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南野陽子 16年ぶりの新曲を語る 「若い頃に寄せていく作業より“今、これから”を皆さんと楽しみたい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)Koki Nishida

16年ぶりの新曲2曲を含む企画ベストアルバム『Four Seasons NANNO Selection』を発表

80年代はトップアイドル、現在は女優として映画、ドラマ、舞台と活躍の場を広げている南野陽子が、16年ぶりの新曲2曲を含む企画アルバム『Four Seasons NANNO Selection』を12月8日に発売し、話題を集めている。シングル曲9作がヒットチャートの1位を獲得するなど、数多くのヒットソングを持つ南野だが、シングルのカップリングやアルバム曲にもファンから支持されてる作品が多い。そんな作品の中から南野自らが、季節を感じさせる思い入れの強い曲を「春」「夏」「秋」「冬」のテーマごとに8曲ずつセレクト。そこに自らが歌詞を書いた新曲「空を見上げて」「大切な人」の2曲を加え、完成したのが同アルバムだ。新曲のサウンドプロデュースは、南野の音楽には欠かせない名匠・萩田光雄。新曲とこの作品について南野にインタビューした。

「ライヴを久しぶりにやりたいと思って、ライヴアレンジを萩田さんにお願いするところから全ては始まりました。その時に萩田さんに『せっかくなので新しい曲を作っていただけませんか』ってお願いをしました。前向きでライヴにも合う曲と、“今”の私を伝えられる曲がほしくて…。35周年でもあるので、古巣ソニーミュージックさんがこのアルバムの企画を考えてくださいました」。

「新曲は普段の生活の中で鼻歌交じりで口ずさんでいただけると嬉しいです」

その新曲が「空を見上げて」(作詞:南野陽子 作・編曲:萩田光雄)と「大切な人」(作詞:南野陽子 作曲:宗本康兵 編曲:萩田光雄)だ。両曲とも日常の生活の中で鼻歌まじりで歌ってもらえたら、という思いを込めた。

「自分が何か悩んだり困ったりしたときに、こんな時、10年前に他界した母や、亡くなってしまった仲間や友人だったらどうしていたかなって思うことが多くて。そんな時に風や花、鳥たちにその人達の気配を感じるんです。それで『大切な人』の歌詞に<風花鳥 陽の光 星…>という言葉と、母に言われた<何かに 迷って 苦しくなったら あったかい気持ちになるほうを 選んで>という言葉を入れました。コロナ禍でファンの方にもなかなかお会いすることができなくて、でも私はいつもあなたの事を思っていますよという思いを、陽の光や星を見た時に思い出して欲しいという思いも込めました。鼻歌交じりで口ずさんでいただけると嬉しいです」。

「ステージでファンの方の“思い出”を壊したくないけど、お母さん役をやることもある今、フリフリの衣装で初恋の歌を歌うは、両立しづらい(笑)」

南野は2016年の30周年記念コンサートを行ない、ある思いを強くしたという。

「私はあの時が20数年ぶりのコンサートで、ファンの方の私のイメージって当時のままというか、初恋の甘酸っぱい感じのまま…。そんな人も多いのではないかと。ステージに立つときはそのイメージを壊したくないと思っていました。だから同じ気持ちで歌いたいし、同じアレンジや振り付け、同じ衣装を楽しんで欲しいと立ちましたが、私は今は役者をやっていて、お母さん役もあればこれからはおばあちゃんの役もあるかもしれなくて、そんな人間が、フリフリの衣装で初恋の歌を歌うのは両立しづらいと思いました(笑)。でも皆さんとはこれからも喜んでもらえる、楽しい時間を持ちたい。それは若い頃に寄せていく作業ではなくて、今回の『空を見上げて』や『大切な人』のように、60歳とか70歳になっても歌える歌を少しずつ集めて、皆さんにも『今、これから』を楽しんでもらいたい。私はデビューの時からお芝居の方が多いけれど、なかなか女優さんとして見てもらえないというもどかしさから、歌から遠ざかったこともあったけれど、結局私の、他の人にない持ち味は、やっぱり歌っていたからこそ、こんなに知っていただけていて、こんなにも応援し続けてくれる方がいるということなので。そう思うと、やっぱり私は歌うことはやめられないなって思って。そうは言っても、初めから歌手と思ったことはないですが(笑)」。

「当時、萩田さんが他のアイドルの方とかにアレンジをしたものを聴いてそれがいいと、『この曲私が歌いたかったな』ってヤキモチを焼いたこともよくありました(笑)」

萩田光雄(写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト)
萩田光雄(写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト)

これまで南野の作品を100曲以上アレンジしている、日本のポップス界の巨匠・萩田光雄は、間違いなく南野陽子の音楽を作り上げた、南野のキャリアに欠かせない音楽家だ。萩田にインタビューした際も「彼女のデビューからたくさん一緒に音楽を作ってきて、僕にとって一番アイデンティティのあるプロジェクトだといっても過言ではなくて、そういう意味でも彼女は僕の音楽人生の中での宝物の一人です」と語ってくれた。確かにクラシカルで、ヨーロッパ的な薫りがする上品さと、その中にかわいらしさや爽やかさを感じさせてくれるアレンジは、萩田のクリエイティブの中でも、より自由度が高く、より熱量を感じさせてくれるのは気のせいだろうか。南野にとって長年に渡って一緒に音楽を奏でている萩田は、どのような存在なのだろうか。

「私の音楽を基礎を作ってくださった恩人で、これからもずっと一緒に音楽を作っていきたいです。当時は制作費も潤沢で、豪華なスタジオミュージシャンに方に演奏していただいて、本当に丁寧に作っていただきました。当時萩田さんが、他のアイドルの方とかにアレンジをしたものを聴いて、すごくいい曲だったりすると『いいなあ。この曲私が歌いたかったな』って、ヤキモチを焼いたこともよくありました(笑)」。

自身でセレクトした『Four Seasons NANNO Selection』の推し曲は…

『Four Seasons NANNO Selection』(12月8日発売)
『Four Seasons NANNO Selection』(12月8日発売)

『Four Seasons NANNO Selection』は春夏秋冬、それぞれの季節を感じる曲を、南野自身が8曲ずつ選んだ。その中でも特にお気に入りの“推し曲”を教えてもらった。

「私は小さい時から好きな曲をカセットに入れて“マイベスト”を作るのが大好きだったので、今回もセレクトするのがすごく楽しかったです。“春”はやっぱり『春景色』です。ファンの方は知っている話なのですが、これは、ボーイフレンドが高校を落第する歌で、歌詞は私の友人のお兄さんが書いてくれて、だからほぼ実話なんです。“夏”は『それは夏の午後』も好きなんですけど、やっぱり『パンドラの恋人』にします。キラキラ光る感じや、泡がはじけて消えていくイメージがあって、この曲ももちろん萩田さんのアレンジで、凄く好きな曲です。“秋”は『秋からも、そばにいて』 です。やっぱりこれははずせない。これも萩田さんのクラシックのような重厚なアレンジが素敵で、服部克久先生にも褒めていただいたことがあって、自分の歌の世界観を確立した曲だと思っています。“冬”は 『メリー・クリスマス』にします。デビューして3年目くらいの歌で、もっとメッセージが込められた歌を歌いたいと言って、歌わせてもらった曲だと思います。クリスマスって華やかなイメージがあるけど、そうじゃないクリスマスを送っている人もいるんだということを、心に刻んで欲しいという思いで歌った曲です」。

南野をトップアイドルへと押し上げる大きな役割を果たしたその音楽の数々は、今聴いても瑞々しさを失っていない。80~90年代の上質な音楽は決して色褪せない。その立役者・萩田光雄と、南野が等身大の今を表現した新曲「空を見上げて」と「大切な人」もまたどこまでも瑞々しい。

南野は現在コンサートツアー『To Love Again~SNOWFLAKES』を開催中で、萩田がサウンドプロデュースを手掛けている。また新曲のレコーディングに参加したミュージシャンたちがそのままライヴのバックを固め、信頼するメンバーに囲まれた南野は各会場で素晴らしいパフォーマンスを披露している。

otonano南野陽子『Four Seasons NANNO Selection』特設サイト

南野陽子オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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