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JUJU “人生の教科書”ユーミンへの想いが爆発した「大人による、大人のためだけの不思議の国」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供(全て)/ソニー・ミュージックレーベルズ

松任谷正隆演出による、ユーミンのライヴの世界観とJUJUの世界観と歌が交差し生まれる、不思議な世界

「ユーミンは私にとって人生の教科書」といってはばからないJUJUの夢が実現したのが、3月16日にリリースしたカバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』だ。ユーミンマニアのJUJUらしい選曲に、そのユーミン愛の深さを感じずにはいられなかった。しかもユーミン&松任谷正隆プロデュースという前代未聞のカバーアルバムである。JUJUファンはもちろん、ユーミンファンも深く頷く仕上がりだった。そしてJUJUの夢はまだまだ続く。5月からスタートしたこのアルバムを引っ提げての全国ツアー『JUJU HALL TOUR 2022 不思議の国のジュジュ苑-ユーミンをめぐる物語-』だ。演出は松任谷正隆。ユーミンのライヴの世界観とJUJUの世界観と歌がどう交差し、融合するのか。ユーミンの歌の物語の中にJUJUはどう佇むのか——それを確かめるために10月10日、JUJUの日に東京・武蔵野の森 総合スポーツプラザ メインアリーナで行なわれた『不思議の国のジュジュ苑 -ユーミンをめぐる物語- JUJUの日スペシャル 演出:松任谷正隆』を観た。

“JUJUの日”に行なわれるツアー集大成、何かスペシャルなことが起こるのでは?というワクワク感

開演前。全44公演行われたこのツアーの集大成、しかも10月10日=JUJUの日に行われるということで、もちろんJUJUとバンド、スタッフは万感の思いで臨んだと思うが、客席にはスペシャルと銘打たれたこのステージに、文字通りスペシャルな“何か”が起こるのでは?というワクワク感が充満していた。その期待がピークに達した時、スクリーンに踊るダンサーの影が映し出される。天倉正敬のドラムが音を刻み始め、JUJUが登場しショウがスタート。オープニングナンバーはJUJUのラテンフレーバーたっぷりのデビュー曲「光の中へ」だ。そして、JUJUがユーミンに恋に落ちたアルバムDelight Slight Light KISS」(1988年)のラスト曲、サンバのリズムの「September Blue Moon」へとつながる。間奏ではそれまでストリングスを弾いていたメンバーが、楽器を置きダンスに加わるという斬新な演出。

「大人による、大人のためだけの不思議の国」

「夜、ユーミンを聴いて過ごすのが習慣だった」というJUJUは、ユーミン国の住人だった。更にはユーミンの世界でたゆたううちにより深くまで入り込み、『アリス・イン・ワンダーランド』のように不思議の国に迷い込んだという。それが今回の「大人による、大人のためだけの不思議の国」だ。そしてこの曲を聴いているうちに自らも不思議の国に迷い込んだのでは、と想像したのが、速いリズムとローズの音色、ストリングス、コーラスが織り重なる「影になって」だ。<なんて不思議な なんて不思議な霧の夜なの><真夜中は全てが媚びることもなく それでいてやさしい>という詞を歌っているJUJUを観て、そんなことを思った。学校や大人が教えてくれないことをJUJUはユーミンの曲で学び、感じ、それが大人への階段になっていた。

螺旋階段が印象的なステージセットは、視覚的に直線的なものがほぼない曲線的なデザインで、さらに光の演出による陰影が強調され生まれる独特の“色合い”が重なり、そこにJUJUの歌とサウンドが解け込んでいく。演出の松任谷正隆が作り上げた不思議な世界に、観る者は一瞬にしてその国の住人になる。楽曲の世界観や季節に沿って徐々に変化を遂げる、趣向を凝らした演出の大きなポイントになっていたのが、ユーミンのライヴのダンサーでもあるTAKAYUKIと岩室由美のダンスだ。この物語の強い“差し色”になり、物語をふくよかなものにしていた。

ユーミンファンにも存分に楽しんで欲しいと願う構成

クラシックレゲエにアレンジされた「街角のペシミスト」、そしてJUJUが今年の『松任谷由実SURF&SNOW in Naeba』に参加した際リクエストした、特にお気に入りの「ダイアモンドの街角」をピアノに乗せ、愛おしそうに歌う。「真珠のピアス」「リフレインが叫んでる」「DESTINY」などの人気曲はもちろん、カバーアルバムには収録されていない、ユーミンのライヴのセットリストのような、JUJU偏愛のナンバーも多数披露した。美しい光のシャワーが客席に降ってきた「Midnight Train」、ステージで衣装チェンジを見せてくれ、圧巻の火柱が歌を彩った「ジェラシーと云う名の悪夢」、ウッドベースが心地よく響くボサノバテイストの「12階のこいびと」、美しいストリングスが響く「かんらん車」など、JUJUファンだけではなく、ユーミンファンも存分に楽しんで欲しいと願う構成だ。松任谷正隆が新たに施したアレンジは、オリジナルの中に存在する切なさやユーミンの“空気”を改めて立て、それをJUJUがきちんと掬い、表現していた。

ツアーでは披露していなかった「ひこうき雲」を、初披露

後半、カバーアルバムのラストを飾る、しかしこのツアーでは歌っていなかった「ひこうき雲」を初披露した。繊細な表現で切々と歌うと、客席に感動が広がっていくのが伝わってくる。切ないメロディの「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ」は、ユーミンの音楽に包まれながら、“素敵なレディ”になったJUJUの抑え目の歌がより切なさを膨らませ、胸が締め付けられる。「守ってあげたい」では客席から大きな手拍子が起こり、JUJUは歌い終わると手でハートマークを作り、マイクなしで客席に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝える。

太いベースとギターのフレーズが印象的な「メトロポリスの片隅で」は、オリジナルに近いアレンジ。当時(85年)の煌びやかな世界観を蘇らせてくれる。美しいストリングスが感情をくすぐってきた「卒業写真」では、JUJUの声の成分に含まれるジャジーな部分が薫り立ってきて、控え目なトーンで密やかに歌う。最強の卒業ソング=スタンダードナンバーが持つ普遍性をしっかりと伝えてくれる。ここでメンバー紹介。素晴らしい演奏で物語を進めていったと同時に、JUJUの歌を聴き手の心の深いところまで届けてくれたミュージックディレクター/ギターの石成正人率いる天倉正敬(Dr)、SOKUSAI(Ba)、草間信一(Pf & Key)、Olivia Burrell(Cho)、Mayo Samira(Cho)、牛山玲名(V)、島内晶子(V)、村田泰子(Vla)、越川和音(Vc)というスーパーバンドの一人ひとりに惜しみない拍手が贈られる。本編ラストは「奇跡を望むなら...」を披露。不思議の国の空から射すひと筋の光のようなJUJUの歌が、客席の一人ひとりの心を潤す。ユーミン国の住人だったJUJUが奇跡を望み、夢を実現したライヴだった。

「松任谷正隆さん・由実さんに決死の覚悟でお願いに上がってこの種を撒いて、『ユーミンをめぐる物語』というアルバムで芽が出て。そしてこのツアー、このショウという大きな花を咲かせました」

鳴りやまない拍手に応えJUJUとメンバーが登場し、本編の余韻が心地よく残る不思議の国で、アンコールが始まった。JUJUが今回のアルバム、ライヴについての思いを改めて語った。それはまさにアーティスト人生を賭けた願いだったのだ。「今日はこの不思議の国のジュジュ苑ツアーの締めくくり。(松任谷正隆さん・由実さんに)決死の覚悟でお願いに上がってこの種を撒いて、『ユーミンをめぐる物語』というアルバムで芽が出て。そしてこのツアー、このショウという大きな花を咲かせました。皆さんの未来にも、毎年素敵な花が咲くように」と、新曲「花」を披露。切なくも強いミディアムバラードを歌うと、その慈愛に満ちた美しい世界に、誰もが引き込まれていく。

アンコールでユーミンが登場。「Hello, my friend」「やさしさに包まれたなら」「A HAPPY NEW YEAR」をデュエット

そしてストリングスが響き渡り「Hello, my friend」を歌い始める。楽曲が転調して空気が変わる。黒のレザーパンツにJUJUのTシャツを着たユーミンが登場する。客席からどよめきが起こり、同時に盛大な拍手とともに総立ちになる。期待していた“何か”が起こったのだ。聴き慣れたユーミンの声が会場中に広がり“オリジナル”を歌う。そこにJUJUの声が重なっていく。“ユーミンはいつも私を連れ出してくれた。”という謳い文句がついているカバーアルバムを出し、JUJUを色々なところに導いてくれ、女性として、人としての気づきや発見を与えてくれたユーミンと、ステージ上でデュエットしているJUJUの心中を考えると、グッとくる。歌い終わった二人は、お互いにナイスポーズを送り合うという、素敵なシーンも目の当たりにした。

不思議な国での夢のデュエットは続く。「やさしさに包まれたなら」で柔らかなハーモニーを奏でると大きな拍手が贈られる。歌い終え、JUJUがユーミンに50周年のお祝いの言葉を贈ると、ユーミンは「色々なところでお祝いしてもらうけれど、このショウが最高のプレゼント!ありがとう!」とお礼の言葉を返すと、JUJUは溢れそうになる涙をこらえながら、感激の表情を見せていた。ラストは二人で「少し早いけれど来年もいい年になりますように」とカバーアルバムのオープニングナンバー「A HAPPY NEW YEAR」を披露した。歌い始めはJUJU。こよなく愛するユーミンソングを、ユーミンへとつなげる。二人の思いが大きな感動へと昇華されていく。最後にユーミンが「ハッピーニューイヤー!」と、客席にひと足早いメッセージを届けた。

JUJUがユーミンに色々な世界に連れ出してもらったように、JUJUもまた多くのファンを色々な世界へと連れ出す

ファンにとってもJUJU本人にとっても、忘れられない“夢の一夜”となったはずだ。カバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』もこのツアーも、関わっている全ての人がユーミン愛に溢れ、多幸感を感じる作品&ライヴになった。JUJUはステージ上から、来年6年ぶりにスナックJUJUのママとして、全国47都道府県を回るツアーを行なうことを発表した。JUJUがユーミンに色々な世界に連れ出してもらったように、JUJUもまた多くのファンを色々な世界へと連れ出していってくれるのだろう。

JUJUはこの冬、恒例となっているブルーノート東京でのジャズライヴ『JUJU JAZZ LIVE 2022 MAKE IT ALL DELICIOUS IN DECEMBER!! at BLUE NOTE TOKYO』を、3年振りに有観客で開催する(12/14、15、17、18、19)。

JUJUオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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