仕入先の社員まで大切にする、超ホワイト企業 アイリーン・フィッシャー

昨今ブラック企業が話題ですが、社員を大切するホワイト企業も少なくありません。

1984年創業の米アパレルブランド、アイリーン・フィッシャーもそのひとつ。自社社員だけでなく、仕入先社員の福利厚生までサポートする“超”ホワイト企業です。

アイリーン・フィッシャーは、創業当時から天然素材にこだわり、 “流行を追わず、シンプルで機能的で長く着られるが、女性らしさを忘れない美しい服”を提供するブランドです。CSRが流行り出すかなり前から労働環境の改善や環境負荷削減に取り組み、女性の服を扱う企業として女性のリーダーシップ能力向上プログラムや女性経営者のサポートを行い、店舗やオフィスがある地域の発展に協力しています。ただ服を生産販売するだけでなく、生き方や考え方も含めたアイリーン・フィッシャーらしさを示し、その独特の世界観を支持する固定ファンが多いことが特徴です。

顧客ロイヤルティーが高いだけでなく、離職率は5%以下と低く、従業員ロイヤルティーが高いことでも知られ、フォーチュン誌やアントレプレナー誌などが発表する働きたい企業ランキングの常連になっています。

先日、同社のソーシャル・コンシャス担当ディレクター、エイミー・ホールさんが、バード大学サステイナブルMBAで、「ムーブメントを生み出すビジネス:アパレル業界におけるソーシャル・コンシャス」と題した公開電話講義を行い、興味深い話をされていました。

離職率が低い理由は、社員の”情熱”

ホールさんご自身も今年で勤続20年だそうですが、同社の離職率が低い理由を「縦割りではなく互いに協力しあう組織」であることと「社員の“情熱”を尊重している」ことと分析。「情熱があれば、やる気もわくし、働くことで幸せになれる。その反面、時に働きすぎて逆にストレスを感じてしまうこともある」と語っています。

長時間労働がブラック企業の一要件とするならば、同社もブラックといえるのかもしれませんが、働きすぎてしまうほど仕事が楽しいということは、むしろホワイト企業の要件ともいえるでしょう。

同社の社員がこれほど仕事に情熱を持つのは、ただ服を作るだけでなく、アパレル企業としてどれだけ社会に貢献し、どこまで持続可能になれるか、常に挑戦し続けているからでしょう。ホールさんは自社のデザイナーを例に挙げ、ただ漫然とデザインするのではなく、デザインによって環境負荷を削減する方法を考えるなど、業務の中に新たな目的を見出す人が多いと分析しています。

仕入先労働者の健康まで気遣う企業

アパレル企業の多くは途上国に生産拠点を置いていますが、同社も例外ではなく、中国、インド、ポルトガル、ペルー、そしてアメリカ国内の工場で生産しています。自社社員だけに良い待遇をして生産工場で労働搾取をしているようでは、良い企業とは認められません。同社は97年から生産時の労働環境改善に取り組み、現在はSA8000とエシカルトレーディング・イニシアチブという2つの国際的な労働基準に従い、第三者機関による監査を受け、中国の工場では労働者と管理者に対する教育プログラムも実践しています。

それだけなら、今では多くの企業が行っていることですが、おもしろいのは、ホールさんがソーシャル・コンシャスに関する失敗例として紹介した、ニューヨーク市内の縫製工場での逸話です。

10年ほど前、ある縫製工場が労働者に対して健康保険を提供していないことを知り、アイリーン・フィッシャーが保険会社と組み、服1枚につきいくらという形で工場労働者の保険料を支払うことにしたそうです。社員の福利厚生に力を入れる企業はたくさんありますが、仕入先の労働者の健康保険まで面倒を見る企業はなかなかないでしょう。

ただし、残念なことに結局この試みは失敗に終わったそうです。原因は同社や工場の問題ではなく、アメリカの複雑な健康保険システムでした。初年度は多くの労働者が喜んで加入したそうですが、保険会社が提携していない医者の診察には追加料金がかかるなどアメリカの保険システムは複雑であり、且つ、保険がなくても救急病院などに駆け込めば、国の低所得者用医療保険で最低限の診療はしてもらえるため、安全性と煩雑さを秤にかけた労働者たちが、翌年以降保険に加入するのをやめてしまったとのこと。結果うまくはいなかったものの、この事例から、同社が試行錯誤しながらも、自社だけでなく関与するすべての人のことを考えて事業を行っていることがわかります。

長期にわたって環境・社会問題に取り組んできた同社ですが、これまでは敢えてこうした活動を公表していませんでした。その理由は、エコをマーケティングに利用するグリーンウォッシュ企業と混同される可能性を恐れたからだそうです。ただ良い製品を作り、公表せずとも良い行いを続けることで顧客はついてくると考えていたそうですが、近年、同社の活動をもっと知りたいと訴える顧客が増えたため、昨年から「&(アンパサンド)」というキャンペーンを開始し、ソーシャルメディアやイベントを通して同社の取り組みを伝えています。

”人”のために事業を行う

ホールさんが統括するソーシャル・コンシャス部門は、人権、環境、女性の支援、地域貢献の4つの柱がありますが、その中心にあるのは常に“人”だと、ホールさんは強く主張。環境を守るためでも、社会貢献という大義名分を掲げて満足するためでもなく、人間が生きにくい社会にならないよう、事業を通して人のためになる活動を行っているのだと伝えたかったのでしょう。

アメリカではここ10年くらいの間、食品中のオーガニック比率が伸び続けていますが、服における環境負荷を考える人はまだそれほど多くありません。アイリーン・フィッシャーでは、エコ素材(著書「グリーンファッション入門」にて詳しく説明しています)が全体の25%、コットン製品のオーガニック比率は50%に上るそうですが、「体内に取り込まれる食品と体の外側を覆う衣服とを、同じ感覚で捉えられる消費者はまだ少ない」とホールさんは指摘。「綿は衣服の素材として使われるだけでなく、その種を油などの食用に使われていることを知るべき」とし、「今後30~50年以内には資源不足が現実となり、すべての企業が生産方法を大きく変えざるを得なくなる。そうなれば、必然的に人々は食と同じ位の意識の高さを他の製品にも持つようになるだろう」と述べています。

そして、「たくさんの服を作り続けなければならないファッション企業である以上、生産時も販売後も製品ライフサイクルのどの段階においても、環境を汚染していることは否めない」と、ファッション業界が抱える根本的な矛盾を認めながらも、企業として収益をあげる必要があることに言及。だからこそ、環境負荷を減らすための取り組みを続けているのだとしています。

環境対策や社会貢献を行ううえでのネックとして、サステナブルな繊維の価格が高いことや、環境対策のROIが生産工場にとって見えにくい点、自社社員の中でも環境や社会問題に対する関心の高さが違う点などを挙げ、こうした問題を解決するために、社員であれ仕入先であれ顧客であれ、人々のやる気を起こし、社会のために活動できるよう道を示そうとしているのだと述べています。

企業に求められているもの

ブラック企業が注目されるようになったのは、ただ社員への待遇が悪いということだけはなく、社会における企業のあり方について人々が疑問を持ち始めたことも一因なのではないでしょうか。

ハーバード・ビジネススクールのビル・ジョージ教授も主張していますが、企業の存在意義はもはや株主を儲けさせることではなく、社会のために価値を創造することであり(McKinsey & Company, Insights & Publication)、アイリーン・フィッシャーのように「人のため」に事業を行う企業が、これからの社会では求められるのではないでしょうか。