自身の給与を93%カット、社員の最低年収を7万ドルに引き上げたCEO

シアトルの小さなクレジットカード決済会社グラビティ・ペイメンツ社のCEOが、自身の給与を100万ドル(1億2千万円)から7万ドル(830万円)に減額し、社員の最低年収を7万ドルに引き上げることを発表。全米で大きな話題になっています。

同社の現在の平均給与額は4万8千ドル。今年中に最低年収5万ドル、16年に6万ドル、17年に7万ドルと3年間で段階的に増額し、財源はCEOの給与削減分と同社の収益を充当する予定とのこと。これにより、120人の社員のうち30人の給与額が2倍に、40人の給与が増額されるそうです。(CNN MoneyNYTimes)。

グーグルやフェイスブックなど創業者やCEOの給与が1ドルという大手企業は多々ありますし、CEOの給与額を敢えて低く抑えている中小企業は同社以外にもたくさんあります。にも関わらず、同社がこれほど注目を集めたのは、近年、賃金格差が問題視され、低賃金労働者の賃上げデモが頻繁に行われていること、社員への告知時にメディアを呼び、驚愕する社員の様子が動画撮影されたこと、そしてCEOダン・プライス氏の経歴によるものでしょう。

欲のない、現代版アメリカンドリーム

プライス氏は弱冠30歳。アイダホ州の片田舎出身で、12歳までは学校に行かず、ホームスクール(親による自宅教育)で学習。最終学歴は、シアトル・パシフィック大学で音楽とビジネス専攻。父親は国際ビジネスのコンサルタントで起業家。高校生の時、高額なクレジットカード手数料に困窮していたカフェのオーナーを助けるために事業を開始。大学在学中の2004年、実兄から資金を借り、19歳の若さで同社を設立。昨年、アントレプレナー誌でベスト・アントレプレナー賞を受賞して表紙を飾り、知名度が上がったという経歴の持ち主です(NYTimesなど)。

大富豪の友人が所有するプライベートジェットや高価なヨットに招待された経験はあるものの、自身は100万ドルの給与を得ながら、3部屋のみの家に住み、12年前にカード決済サービスを提供する代わりにカーディーラーから無料でもらったアウディを今でも運転するという質素な生活。「7万ドルで快適に暮らせる」(ABC)と言い切る飾り気のない人柄が好感を持たれたのでしょう。

同氏がこの施策を思いついたのは、収入が増えることで幸福感が高まる限界値は7万5千ドルというプリンストン大学教授らの論文を読んだことがきっかけだったとのこと。既に7万ドル以上の給与を得ている50人の同社社員も、プライス氏の決断に喜んで賛同したそうです。

格差が広がる現代社会

ワシントンポストによると、米フォーチュン500企業のCEOと従業員の所得格差は354倍。全企業平均で見ると、アメリカよりも韓国、オーストラリア、チリ、台湾の方が格差が大きいようですが、マクドナルドやスターバックスなど一部の企業が1,000倍以上(Nerdwallet)と極端に大きいことが問題でしょう。また、CEOや経営層でなくても尋常でない所得を得ている業種はありますから、単に企業ごとの問題ではなく、何らかの政策が必要でしょう。

ここ数年、連邦政府や自治体は最低賃金の引き上げを提案・実施しています。

米マクドナルドも今月、来年から直営店(フランチャイズは除外)の最低賃金を10ドルにすることを発表(NYTimes)。しかしながら、ごく一部の店舗のみが対象であり、10ドルでは不十分として、折りしもグラビティ社のニュースが全米を駆け巡った4月15日、ファストフードなどの低賃金労働者が最低賃金15ドルを求め、「For 15(4・15)」と掛けて、全米でデモを行いました(Guardian)。

以前の記事にも記載したとおり、最低賃金引き上げに関しては賛否両論ありますが、今後数年で政府と企業が対策を行うことにより何らかの道筋が見えてくるかもしれません。しかし、同じ国で生活する人の所得格差が1,000倍以上というのは、やはり異常な社会と言えるでしょう。それを放置するのか、声を上げるのか、市民自身も責任を問われているのかもしれません。