「日本語教育」に係る政党アンケートが実施、公開に

筆者は先日公開した記事「【2021衆院選】有権者ではない日本社会の一員「外国人」のことどう見てる?ー外国人関連公約・政策比較」にて、主要各政党の公約や政策集などの中で「技能実習」や「多文化共生」「難民」など、外国人に関係するキーワードへの言及があるかないか、あればどのような内容のものかについてお伝えしました。これは、あくまで一般有権者である筆者がインターネット上で公開されている資料に基づいて集約を行ったもので、政党によっては詳細な考え方が掲載されていなかったり、そもそも言及していないものなどもありました。

このため政策集だけでは不十分な部分については外国人関係で政党アンケートを実施したNPO法人移住者と連帯するネットワークの取り組みを紹介しました。今回は、外国人関係の政策アンケートの中でも「日本語教育」にフォーカスして実施された取り組みについてご紹介します。

この日本語教育に係る政党アンケートを実施したのはEDAS(イーダス)という一般社団法人です。『来た時よりも、もっと日本を好きに。』とのスローガンの下、「外国人、日本人の双方が、もっと相手と相手の国を理解し、好きになれる」そんな社会の実現に向けて活動する団体で、かねてより外国人政策勉強会などを実施しています。

そのEDASの協力の下、一般社団法人ings代表理事・武蔵野大学准教授の神吉宇一(かみよし・ういち)さんが中心となり取り組んだもので、筆者もわずかながらお手伝いをしています。

アンケート結果はEDAS特設ページ、「日本語教育政策に関する政党アンケート調査」をご覧ください。

EDASアンケート特設ページスクリーンショット(筆者撮影)
EDASアンケート特設ページスクリーンショット(筆者撮影)

アンケートでは、日本語教育に関連し、以下の9つの項目にわたり設問を作成しました。

Q1 今後の日本社会において外国人の受け入れを促進すべきだと考えますか。

Q2 外国人に対する日本語教育に関して政府の取り組みは十分と考えますか。

Q3 外国人に対する日本語教育に関して地方公共団体の取り組みは十分と考えますか。

Q4 成人の外国人で、日本での永住を決めた人・永住を希望する人に対する日本語教育に関して公的資金を支出する必要があると考えますか。

Q5 成人の外国人で、日本で永住する予定がない人に対する日本語教育に関して公的資金を支出する必要があると考えますか。永住する予定がない人について、公的日本語教育の必要性についてお答えください。

Q6 外国人労働者やその家族に対する日本語教育に関して雇用している企業の取り組みは十分と考えますか。

Q7 学校教育における外国人児童生徒に対する日本語教育の政策的な取り組みは十分と考えますか。

Q8 外国にルーツのある子どもの母語教育・母語保持について、公的資金を支出する必要があると考えますか。

Q9. 外国人の日本語能力に関する現状について、国として大規模な調査を実施する必要があると考えますか。

アンケートを送った政党の内、期日までに回答があったのは4つの政党にとどまりました。しかし、政策集だけでは見えなかった政党の考えが明らかとなったり、課題認識に特色がみられるなど、興味深い結果となりました。

日本語教育という一般有権者にとってはあまり馴染みのない課題について、なぜ政党アンケートを実施することになったのか。その背景や意義について、中心メンバーの神吉さんにお話を伺いました。

日本語教育推進基本法成立にも尽力した神吉氏(写真はご本人提供)
日本語教育推進基本法成立にも尽力した神吉氏(写真はご本人提供)

神吉宇一(かみよし・ういち)氏 

武蔵野大学グローバル学部准教授

九州・小倉出身、小学校教員、日本語教師、政府系財団職員等を経て2013年より大学教員に。専門は日本語教育学、言語政策。文化審議会国語分科会委員、文化庁地域日本語教育アドバイザー、元日本語教育学会副会長。

日本語教育とは、外国人と日本人の「間」にある課題

—アンケートを実施することになった背景やきっかけを教えてください。

 (神吉氏)そうですね、日本語教育に関する法律ができたり、政策が整ったりすることで、今いろいろな動きが出てきていると思いますし、政策として日本語教育に取り組まないといけないよねという空気感は以前より出てきていると思います。

ただ、一方で、議員さんも、一般市民の方々もまだまだ「これは外国人の問題だ」と漠然ととらえているんじゃないかと思います。でも実際には、日本語教育って外国人と日本人の「間」にある課題だと思うんですよね、双方にまたがっているコミュニケーション上の課題というのかな。だから、その一方の当事者である日本人側に、もっと問題意識を持ってもらえるといいなというのは、このところずっと考えていました。

それで、ちょうど総選挙が行われるということで、政党にアンケートをお送りしたら、タイミングとして「そのことも考えなきゃいけないよね」って思ってくれる議員さんや候補者さんが少しでも増えるんじゃないかと思ったんです。また、アンケート結果の公表も、タイミングとしてなんとなく納得感があるのかなという気がしました。ちょうど、以前から移住連が行っている移民政策に関する政党アンケートを見たことも、やろうと思ったきっかけですね。こういうふうにして発信するといいなと思いました。

—実際の各政党の回答を得て、どのように感じましたか?

 (神吉氏)まず、選挙前のお忙しい中で協力してくださった公明党、立憲民主党、共産党、社民党の4党には心からお礼を申し上げたいと思っています、本当にありがとうございます。回答は、概ね予想していたとおりですね。与党が十分だという方向の回答で、野党が不十分だという方向の回答。

ただ、意外だったのが5番の質問「成人の外国人で、日本で永住する予定がない人に対する日本語教育に関して公的資金を支出する必要があると考えますか。永住する予定がない人について、公的日本語教育の必要性についてお答えください。」に対する回答で全ての党が「必要である」と回答していたことですね。

僕は4番の永住を決めた人に対するものと、この5番では回答が変わると思ってわざわざ質問を分けて作ったんですが、これは意外でした。おそらく、世間一般では、いずれ帰国する外国人になんで税金使って日本語教育をやるのかということを言う人が一定数いると思うんですよね(その人たちは外国人も納税者であることをわかってないと思うんですが)。

だから、回答してくれた各政党の考え方は、ある意味で先進的なものだなという気がしました。

アンケートの結果で投票行動を変えることは、あまり狙ってない

—このアンケートの結果をどのような方々に届けたいですか?

 (神吉氏)まずは各党に所属する議員さんにみてもらいたいですね。それから日本語教育の関係者にもぜひみてもらいたい。今、日本語教育は政治との関わりがいろいろ出てきてるんですが、今回われわれがやったような形で、公に発信して社会全体で議論するという動きが極端に弱いと思っています。社会の人々が日本語教育について考えるための土台となる情報の提供が十分にできてないと思うんです。

この政党アンケートの結果で投票行動を変える人はそんなにいないと思いますし、そこはあまり狙ってません。それよりも、こういう取り組みをして結果を発表すること自体が、世の中での議論を喚起していくことになるんだということを、もっと多くの人が認識してくれるといいなと思っています。

今、日本語教育について十分に理解してくれる仲間を増やしたい

—今後、どのような展開をお考えですか

 (神吉氏)政党アンケートは毎回の大きな選挙の定番にできるといいなと思っています。それから、衆院選が終わって議席が確定したら、議員アンケートをやりたいと思っています。

最近、地方から僕のところに、外国人労働者の受け入れに関連して、日本語教育について考えなきゃいけないと思っているという相談がけっこう増えてきてるんですよね。それは当然、地方選出の議員さんにも関係してくることだと思います。

でも、まだ日本語教育について詳しい議員さんはほとんどいない。議員アンケートを行うことで、この問題も考えなきゃいけないと思って欲しいのと、知らないことがあって、もし知りたかったら僕らが説明に行くので、遠慮なく呼んでくださいと伝えたいなと思っています。まずは知ってもらうという活動につなげたいですね。

排斥的な動きができたときに、対抗できるネットワークづくりを

(神吉氏)欧州でもアメリカでも、外国人が増えてくると、必ず排斥運動がおきますよね、そしてそれを「看板」にする政党が出てきます。日本はまだその流れが大きくないですので、今、日本語教育について十分に理解してくれる仲間を増やしておきたいですね。排斥的な動きが出てきたときに、そこに対抗できるネットワークをいろんなところに張り巡らせておく必要があると思っています。

それから、質問項目のパッケージ化もやりたいです。地方に住んでいる人が地方議員に同じようなアンケートをやってもいいと思います。そういう地道な取り組みをみんなが少しずつやることが、共生社会をつくることにつながるんじゃないかと考えています。

日本の「共生社会」への道のりは始まっている

…「政党アンケート」をただやって終わり、とせずにその先の「共生社会」づくりのための布石とする、ここまでの動きを神吉氏が自ら率先して行うのは、日本語教育や外国人「受け入れ」に伴う実態が想像以上に立ち遅れていることも表れのようにも感じました。

政府もその実現を掲げる「共生社会」は、すぐそこに迫っています。その道のりはすでに始まっており、誰もがその道の上に立っています。神吉氏が言及したように、"日本人側”もその当事者として、意識をアップデートし、未来の日本社会に向けて共に歩んでいきたいですね。