貧困大国アメリカを救えるか、消費期限切れ食品を販売するスーパー

来年ボストン市内にオープンする、消費期限切れの食品を販売するスーパーマーケット「デイリーテーブル」がアメリカで話題になっています。

日本でも報道したメディアがあったようですが、詳しく伝えられていなかったようですので、改めて背景などを説明したいと思います。

このアイディアを思いついたのは、中堅スーパーマーケットチェーン「トレーダー・ジョーズ」の元社長、ダグ・ラウチ氏。08年に定年退職するまで14年間社長を務めた同氏は、カリフォルニア州に9店舗しかなかった同社を340店舗の全米チェーンに成長させた功労者です。定年後も営利・非営利問わず数々の組織の役員を務め、精力的に活動していましたが、今年初旬にこのアイディアを発表。メディアで報道されるや、大きな話題になりました。その後順調に準備が進められ、来年初旬に「デイリーテーブル」という店名で、ボストン市内のドーチェスターという貧しい地域にオープンすることが決まっています。

画期的なアイディアの裏に潜む、深刻な社会問題

この取り組みは、単なるおもしろビジネスとして話題になっているわけではありません。同氏のアイディアが画期的なのは、アメリカが抱える深刻な2つの問題を同時に解決できるからです。

ひとつは、言うまでもなく、食品廃棄物の問題です。特に、食べられるのに捨てられてしまう”食品ロス”は、日米含め先進国全体の大きな問題です。アメリカでは、年に消費される食べ物のうち食品ロスが30~40%に上ります(USDA)。日本は5~10%程度ですから(農林水産省)、アメリカの事態はかなり深刻です。

環境保護団体NRDCとハーバード大学が発表したレポート「The Dating Game(日付の駆け引き)」によると、米国民の91%が消費期限の誤認により食べられる食品を廃棄した経験があり、米食品業界は年に9億ドル(900億円)分もの食品を消費・賞味期限切れで廃棄しているそうです。また、同レポートは、アメリカでは消費・賞味期限の表示規制は州ごとに行われており、統一基準がないため、期限の信憑性はないとしています。デイリーテーブルのラウチ氏も、書かれた期限ではなく匂いなどで判断すべきとし、大腸菌やサルモネラ菌などによる過去の食品絡みの死亡事故は消費期限内だったことがほとんどだと主張しています(NY Times)。

もうひとつの問題は、低所得者層の食生活です。アメリカでは、低所得者層が住む地域には生鮮食品を販売するスーパーが少なく、その代わり、調理が不要で価格が安く、カロリーが高いが栄養価の低いファストフードなどが集中して出店する傾向があり、所得が低くなるほど不健康な食生活に陥りがちという構図ができあがっています。これは、昨今アメリカで盛んに取り沙汰されている肥満問題にも繋がっており、格差社会が生み出した深刻な問題です(詳細は「サスティナブルシティ ニューヨーク」に記載しています)。

ソーシャルビジネスはアイディア勝負

ラウチ氏は、「デイリーテーブル」によってこの2つの問題を同時に解決しようと考えているのです。

仕入れるのは現状廃棄されている消費期限切れの食品であるうえ、同店を非営利組織として運営することで供給元は減税の恩恵が受けられるため、破格値で食材を入手することが可能です。仕入れた野菜や乳製品などはそのままで、あるいは調理して惣菜として格安で販売します。値段は、たとえば牛乳は1ガロン(3.8リットル)で1ドル(約100円)、全粒粉の食パン1斤が50~75セント(約50~75円)程度に抑えられるので、ジャンクフードと互角に戦えると同氏は主張しています(NY Times)。

このアイディアが発表された当初は、高所得者の廃棄物を低所得者に押し付けるのかという批判もありましたが、ラウチ氏が出店予定地の住民と話し合いの場を持ち、意図を伝えたところ、好意的な反応を得られたそうです。

アメリカでは、消費期限切れや規格外の食品を低所得者層に提供するフードバンクという仕組みが普及しています。ただし、受け渡し時間や場所が決められているため、取りにいけない人も少なくなく、毎日提供されるわけではありませんから、あくまで補完的な生活サポートに過ぎません。この仕組みをビジネスにすることで、所得が高くなくても、日常的に安くて健康的な食品を食べられるようになることが期待されます。

品質に関しても問題ないのではないかと、私は思います。実は過去に、私が所属しているコミュニティ・ガーデンで、フードバンクでも余ってしまったオーガニック農家が提供した洋ナシを生ゴミ堆肥用にと頂いたことがあり、十分食べられそうだったので皆で少しずつ持ち帰って食べたところ、これまで食べた中で一番おいしい完熟洋ナシだったという経験があります。完熟なので果汁が染み出てベタベタしていましたし、ぶつかった傷跡も多く、見た目はあまり良い状態ではありませんでしたが、食品の品質や味は見た目ではわからないものです。

また、個人的には、こうした期限の話が持ち上がると、加工食品メーカーが親切心から賞味期限を延ばすためにこれまで以上に保存料を入れる可能性があるのではと懸念しますが、ラウチ氏のビジネスモデルが成功すれば、こうした懸念も払拭されるように思います。

いずれ生ゴミ廃棄が有料になれば、小売店にとっては願ってもない事業となるでしょう。アメリカではレストランの廃油を暖房用の灯油にリサイクルするビジネスが盛んで廃油泥棒が出現しているほどですが、いずれ生ゴミ泥棒も出没するようになるかもしれません。

大量消費社会を作り上げたこの国でこのようなビジネスモデルが生まれるというのは、実にアメリカらしいと思います。デイリーテーブルのように、現在起こっている様々な環境・社会問題も、アイディア次第で解決できるのではないでしょうか。そのアイディアを形にできる人、企業、国が、これからの時代を担うことになるのではないかと思います。