これまでにTVアニメ『あひるの空』を始め、『かげきしょうじょ!!』『SHAMAN KING』『トモダチゲーム』等、数多くのアニメ主題歌を歌い、特に10代~20代の若い層を中心に圧倒的な支持を得、幅広い層から注目を集めている3ピースバンド・saji。その音楽が多くの人に愛されるのは、アニメタイアップが多いからだけではなく、全楽曲の作詞・曲を手がけるボーカル&ギター・ヨシダタクミが書く、どこまでもリアルで“人間臭い”歌詞と、親近感のある美しいメロディに心を打たれるリスナーが多いからだ。そのヨシダが書く音楽を、リスナーの心に真っすぐ届け、感動を広げていくのが、メンバーの高校時代からの仲間、ユタニシンヤ(G)とヤマザキヨシミツ(B)が作り出すサウンドだ。

ヨシダは水樹奈々、Kis-My-Ft2他多くのアーティストへ楽曲提供しているように、ソングライターとしても引っ張りだこだ。そんなヨシダにインタビューし、その音楽が生まれる原点、sajiというバンドについて、そして6月22日に発売されたsajiの2ndフルアルバム『ユーリカ』について聞かせてもらった。

ヨシダタクミが書く楽曲の主人公は、憂いや葛藤を抱えるどちらかといえば後ろ向きな人が多く、でも最後はきちんとそこにひと筋の希望の光を当てている。それはどの曲にも貫かれているように感じた。

「世に出る楽曲を書き始めたのは高校生の時からですが、その時から、希望を残す、ハッピーエンドにならずとも、ハッピーエンドを迎えたらいいなという思いで物語を帰結させるというのは、多分一貫しています」。

「高校をドロップアウトして、人生から脱落した感じを抱いていた。でも音楽という“居場所”があった」

ヨシダとユタニは北海道帯広市出身。ヨシダは地元の高校を中退し、音楽活動にのめりこむ。中学時代からバンドを組み、レコード会社にデモテープを送るなど、早い時期から音楽で食べていくんだという意志が強かった。

「僕が生まれ育った帯広市は、田舎ではありますが、北海道の中ではどちかといえば都会寄りの町なんです。それでも高校をドロップアウトしたら、当時はそのレッテルを貼られて、まともな仕事に就けない感じで周りからも心配されて、親は大変だったと思います。僕もその時は人生から脱落した感じを抱いていました。でも今思うと、退路を完全に絶った状態で音楽に挑むしかなかったので、そういう意味で音楽に集中できてよかったと思います」。

両親が音楽好きで、フォークソングやニューミュージックがよく家で流れていたという。兄が使わなくなったキーボードを中学2年生の時に弾き始め、コードの知識を得てギターも弾くようになった。

「バンドの音楽ってギターで曲を作る場合が多いと思いますが、僕はいまだにメロディを辿る時はキーボードです。高校時代はバンド全盛期で、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが流行っていて、でも僕がずっと聴いていたのは久保田利伸さんとカジヒデキさんなんです。渋谷系という言葉なんて知らなかったし、他にカジヒデキさん聴いている友達もいなかったし、カジさんが『ラ・ブーム~だってMY BOOM IS ME~』(1997年)でMステに出演した時の録画を、なぜかずっと観ていて。気になったんでしょうね、その音楽と短パン姿が(笑)。中古CDショップでカジさんの作品を買い漁っていました。久保田さんの音楽も、本格的なブラックミュージックをうまくJ-POPに取り込んでいたところが好きでした」。

覆面バンドとしてデビュー。「当時は何もわからないから、そういうものなのかなって思いました」

フォークソング、J-POP、ヨシダが書く人懐っこいメロディの秘密が少し見えてきた気がする。2010年にphatmans after schoolを結成しデビューするも、顔を出さない覆面バンドだった。エッジィなギターロックで人気を集め、その音楽が広がりを見せた時、顔を出さないで歌っていることに、葛藤はなかったのだろうか。

「前の事務所から『顔を出さないでクマのキャラクターでいくから』と言われて、当時は何もわからないから、そういうもんなんだろうなって受け入れてしまって。僕は自分の曲で自分を曝け出すタイプでもなかったので、そのまま9年間位活動していました。北海道で活動して、たまにレコーディングで東京に行く感じで、プロの世界にいるのに音楽の世界を知らなかった。そういう鬱屈した感情、そこには僕の10代の頃の感情も重なって、それを曲の主人公に投影させた、捻くれた曲が多かったのですが、それをいいと言ってくれる人がどんどん増えていきました。それでちょうど以前のレコード会社と契約が切れて、ドラマーも脱退し、リセットするタイミングだと思って、顔を隠すのをやめて、バンドとしてのアイデンティティを取り戻したいと思いました」。

2019年sajiに改名。「大人になってようやくバンドデビューできた感覚」

2019年夏、sajiに改名しバンドとしての新たなスタートを切った。

「大人になってようやくバンドデビューできた、という感覚でした。僕は自分の音楽の原風景である10代の時に感じたことを、物語の軸にしたものを書き続けてきました。でもsajiとして活動し始めて一年位経って、女性目線の曲を書いてそれを切々と歌った時に、いいと言ってくれる人が多くて。その時に僕は当事者じゃなくてもいいんだって思えました。僕達の音楽を聴いてくれる10代20代の人たちと、僕は等身大の存在でなければいけないと思っていたのが、そこの部分は主人公は僕じゃくて、世代交代してもいいんだって気づことができました。だからsajiになってからは、別の主人公を立てることが多くなりました。そういう意味ではphatmans after school時代の、シニカルな感情が減ったかもしれない。それは若干寂しくもあり、悲しいことでもあるけど、これがsajiとして生きていくことの指標になった気がします」。

「おっさんがしゃがんで、無理やりティーンと同じ目線になって歌ってもダメだと気づいた」

ファンの心の中に存在する確固たるアーティスト像、パブリックイメージと、作りたい音楽、作るべき音楽との乖離を感じていた。

「アプローチの根底から覆った感じです。今の僕が、10代の時こんな感じだったよっていう曲を書くのももちろんいいと思いますが、それってもう等身大ではないんですよね。おっさんがしゃがんで、無理やりティーンと同じ目線になって歌っているに過ぎない。10代の頃の僕がそれをやられたら、うるせえなコイツって思ったと思うし、僕らの音楽はそういうことではないんだって思いました。sajiになってから色々な発見と勉強することが多いです。僕らって幸運なことに、ティーンエイジャーのファンが多くて、でも一方で僕と一緒に大人になったファンも多くて、もちろん昔の方が良かったって離れていってしまったファンもいると思いますが、若い人と上の世代と両方に受け入れられるのは嬉しいです。僕の友人に言われたことで、すごく救われた言葉があって『中学、高校の時にすごく着ていた洋服のブランドって、今絶対買わないでしょ?そのブランドが変なことを始めたら、俺が好きだった時と違うことやってるよってなるけど、かといって買うかと言われれば買わない。だから昔の服って懐かしむけど買うことはないから、そこに立ち止まっていると枯れていくだけだけ。進むしかないんじゃん』って。音楽って思い出補正が強すぎるがあまり、そこに気付けないので、それを思い知らされた言葉でした」。

同時にヨシダは「“青い”曲をまだ歌えるバンド、人間でよかったなと思います」と語ってくれた。“青い”曲は、どんな世代の人の心にも訴えかけることができる。人は過去と現在を行き来しながら自分がいた、いる「場所」に立つ。

「これは僕が手にすることができた武器のひとつだと思っていて、後は聴き手に届くか届かないかは、僕の感性がついていけるかどうかだと思います。誰かに共感を得てもらわないと、ミュージシャンという仕事は絶対に成立しないので」。

他のアーティストに楽曲提供する時、大切していること

これまで数多くのアーティストに楽曲提供しているヨシダだが、その際大切にしていることは?と聞くと、アニメのタイアップと同様に「曲ごとに主人公がいて、その思想に基づく物語があるので、それを大切にしている」と語ってくれた。それに加えて「そのアーティストの方がどんな歌いたいのだろうか、その精神性を重視しながら書きます。その方の向こう側にいるファンのことも連想しながら、言葉とメロディを探します」と、そのクリエイティヴ方法を教えてくれた。

新作『ユリーカ』に込めた思い

6月22日に発売したsajiの2ndフルアルバム『ユーリカ』は発見と感動をテーマに掲げた作品で、バンドをやれていることの歓び、初期衝動を詰め込んだ、瑞々しくかつ、ものすごいエネルギーを放熱している一枚に仕上がっている。

2ndフルアルバム『ユーリカ』(初回限定盤/6月22日発売)
2ndフルアルバム『ユーリカ』(初回限定盤/6月22日発売)

「2曲目の『フォーマルハウト』は、今回のアルバムを体現している曲です。バンドを組んで、手応えがある曲ができた時、『これで俺の人生変わるかもしれない』っていうワクワクってバンドマンなら誰もが感じたことがある感覚だと思います。でもあの時の感動って、時を重ねるごとになくなっていくので、ある意味、そういう刹那的なことをやっていた方ができあがった時の感動が大きいのかなって」。

「自分がそうだったから“居場所”がない人を放っておけない。何気ないひと言をかけてあげるだけで、その人にまた明日は来るかもしれない」

このアルバムの楽曲に登場する主人公は、後ろ向きだったり、斜めに構えてる人が多い。悩みや葛藤は誰にでもあるが、その出口を見つけられずどんどん深いところにまで行ってしまう人も多い。そんな人たちにヨシダが書く言葉とメロディ、sajiの音楽は、文字通り思いをサジで“掬い”、寄り添いながら、ひと筋の希望の光を当ててくれる。

「最初にお話しさせていただいたように、高校を中退して、居場所がなくて、居場所を作るために音楽を始めて今に至ります。音楽に生きるしかなかった。ある意味救いを求めて飛び込んだ場所でした。なので偽善ぶった言い方をすれば、そういう人たちを放っておけないというか。昔から友達がいなくて浮いている子が気になっていたし、好きでした。何気ないひと言をかけてあげるだけで、その人にまた明日が来ることもあると思う。僕もそうだったかもしれないし、音楽をやっていなかったらどうなっていたかわからなかった。『なんか困ったことがあったら言ってね』と声を掛けられる人は優しい人だと思います。でも本当に困っている時って人に話をする気力も体力もないと思います。それよりは『元気してる?』ってたまにでも声をかけてくれる人の方が、よっぽど救いになるというか。そういう存在になりたいと思う瞬間は、今でもあります」。

saji オフィシャルサイト