米商工会議所、世界各国でタバコ規制を妨害?

(写真:ロイター/アフロ)

米商工会議所が、タバコ規制を促進する世界各国の政府に対してロビー活動を行っていたことが判明し、アメリカで話題になっています。

米商工会議所は、300万以上の米企業を束ねる世界最大の経済団体です。参加企業・業界を支援することが同団体の目的ですから、ロビー活動自体は問題ないのですが、米企業の代表ともいえる同団体が、タバコの規制反対という社会的に好ましくない活動を、表向きは賛成しながら、主に途上国政府に対して、あるいは途上国政府を利用して行っていたことが問題視されています。

権利の濫用か、正当な権利か

ニューヨークタイムズによると、同団体は世界各国の支局を通し、各国政府とのネットワークを利用して、様々な手段でタバコ規制を妨害していたとのこと。

たとえば、数年前にオーストラリアで「プレーン・パッケージ法(タバコの包装から広告画像や企業ロゴなどを排除し、健康被害を訴える画像や警告のみを掲載する法律)」が可決した際、同国とのタバコ貿易が一切ないウクライナ政府が世界貿易機関(WTO)を通してオーストラリア政府に異議を申し立てましたが、これを促していたのは米商工会議所だったと同紙は報じています(現在同国は異議を保留)。

さらに、ジャマイカ、ネパール、モルドバ、ウルグアイ、ニュージーランドなどタバコ規制を促進する各国政府に対し、規制緩和を求めて米商工会議所が送った書簡も掲載。エストニアでは、米国大使が商工会議所の名誉支局長を兼任しており、同団体の行動が米国政府の行動と混同される可能性があると同紙は指摘しています。

この報道に対し、商工会議所は「喫煙抑制策には賛成だが、知的財産権の保護、特定業界の差別待遇廃止、過剰な課税廃止の点から、タバコ業界だけでなく全産業を保護するために活動している」と反論しています。しかしながら、タバコを吸うことには反対だがタバコ産業の利益は守る、という論理は矛盾していますし、極論すれば、”人の命より産業の利益”と公言しているようなものですから、賛同は得られていないようです。

一連の報道を受け、政治家らは同団体を批判。昨年全米7,800店舗全店でタバコの取扱を廃止したドラッグストア大手のCVSヘルスは、商工会議所を脱退することを表明しています。

世界各国がタバコを規制する理由

そもそも、なぜこれほど多くの国でタバコ規制が行われているのかというと、「タバコ規制枠組条約」という世界的な条約があり、世界保健機関(WHO)の加盟国180ヶ国が批准しているからです。

WHOによると、喫煙に起因する死亡者は全世界で年600万人、その1割が受動喫煙者とされています。喫煙者の健康被害は明白であるものの、依存性が高いために止められない人が多く、他者の健康をも害し、不正取引の温床にもなりやすいとして、同条約ではタバコの包装・広告規制や受動喫煙の防止、不正取引撤廃などに関するガイドラインを定め、各国政府に対策を求めています。

今年5月には、オーストラリアに続きイギリスでもプレーン・パッケージ法が可決されるなど、各国政府は同条約に基づき規制強化を進めています。一方、大手タバコ各社は訴訟などで応酬していますが、非情な手段も多く、メディアは好意的に見てはいないようです(ForbesNYTimesなど)。

アメリカは、商工会議所が他国の規制を妨害するくらいですから、同条約に署名はしたものの批准はしていません。しかし、多くの自治体が自主規制を行っています。

ニューヨークでは、州と市のタバコ税が計5.85ドルで、小売価格は1箱10ドル以上。飲食店やオフィス、学校、病院、公園、公共の場などでの喫煙は禁止されており、集合住宅内の禁煙も推奨され、隣家間での受動喫煙に関する訴訟も起こっています(詳細は著書)。但し、歩きタバコへの批判が強い日本と異なり、アメリカでは受動喫煙が懸念される屋内は全面禁煙、受動喫煙を避けられる路上は許可とするケースが多いようです。

米自治体がタバコ規制を強化する理由のひとつに、医療費の削減があります。喫煙による医療費は全米で1,700億ドル、うち政府負担が1,000億ドル以上とされています(Tobaccofreekids.org)。アメリカは国民皆保険ではありませんが、低所得者や高齢者の医療費は政府負担となるため、政府が積極的に喫煙や肥満対策を行っています。

こうした様々な問題から、現在では喫煙は社会問題と捉えられています。WHOは先日発表した調査報告書で、タバコという”伝染病”を食い止めるためにはタバコ税を小売価格の75%に引き上げるべきだと主張しています。

タバコ産業に限りませんが、人命と企業利益を秤にかけざるを得ないような事業は方向性を見直すべきでしょうし、私たち自身も、喫煙すること、あるいは喫煙を容認することで、こうした状況を放置しているのだと認識すべきなのでしょう。