ローマ法王が揺るがす、米気候変動対策と大統領選の行方

先週、ローマ法王が“回勅”と呼ばれるカトリック教会の指針を示す重要文書を発表しました。気候変動は人類の活動に起因し、迅速な対策が必要であると記されたこの文書が、米国で波紋を呼んでいます。

その理由のひとつは、アメリカでは今でも、気候変動の人為的要因や、気候変動が深刻な問題であることを認めない人が全人口の半数近くに上り、特に共和党支持者においては80%弱と圧倒的に多く(Pew)、気候変動が政治問題になっているからです。

そして、アメリカは今でもキリスト教信者が全人口の70%以上を占めるキリスト教国であり、その30%(全人口の20%強)を占めるカトリックが最大宗派となっています(プロテスタントが主流ですが多数の宗派に分かれるため:Pew)。既に来年の大統領選に向けて選挙活動が始まっており、カトリックの指針となる回勅が選挙戦にどう影響するのか注目されています。

もうひとつの理由は、フランシスコ法王の人気が非常に高いことです。同性愛者の権利擁護や教会における女性の重要性を主張するなど、これまでカトリックでは強固に否定されていた問題に対して柔軟な見解を示しているため、革新派の法王と見られています。

また、神学校に入る前にナイトクラブのバウンサー(用心棒)をした経験があったり、化学の修士号を持っていたり、サッカー好きであったりと、世俗的な雰囲気があることも人気の理由のようです。過去の法王も発言や行動がニュースで報道されることはありましたが、フランシスコ法王の取り上げられ方はセレブ並みです。

この人気の法王が、これまで明確に論じられることのなかった気候変動について明らかな意見を発したのですから、気候変動懐疑派の政治家が慌てています。

ローマ法王は環境活動家?

しかも、回勅の内容は気候変動に留まらず、消費主義や短期利益主義への強い批判、そして環境活動家かと思うような過激な意見が多々見られます。

たとえば、

「汚染度の高い化石燃料、特に石炭、そして石油、程度は低いがガスを使用した技術は、直ちに(再生エネルギーなど他の方法に)取り替えるべきだ」

「近視眼的な経済・商業・生産手法により、貴重な資源である森林や生物多様性が失われている」

「特定の商品をボイコットすれば、企業は環境に配慮した事業を行うようになる」

「短期的な財務利益のために人材への投資を止めるようなビジネスは、社会にとって有害だ」

「ただ企業や個人の利益を増加させるだけで問題が解決できるかのような、魔法のような概念を市場に対して抱くのは止めるべきだ」

「政治は、消費主義者の支持を得ることで、即時の結果ばかりを気にし、短期的な成長を生み出さざるを得なくなっている」

「短期利益と私利を重視する消費主義文化により、権力者は安直な決断をしやすくなり、情報を簡単に覆い隠せてしまう」

出典:回勅

といった具合です。

対応に追われる候補者

オバマ大統領は発表当日に回勅への賛同を表明しましたが、カトリックで気候変動懐疑派の候補者は対応に追われています。

知名度ゆえに有力候補と目されているブッシュ元大統領の弟、ジェブ・ブッシュは、法王は素晴らしい人と前置きしたうえで「司教や法王から経済政策の指示は受けない」「宗教は人々を良くするためのものであり、政治の領域に介入するものではないと思う」と主張(NYTimes)。

元ペンシルバニア州上院議員のリック・サントラムは、「教会は科学について過ちを犯したことが何度かある。科学のことは科学者に任せた方が良い」と発言(NPR)。

44歳の若手保守派議員マーコ・ルビオは、法王の発言は何ら問題ないとしながら、「環境を守ることは公益だが、経済を守ることも公益だと思う。安いエネルギーのお陰で、貧困から抜け出し、産業を興し、生活コストを下げられることを考慮すべき」と主張しています。(Huffington post)

様々な意見はありますが、気候変動のような全人類に影響を及ぼす重要な問題を、宗教や政治経済の問題にすりかえるべきではないでしょう。さすがに近年の気象災害の酷さから、気候変動自体を疑う人は随分減りましたが、人為か否かを100%証明することなどできないのですから、可能性の高い原因から順に取り除いて行くしかないでしょう。

重要文書とはいえ、回勅がどれだけカトリック信者の見解に影響を及ぼすのかはわかりません。しかし、全世界で12億人のカトリック信者に問題を提起したという点で大きな意義があったといえるでしょう。盲目的な信仰は時に危険ではありますが、カトリック信者が妊娠中絶や同性愛者の婚姻への反対と同じくらい強い信念で気候変動対策を望むようになれば、懐疑派の政治家もその背後にいる産業も重い腰を上げるかもしれません。

日本では、気候変動が政治や宗教と結びついてはいませんが、それだけ気候変動に対する関心が希薄なのかもしれません。原発等難しい立場にあるものの、それ以前から日本は世界的に気候変動対策に消極的な国と見られています。賛成であれ反対であれ、少なくとも自身や子孫に影響のある問題を考え、意見を持つことは大切ではないでしょうか。