米大企業のCEOが給与を1ドルにする理由

前回の記事で、社員の最低年収を7万ドルに上げ、自身の年収をそれと同額に下げたCEOのことを記載しましたが、アメリカでは自身の給与を1ドルに設定しているCEOが意外にもたくさんいます。

グラビティ社と異なり、その多くは上場企業であり、給与の代わりにボーナスやストックオプションなど別の形で報酬を得ていたり、業績悪化による一時的な対策というケースもありますが、業績に関わらず何年にもわたり全報酬合わせて1ドルにしているCEOもいます。

全報酬1ドルのCEO

1998年にCEOに返り咲いてからずっと年収1ドルだった、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が有名ですが、他には、グーグル創業者のセルゲイ・ブリン氏、ラリー・ペイジ氏、時計等ブランドのフォッシルCEOのコスタ・カーツォーティス氏(以上2005年から)、オーガニックスーパーのホールフーズマーケット共同CEOジョン・マッキー氏、エネルギーインフラ企業キンダー・モーガンCEOのリチャード・キンダー氏(以上07年から)が、長年総額1ドルかゼロです(USAToday等)。

ほとんどが創業者ですから、既得株の配当は得ていますし、既に多額の資産がありますが、多額の資産があっても報酬を取得し続ける人が圧倒的に多いのですし、以前の記事にも記載したように、資産家は資産家なりに所得を失う不安を感じるようですから、報酬をゼロにした勇気は賞賛に値するでしょう。

なぜCEOが年収を1ドルにするのか、学者らの研究によると「個人的利益の追求」が最も大きいそうです。

ホールフーズのマッキー氏が、1ドルにした理由を詳しく語っているので、ご紹介します。

何のために働くのか

ホールフーズは、20年以上前から給与上限(社員の平均給与額との差)を設定しています。当初は8倍でしたが、優秀な役員の留保が難しくなり、90年代に10倍、00年に14倍、07年に19倍と時代の流れに合わせて上げています。あくまで給与のみの上限であり、その他賞与は除外されますが、同社では役員を除く社員のストックオプション取得率が95%と高く、下げた役員給与分を大量のストックオプションで補っているわけではないとしています。

給与差を19倍に上げることを決定した06年末、マッキー氏は社員にあてて以下のメッセージを送っています(抜粋)。

「我が社の社内給与差を14倍から19倍に引き上げることを取締役会で決定しました。その理由はたったひとつ、役員の給与における業界内の競争力を高めるためです。」

「私を除く全役員に、ヘッドハンターから何度も競合他社への引き抜きがあります。重要な役員を社に留めるためには19倍に上げざるを得ません。」

「ただし、これは私個人には当てはまりません。我が社の大きな成功により、私はかつて夢見ていた以上の、そして経済的な安定や個人的な幸せのために必要な分以上の所得を得ました。今後も私はこの会社で働き続けますが、それはお金のためではなく、この素晴らしい会社を率いる喜びと、世界をより良い場所にするために役立ちたいという情熱によるものです。現在53歳、お金のために働くのではなく、ただ働く喜びのため、そして自分の使命を果たすために働きたいと思う段階に達しました。

2007年1月1日から、私の給与を年1ドルに下げ、他の一切の現金報酬を受け取りません。他の社員と同様、健康保険や社内食品割引券などの手当ては受け取ります。取締役会では、今後私に割り当てられるストックオプションを全額我が社の財団に寄付したいと考えています。もし税務・法務等の理由によりこれが適わない場合は、将来のために取っておき、必ず100%財団に寄付します。」

出典:Whole Foods Market

このメッセージが発表されてから9年、現在でも同氏はこの方針を貫いています。

報酬1ドルCEOの多くがビリオネイヤである中、同氏の総資産は9,400万ドル(GetNetWorth)、長者番付にもランクインしていません。

自分の給与が公開されたら

同社では、1986年から全社員の給与を公開しています。

なぜあの人がこの額で私がこの額なんだ、といった反論がよくあるそうですが、その際、「その人はより会社の役に立っているからであり、同じことを成し遂げれば同じ報酬を出す」と伝えるそうです。給与公開には賛否両論ありますが、マッキー氏は、信頼性の高い組織を作りたければ秘密を持つべきではないとしています。 (Business Insider)

これを社会全体に当てはめたら、どうなるでしょうか。

近年、CEOであれ、金融業界であれ、年金暮らしのお年寄りであれ、“自分より持っている人”を批判する傾向が強くなっているように感じます。しかし、もし私たち自身の所得額が公開され、自分より所得の低い人から批判されたら、私たちは金額の正当性を証明できるでしょうか。

人は他人と比較することで幸せの度合いを測ってしまいがちです。しかし、資産や所得の額に関わらず、お金に対する価値観を変えたり、マッキー氏のように働くこと自体に喜びを感じることができれば、人生における不満の多くは解消されるのかもしれません。

以前の記事で、ウォール街で働く人々の「お金依存症」について記載しましたが、もしかしたら、先進国に住む私たち誰もが、多少なりともお金依存症に陥っているのかもしれません。