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未唯mie ソロ活動42年、『Pink Lady Night』の魅力、表現者としてのこれからを語る

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/モーアーティスト(ライヴ写真以下同)

1970 年代後半数々のヒットを飛ばし一大ブームを巻き起こしたピンク・レディー。そのメンバー未唯mieが、2021年にソロデビュー40周年を迎え、新春恒例となっているライヴ『仙波清彦 Produce 未唯mie Sings 新春 ”Pink Lady Night”』の2020年の公演を収録した(2CD+1DVD)作品『新春“Pink Lady Night” 10th Anniversary Special Live』が12月7日に発売され、好調だ。ピンク・レディーの数々の名曲を、久米大作が大胆にアレンジし、仙波清彦(はにわオールスターズ)率いる和楽器を含む大所帯バンドが演奏し、未唯mieが歌い、舞う、まさに圧巻のライヴだ。このライヴについて、そしてピンク・レディーとしての活動について、さらにソロ40周年を迎え、表現者として新たに決意したことなどをインタビューした。

「はにわオールスターズの世界観と、ピンク・レディーの世界観を融合させたらどうなるんだろう?ってワクワクした」

『仙波清彦 Produce 未唯mie Sings 新春 ”Pink Lady Night”』(2CD+1DVD/12月7日発売/ソニー・ミュージックレーベルズ)
『仙波清彦 Produce 未唯mie Sings 新春 ”Pink Lady Night”』(2CD+1DVD/12月7日発売/ソニー・ミュージックレーベルズ)

『仙波清彦 Produce 未唯mie Sings 新春 ”Pink Lady Night”』は、元は2010年に行なった6か月連続ライヴの中のひとつの企画だった。丸ごとピンク・レディーで何かをしたら面白いのでは?と思いつき、その時、はにわオールスターズと出会い、生まれたのが『Pink Lady Night』だ。

「2010年に『70'S NIGHT』『DISCO SOUL NIGHT』ほか6つのライヴを後藤次利さんを始め、6人のプロデューサーにお願いをして行ないました。その中のひとつが『Pink Lady Night』です。どれも密度が濃くて大変でした(笑)。せっかくなので、全部ピンク・レディーの曲で構成するライヴも面白いねということで生まれたのが『Pink Lady Night』です。でも普通にやっても面白くない、と思っていた時に、はにわオールスターズのDVDを観ていまして(笑)。本当に運命的な出会いというか、その世界観に衝撃を受けました。この世界観とピンク・レディーの世界観を融合させたらどうなるんだろう?ってワクワクしてきて。それで仙波清彦師匠に会いに行って『ピンク・レディーを、はにわみたいにしてみてほしい』とお願いしました」。

ジャンルも国境も越えた音楽を奏で続ける、仙波清彦率いるはにわオールスターズと和楽器隊を加えた約30人のまさにビッグバンドが、圧巻の演奏を聴かせてくれる。久米大作(Key)が手がけた、ロック、ファンク、ラテン、レゲエ、そして音頭やインド音楽etc…様々な音楽に、誰もが知るキング・クリムゾンやディープ・パープル、マイケル・ジャクソン、ビーチ・ボーイズなどの名曲も引用した大胆で、攻めたアレンジのピンク・レディーの楽曲は必聴だ。

「和楽器も入っているし、鐘や太鼓が邪気払いに良いと聞いて、衣装もお着物を着させていただいたので『これ、お正月公演にぴったりだね』って。それでやってみたところ大好評で、定着しました」。

「ソロだからこそできるピンク・レディーの歌の表現の仕方を探していた」

「ペッパー警部」は変則的な5拍子に。「サウスポー」は雅楽から始まって音頭になって、そこにコブシを回すボーカルが乗ったり、まさに奇想天外なアレンジが施されているが、一度聴くとやみつきになる。そして改めてピンク・レディーの楽曲の素晴らしさ、メロディの強さを感じることができる。

「そこに気付いていただけると本当に嬉しいです。やっぱりピンク・レディーが2人で歌うときには、衣装も振り付けもあってあの世界観ができあがります。でもソロだからこそできるピンク・レディーの歌の表現の仕方を探していました。今までも色々なアレンジをしてもらって、楽曲の強さを実感していましたが、だからこそ、ここまで変化させても楽曲自体が負けることなく、さらに大きな世界として表現できる自信がありました。阿久悠さんが書いて下さった歌詞の世界も、もちろん当時のイメージは大切にしつつ、アレンジが変わることで、さらに違う意味や、深い意味、裏に隠れている悲しみに至るまでが聴こえてくると思います。より深いところをお届けできるという喜びもあります」。

「当時のすごい“勢い”がモンスター=ピンク・レディーを生んだ。色々なことに気を遣って、整然とやっていたら、あのモンスターは絶対生まれなかった」

ピンク・レディーとしての活動は正味4年7か月と短い時間で、まさに時代を駆け抜けていったという表現がピッタリだと思うが、当時はどんなに忙しい毎日を過ごしていたのだろうか。

「素晴らしいクリエイターの方達が集結して、勢いがあったからこそ、まるでモンスターのようなピンク・レディーが完成したのだと思います。色々なことに気を遣って整然とやっていたら、絶対あのモンスターは生まれなかった。デビューして2年間くらいはぐっすり寝た記憶もありません。頭と体がずっとアイドリング状態でした。だからあのまま長くはできなかったでしょうね。活動期間は4年7か月ですけど、全盛期は3年間でした。でも相当鍛えられました。一番強くなったのは気力です。プロだから無理って言えなくて、目の前にあるものをできようができまいが、やるしかない。その綱渡り状態でずっと来ていたので、相当鍛えられました」。

「阿久(悠)先生、都倉(俊一)先生から頂いた宝物がどれだけ大きかったか、今でも、今だから、感じることができます」

この『Pink Lady Night』では、いい意味での“異質感”がピンク・レディーの作品の深い部分の所に光をあてることにつながっていて、当時多忙を極め、若かったこともあるが、消化し切れていなかった、掬い切れなかった歌詞の行間に流れる思いが、今の未唯mieが歌うことで、説得力を纏って伝わってくる。

「おっしゃるように、当時は表面的な解釈だったかもしれません。阿久(悠)先生・都倉(俊一)先生の偉大さをより感じますし、頂いた宝物がどれだけ大きかったかというのは、今でも、今だから、感じることができます。今、きちんと曲の全体像を表現できていると思っています。ライヴのアレンジをしてくださっている久米さんが『よくこのアレンジで歌えるね』っていうくらい、方向性からして違います。だから私も表現方法やノリをガラッと変えていかないと、あのアレンジにはそぐわない。『UFO』なら、弾んで歌っていた感じを全くなくしたり、歌唱としての表現もこのノリに合わせて変えていくこともシンガーとしてすごく面白いです。邦楽器が入っていることで、完全にあのリズムに乗ってるというより、息で感じるところもたくさんあって、もちろん緊張感みたいなものもあってそれがいいんです。いきなりリズムが変わったり、テンポが変わったり、まさにお客さんに体感していただく、“音を浴びる”ライヴだと思っています」。

一流ミュージシャンが集結し、極上の音を聴かせてくれる。そこに和楽器と世界中のパーカッション、打楽器や激しいリズムが加わり、音が“向かってきて”、まさに“音を浴びる”感覚になるライヴだ。

「細胞ひとつひとつに音をお届けするような感覚です。世界16か国のパーカッションが登場していて、その中でも、竹でできているアンクルという楽器は、私も一緒に叩いて、みんなと心を一つにして奏でています」。

「村上“ポンタ”秀一さんに出会って、音楽観が変化していった」

未唯mieは「超一流ミュージシャンの方達が、本気で遊んでる感じ」とこのライヴを表現してくれたが、まさに“本物”が本気で遊んでいるからこそ生まれる面白さとグルーヴとが、客席を感動させる。その中の一人が、2021年惜しまれながら他界したドラマー村上“ポンタ”秀一だ。映像作品には彼が演奏している姿も収められている。村上は「ペッパー警部」を始めピンク・レディー作品のオリジナルレコーディングにも参加しており、2005年の再結成ツアーファイナルも参加している。ソロになった未唯mieにとって、なくてはならない存在だったと教えてくれた。

「この映像作品のライヴが、ポンタさんご自身にとってもラストステージだったと思います。2003年から2年間限定で『ピンク・レディーメモリアルコンサートツアー』をやって、そのファイナルにご褒美として、レコーディングのオリジナルメンバーを呼んでもらえて、ポンタさんも駆け付けてくださって。それで終わった後、ポンタさんが『未唯mieちゃん、ライヴをやるんだったら手伝うよ』って言ってくださったのがきっかけです。そこからはポンタさんが一流のミュージシャンを集めてくださって、最初にポンタさんが『まずは未唯mieちゃんの声に合う音を探すんだ』って言って、スタジオにシンバルを何十枚も並べるんです。それでひとつずつ音を聴いていって、残りの何枚かになったとき『どれが好き?』って聞いてくれて。そうやってサウンドと、私の声に合わせたドラムセットを作り上げてくれました。そこからスタートして、ミュージシャンも私の声に合う音を出してくれる人を選んで下さって、リハーサルでは『この一音のタイム感、もうちょっと長いんじゃないか』とか、細部に至るまでこだわってくれました。一流ミュージシャンって、こういうところに凌ぎを削って奏でているんだ、というのを目の当たりにして、私の音楽観がどんどん変化していきました」。

「『Pink Lady Night』は皆さんと息を合わせるのが最高に楽しい」

未唯mieは村上から音楽の世界の厳しさ、難しさ、深さ、楽しさ、そして喜びを教えてもらい、それがソロシンガーとしての“芯”になっている。未唯mieが本格的にライヴ活動を始めたのは2007年で、この『Pink Lady Night』は今も色々なことに気づく場でもあり、発見できる場でもある。

「あのすごいメンバーたちを、リードしていかなければいけないというのもすごくプレッシャーですが、とにかく気持ちがいいんです。仙波さんも私の動きを見て指揮を取ってくれますが、基本的には、私のやりたいようにやっています(笑)。決めごとがすごく多いのですが、自由度もすごく高いライヴなんです。皆さんと息を合わせるのが最高に楽しくて『毎年、年の初めには会わないと』って、もう親戚の寄り合いみたいになっています(笑)」。

昨年YUMA HARAとコラボ

未唯mieのライフワークのひとつになっているこのライヴ。しかし彼女は常に貪欲に、新たな音楽、表現を求め進化を続けている。世界的に活躍するサウンドクリエイターでありコンポーザー、ギタリストのYUMA HARAとのコラボレーションもそのひとつだ。

「昨年の10月末に行なった『Halloween Night 2022』でYUMA HARAとコラボして彼の仲間たちを集めて、彼の世界観で私の80年代以降のソロ曲とYUMA君の楽曲を披露しました。今までに触れたことがない、どのジャンルにもハマらないようなサウンドで、すごく刺激を受けました」。

「感性ではなく体自身が感じることを素直に表現にしていく」

シンガーであり、表現者でありたいと未唯mieは語る。

「声ももっともっと楽器にしていきたいというか、今までは、職業シンガーじゃないけれど、与えられたものを歌えるように、それがプロフェッショナルと思っていました。でもある時からそうではなくて、もっと、新しいものに触れたときに、私の“何が”反応しているのかということをもっと探っていって、そことの融合をきちんと感じられる表現もしていきたいと思うようになりました。声はそのための楽器なんです。それと今色々なことを一緒にやっている、ひびきみかさんという舞踏家の方と、何かに触れたとき、あるいは何も触れないときに、自分の体は何を感じるのかという、感性ではなく体自身が感じることを素直に表現にしていくということをやっています。2人でやっていると、計算で動くのではなくて、感じたときに感じたように動いていると、それが本当に“来た”時だと、シンクロしていくんです。鳥肌が立つような感覚です。それをアートの方にまで膨らませて、私の表現にどんどんなっていったらいいなって思っています」。

『仙波清彦 Produce 未唯mie Sings 新春 "Pink Lady Night" 2023』は、1月6日ビルボードライブ横浜、8日ビルボードライブ大阪、そして14、15日東京・目黒BLUES ALLEY JAPANで開催される。

<メンバー>未唯mie(Vo)、仙波清彦(Cond,Per,小鼓)、久米大作(Arr,Key)、白井良明(G)、バカボン鈴木(B)、村田陽一(Tb)、高橋香織(Vln)、葛岡みち(Cho)、渡部沙智子(Cho)【カルガモーズ】福原寛(笛/横浜・大阪・東京1/14のみ)、福原寛瑞(笛/東京1/15のみ)、梅屋巴(大鼓)、堅田昌宏(小鼓・大鼓/大阪・東京)、望月正浩(小鼓/横浜・東京)、藤舎呂凰(小鼓/東京)、安倍真結(小鼓/横浜・東京)、福原千鶴(小鼓/大阪)、大西英雄(Ds)、Ma*To(Tabla/東京)、小林武文(Tabla/東京)、村瀬”Chang・woo”弘晶((Bongo/東京)、石川雅康(Djembe)、ease;me泉(Per)、澤田聡(Per/東京)、チェ・ジェチョル(Chango)、Eternal Drummer 村上“ポンタ”秀一、1月15日(日) Special Guest/土方隆行(G)

未唯mie オフィシャルサイト

otonano『新春“Pink Lady Night” 10th Anniversary Special Live』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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