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ザ・クロマニヨンズ「僕らは成り行きばっかりで。音作りとかも修行を重ねた超絶芸とか、目指してないし」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ/アリオラ・ジャパン

6ヵ月連続リリース企画『SIX KICKS ROCK&ROLL』

『SIX KICKS ROCK&ROLL』(1月19日発売)
『SIX KICKS ROCK&ROLL』(1月19日発売)

2021年8月25日に発売された「ドライブ GO!」を皮切りに、2022年1月まで6ヵ月連続でシングルをCDと7inchアナログ盤でリリースする、ザ・クロマニヨンズのシングル6ヵ月連続リリース企画『SIX KICKS ROCK&ROLL』プロジェクト。そのシングル12曲にボーナストラック2曲を加えたアルバム『SIX KICKS ROCK&ROLL』が1月19日に発売された。ツアーが中止になるなど、コロナ禍で思うような活動ができない中で、いつもとは違うリリース方法で、“変わらない”ロックンロールを届けてくれるザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトにインタビュー。ピュアで痛快で理屈じゃないロックンローラーとその音楽と言葉には、“勝手に”救われたような気持ちになる。

「シングル用に作った曲もないし、アルバム用に作った曲もないです」

甲本ヒロト(Vo)
甲本ヒロト(Vo)

――今回もいつもと同じように、ヒロトさんとマーシー(真島昌利)さんとで曲を半分ずつ書いて、リリースの仕方は違いますが、6カ月間2曲ずつ発表して、最後ボックスにしてまとめようというのが最初からコンセプトとしてあったのでしょうか?

甲本 やる事はいつもと同じで、毎年変わらないです。6月頃に12~3曲レコーディングできたら次のツアーに合わせて発表する、それだけのことです。今回違うのはリリースの仕方だけです。

――シングル用に作っている曲達でもないということですよね?

甲本 僕らはいつも、どれがシングルになってもいいです。シングル用に作った曲もないし、アルバム用に作った曲もないです。

――2019年から続いていた「PUNCH」ツアーも、2020年2月に12公演を残して中止になっていますが、フェスもなくなり、でも制作は続けているという状況の中で、今までになかった感情が芽生えてきたり、ということはありましたか?

甲本 特にコロナの影響とかそういうのはないんじゃないかな。もしかしたら気づいてないうちに発狂してるかもしれないですけどね(笑)。自分では普通のつもりです。たまになんか、暇だなって思うくらい。だけどのんびりしてていいか、とかね。なにより、レコードを聴くのが好きなんですよね。それができてるから、ずっとロックンロールしてました。

初の配信ライヴで「お客さんって本当に大事だなって思ったの、初めてかもしれない」

真島昌利(G)
真島昌利(G)

――2020年12月には初の配信ライヴ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ」を行ないましたが、どんな心持ちで臨まれたのでしょうか?

甲本 楽しかったです。ツアーに代わるものをってことで配信ライヴになったんだと思うんです。あと、今年(2021年)の2月のライブも印象的でした。元々ライヴをやっていても、お客さんに向けてというよりも、自分が楽しければいいやみたいなとこがあって。よくロックのパフォーマンスとして、「ノリが悪いな」って感じで煽るじゃないですか。客席に向かって「もっとデカい声出せよ」みたいな。僕はそういうことやらないというか、できないんです。そんなこと思ったことないから。だけど、本当にひと言も声が出ない客席っていうのは今まで経験なかったですよね。あのとき、本当に客席がシーンとした状態っていうのを経験してみて、じゃあ実際これはどうなんだっていうのを提示されたわけじゃないですか。それがよかったんですよ。あんまり辛いことはなかったな。逆に今までよりも、お客さんがすごく楽しんでるのが伝わってきた気がして、面白かったです。お客さんって大事だなって思ったの、初めてかもしれない。

――観ている方も声を出したい、手拍手もしたいという思いがごぼれ出たんでしょうね。

甲本 溢れてた気がする。非常に幸せでした。

コロナ禍で頭にきたことは?「あるあるいっぱい。でも『よしこれを歌にしよう』なんてことは思わない」

小林勝(B)
小林勝(B)

――コロナ禍で、頭にきたことってないですか?

甲本 あるあるいっぱい。でも、「よしこれを歌にしよう」なんてことは思わない。もしかしたら滲み出ることはあるかもしれないけど。

――それもずっと変わらないスタンスですか?

甲本 楽しいことがあってもそうだよ。今日楽しかったから、これを歌にしようとも思わないし。思うのは聴くときでしょ? 自分の受け取り方の中で、僕はこういう風に聴いた、こんな風に楽しんだ、それでいいんじゃないですか。僕はそうやって聴いてます。

――曲を作って毎年ライヴやるということは、曲はライヴでお客さんの前でやって完成する、というイメージがあるのでしょうか?

甲本 何かを完成させる気がまずないです。その時楽しければお祭りじゃないですか。盆踊りに完成も何もない。楽しければいいんです。

――楽しければいいということを貫いてくれているというのが、我々リスナーとしてはありがたいです。勝手な想像で、この状況でメンバーの皆さんも辛いこともあるんじゃないかなって思うんですよね。にも関わらず、毎年こうして純度が高いロックンロールを聴かせてくれるのは、ありがたいですよね。

甲本 そんなつもりもないですけど、ただ自分達はロックが好きでバンドやっているだけだから。

「僕らみたいなただジャジャンドガーンみたいな音だったら、モノラルの方がパワーが伝わる気はしますね」

――『SIX KICKS ROCK&ROLL』特設サイトでは、ザ・クロマニヨンズのジャケットデザインの裏側がわかる制作密着映像『ザ・クロマニヨンズ×菅谷晋一 デザインクリエイティブ ビハインドザシーン』が公開されていて、これを毎回楽しみにしているファンもいらっしゃいます。昨年公開された菅谷さんのドキュメント映画『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』も観させていただきましたが、菅谷さんがクロマニヨンズのジャケットをデザインしている姿を見ていると、モノラルというか初期衝動を逃さないようにしている感じが伝わってきて、クロマニヨンズの音楽と同じだと思いました。

甲本 僕らからはこうして欲しいとか言ったことがないけど、最初からすごいものが出てくるんですよね。菅谷くんは、アナログレコードが大好きな仲間なんですよ。だから自分が欲しいレコードを作っているんだと思う。僕たちのレコードがモノラルなのも、そういうことだと思います。70年代に僕がロックを聴き始めた頃は、ほぼ全部ステレオで、今もそうですけど。でも自分たちで作っているうちに、「モノラルでいいんじゃない」ってなるんですよ。60年代のイギリスのビートグループのレコードを聴いていると、同じアルバムがモノラル仕様とステレオ仕様両方出ていて、聴き比べることができるんですよね。そうするとやっぱりモノラルに軍配が上がるんですよ。そういう経験が何回かあったっていうのもある。やっぱりモノラルがいいよなっていう。クロマニヨンズみたいな、音数の少ないバンドは余計モノラルがいいと思いますよ。たくさん音があったら、この音はこの辺に配置しようとか、どうしてもステレオ作業で広がりを見せるとか、そういう面白さが出せると思うんですけど、僕らみたいなただジャジャンドガーンみたいな音だったら、モノラルの方がパワーが伝わる気はしますね。

――その熱が何にも邪魔されずに、シンプルに聴き手に伝わってくる感じがします。

甲本 スピーカー一個でいいわけだから。片耳のイヤホンでいい。

――昔は片耳のイヤホンで、ラジオを聴いている人いましたよね。

甲本 僕、今でも片耳です。AMラジオ楽しいよ。

「本当に僕らは成り行きばっかりで、修行を重ねた超絶芸とか、目指してないし」

桐田勝治(Dr)
桐田勝治(Dr)

――2021年は、どんな一年でしたか?(インタビューは2021年の年末に行なった)

甲本 なんかあったかな、忘れちゃうからな。楽しいことはいっぱいあったけど、日々。何がハッピーなのかわからないけど、なんとなく生きてますよ。本当に僕らは成り行きばっかりで。音作りとかも、そんな感じです。修行を重ねた超絶芸とか、目指してないし。パッと聴いた時に、こんなの中学生でもできるじゃんって言われてるかも。

――以前インタビューさせていただいた時にも「ロックンロールって中学生にわかるくらいがいいんだよ」とおっしゃっていました。

甲本 僕自身が中学生の時に大好きになったんだもん。今の時代の中学生のことは知らないからなんとも言えないし、正しい意見を言ってるとは思わないけど、でもなんとなく言ってることはわかりませんか?ロックンロールなんてガキのもんだろって。ガキが聴いて、これなら俺もできるぜって。なんとなくそんな気がする。

「なんとなくその日楽しかったらいいような気がするんですよね」

——ヒロトさんは歳を重ねてもご自身中で「音楽」というものの存在は変わらないと思いますが、音楽に対する考え方とか思いも、変わらないですか?

甲本 自分が、私は音楽はこう思うとか、こんな風に感じていますっていうことを言葉にしたことがないから、変わっていようが変わってまいが、それにすら気づかない。

――だから毎作毎作純度が高いんですね。

甲本 おかしいな。全然ほめられるような話をしてないんだけどな(笑)。本当に成り行きでなんとなくやってるだけなんです。年を重ねていくと、皆さん意味のあることしなきゃいけないとか、進歩しなきゃいけないとか、そういう使命感みたいなのを持たれてるのかなと思うけど、なんとなくその日楽しかったらいいような気がするんですよね。

――なかなかそう思えない人が多いので、そういう人たちが、ヒロトさん、マーシーさんが作るクロマニヨンズの音楽で発散してるのだと思います。

甲本 じゃあ息抜きで(笑)。自分の人生だもん、息抜きっぱなしでいいんです。なんだってこれは辛いと思えば辛くなるし、楽しいと思えば楽しくなることもあるし、そういう意味では僕は能天気なのかな。

「最近やっと大人になって(笑)、ひとり黙ってこの一杯、みたいなウイスキーが飲みたい。ちょっと背伸びしたウイスキーを」

――レコード以外に、趣味は増えました?

甲本 ずっと一緒。あんまり増えないな。大人になったからゴルフやりますとか思わないし。でも、飲むお酒が変わったかも。若い頃はバーボン、ジン、ラムって感じだったんだけど、ある時から焼酎とか、少し変わったんです。それが最近やっと大人になって(笑)、今はウイスキー。もしかしたらコロナの影響なのかも。家飲みが増えて、ひとり黙ってこの一杯、みたいなウイスキーが飲みたい。ちょっと背伸びしたウイスキーを。今日もこの後それが待ってると思うと、今から楽しみ(笑)。

――美味しいウイスキーとかバーボン飲みながら音楽聴いている時間って幸せですよね。

甲本 でもね、音楽を聴いてる時はほとんど飲めないんですよ。ながら聴きができないんです。だから、イヤホンして歩くとか、しないし、レコード聴いている時は、じっとジャケットを見つめてます。

間もなくツアーがスタート。「楽しみ方は自由。こちらからは全部出します。お腹いっぱいになったら、別に残して帰ってもいいよ。思う存分楽しんで欲しいです」

――1月24日から『ザ・クロマニヨンズツアー SIX KICS ROCK&ROLL』がスタートしますが、ツアーが近づいて来ると体を整えるためにお酒を控えたりするんですか?

甲本 してもしょうがないでしょ。スポーツ選手だったら競技に響くけど、ロックンロールは別に二日酔いでもできるし。本数がびっしり組まれたツアーになると、ある程度今日はもう寝ようみたいなことは自然にやってます。そんなに無理して我慢するんじゃなくて、普通にやってます。

――今回のツアーは結構な本数です。

甲本 取り返しがつかないようなことにならないようにだけはします(笑)。

――久々のツアーで、お客さんの期待値も高そうです。

甲本 みんなそれぞれの思いと、自分の楽しみ方があると思うんです。楽しみ方は自由です。こちらからは全部出します。お腹いっぱいになったら、別に残して帰ってもいいよ。思う存分楽しんで欲しいです。

ザ・クロマニヨンズ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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