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秋川雅史「千の風になって」発売15年 「まだ成長期。挑戦し、成長し続けることで人生は楽しくなる」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BSフジ

「千の風になって」発売から15年

秋川雅史「千の風になって」が発売から15年を迎えた。それを記念した47都道府県を周るツアー『千の風になってコンサート 〜聴いてよく分かるクラシック3〜』が6月からスタートし、9月8日には東京オペラシティ公演を開催する。改めて多くの人に愛され聴き継がれ、歌い継がれてきたこのスタンダードナンバーについて語ってもらうと共に、ライフワークとなっている、クラシックをもっと気軽に、たくさんの人に楽しんで欲しいと続けているコンサート『聴いてよく分かるクラシック』シリーズについて、さらに11月に開催予定の、オペラ界の新星・ヴィットリオ・グリゴーロと、ピアニスト清塚信也との共演が話題のコンサート『The MASTERPIECE ~CLASSIC meets ROCK~』についても聞かせてもらった。

「当時39歳の若造が、あの曲の深さを果たして聴き手の心に届けられていたのか」

2006年5月24日発売
2006年5月24日発売

秋川は34歳でCDデビューし、2006(平成18)年、39歳の時に「千の風になって」で『NHK紅白歌合戦』に出場。翌年オリコン・シングルチャートでクラシック系アーティストとしては初の1位を獲得した。「千の風になって」は演歌でも歌謡曲でもないが、約120万枚を超えるヒットになった“平成で最も売れた「演歌・歌謡曲」のシングル”だ。あれから15年。コンサートでも欠かせないこの曲を歌う時の心持ちや、感じることは変わってきているのだろうか。

「CDのジャンルでいうと演歌・歌謡部門で発売していて、所属レコード会社のテイチク(エンタテインメント)には、そもそもクラシックジャンルがなかったんです。あれからもう15年という感じですが、自分の中では15年前と歌っている気持ちやスタンスは全く変わっていないのですが、当時の映像を見たり、改めてCDを聴くと今と全然違うんですよ。気づいていなかったのですが、自分って変化しているし、成長しているんだなということを感じますね。あの頃よりはこの曲を人の心に届けることができる、大人の深さみたいなものが備わってきたのかなと思います。逆を返すと当時39歳の若造が、あの曲の深さを果たして聴き手の心に届けられていたのかなって思います。あの頃はまだまだクラシックを勉強している最中で、自分の声自慢というか、クラシックやってる俺の声すごいだろ、という感じで歌っていたと思います(笑)。でも今は全くその逆で、声を抑えようという意識の方が強いです。より“伝える”ということにこだわって歌ってきて、でも10年後に今の歌を聴き直すと、あの頃はまだ若いなと思うかもしれません。年齢を重ねるごとに自分にとって大切な人を失って、その悲しみや苦しみを経験することも増えて、同じように感じている人達の心を、この歌で癒していくことは簡単ではないことを、実感しています」。9月8日には、秋川がこれまでリリースしてきた全てのバージョンの「千の風になって」を網羅した、15周年記念盤が発売される。

クラシック音楽、コンサートになじみがない人にも、その楽しさ、面白さを伝えるために企画した『聴いてよく分かるクラシック』

「千の風になって」のヒットをきっかけに、クラシックから演歌まで幅広いジャンルをマイクを使って歌う、クラシックのスタイルとは違うコンサートを行なってきた。しかし、やはりクラシック醍醐味でもある生の声を楽しんで欲しいという気持ちに変わってきた。

「やはり自分の軸であるクラシック音楽の魅力を、もっと伝えたいと思うようになってきました。それで、マイクを使わないでクラシックの曲や、演歌、歌謡曲、ポップスを歌って、生の声をお客さんに聴いてもらうコンサートをやろうと企画したのが『聴いてよく分かるクラシック』でした。お客さんの中には普段クラシック音楽を聴かない人も多いし、なのでクラシック音楽のコンサートはどう楽しめばいいかということを解説をしながら、歌50%トーク50%という構成でやり始めました。トークを楽しみに来てくれるお客さんも多いです(笑)。でもマイクを使っていたコンサートより、生の歌声への反応、盛り上がりの方が高いことを実感しています」。

選曲はもちろん重要なトーク台本も自ら手掛けている。

「台本は(笑)までちゃんと書いてます(笑)。でも(笑)のところでお客さんが笑ってくれなくて、それ以外のところで笑いが起きたり、最初の頃は意外な発見がたくさんありました」。

コロナ禍でのコンサートで感じたこと

『千のになってコンサート 〜聴いてよく分かるクラシック3〜』は6月28日に開幕。久々の満員でのコンサートになった。

「去年は無観客コンサートも経験しましたが、やっぱりエネルギーが湧いてこないというか、家で歌の練習をしているような気分になりました。コンサートはお客さんからいただくパワーがあって、それを歌声に還元して歌うと、またそれに対するお客さんの反応があって、そうやってどんどん盛り上がっていくものです。お客さんと歌い手とのエネルギーを交換し、交流する場です。ツアー初日も、もちろん感染拡大防止策を徹底させ、久々に満員のお客さんの前で歌わせていただいて、半分以下の時とは盛り上がり方が全然違いました。お客さんは一人でコンサートに来ても、隣の人と気持ちを自然に共有し合いながら、聴いています。そういうのがすごく伝わってきました。クラシックのコンサートは立ったり踊ったりしながら聴く人はいません。拍手だけです。お客さんの中にはブラボー!って書いたタオルを掲げてくれて、お客さんなりの意思表示のアイディアを考えてくれました。逆に声を出せないからこそ伝わるお客さんの気持ちも、きちんと感じることができました。こうやってコンサートをやっても大丈夫なんだという気持ちを、お客さんと歌い手、スタッフ全員が共有できた瞬間だったと思います。そしてコンサートが中止、延期になって苦しんでいる後輩たちにも、コンサートをやりやすい雰囲気を作っていくことが、我々の世代の使命だと思いました」。

「音楽は不要不急のものではない」

これまでコンサートに足を運んでいたお客さんが、やはり感染への不安を感じ足を運ばなくなり、それに慣れてしまうことが恐ろしいと語ってくれた。

「コンサートにお客さんが一定期間足を運ばなくなると、行かなくても別に普段の生活に影響はないと感じて、コロナが明けてもコンサートに行くことが面倒になってしまうということが起こるのでは?という心配があります。もちろん、待ってましたとコンサートに積極的に参加してくださるかたも多いと思います。そこは今後見極めていかなければいけません。コロナ禍では音楽は不要不急のものと言われて、でもそうじゃないんだということを、今もそうですが、コロナが明けてからもみなさんに実感してもらえるようなコンサートにしなければいけません」。

世界的テノール歌手・ヴィットリオ・グリゴーロ、ピアニスト清塚信也と共演するコンサートとは

11月12日にはオペラ界の新星・ヴィットリオ・グリゴーロと、ピアニスト清塚信也と共演するコンサート『The MASTERPIECE ~CLASSIC meets ROCK~』(千葉・舞浜アンフィシアター)が控えている。豪華な顔ぶれに期待が膨らむとともに、“CLASSIC meets ROCK”と付けられたサブタイトルにもワクワクする。

「グリゴーロも僕もオペラ出身のシンガーで、清塚君もクラシックのピアニストで、その3人が違うジャンルに挑戦するという面白さが、このコンサートの見どころです。僕も、今世界のトップ3に入るテノール歌手のグリゴーロと共演できるのでテンションが上がっています。3人それぞれのパートがあって、もちろんコラボレーションも考えていますので、楽しみにしていてください。グリゴーロと歌で共演して、清塚君とはしゃべり対決です(笑)」。

「自分が成長することが人生の一番の楽しみ」

「クラシックの声楽家は50代でピークを迎えるんです」と教えてくれた。今年54歳の秋川はまさに、今充実の時を迎えているといっていい。

「今年54歳で、でも去年出せなかった声で出てきているので、まだ成長期にいると感じているし、50代いっぱいは伸びていくと思います。やはり毎日の修練が大切だし、それに尽きると思います。サッカーの三浦知良選手と同じ昭和42年生まれですが、54歳で20代のJリーガーと一緒に試合やっているなんて、考えられないじゃないですか。でもやっぱり人間って欠かさずトレーニングをしていたら衰えないし、成長していくんだなって三浦選手を見ていて思いました。結局人生何が一番楽しいかというと、自分が成長することだと思います。歌がうまくなっていくことが楽しいし、やり始めて10年以上になる趣味の彫刻も、技術が上がっていくことが嬉しいし、楽しいし、自分が成長することを90歳になっても100歳になっても続けている気がします。声楽家の父親が2018年、80歳の時にコンサートをやって、その時に初めて歌う曲に挑戦したりとか、やっぱり年を取っても現役でいたいという気持ちを持っている父親って、すごいと思いました。自分の道しるべを作ってくれた気がしていて、なので、過去を振り返って、あの時だったらなんでもできたなと思うよりは、今できることを見つけて挑戦する方が、素敵な人生なんじゃないかなと思います」。

秋川雅史 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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