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SNSで拡散され話題の「長い髪」 ライヴバンドFOMARE渾身の一作が、上半期最注目の一曲に

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

「長い髪」がSNSで拡散され、ストリーミングチャートを賑わせる

群馬県高崎発の3ピースロックバンド・FOMARE(フォマレ)が、昨年リリースしたバラード曲「長い髪」がSNSで拡散され、ストリーミングチャートを賑わせている。2020年末、TikTokで一般ユーザーから“失恋した女の子は絶対泣いちゃう曲”として紹介動画が投稿され、瞬時に50万回再生・4万いいねを超える数字を叩き出した。今年に入ってからその勢いはさらに加速し、弾き語りカバー動画や、自身の恋愛体験を語る動画が数多くアップされ、ストリーミング数も徐々に上昇。3月には同曲にストリングスアレンジを施した「長い髪-Strings ver-」を配信。初のアニメーション作品となったこのMUSIC VIDEO(MV)は、約103万回再生(6月25日現在)と好調だ。さらに4月にはTikTok内で人気企画『#春の歌うまチャレンジ』をきっかけに、弾き語りカバーの投稿が爆発的に増え、2000本以上の動画で使用され、累計再生回数は3000万回を超えている。その動きを各メディアが取り上げ、注目度がさらに高まり支持層も拡大しており、上半期を代表する一曲といえる。

メンバーのアマダシンスケ(Vo/B)、カマタリョウガ(G/Cho)、オグラユウタ(D)にインタビューし、「長い髪」について、そしてこの曲がここまでバズっている現象をどう見ているのか、またこれまでライヴを重ね、実力をつけ成長を続けてきたライヴバンドが、コロナ禍で思うようにライヴができなかった状況で何を思い、考えていたのかを聞かせてもらった。

FOMAREは昨年11月ソニー・ミュージックレーベルズ内の新レーベル「Threethums(スリーサムズ)」から、1st EP「Grey」でメジャーデビュー。「長い髪」は、ドラムのオグラユウタが加入し、新体制となって初、そしてインディーズ最後のEP「目を閉じれば」(2020年7月)に収録されているバラードだ。

アマダシンスケ(Vo/B)
アマダシンスケ(Vo/B)

「『長い髪』は過去一と思ったけど、ここまで盛り上がるとは思っていなかった(カマタ)

――「長い髪」はEP「目を閉じれば」に収録されている曲で、表題曲ではないですが、メンバー内でも非常に自信があった作品だとお聞きしました。

アマダ 元々サビのメロディだけがあって、それを使いたいなと思っていつものようにカマタに送りました。

カマタ 聴いたら、これはキてる!と思って、前のめりになりました。掴みもいいし、歌詞も抜群にいいし、今まで一番いいんじゃないかなと思っていましたけど、リード曲ではないのかなと。でもここまで盛り上がるとは思っていませんでした。

アマダ 自分としてはリード曲にして欲しくて、でもEPって“プチリードポジション”みたいな曲ってあるじゃないですか。ライヴもできない時期だったので、映像もリンクさせたいという気持ちが強かったので、なおさら推しました。

――頭から持っていかれる印象的なメロディですよね。

アマダ ギターの被せとかもよくて、最近気付いた音もありました。

カマタ 意外と人気になったな、なんでだろうって聴き直す作業に入りました。

カマタリョウガ(G/Cho)
カマタリョウガ(G/Cho)

「この曲で伝えたい思いがあるというよりも、歌いたい曲があります、よかったら聴いて下さい、という感覚」(アマダ)

――歌詞に感動したという声が多いですが、あの世界観はリアルなものなのでしょうか。

アマダ 実体験も含めて、自分にとっての衝撃的な大きな出来事を詰めこんだ感じです。サビの歌詞だけ最初からできていて、でも言いたいことを伝えたいというよりも、ハマる言葉、曲に似合う言葉みたいなものが出てこなくて、そこをずっと探していました。この曲で伝えたい思いがあるというよりは、歌いたい曲があります、よかったら聴いて下さいという感覚でした。結果的に、失恋した時もそうかもしれませんが、純粋に別れの時に感じる淋しさや、切ない気持ちをいっぱい表現しようと。どういう曲かは、聴いた人が自由に決めるべきですが、確実にラブソングだし、でも恋愛という括りではないというか、大きな意味でのラブソングという感じにしたかったです。

オグラ この曲めちゃくちゃ好きで普段からよく聴いていて、バズっている大サビ部分もすごくよくて、こうしてたくさんの人に広まっているのを見ると、だろ?っていう気持ちです(笑)。

カマタ 6分くらいある長い曲がだからこそ、聴いてもらえるのかなっていうのは感じました。最初そこ(大サビ)でバスってるって聞いた時に、そこか!サビじゃないんだって(笑)。

――メンバーは誰もTikTokをやっていなかったんですよね?

アマダ そうなんです。俺らはTikTok世代じゃないと思ってました、勝手に。

カマタ 中高生のものというイメージでした。

――実際にTikTokの世界で、自分たちの曲がどんどん色々な映像と共にどんどん広がっていっているのを見て、どう感じました?

アマダ ただただビックリしました。

カマタ TikTokやYouTubeのコメント欄もよく見ますが、年齢層もあるかもしれませんが、「悲しい」とか「私はあの時どうすればよかったか」とか、本当に自分の素直な思いをひと言だけ書いているのが、印象的でした。失恋した女の子が集まる「場所」になっていて共感しやすいツールになっているのだと思います。

「『長い髪』で僕達のことを知ってもらえるだけで嬉しい。さらにライヴハウスに来てくれたらこんなに嬉しいことはない」(アマダ)

――一気に広がるってこういうことなんだなということを、改めて実感したと思いますが、FOMAREがこれまでやってきたこととは逆というか。FOMAREはライヴを重ねて絶対的なファンをどんどん増やしながらここまでやってきて、今回のこの軽やかな、でも破壊力抜群の広がり方を、どう捉えていますか?。

アマダ なんとなく感じたのは、TikTokを見ている人とライヴに来る人って、違うのかなということです。でも「長い髪」で僕達のことを知ってもらえるだけでもむちゃくちゃ嬉しいですし、さらにその先にあるライヴハウスに来ていただけたら、こんなに嬉しいことはないです。

――「長い髪」のライヴバージョンも、またこの曲の違う空気感を感じることができます。

カマタ ライヴでやるこの曲、好きなんです。

オグラユウタ(D)
オグラユウタ(D)

――色々な人が色々な聴き方をしていて、YouTubeの考察コメントが興味深いですよね。

アマダ みなさんが深読みしてくれていますし、知り合いからも色々と言われますが、自分としてはそこまで深くは意識していなくて。

――3月にはストリングスバージョンを配信して、アニメーション作家・門脇康平さんが制作したMVも再生数が100万回を超えています。

アマダ FOMAREとしてはストリングスバージョンをやるのは初めてで、すごいバンドの音を聴いている気持ちになりました。自分達で演奏していると思えないくらいです(笑)。

カマタ いつかはフルオーケストラと一緒にライヴをやってみたいです。

アマダ MVはとにかく淋しさで溢れていますよね。彼女の表情も、なんなら猫まで淋しそうじゃないですか。

カマタ 門脇さん作品は色々観させていただいていたので、年が同じということもあって、あのタッチとFOMAREの音がどう重なるのか楽しみにしていましたが、もう最高でした。今回だけではなくまた一緒にやらせていただきたいです。

オグラ タッチもかわいくて、3月に公開した『HOME -Acoustic ver.-』のMVにも猫ちゃんが出てくるので、まるでドラマのようにつながっているみたいな、そういうところも楽しいんでほしいです。

――昨年10月の初のZepp Tokyoでのワンマンライヴを観させていただきましたが、久々のライヴがいきなりZepp Tokyoということでメンバーはもちろん、色々な制約の中で観るファンも特別な思いになったと思います。

アマダ 8か月もライヴをやらなかったのは、バンドを始めてから初めてでした。しかもZepp Tokyoに立つのも初めて、なおかつこの状況下になってのライヴも初めてで、本当だったらもう少し小さいライヴハウスでやってエンジンをかけてから、ファイナルをZeppTokyoでやりたかったです。プレッシャーもありましたが、でもある意味贅沢だと思いました。

カマタ 8か月前は普通だったのに、8か月後には全員マスクでソーシャルディスタンスをとって、お客さんと一緒に歌える曲がライヴでの武器でもあるので、そこがなくなるだけでも大分ライヴが変わってくるなって思いました。

オグラ 最初は戸惑いました。マスクを着けて観てくださる光景にびっくりして、でもそこからツアーを周っていくうちに慣れてきて、ライヴをできているだけで幸せだなって素直に思います。

新体制でのライヴに手応えを感じていた矢先のコロナ騒動。「全てを壊されてからの新しいスタート」(アマダ)

「加入して3か月でこの状況になって、ライヴができないことが苦しかった」(オグラ)

――以前インタビューさせていただいた時に「派手なことをやりたい訳ではなく、純粋に、ライヴを重ねてカッコよくなりたい」と言っていましたが、ライヴができなくなった時期はどんな思いで過ごしていたのでしょうか。

アマダ 不安でした。延期になったライヴがまた延期になったり、最終的にどうなるんだろうって。ツアーに合わせていたら音源を出せなくなるし、できることを探っていってストリーミングでお客さんに届けようと。

カマタ 今までガムシャラにやってきていたので、特に2019年は47都道府県ツアーを本当に必死でやって、考えるよりもライヴをやるという感じの毎日だったので、これからのことを深く考えることができなかったというのが、正直なところでした。

オグラ 僕はバンドに参加して3か月でこの状況になってしまって、軸であるライヴができないストレスがすごかったです。

アマダ オグラさんもサポート時代から30本くらい一緒にやってきて、やっと3人のライヴができ上がって、お客さんとの距離感や空気感もこの感じでいけるって、新しいFOMAREのライヴに手応えを感じていました。それを全て壊されてからの、新しいスタイルでのライヴだったので、もしかしたらいまだに慣れていないのかもしれません。「長い髪」でファンになってくれた人にもライヴを観に来て欲しいので、また一本一本こだわって、カッコいいライヴをやっていきます」。

FOMARE オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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