外国人との共生社会に向け、進む体制整備―日本語教育推進基本法案で注目すべき5つのポイント

日本語を学ぶことは、日本社会への入り口に立つこと(筆者撮影)

海外にルーツを持つ人々の日本語教育、国と自治体の責任明記

2018年5月29日、日本語教育推進議員連盟の総会が開かれました。日本語教育推進議員連盟は、2016年に超党派の国会議員により結成されたもので、日本語教育推進に関する基本法の制定などを目指してきました。今回で10回目となる総会では、「日本語教育推進基本法」(仮称)の大筋の内容をまとめた政策要綱について議論が行われ、原案を了承することになりました。

これからこの要綱を基に条文を作成し、国会に提出する意向です。要綱では、日本語教育の推進が国にとっての「喫緊の課題」であるとして、施策の策定や実施は国と地方自治体の「責務」であると定めました。日本語教育にとって、初めての「足場」が築かれようとしています。

日本国内で生活する在留外国人はすでに256万人を超えました(法務省、在留外国人統計2017年12月末)。これまで行われてきた日本語教育は主に「留学生」として暮らす人々を除き、その多くをボランティアによる善意に頼ってきました。このため、その質も量も地域間格差が大きく、体系的な日本語教育機会へのアクセスが限られることで、日本での生活に困難を抱える外国人も少なくありませんでした。

また、地域の中でも言葉の通じない外国人が増加する中、生活圏を共にすることに対する戸惑いが募りました。今回、日本語教育推進の基本法の姿かたちが明らかとなり、国や地方自治体の責務が定められることによって、日本語を母語としない住民に対する日本語教育は大きな転換期を迎えることになります。

日本語教育の推進は「私たち」の問題

要綱が定める基本理念には「日本語教育の推進は、日本語教育を受けることを希望する全ての者に対し、その需要と能力に応じた日本語教育を受ける機会が確保されるよう行われなければならないこと」が記され、その上でさらに、日本語教育の推進が「地域の活力の向上に寄与するものであるとの認識の下に行われなければならないこと」とあります。

また、基本的施策には「外国人等に対する日本語教育への国民の理解と関心を増進するため広報活動等の必要な施策を講ずる」とあり、日本社会全体で新しい一歩を踏み出すための基盤として、この「日本語教育推進基本法」を作るために尽力されてきた方々の意気込みが感じられます。

日本語教育推進基本法、注目のポイント5つとは

今回、公表された「日本語教育推進基本法」(仮称)の政策要綱の内容で筆者が注目したポイントは以下の5点です。

1.日本語教育の推進に、国と地方自治体の責任を明示した

これまで依って立つ足場を持たなかった日本語教育は、責任もあいまいで、地域資源や自治体の温度差によって大きな格差がありました。自治体は国がやるべきことだと言い、国は地域のニーズなのだから、自治体がやるべきだと主張しあうような部分が少なからずあり、なかなか前進しませんでした。今回、基本法が成立すれば初めてその責任の所在が明らかとなり、ようやく下地が整うことになります。

2.日本語教育機会を「希望するすべての人」に確保されることを目指した

要綱の中にある「定義」には、以下のように書かれています。

・この法律において「外国人」とは、日本の国籍を有しない者をいうこと。

・この法律において「外国人等」とは、外国人及び日本の国籍を有する者であって通常使用する言語が日本語でないものをいうこと。

出典:「日本語教育推進基本法案(仮称)政策要綱」第一総則 二 定義 より抜粋

つまり、日本国籍を有しない人(外国籍、とは定めていない点もポイント)だけでなく、日本国籍を持つ海外ルーツの人であっても、日本語を母語とせず日本語教育を希望すればその対象となることが定められています。

日本語教育を必要とする人が“外国人”に限らないことは、関係者の間では周知の事実ですが、それが公的に明言されることで、たとえばこれまで可視化されづらかった「日本にルーツを持つ人」の存在やニーズもあらためてクローズアップされる機会につながるのではないかと期待されます。

3.日本語教育の質の向上を図るために、日本語教師の資質・能力と待遇改善に言及した

現在の日本語教育は主に留学生を除き、その多くが「ボランティア」に頼っていることは、拙稿(「日本語教師の約59%がボランティアの限界―在留外国人の日本語教育担い手不足懸念」)でもご紹介しました。高齢化に伴う日本語教育の担い手不足も問題となりつつあり、その質や待遇改善、専門性への認知向上が急務となっています。

要綱の中では「日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備、国内の日本語教師の資格に関する仕組みの整備、日本語教師の育成に必要な高度な専門性を備えた人材の育成その他の必要な施策を講ずるもの」と記載されていますが、具体的にどのような動きとなるのか、注目です。

4.日本語を母語としない子どもの教育に対し、必要な施策を講ずることを明記   

平成28年の時点で、全国の公立学校には43,000人以上の日本語がわからない子どもが在籍し、そのうち10,000人は「学校で何の支援も受けていない」状態にあることは、筆者の記事でも繰り返しお伝えしてきました。外国人が少ない地域では、人材や予算の確保が難しかったり、学校の先生が対応するには時間的にも、専門性の面でも限界があることなどが理由です。

今回、要綱では国のすべきこととして「外国人等である児童生徒等(外国人児童生徒ではないことがポイント)に対する日本語及び教科の指導等の充実」や教員・支援員の配置など指導体制の整備、支援の質の向上などが盛り込まれました。さらに、就学と就労の支援の必要にも言及し、子どもたちが日本で教育を受けるだけでなく、その先の自立就労までをも視野に入れたことで、日本語教育に留まらない支援の広がりに期待が持てます。

5.外国人を雇用する企業に、支援のための努力を求めたこと  

要綱では、国や自治体だけでなく外国人等を雇用する事業主にも、国が実施する日本語教育施策への協力や雇用している日本語を母語としない人たちに対する支援に努めることと記載されました。また、企業が日本語教育機会を提供することに対して、国も必要な支援を行うとしています。

ただ、フルタイムで働きながら日本語を学ぶということは実際には難しく、相当な努力を日本語学習者に求めなくてはなりません。たとえば企業が所定の日本語学習時間数を「業務の一部として認める」など、かなり踏み込んで保障していかないとうまくいかないのではないかと危惧する部分もあり、外国人を多く雇用する企業にはただでさえ人手不足にあえぐ中小企業が少なくないことから、国がどのような施策を講ずるかに注目です。

避けて通れない「移民政策」議論が望まれる

これを機に、これまで「言語難民」とも呼べる状況にあった海外にルーツを持つ子どもや生活者の方々が、日本語を十分に学ぶ機会が保障されていくのであれば、要綱にもあるように日本社会全体にとって恩恵をもたらすものであり、関係者からの期待も大いに高まっています。

一方で、この要綱はあくまでも「足場」に過ぎず、今後策定されてゆく数々の施策が十分に実効性を伴う内容であることや、実施のための財源確保が適切になされるよう様々なレベルでの議論が必要です。また、今回の法律はあくまでも「日本語教育の推進」に留まります。本来であれば、これは日本社会の未来を見据えた「移民政策」の一部として位置づけられるべきものであり、もはやその議論は避けて通れない事態であることを私たちに示しています。