

PWYW形式の飲食店では、一般的に顧客の60%が適正価格を払い、20%が多めに、20%が少なめに払い、総額として通常価格の60~80%程度が支払われているようです(Incなど)。利益が出ている店もあるようですが、営利として運営するのは難しく、多くの場合非営利にし、店内での寄付や資金集めイベントなどで不足分を補っているようです。いずれにしても、経営努力や地域特性により成否は分かれるようです。

成功と失敗の理由

4年で計4店舗に増えたパネラ・ケアズや、成功例として名前が挙がることの多いコロラド州デンバーのセイムカフェでは、資金集めのほか、地域住民との関係強化や従業員の教育、顧客が混乱しないよう推奨価格を提示、十分に支払えない顧客にはボランティア作業を提案して悪用する顧客を排除するなど、運営上の努力が実を結んでいるようです。(Timeなど)。

一方、ニューヨークのブルックリンにあるレストラン、サントリーニは、2011年に通常のレストランからPWYW形式に変えたものの、変更後4ヶ月で閉店しています。オーナーは、メディア露出により変更直後は顧客数が増えたが次第に客足が遠のいたと説明していますが、家賃の高騰により地域住人の顔ぶれが変わったことなど、PWYW以外にも閉店の要因はあったようです(Gothamist)。

パネラ・ブレッドでは、2013年にセントルイス地域の通常店48店で、ターキーチリスープ一点のみをPWYWとする試みを行いましたが、開始から4ヶ月で終了。最初の6週間は好調だったようですが、店頭広告がターキーチリから新商品に切り替わると売上が落ちてしまったそうです。(STL Today) 

ニュージャージー州のレストラン、ブルーでは、移転前の最後の1ヶ月間、通常より量を少なめにしてPWYWを採用してみたところ、80%の顧客が適正価格を払い、20 %は1皿1ドル以下しか払わず、平均して通常価格の半分程度が支払われたそうです。

この仕組みがなければこの店には来られなかったと感謝のメッセージを残した大学生の子を持つ母親がいた一方、お金に困っているようには見えない5人の学生は25品でチップ込み20ドルしか払わず、ウエイターやウエイトレスへの影響を懸念して料理に5ドル、チップに50ドルを支払った人もいるなど、対応は様々だったようですが、ほとんどの顧客は自身の収入状況に応じた適正価格を支払い、経営者は結果に満足しているようです。(NYTimes) 

大学教授らの調査によると、PWYW形式において、支払ったお金が良いことに使われる場合、適正価格が分かっている場合、支払額を監視されていない場合に、人々はより多くの金額を払ったそうです。教授らは、人は良いことにお金を使いたい、社会通念に沿う行動をしたい、気に入った相手や満足した場合に対価を支払いたいと思うようだと結論づけています。監視された場合よりされない方が多額が支払われたことは教授らにとって意外だったようですが、強制されるよりも自分の意思で決める方が人は良い行いをするものなのかもしれません。

パネラブレッドのCEOロン・シェイク氏は、PWYWを人間性を試すツールだと言います。運営側にとっては人を信頼すること、顧客にとっては信頼に足る行動をすることやお金の価値を考えること、両者がそれぞれに学びを得られる良い機会になるのでしょう。人々の心と行動が変われば、格差是正はそれほど難しいことではないのかもしれません。PWYWは、そのための良い手法といえるのではないでしょうか。