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遥海 世界基準のシンガーが全てを曝け出した1stアルバム発表「挫折を自信に変え、限界をぶっ壊したい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ アリオラ・ジャパン

注目アニメ『BABY-HAMITANG』の主役ベイビーハミタン役で声優初挑戦

1月12日からスタートした、SDGsを題材とした注目アニメ『BABY-HAMITANG』(MXテレビ)は、地球温暖化や食品ロス、ジェンダー問題などをピックアップし、赤ちゃんキャラクターで主役のベイビーハミタンが、その解決方法を提示していく。ベイビーハミタン役で声優として出演しているのが、シンガー・遥海(はるみ)だ。今回が声優初挑戦となる彼女は、SDGs関連のイベントに積極的に出演したり、発言を通して環境への理解と、とにかく人へ愛、優しさを訴え続けている心優しきシンガーだ。

遥海はメジャーデビュー前、世界的オーディション『The X Factor (UK)』(2018年)に出演し、英ウェンブリーアリーナの観客を総立ちにさせ、プロデューサーのサイモン・コーウェルからも絶賛された、世界基準の“規格外”のシンガーとして注目を集めた。そして2020年5月シングル「Pride」(TVアニメ『波よ聞いてくれ』EDテーマ)でメジャーデビュー。しかしコロナ禍ということもあり、思うような活動ができず、さらにこの年は初挑戦したミュージカル『RENT』にミミ役で参加するも、自身を含む出演者が新型コロナウイルスに感染したことで公演は中止。彼女は病院のベッドの上で苦しさと悔しさで涙に暮れた。しかしそんな彼女を救ったのは自身の歌だった。改めて自身を見つめ直すことができた。

「声」が『科捜研の女 -劇場版-』&ドラマ「科捜研の女」Season21の主題歌に

そして2021年。コロナ禍であることは変わりないが、彼女にとっては躍進の一年になった。2月にはルーツ音楽と向き合い改めて、原点を追求することで現在地を確認するEP「INSPIRED EP」をリリース。自身のストーリーを映した楽曲「スナビキソウ」は『みんなのうた』(8~9月/NHK)に採用され、「声」は『科捜研の女 -劇場版-』&ドラマ「科捜研の女」Season21の主題歌になった。そしてこれまでの様々な経験、色々な思いを昇華させ、自分の全てを曝け出した1stアルバム『My Heartbeat』を1月26日にリリース。遥海にインタビューし、この渾身の一作に込めた思いを聞いた。

『My Heartbeat』(1月26日発売)
『My Heartbeat』(1月26日発売)

「これが遥海です!といえる作品になった」

「これが遥海です!といえるもの、自分の心に近いものにしたくて『My Heartbeat』というタイトルにしました。みなさんの手に届いた時に、感謝の気持ちが伝わるといいなって思いました」という言葉通り、ジャケットのペインティングも手掛け、ブックレットにも幼少期の頃の写真を使うなど、聴いてくれる人に遥海の全部を知って欲しいという強い思いがこのアルバムには込められている。

既発曲5曲と新曲5曲で構成されたアルバムには、本人の言葉通り赤裸々な遥海が存在している。「『スナビキソウ』は自分の生い立ちを歌っている曲、『ずっと、、、」では自分の憧れの恋愛を歌っています。『Pride』はデビュー曲でもあり一番大切な曲で、「声」では色々な出会いに恵まれて、映画とドラマの主題歌という大役を私に任せてくれて、それが自信につながっているし、『WEAK』は自分の弱さをまるで裸になって曝け出しているような曲です。“強い”歌ばかりではなく、こういう曲も必要だったんだと思わせてくれた大切な曲達です』。

東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手が「Pride」を、同・村上宗隆選手が「声」を、それぞれ入場曲として使用

遥海の歌はファンならずとも、様々な人の心に届いていたことを証明したのが、デビュー曲「Pride」だ。東京ヤクルトスワローズ山田哲人選手が入場曲としてこの曲を使用し、さらに「声」も同・村上宗隆選手が入場曲と使用するなど、球界を代表するスター選手が、遥海の歌を聴きながら心を奮い立たせて打席に向かっている。遥海は自身の歌がパワーソングとして誰かのためになっていることに感激した。

「私は強がりなので、頑張っている姿を見せたくなくて、弱いからこそ強くなりたいという気持ちが強いのに、そこが今まで伝わっていなかったのかもしれません。今まではできあがったものだけを聴いて、評価して欲しいと思っていたけど、それだと喜怒哀楽を感じて欲しいとか、聴いてくれる人に寄り添いたいとか言っていたくせに、そういう部分を伝えきれていないと感じました。リアルな姿を見せることで、例えばその曲をカバーする意味とか、歌をもっと理解して欲しくて、そうすることで聴いた人がその歌の内容をもっと自分に置き換えられると思いました。このアルバムにはそんな思いを込めました」。

「表現者としての自分が、コロナ禍でもっと辛い思いをしている人にできることは、気持ちを上げる歌を残すことしかないと思った」

これまでの遥海は、4オクターブの音域を操る、パワフルで圧倒的な“強い歌”を歌うシンガーというイメージが強かったかもしれない。規格外のエンジンを搭載し、さらに、強い自分を演出し、それが前面に出ていたかもしれないが、実はミディアム~バラードでの繊細な表現力が、彼女の歌の“凄さ”だ。

オープニングナンバーの「Be Alright」は「コロナが明けた時のことをイメージしたハッピーな曲で、でも全然状況はよくならなくて。ハッピーな気持ちを表現しなければいけないのにそれができなくて泣いてしまいました。でも、落ち込んでいるときは「PRETEND」(=演じる)っていう、尊敬するリアーナの言葉を思い出して、表現者としての自分が、もっと辛い思いをしている人にできることは、気持ちを上げる歌を残すことしかないと思いました」。

力強いR&Bサウンドの「Don’t want your love」と、彼女の美しく突き抜ける高音部分が印象的なミディアムバラード「Two of Us」は、デビュー前からライヴでよく披露していたファンに愛されている曲で、今回が初音源化となる。「『Don‘t~」の喜怒哀楽が詰まった一曲。歌詞が尖っているので今まではずっと背伸びして、探りながら歌っていました。でも色々な経験を経て、色々な人と出会った今だからこそ、この歌詞を実感を持って歌えるというか、歌っていいと思えます」。

先行配信された「Dotchi」は、ペルピンズ-PeruPines-のメンバー・RIOSKEとのコラボ曲。色気とセクシーさを纏ったRIOSKEの声と、遥海の声とが重なった時の質感は極上だ。「ニコちゃん(RIOSKE)の歌声を初めて聴いた時、日本でこんなに素敵なR&Bを歌う人に会ったことがなかったので、聴き惚れました。いつか一緒に歌いたいってずっと思っていたら、ミュージカル『レント』で共演することになって。私もずっとニコちゃんの声を聴いて『エロっ』って思っていました(笑)。<トロけちゃいそう>とか、私の日記、独り言が歌詞になっている、まんま私の恋愛の曲です(笑)」。

デビュー曲「Pride」を常田俊太郎がリアレンジ。「この曲に出会ってくれたことへの感謝の思いを乗せ、歌いました」

millennium paradeのメンバーでもあるバイオリニストの常田俊太郎がリアレンジした「Pride」では、思いを新たにデビュー曲と向き合った。「今どういう気持ちで歌うのがいいのかを考えた時、この曲に出会ってくれた人に、見つけてくれてありがとう、という感謝の気持ちを込めました。ありがとうという言葉だけでは足りない、感謝の気持ちを乗せて歌いました。アレンジを聴いて、自分もひとつの『楽器』としてこの曲に“参加”したいと思いました。優しさと強い気持ちを歌っている曲だけど、未来への楽しみを感じさせてくれるアレンジになっていると思います」。

「挫折もたくさんした。でもそれを自信にして色々なものを壊して前に進みたい」

未来への楽しみを誰よりも感じているのは、遥海本人だ。このアルバムを聴くと、彼女の大きな可能性を感じ、「その先」が楽しみになる。このアルバムを作りながら、彼女はある思いを強くしていったという。

「今までの自分は、小さい箱の中で無意識のうちに自分で限界を設定しまっていました。でも自分を曝け出して、限界をぶっ壊したい。今まで色々なことを経験してきて挫折もたくさんして、でもそれを自信にして、色々なものを壊して前に進みたい。ファンの方を始め、色々な人に力を借りてSNSもそうですが、居場所をたくさん作りたいです。そしてみんなでいい景色を観たいです」。

「ジャンルを限定しない、壁のないシンガーになりたい」

彼女は一貫してジャンルを限定しない、壁のないシンガーになりたいと、日本語の歌も英語の歌も歌ってきた。そんな彼女の歌はSNSを通じて、世界中のファンからも高い評価を得ている。様々な挫折を乗り越え、世界基準のシンガーが心の鼓動を曝け出し、歌を追求していく。そしてその歌を多くの人の元へ届ける――そんな決意表明のような1stアルバムだ。

遥海 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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