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JUJU 前代未聞のカバー大作発売「ユーミンの曲があったから今こうしていられる、未来を考えられる」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

ユーミンへのリスペクトと愛に満ちあふれたカバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』

3月3日に放送された『SONGS』(NHK総合)は、JUJUの松任谷由実=ユーミン愛が文字通り溢れ出ていた。JUJUのユーミンへのリスペクトと愛は、「人生の教科書」であるユーミンの楽曲をこれまでライヴでもずっとカバーしてきたり、公言してきたので周知の事実だった。いつかは今回の『ユーミンをめぐる物語』(3月16日発売)のようなカバーアルバムは出すと思っていたが、“Produced by 松任谷正隆・松任谷由実”というクレジットを見て驚いた。なんと本人とプロデューサーと3人でカバーアルバム作り上げてしまった。この前代未聞の大作についてJUJUにインタビューした。

「もしも自分に何かあった時、一番残してはいけない後悔は、誰かと成し遂げる何か」

松任谷由実
松任谷由実

「いつか、という言葉が全然信用できなくて。ここ数年の世界的なパンデミックを始め、社会の状況を目の当たりにして、いつ何があってもおかしくないし、もしも自分に何かあった時に、一番残してはいけない後悔って何だろうって考えました。それは私一人でできることよりも、誰かと成し遂げたい何か、というものを先にやりたいと思ったことが、今回のアルバムを作ろうと思った一番の理由でした」。

ユーミンへの手紙

『ユーミンをめぐる物語』(3月16日発売/通常盤)
『ユーミンをめぐる物語』(3月16日発売/通常盤)

コロナ禍で否が応でも自分と向き合う時間が増える中で、JUJUが今やるべきこと、やらなければいけないことは、と自分に問いかけ出てきた答えがこの作品だった。それはユーミンの曲はJUJUにとって「人生の教科書」だから。“ユーミンはいつも私を連れ出してくれた。”というサブタイトルがついているように、JUJUを色々なところに導いてくれ、女性として、人としての気づきや発見をユーミンが与えてくれた。誰かひとりのアーティストに特化したカバーアルバムを、しかも一人で歌うというのは、あまり見たことがないが、しかしJUJUにとってのユーミンの存在の大きさを知っているファンからは「聴いてみたい」「作ってほしい」という声が届いていた。そしてJUJUは“ダメ元”でユーミンへの手紙をしたためた。

「このアルバムを作るとしたら絶対に、(松任谷)正隆さんと由実さんと一緒に作りたい。いや、でも絶対無理。そんなお願いできるわけない。でも後悔したくない…』と毎日禅問答のように繰り返していました。でも由実さんに対して、私がユーミンの曲にどれだけ助けられてどれだけ育てられたかということを、ちゃんとお伝えたしたことがなかったので、まずそれをお伝えしようと、お手紙を書きました」。

『(松任谷)正隆さんと由実さんが、この曲達を今もう一回作るとしたらどうなるんだろう』という好奇心

松任谷正隆
松任谷正隆

思いは通じ、願いが叶った。プロデュースの松任谷正隆の「今回のアルバムはユーミンの曲ありきじゃなく、JUJUありきで作った」という言葉がこのアルバムの実像、温度感を伝えてくれる。

「直接お願いをしに伺った日は、人生の中で一番胃が痛かったです。にもかかわらずさらに三つの図々しいお願いをしました。まず『アルバムをお二人と一緒に作りたいです』、そして『もし可能でしたら曲を書いていただきたいです』、さらに『このアルバムを持ってツアーに出させていただきたいのですが、正隆さんに演出していただきたいです』という3本立てでした。この時、人生の中の“厚顔無恥”という言葉を全て使い果たしました(笑)。正隆さんは『こんなお願いされたことない』って(笑)。『ですよね』と思いましたし、『今まで正隆さんに誰もお願いしてくれなくてありがとう』とも思いました。さらに正隆さんは『実は今までの曲のアレンジで、もっとこうしておけばよかったというのも結構あるから、機会がもらえるのであればやってみよう」と言ってくださって。もっとこうしておけば…の中には私が大好きなアルバムも入っていて、どんなに傑作と言われる作品でも『もっとこうしたい』という思いは尽きないようでした。今回のプロジェクトの始まりは『正隆さんと由実さんが、この曲たちを今もう一回作るとしたら、どうなるんだろう』という、ただのファンのいやらしくも純粋な気持ちからです(笑)。でも正隆さんが『もちろん由実さんの曲をJUJUが歌うけど、でもJUJUをこの景色の中に立たせるなら、こういう景色にしたい』という音にしてくださって、デモが上がってくるたびに泣きそうになりました。とはいえ、ユーミンの曲はユーミンが歌わないと成立しないということは、ファンである私も百も承知なので、みなさんに『なんてことしてくれんのよ』って思われたら申し訳ないと思いながら、向き合いました』。

もちろん選曲は悩みに悩んだ。「本当は全アルバムカバーしたかった」という思いは胸の奥にしまい、「私がユーミンと出会うきっかけがアルバム『Delight Slight Light KISS』(1988年)で、当時そこから遡って全部聴いたので、『ひこうき雲』(1973年)から『Delight~』までの中から選びました。全部歌いたかったけどそれは無理なので、絶対歌いたい曲を先に出させていただいて、その中から12曲に絞っていきました。「A HAPPY NEW YEAR」も「TYPHOON」も、「影になって」「街角のペシミスト」「真珠のピアス」も採用されて嬉しかったです。改めて1曲1曲と、もっと深い角度で向き合いながら制作していったので、この曲達がどれだけ私にとって大切だったかを再認識できました。この曲があったから『今こうしていられる』、とか『この曲があるから、まだ私は未来のことを考えることができている』、という思いを新たにしました」。

「このアルバムに関わってくれた人全員がユーミン愛にあふれている」

「制作の日々は毎日が幸せで、夢のような時間を過ごしているようでした」と語るレコーディングの日々の様子を教えてもらった。

「何で幸せだったかというと、この企画をやらせていただいてることはもちろん幸せなんですが、関わる人全員がユーミン愛にあふれていて。レコーディングに参加してくださるミュージシャンもエンジニアの方も皆さんがそういう気持ちで、もうそこにはポジティブなものしかなくて。そこにいる全ての人が祝福の気持ちを持って参加している、結婚式や披露宴に似ているかもしれません。幸せすぎるのに、さらに由実さんに新曲『鍵穴』まで書いていただけて、もうご褒美のような日々でした。私の中に色々なユーミンが存在して、その中の一番好きなパターンのユーミン曲で、デモを聴いた瞬間鳥肌が立って号泣してしまいました。それまでも電話口で、歌詞の話をしながら歌ってくださるという奇跡のような時間があったり、JUJUをイメージして由実さんがこれを書いてくださったならば、私本当にJUJUでよかったって思います。新曲なので、最初はやっぱり別の場所に置いた方がいいのでは?と思ったりもしました。でも普通の並びにして、これを聴いた人たちが『あれ?この曲ユーミンの何のアルバムに入ってる曲だっけ?」て探してくれたらいいなと思いました」。 

このアルバムのエピローグは今年の元旦から始まっていた。新聞広告を掲載し、QRコードを読み取るとスマホの中で広告のレコード盤が回り始め、「A HAPPY NEW YEAR」を歌うJUJUの歌声に合わせ、メッセージから歌詞だけがが浮かび上がってくるという素敵なAR体験を提供してくれている。松任谷正隆のピアノとストリングスの音色に感情が揺れ、JUJUの歌が胸に迫ってくる。春の訪れとともに発売されるこのアルバムへの期待感が大きくなった。

「本当に大好きな曲で、ユーミンの『A HAPPY NEW YEAR』って年が明けた道を、もうその人に会いたい一心で、息を切らせながらそこに向かっている、どちらかというとワクワク感があります。今回正隆さんが私のために弾いてくださったピアノのコード感が『これ会えないね、この人に』って感じになっていて(笑)。『あなたにはきっと年が明けて、一番最初に会えないかもしれないけど、そうだとしても、あなたに今年もたくさんいいことがあるようにっていう気持ちを届けたい』と解釈しました。でも、それってものすごくJUJU的だと思ったんです。今って会いたくても思うように会えないし、そんな中で去年からコンサートができるようになりましたが、それでもみんながみんな無邪気に「コンサート、行きます」っていう状態ではなくて。それぞれが判断し、「選択」する状況です。そう考えると、この『A HAPPY NEW YEAR』は、『一番最初に皆さんにお会いしたいけど、会えないとしても、今年も一番最初に会う人があなただといいと思うし、たくさん大好きな皆さんにいいことがあるといいって思っています』という思いと重なるんです。この曲もそう感じられるし、全曲正隆さんが原曲に対して、こういう風景の中にいるJUJUを映し出したいと考えて、いろいろご用意してくださっていて。例えば『卒業写真』もオリジナルはフレッシュなイメージですが、でも私はもっと大人になってから誰かを、ああ、あの人は私の青春だった。それが報われているとしても報われていなくても、出会えてよかったなって思う人のことを思い出すことが、私にとって『卒業写真』だと思っています」。

「奉納するつもりで歌いました」

アルバムを作り終わり、ユーミンというアーティストに改めて感じたことは正真正銘の“唯一無二”という言葉だった。

「どの曲をとっても本当にすごい。どうやったら書けたんだろう。国内にも海外にもユーミンみたいな曲を作る人って、ユーミンしかいないし、ユーミンの前にも後にもユーミンなしという感じです。だから私にとって神なんです。今回インタビューで『どういう思いでレコーディングしましたか?』ってよく聞かれて、でもしっくりする答えが見つからなくて、思いを巡らせていて気づきました。奉納です!ユーミンはいい意味で御神木なんです。それをご本人に言ったら『木とか嫌なんだけど』って(笑)」。

5月から、松任谷正隆演出の全国ツアー『JUJU HALL TOUR 2022 不思議の国のジュジュ苑 -ユーミンをめぐる物語-』(43公演)を行なう。ファンはもちろん一番楽しみにしているのはJUJU本人に間違いない。

JUJU オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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