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服部隆之、父・服部克久を語る メモリアルコンサートは「親父の“生き様”を聴いていただきたい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/oyaming

11月16・17日『Concert for Katsuhisa Hattori サウンドメーカー服部克久の世界』が開催される

昨年6月11日に逝去した、作・編曲家服部克久さんは、これまで約7万曲以上手がけたといわれ、昭和の時代から日本の音楽シーンを支え、そのメロディとサウンドは多くの人々に愛されてきた。そんな服部さんのこれまでの多大な功績を称え、そして偲ぶ、メモリアルコンサート『Concert for Katsuhisa Hattori サウンドメーカー服部克久の世界』が11月16(火)、17日(水)に東京・新国立劇場(中劇場)で開催される。

写真提供/音楽畑(以下同)
写真提供/音楽畑(以下同)

出演者は、16日竹内まりや山下達郎(五十音順)、17日五木ひろし岩崎宏美大橋純子サーカスさだまさし佐藤竹善鈴木雅之谷村新司2VOICE中尾ミエ東山紀之松山千春マリーン森山良子八代亜紀屋比久知奈(〃)というなんとも豪華な顔ぶれだ。創成期から現在までのテレビ、そして映画、舞台の音楽、様々なアーティストの楽曲のアレンジで美しいサウンドを紡いできた克久さんに、歌で感謝の気持ちを届けたいというアーティストが揃った。音楽監督・指揮は日本を代表する音楽家で、長男の服部隆之氏。演奏は克久さんのライフワークとなったアルバム『音楽畑』を長年一緒に作ってきた、総勢70名を越える音楽畑スペシャルオーケストラが、服部サウンドを響かせる。

テレビ・CM・映画音楽を数多く手がけ、「昂」「駅」などのヒット曲もアレンジ

克久さんは1936年、日本の歌謡界を代表する作曲家・服部良一さんの長男として生まれ、高校卒業後にフランス・パリ国立高等音楽院へ留学。帰国後はテレビの草創期から活動を開始し『ミュージックフェア』(フジテレビ)、『ザ・ベストテン』(TBS)、『日曜特集・新世界紀行』(TBS)、『江戸の旋風』シリーズ(フジテレビ)、NHK連続テレビ小説『わかば』、アニメ『トム・ソーヤーの冒険』など、数々のテレビ番組や『連合艦隊』『北斗の拳』『新 極道の妻たち』etc…など映画音楽も数多くを手掛けた。特にオーケストラをポップスに取り入れた功績は大きく、そのアレンジは後に多くの編曲家の作風に影響を与えた。谷村新司『昴』、竹内まりや『駅』など、数々の名曲のアレンジも手掛け、その音楽は幅広い世代から愛され、今も聴き、歌い継がれている。

「父は音楽家としての先輩であり、私のヒーローでもあった」

『80歳からの新たなスタート 服部克久 傘寿の音楽会』(2017年10月2日/昭和女子大学人見記念講堂)
『80歳からの新たなスタート 服部克久 傘寿の音楽会』(2017年10月2日/昭和女子大学人見記念講堂)

そんな克久さんを「音楽家の先輩であり、私のヒーローでもあった」と語る隆之氏に、このコンサートへの思いをインタビューした。

「亡くなってから改めて親父とゆっくり向き合えたというか、親父のことをゆっくり考える時間ができ、自分はこの人のことを意識して仕事をやってきたんだな、ということを改めて感じました。お互いの仕事について何か言ったりすることはなかったのですが、家族によると、僕が音楽を担当したドラマは熱心に観てくれていたようです」。

「“音楽は美しくなければいけない”と常々言っていました」

同じ音楽家として、改めて服部克久という音楽家をどう見て、どう感じているのだろうか?

「手がけてきた音楽があまりに多様性に富んでいて、立ち位置が独特だったと思います。なので今回のコンサートを開催するにあたっても、親父の音楽家としてのスタイルをどう定義づけしていいのか、悩みました。“サウンドメーカー”という言葉を使わせていただきましたが、22作続いたアルバム『音楽畑』は、それまでずっとやってきたCM音楽の集大成的なものを作ろうというところから始まっているし、歌謡曲やポップスのフィールドでも、大衆性のあるメロディや親父にしか書けない歌の世界を表現しています。アレンジに関しては、親父のストリングスを中心にしたその独特の世界を、アーティストの皆さんが気に入ってくださいました。『ママとあそぼう!ピンポンパン』などの子供番組の音楽も手掛けていました。でも子供向けの音楽といってもクオリティは高く、美しさがあります。“音楽は美しくなければいけない”と親父は常々言っていて、それはどんな音楽にも貫かれていました。やはりメロディも含めての“サウンドメーカー”だったんだなと思います」。

「先生と呼ばれるようになっても常に“現場”主義。いつも予算や相手のことを考えて仕事をしていました。」

生涯現役を貫いた克久さんは、入院する数日前まで仕事の打合せをこなし、さらにあるコンサートへの出演をとても楽しみにしていたという。

「先生と呼ばれるようになっても、そのスタンスは変わらず常に“現場”主義でした。仕事をする際も、いつも予算や相手のことを気にかけていました。『あまりやりすぎると迷惑かけちゃうから』って、弦の編成を縮小したりして、僕はいつも『お前は金食い虫だな』って言われていました(笑)。実は昨年2月に開催した私のコンサート(『半沢直樹 真田丸 HERO~服部隆之コンサート』)に親父もサプライズで出演して、僕、娘の百音(ヴァイオリニスト)と三人で『ル・ローヌ~3 Generation Version』を演奏する予定でした。でも直前に入院してしまって出演は叶いませんでした。入院する数日前まで、色々な仕事の打合せも進めていたので、スケジュール的には親父は亡くなる予定ではなかったんです」。

「親父の生き様を聴いていただきたい。全曲親父のスコア通り演奏します」

しかし6月11日、83歳で逝去。ニュースなどで大きく報じられ、多くのアーティストがSNSなどでその死を悼んだ。コンサートにはそのアーティストが一同に会し、改めて服部克久メロディ、サウンドを歌い、演奏し、偉大な音楽家の人柄と人生を胸に刻む。

「このコンサートで一番こだわったのは、“100%服部克久”ということです。全曲親父のスコア通りに演奏することで、服部克久の音楽を“純粋”に楽しんでいただけたら幸いです。『音楽畑』に収録されている楽曲も、70人を超えるオーケストラでサウンドを再現します。アーティストの皆さんに歌っていただく楽曲も、父がアレンジした通りにやります。もしかしたら『この曲はあまり知らない』という方もいらっしゃるかもしれませんが、親父はこれで60年以上やってきました。その生き様を聴いて頂きたいです。演歌も昭和歌謡もやってきました。音楽番組やドラマ、CM音楽とテレビからのニーズに応え続け、テレビの時代に生きてきました。映画音楽もたくさんやりました。そんな親父の生き様をお届けする2日間になります。今回はアーティストの皆さんにも、ご自身のヒット曲や最新曲を歌っていただくことはできませんが、それでもみなさん快く出演をOKしてくださって、親父が手がけた一曲を歌ってくださいます。親父はとにかく人に会うことが大好きだったので、喜んでもらえると思います」。

ライフワークのアルバム『音楽畑』シリーズは、服部克久の人生を記した“ノート”

『音楽畑22 - The Final? -』(2019年9月25日発売)  代表曲「ル・ローヌ(河)」は隆之氏が編曲を担当、親子3世代【服部克久×服部隆之×服部百音(孫)】共演が実現。
『音楽畑22 - The Final? -』(2019年9月25日発売)  代表曲「ル・ローヌ(河)」は隆之氏が編曲を担当、親子3世代【服部克久×服部隆之×服部百音(孫)】共演が実現。

このコンサートでは、様々なアーティストの歌はもちろん、テレビ番組のテーマソングや映画、CM音楽、そして服部さんがライフワークとし、22作まで続いたインストゥルメンタルアルバム『音楽畑』の世界もたっぷりと楽しむことができる。『音楽畑』に流れているサウンドはなんとも「豊潤」で、そしてその音ひとつひとつがまるで薫り立ってくるように「芳醇」だ。それもそのはず、『音楽畑』は服部さんの人生が記された“ノート”でもあるからだ。あらゆる音楽に対しての飽くなき好奇心と、探究心からくる“音楽の旅”の記録を詳細に記した“ノート”なのだ。パリ留学から帰国後の1958年から、編曲家としてそのキャリアをスタートさせた服部さんは、前述したように、映画・ラジオ・TV番組のサウンドトラックを数多く作曲し、作曲家としても聴き手の心に残るメロディを数多く残している。しかしそれは「人のため」であり、40代半ばを過ぎた頃に「自分のため」に作品を残すべきだという思いに至る。それが1984年に“技巧や流行にとらわれない音楽の自然食”をコンセプトにし、生まれたのが『音楽畑』シリーズだ。ジャズとクラシックを上品にクロスオーバーさせ、美しさと“粋”を感じさせてくれる服部メロディはさらに深化し、聴き手の心を掴み人気シリーズとなった。

写真提供/BS-TBS
写真提供/BS-TBS

それぞれの作品にはテーマがあるが、服部さんが幼い頃目にした風景、その時々で感じていることはもちろん、仕事やプライベートで数えきれないほど訪れた外国の景色、ありとあらゆることが音楽に昇華されている。聴き手は楽曲を聴きながら、服部さんが目にし、心に焼き付けた異国の美しい風景を想像し、まるでその場所の空気、匂いまでが薫り立ってくるようなサウンドの世界に引き込まれる。『音楽畑』は、まさに人間、音楽家、服部克久の人生をnote=音符にしたMUSIC BOOK(楽譜集)なのだ。改めて服部さんの“音楽の旅”にどっぷり浸ってみたい。

※服部隆之の「隆」は、「生」の上に横棒が入る旧字体が正しい表記です。

TBS『Concert for Katsuhisa Hattori サウンドメーカー服部克久の世界』公演詳細ページ

服部克久 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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