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THE SPELLBOUND 新木場で熱狂の一夜。音にまみれ感情にまみれるライヴは「長い旅の始まり」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
ライヴPhoto/oyaming

THE SPELLBOUND最初で最後のSTUDIO COASTライヴ

BOOM BOOM SATELLITES中野雅之とTHE NOVEMBERS小林祐介がスタートさせたバンド・THE SPELLBOUNDが、12月18日新木場STDUO COASTで2度目のワンマンライヴ『A DEDICATED CHAPTER TO STUDIO COAST AND YOU』を行なった。来年1月に閉館となる同会場は、中野も小林もこれまで何度もライヴを行なった思い出の場所。ライヴタイトルにその思いを込めていることからも、この日のライヴがとんでもない熱さになることは想像できたが、そんな想像を軽く超える、まさに想像を絶する熱狂が待っていた。

極上の音にまみれ、感情にまみれる

音にまみれ、感情にまみれる――取材ノートの一番最後にそう書き記していた。体に突き刺さる極上に音にまみれ、浸かり、感情を揺さぶられ続けた最高のライヴだった――という意味だと思う。

いきなり新曲「SAYONARA」からスタート。BOOM BOOM SATELLITESのサポートドラマー福田洋子と大井一彌(yahyel、DATS)という超強力ツインドラムの太いビートが体の芯まで響いてくる。シンセが響き、小林の瑞々しさを感じる伸びやかなボーカルが加わり、観客の感情が着火して早くも会場の空気が熱気を帯びてくる。深さと奥行きを感じる音像が印象的な「OUR MELODY」でも、小林の伸びのあるボーカルは、光となって聴き手の心の中を照らしてくれているような感覚にさせてくれる。

“血が通っている”生々しいサウンドが、トランス感を生む

二人のドラマーによる人間業とは思えないテクニックから繰り出される、重いビートが作り出すグルーヴは、まさに“音が生きている”感覚。小林の魂を感じるハイトーンボーカルとギターの音色、同様に中野の魂を閉じ込めた、ものすごいエネルギーとセンスが溢れるエレクトリックサウンドが一つになって、どこまでも“生々しい”。その“血が通っている”生々しさが、トランス感を生み、独特の熱狂のつながっている気がする。「名前を呼んで」もそうだ。「なにもかも」は、小林が<なにもかも なにかも>と祈るように歌ったかと思えば、<わたしを みつけて>とシャウト気味に歌うと、解放感と共に哀しみと希望を感じさせてくれ、やはり感情が揺れる。THE SPELLBOUNDのデビュー曲のエレクトロポップ「はじまり」は、スクリーンに映し出された宇宙空間をイメージさせる映像と、中野が紡ぐ煌めくようなシンセの音、小林の弾くメロディアスなギター、ツインドラムの大胆かつ繊細なプレイが合わさると、さらに“深い”ところに連れて行ってくれ、トリップ感を感じさせてくれる。

世代も音楽性も違う、確固たる美意識を強く感じさせてくれる“職人”のタッグがTHE SPELLBOUND

中野雅之、小林祐介(写真提供/ソニー・ミュージックエンタテインメント)
中野雅之、小林祐介(写真提供/ソニー・ミュージックエンタテインメント)

THE SPELLBOUNDは、2019年4月20日に中野がTwitterでボーカリストの募集をかけて、それに応募してきたTHE NOVEMBERSのフロントマン・小林とでスタートした。世代も音楽性も違う、確固たる美意識を強く感じさせてくれる“職人”がタッグを組むということで、大きな注目を集めた。時間をかけながら二人で、二人の間を流れるTHE SPELBOUNDの音楽を探り、丁寧に掬い、2021年は配信シングルを5か月連続リリースした。7月には恵比寿LIQUIDROOMで初ライヴ「THE SECOND CHAPTER」を行い、さらに8月には「FUJI ROCK FESTIVAL '21」への出演を果たし、THE SPELLBOUNDの現時点での「確かなもの」を手にし、そしてこの日を迎えた。

ライヴは後半に入ると、インスタライヴでも公開されていた「Music」など新曲を披露。親近感のあるメロディが印象的な「YUME」、そして「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」ではリリックをクローズアップした映像が流れ、このサウンドに美しく生々しい日本語が乗ることで生まれる、唯一無二の感覚がこのバンドの正体——そう思わせてくれる不思議な世界にいざなってくれる。THE NOVEMBERSのカバー「TOKYO」はバスドラとシンセがどこか土着的な空気を薫り立たせ、小林のシャウト混じりの歌には、鬼気迫るものを感じる。祝福感を感じさせてくれる「FLOWER」で客席をさらに躍らせる。「おやすみ」は美しいピアノ調の音色と小林の穏やかな表情のボーカル、ゆったりとした懐の深い大きな音に優しく包まれるような気持ちになる。

「これから長い旅が始まる。いい歴史を作ることができたら」

めったにMCをしない中野が珍しくマイクを持ち、思いを語り始める。「コロナ禍で思うような活動ができない中、なんとか3回のライヴを行うことができ、こんなにたくさんの人に迎えられて幸せです」と、集まったファンに感謝を伝える。そして「小林くんがものすごいプレッシャーの中、僕と一緒に音楽を作くれ、寄り添ってくれて本当に感謝しています」と、共にここまで辿り着いた小林へも感謝のメッセージを伝えた。さらに何度もステージに立ったSTUDIO COASTへの思い、自らの意思でそのスイッチを入れたTHE SPELLBOUNDへの思いを伝える。「生まれたばかりのバンドなので、これから長い旅が始まって、少しずつ育てていって、いい歴史を作れたらいいなと思います」。そしてこの日が誕生日の小林にサプライズでバースデーケーキを用意すると中野は「こういうのやらないと思ってたでしょ?」と、いたずらっぽく語りどこか嬉しそうだ。そして客席と共に全員で祝福した。

ラストは、小林のお気に入りのBOOM BOOM SATELLITESのナンバー「MORNING AFTER」をカバー。最後まで熱いステージを繰り広げ、客席を沸かせる。スタートから最後まで次々と投下されるそのクールな音楽によって、めまぐるしく風景が変わり、そんな時間芸術の中で感情が揺さぶられ熱狂が生まれる。音にまみれ、感情にまみれ、得も言われぬ感動が体と心を突き抜ける。それがTHE SPELLBOUNDのライヴだ。

2月に1stアルバム『THE SPELLBOUND』を発表

1stアルバム『THE SPELLBOUND』(2022年2月23日発売)  写真提供/ソニー・ミュージックエンタテイメント
1stアルバム『THE SPELLBOUND』(2022年2月23日発売) 写真提供/ソニー・ミュージックエンタテイメント

なお、このライヴをワンカメでシューティングし、ノー編集の、まさに生々しい状態の映像が、12月25日(土)21:00からYouTubeで配信される。さらに2月23日にはバンド名を冠した1stアルバム『THE SPELLBOUND』をリリースし、2月26日には東京・Spotify O-EASTでライヴを行うことも発表された。

THE SPELLBOUNDオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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