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外国人多い自治体のトップが集まり国の担当者と直接対話ー「外国人集住都市会議」愛知県豊橋市で開催

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
会場となった「ロワジールホテル豊橋」には関係者ら400名が集まった

今年で16年ー外国人集住都市会議

2017年1月31日、愛知県豊橋市で外国人集住都市会議「2016年度外国人集住都市会議 とよはし」が開催されました。全国各地から会員都市市長をはじめ、官公庁や自治体担当者、支援団体職員など関係者400名が集まり、地域の担い手としての外国人が活躍するための取り組みについてなどを議論しました。

外国人集住都市会議は、主に南米日系人を中心とする外国人が多く暮らしている自治体が集まり、外国人にかかわる施策や取り組みに関する情報交換と、こうした地域で起こる課題の解決を目的として2001年に設立されたものです。

現在、同会議会員都市は全国の25の市町。毎年外国人の雇用や教育、防災などをテーマに地域ごとのブロックに分かれて研修や会議を重ね、その成果と共に「宣言」を発表しています。

また、同会議では関係省庁への意見書・要望書提出など、外国人受け入れ地域の最前線としてその経験を発信。2015年度には「多文化共生社会の実現に向けた外国人児童生徒等教育の充実について」と題した要望書を国へ提出し、外国人児童生徒等を学校内で支援する指導者の基礎定数化の実現に貢献しました。

自治体トップが国の担当者と直接対話する機会に期待

1月31日に実施された同会議では、東京外国語大学大学院の伊藤祐朗教授より、基調講演として外国人児童生徒の現状や課題、これまでの成果、今後の課題解決に向けての報告が行われた後、会員都市を代表して計8名の市長が2つのセッションに分かれて登壇し、それぞれのテーマに基づく発表や内閣府、文部科学省や厚生労働省等の各府省庁担当者と議論を行いました。

会議当日の参加者からは、「こうした外国人生活者を抱える自治体のトップが集まり、子ども達の教育や雇用などについて直接各省庁の担当者と対話できる良い機会(公務員)」と言った声や、「自らの暮らす自治体の市長が登壇し、関係省庁と直接交渉する姿を見られることが良い(支援関係者)」と言った声が聞かれました。

現在、この外国人集住都市会議は、外国人に関わる諸課題について、国に対する政策提言や直接交渉ができる希少な組織となっていて、全国的に進んでいる外国人生活者の受入れ先進地域として、その知見の共有や発信、リーダーシップに期待がかかります。

増加する外国にルーツを持つ子ども達ー国の支援拡充を

愛知県小牧市の山下史守朗市長は、同市内の日本語教育を必要とする児童生徒の数は5年前と比べ39%増加し、市内全ての小中学校に在籍する現状を報告し、来日直後の日本語指導を行う学級の設置や、語学相談員などの配置を市の財源で実施してきたものの、予算面で厳しい状況が続くことから、日本語教育に必要な経費の国による財政面でのサポートを求めました。

また、静岡県浜松市市長、鈴木康友氏からは、昨年度小学校に入学した外国人の児童の内、73%が日本で生まれ育った子どもであり、こうした子ども達が日本の教育を経て成長し、活躍していくために外国人の若者の就労促進が必要であること、外国人が長期に滞在し生活することを視野に入れた外国人受入れの必要性を訴えました。

少子高齢化の中で「待ったなし」の現状

基調講演を担当した伊藤祐郎東京外国語大学大学院教授は、筆者のインタビューに対し、外国人児童生徒等の教育において学校教員が直面する困難については、国が旗振り役を務めていないことが要因の一つとしてあげられること、一方で、少子化が進み税収が少なくなったり、人材が不足したりと社会の中で危機感が募ってきていることもあり、全体的に取り組んでいかざるを得ない状況にあると「待ったなし」の段階にきているとの見方を示しました。

「日本語教育となるとやや狭くなってしまうが、外国人児童生徒教育は日本人児童生徒にも恩恵をもたらす。日本人自体も多様化している。今の日本の教育制度のなかで対応できない存在を含んだ状況で、再構築できれば、日本人の子供たちのためにもなる。(伊藤教授)」

「外国にルーツを持つ若手人材が地域に眠っている」ー適材適所で新しい力を顕在化させる若者達

会場には、外国人受入れに関わる活動を行う団体や企業による展示ブースが設けられており、自治体の窓口で活用できるよう設計されたアプリケーションのデモンストレーションや、国際交流協会の活動紹介などが行われていました。

活動紹介を行った企業の一つである「株式会社ORJ(オーアールジェイ)」のブースには、ペルーとブラジルにそれぞれルーツを持つ若手社員がスーツ姿で来場者への説明にあたっていました。

左より株式会社ORJの小澤祐也さん、村上ナオキさん、渡邉カルロスさん
左より株式会社ORJの小澤祐也さん、村上ナオキさん、渡邉カルロスさん

同企業は静岡県磐田市市役所において外国人情報窓口業務を受託し、外国人生活者が安心して暮らす事ができるよう、窓口で相談活動を行っており、ブースを担当していた外国にルーツを持つ若者は普段磐田市役所において、ゴミの捨て方や防災についてなど、生活レベルの情報提供を行っています。

同企業、掛川事務所所長の小澤祐也さんは、

「今は人材不足。適材が適所にいない状況。例えば地震のない地域からきた外国人にとっては、防災訓練と言われても必要性がわからない。私たちは地域に眠っている外国にルーツを持つ若手人材を、(彼らが活躍できる適所に配置する事で)事業を通して顕在化させています」と外国人の若者活用の意義を教えてくれました。(括弧内は筆者加筆)

磐田市市役所で外国人生活者に情報提供を行うブラジルにルーツを持つ村上ナオキさんは、

「外国人の人たちが安心してくれます。もう顔なじみも多くて、ちょっとしたことで声をかけてくれる」

と自身の業務を誇らしげに語りました。

外国にルーツを持つ子どもたちが成長し、地域の一員として受け入れられることで、これまでにはない力として活躍してくれる・・・そんな時代がすでに始まりつつあります。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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