人材も予算もないから支援できない―悪循環に陥る地方の教育。構造的課題の解決へ始まる模索

ICTを媒介にして「共に学ぶ」ことで、地域の大人が子どもを支えやすくなる(ペイレスイメージズ/アフロ)

全国の公立学校に在籍する外国にルーツを持つ子どもたちのうち、日本語がわからない子どもは37,000人。全国の6,864(22.7%)の公立学校にこうした子どもたちがおり、自治体ベースでは全体の42.8%の自治体にまたがり在籍しています。(出典:文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成26年度)」の結果について)

日本語を学ぶ機会がないため、日本語がいつまでたってもわからず、勉強についていくことも、友達をつくることもできない。その結果、不登校状態に陥ったり、高校に進学できないまま中学校を卒業せざるを得ない、という悪循環が長年の課題となっていることは、筆者の過去記事でも都度お伝えをしてきました。

課題の源泉は「人とお金」

学校の中で日本語支援が必要な子どもが入学・転入してきた時、自治体に支援の仕組みがあれば、日本語学級に通学したり、ボランティアや担当教員による「取り出し」(授業時間中に、在籍する学級の教室以外の場所などで日本語支援を受けること)などの支援を受けることができます。

あるいは、自治体がNPO等に委託するなどし、学校外で一定期間日本語教育を受けることができるような体制を整えているケースなどもあります。

一方で、こうした支援制度を自治体内に整備するためには、当然のことながら、人材と予算が必要となります。中には、ボランティアの持ち出しと努力によってかろうじて支援を実施している、という自治体もありますが、「ボランティアをする人がいる」という前提条件が必要となり、無償で支えてくれる人がなかなか見つからない、ということも珍しくありません。

「(人材)ない、(予算)ない、(支援)できない」の課題は外国ルーツの子どもに留まらない

こうした人材と予算不足が要因となる支援機会の欠如は、外国にルーツを持つ子どもたちに限った課題ではありません。

子どもの貧困が大きな社会課題として認識され始めた現在、各地で子どもの貧困による悪循環を断ち切るための「学習支援」が実施されるようになり、経済的に余裕のない家庭の子どもたちも、放課後や週末に学習支援を受ける機会が拡がりつつあります。

中には、大学生や社会人ボランティアが中心となって活躍し、居場所と学習支援を両立させているすばらしい場も少なくありません。

一方で、上述の日本語指導が必要な子どもの課題同様、「人材」と「予算」の両方、またはどちらかがないがために、学習支援の場を用意することができない地域がまだまだあることは、あらためて認識する必要があります。

いわゆる限界集落や過疎地域では、子どもがアクセスできる範囲に塾すらなく、家庭教師派遣も難しいなど、経済的な状況に関わらず、教育支援機会が都市部に比べ限定的になる傾向があります。このため、自治体独自で学習支援の場を設置しようとすると、やはり「人とお金」の壁にぶつかることになり、なかなか先に進むことができません。

課題を構造的に解決するために・・・

現在、このような「ない、ない、できない」という構造的な課題を解決する手段の一つとして、教育課題におけるICTの支援への活用が注目を集め始めています。2000本もの学習動画を無料で公開するサイトを運営する、NPO法人eboard(いーぼーど)もその一つです。

「学習動画」というと、予備校などの先生が黒板の前に立ち、カメラに向かって勉強を教えてくれるようなイメージを思い浮かべる方も少なくないかもしれませんが、eboardのウェブサイト上に掲載されている独自作成の動画に、「先生」の姿は登場せず、画面いっぱいにホワイトボードが広がる中で、ある単元について説明する声が聞こえてきます。

その声が説明する内容に沿った板書が、画面の中のホワイトボードに次々と書き込まれていき、まるで隣で家庭教師が説明してくれているような感覚で、学びを進められることが特徴です。

勉強が苦手な子、学習に意欲的に取り組めない子を対象とした教材作り、またNPOならではなの地道な研修やサポートにより、eboardの活用は、都市部の小学校から定時制高校、NPOの支援の現場まで、全国での活用が進んでいます。

ICTを媒介に「共に学ぶ」ーeboardの取り組みが広がりつつあります
ICTを媒介に「共に学ぶ」ーeboardの取り組みが広がりつつあります

「2時間かけてやってきた東京の大学生より、地元にいて挨拶してくれる関係の人のほうが長期的にも子どもの助けに」

現在、日本各地で高齢化や過疎化は進んでおり、これまで、「学習支援活動に携わるような人」の中心であった学生や、若い社会人などを探し出すことはどんどん難しくなってきている一方で、セーフティネットを兼ねた学びの場を必要とする子どもの数は今後、増えていくとみられています。

今後は、こうした学びの場へ、これまで学習支援とは縁がなかった層の地域人材にいかに参加してもらうか、が重要な課題の一つとなってくるでしょう。

「これは誤解を招く表現かもしれないのですが、「私、学習のサポートが趣味なんです」と言ってもらえるくらいの軽いノリがいいなと思っています。「フラダンスが趣味です」くらいのノリで「週末は子ども達と一緒に勉強してるんです」っていう人を、いかに作れるかがすごく大事だと思っていて。」(NPO法人eboard 理事 中村孝一氏)

「勉強を教える」と考えると、学習支援活動は地域の人々にとって、やや「敷居が高い活動」と思われてしまうこともあるかもしれません。しかし、「学習動画をいっしょに見て、いっしょに学ぶ」という事であれば、そのハードルは一気に下がります。

「そういう人たちがいて、そこにオンラインの教材が揃っていれば、学習できる場所は整います。そういう人たちこそ、子どもにとってセーフティネットになるので。がんばって2時間かけてやってきた東京の大学生より、地元にいて挨拶してくれる関係の人のほうが長期的にも子どもの助けになります。そういう状況を広げていきたくて、そのためにICTは重要なツールです。」

「教えられないけれど、一緒にいることはできる」

そんな地域の人をICTを介して増やしていく。

これまで「ない、ない、できない」の罠に陥っていた自治体や教育関係者、子ども支援関係者の方々にはぜひ取り入れてほしい新しい視点の一つです。