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愛美 言葉と向き合い、自分をさらけ出す等身大の歌詞を紡ぐ、声優アーティストとしての矜持

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード

「BanG Dream!(バンドリ!)」発のリアルバンドとして結成されたPoppin’Partyのフロントメンバー戸山香澄役で大人気の愛美(あいみ)。この他にも声優として「D4DJ(ディーフォーディージェー)」「アイドルマスター ミリオンライブ!」など、音楽をテーマにした作品に数多く参加しているが、4月にシングル「ReSTARTING!!」で声優アーティストとしてソロ活動を再スタートさせた。同シングルでは3曲全て自身で歌詞を書き、彼女が紡ぐ、時に本音や人間性が剥き出しになっているその等身大の歌詞が話題になっている。これまで数えきれないほどのキャラクターの言葉を“伝えてきた”彼女は、その経験が作詞をする際にも大きな力になっているという。アニメ、ゲームファンならずとも、愛美の歌の表現力と歌詞の豊かさに引き込まれるはずだ。愛美にインタビューし、音楽、言葉との向き合い方について聞かせてもらった。

「声優としてのお仕事の積み重ねによって、言葉に対しての思いが年々強くなっていきました」

「声優は、言葉と向き合うお仕事です。台本のセリフ一つとっても、語尾を変えるだけでその人の人格が変わってしまうくらい、言葉の持つ繊細さが面白いなって思っていて。それを監督さんとディスカッションする時間もすごく好きで、その言葉によって伝えられるメッセージや感情も、日本語だとすごくバリエーションがあって面白くて。キャラクターソングもよく歌わせていただくのですが、その中で、表現の自由さというか、アニソン独特の“ぶっ飛んだ”表現が音楽の中だとどこまでも自由で、音符の中で色んなことが表現出来るんだってところに魅力を感じています。声優の仕事1つ1つの積み重ねによって、言葉に対しての思いが年々強くなっていったのだと思います」。

声優という仕事をしていく中で、彼女は言葉の魅力に惹かれていき、作詞という方法で、自分の言葉を自分で歌って伝えたいという思いが強くなった。

「歌詞だけでなく、音の面でもこだわりをもって作っています。これまでの活動で得た知識をフルで活かせるソロ活動は、やりがいがあります。みんなでいいものを作り上げていくその過程が大好きなので、楽曲制作は毎回楽しくやっています」。

「ReSTARTING!!」はソロアーティストとしての決意表明

4月に発売した「ReSTARTING!!」はソロアーティストとして再びやっていくんだと自分に言い聞かせながら、決意表明をしている大切な作品になった。

「ソロ再始動一作目の歌詞は自分で書きたいとずっと思っていました。自己紹介しながらの決意表明みたいな感じで、自分はこういう人間なんですが、というところから始まって、これからソロとして楽しいことをやっていくので、ついてきてくださいという思いを全部詰め込みました。この曲のサビは前向きな歌詞なんですが、実は私はネガティブな性格なので、本当はここまで前向きな気持ちにはなれないんです。でも未来への希望というかこれくらい前を向きたいっていう願望をサビに込めたので、自分を奮い立たせる曲にもなりました」。

その言葉通り「ReSTARTING!!」では、自身の弱い部分や、ネガティブな自分を受け入れながらそれでも前を向いていきたいという気持ちを書き切った。自分を奮い立たせながら、全ての人への応援歌にもなっている。同時に自分の中にもポジティブなワードあることが発見だった。

あらゆることについて“考察”してしまう癖が、歌詞を書く時に役立っている

「あらゆることについて考察してしまうというか…。物事について色々派生して考えてしまう癖があって。でも答えてくれる人がいないので、考察して終わりなんですが(笑)、その考えている過程が楽しいのかもしれません。ものづくりに惹かれるというのもそういう性格からきているのかも。謎解きが大好きなので『脱出ゲーム』とかにもよく行くんですけど、脱出に成功しても失敗しても楽しかったって思えます。そういう癖があるからこそ、それが作詞に活きているのかなと思っていて。自分自身が傷つきやすい人間だし、人を嫌な気持ちにさせてしまったかもしれないと後悔もしたし、今でも反省の連続です。なので、常に目の前の人の、更にその向こう側にいる人のこととかを考えてしゃべっていて、そういう部分が歌詞にも現れているかもしれません」。

高校時代バンドを組み、ギターを始めたことがその後の活動に大きな影響を与える

彼女は家族がバンド活動をやっていたという環境もあり、高校時代に友達5人とガールズバンドを結成した。これがその後の人生に大きく関わってくる。「私のギターヒーローはBUMP OF CHICKENの藤原基央さん」という彼女はそのバンドでギターを担当し、大塚愛やYUI、ORANGE RANGEなどJ-POPアーティスト、バンドのコピーを楽しんだ。

「高校時代に友達とバンドを組んでギターを始めました。『アイドルマスター ミリオンライブ!』(バンダイナムコエンターテインメントが展開するメディアミックス作品)で『ギターを弾かない?』と誘っていただいた時はすごく嬉しかったです。なんと、声優になって初めて人前でギターを弾いたのが、さいたまスーパーアリーナになりました。そこから『BanG Dream!(バンドリ!)』というコンテンツが生まれて、その後も歌を歌う作品に関わらせていだたくことが多くなりました」。

「カザニア」(7月28日発売/通常盤)
「カザニア」(7月28日発売/通常盤)

7月28日に発売されたニューシングル「カザニア」(本人も出演しているテレビアニメ『現実主義勇者の王国再建記』ED曲)では、カップリングの「瞬間SummerDay!」「アナグラハイウェイ」も収録されている。歌の表情が全く違う3曲で彼女の多彩な声と表現力が楽しめる。

「実は『カザニア』は『ReSTARTING!!』より前にレコーディングしました。なのでソロ歌手・愛美の歌声とは?という根っこの部分から始まっていて、語尾の切り方や、ブレスの入れ方まで、本当に細かい部分まで愛美らしさを探しながら歌いました。この曲は歌詞を書いていないので、より歌声で愛美の世界を表現するにはどうすればいいか、というところでのプレッシャーはありました。楽曲を選ぶ時のポイントとしては、愛美が歌ってその曲を魅力的なものにできるかというところと、ライヴで歌って盛り上がるかというところをかなり意識しています」。

「ライヴはその“瞬間”を楽しむものですが、自分の“未来”につながっています」

ライヴでどう響くか――Poppin’Partyのギターボーカルとして日本武道館や幕張メッセなどの大きなステージを経験している彼女は、ライヴで盛り上がるお客さんの本当に幸せなそうな表情を見て、楽曲をセレクトする時、アップテンポの曲もバラードも、ライヴでどう広がっていくかということを最も大切にしている。

「ライヴって今この瞬間を楽しむ空間だと思いますが、でも実はその“瞬間”が、この先ずっと応援してもらえるかという未来につながっていると思っています。それはこれまでの経験からくる感覚的なものですが、肌でずっと感じていたので、ライヴは大事にしていきたいです。なので『ReSTARTING!!』から今回のシングルまで6曲すべて、ライヴで盛り上がれるように作ってきました」。

「カザニア」は、たるとPとしても活躍しているサウンドクリエイター・タルタノリキが作詞・曲・アレンジを手がけた、ケルト楽器を使った壮大で爽快なミディアムチューン。愛美が作詞を手がけたカップリング曲「瞬間SummerDay!」はタイトル通り、バンドサウンドが唸るパーティーチューンで、「アナグラハイウェイ」はどこかシティポップを思わせる心地いい楽曲だ。曲を聴いて瞬間的に感じ、浮かんできたキーワードを大切して歌詞と向き合う。

「シングル『ReSTARTING!!』に収録されている『ラブレター』も楽曲を聴いた瞬間、絶対失恋ソングだなって思ったし、『MAYDAY』も、自分が過去に悩んでいた時の気持ちを出せそうだなって歌詞のテーマやイメージが、すぐに浮かんだんです。今作の『瞬間SummerDay!』は暑い夏が好きになれるような曲、『アナグラハイウェイ』はドライブモチーフの現実逃避曲。それぞれ、曲が持つ素敵な雰囲気を活かして、詞を書くようにしています」。

「アナグラハイウェイ」には<生まれ変わろうよ もういっそ 本能のままにイッチャッテ>という歌詞が出てくる。「バンドリ」などで、キャラクターを背負って仕事をしてきた彼女には、明るい華やかさ、輝きを感じている人が多いかもしれないが、でも光と影の部分があることは、愛美を昔から応援しているファンは知っている。そしてそんな自分をさらけ出すことで、その歌、歌詞に共感する人がアニメ、ゲームのフィールド以外にも増えている。彼女の音楽、色々な歌をもっと聴きたいと素直に思う。

愛美 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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