Yahoo!ニュース

「まち」も国もエンタメ力で活性化させる――点から線、面へと“深化”するポニーキャニオンの地方創生事業

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(株)ポニーキャニオン 経営本部エリアアライアンス部部長・村多正俊氏

エンターテインメント業界初の地域活性化事業専門セクション「エリアライアンス部」

「エンターテインメントで地域を、ニッポンを元気に!」を事業コンセプトに掲げ、大手レコードメーカー・ポニーキャニオンが2017年に創部した、エンターテインメント業界初の地域活性化事業専門セクション「エリアライアンス部」。2019年、同社経営本部エリアアライアンス部 部長・村多正俊氏にインタビューした時と比較して、協業する自治体は増え、国(府省庁)案件も受諾するなど事業領域を拡大し、その勢いを増している。

「エリアアライアンス部」が、同社の企業人気ランキング急上昇の原動力に

「2022年卒就職企業人気ランキング 文系学生向けの総合ランキングTOP100」でポニーキャニオンは17位と躍進し、「楽天みん就 2022年卒就職人気企業ランキング」でも昨年の96位から19位にランクアップした。もちろんOfficial髭男dismの大ヒット等、音楽部門への注目度の高さもあるが、アニメ、映画、映像、書籍、イベントに至るまでをカバーできる総合エンターテインメント企業として学生に魅力的に映っているのであろう。その中でも学生からは「エリアアライアンス部」、「地方創生」というキーワードが頻出し、人事担当者は同部の存在が企業人気ランキング躍進の原動力になっていると断言してはばからない。

そこで改めて、同セクションを率いる村多氏に「エリアアライアンス部」の現状と未来についてインタビュー。エンターテインメントは地域を活性化できるという「確信」と共に、「深化」していく「エリアアライアンス部」から放たれる、“ワクワク感”を感じることができた。

観光、移住定住、シティプロモーション、ブランディング、地域が抱える課題解決とそこにある可能性に光を当てる

観光、移住定住、シティプロモーション、ブランディング、地域が抱える課題解決とそこにある可能性に強烈な光を当てることが「エリアアライアンス部」の役割だ。しかし当初は自治体の事業が単年完結で、立案、実行、浸透という流れを考えるとあまりにも時間がなさすぎることが課題だった。

「自治体の担当者も頻繁に異動してしまうということも含めて、思うようにいかなかった事例もありますが、ようやく数ヶ年事業として取り組むところが増えてきました。また弊社がおこなった事業をご評価いただき「引き続きお願いします」というコンペティションではない随意契約も増えています。なによりも大きかったのはご多分に漏れずコロナ禍。この一年ちょっとで、数十年かけて変わるもの、それが自治体でも起きていて…これこそがパラダイムシフトなんだ、と実感しています」。

自治体や関係団体、業務提携先との人材交流を積極的に行なう

2019年からは自治体や関係団体、また業務提携先との人材交流を積極的に行なっており、双方のノウハウを共有することによる、地域活性の加速化を視野にいれた人事戦略を展開している。「2019年からは業務提携をしているOKB大垣共立銀行から2年間に2名の行員を研修生として受け入れていました。彼らは本社に戻った後、エンターテインメント見地による地域活性化事業をローンチし、弊社と緊密に連携しながら中部東海エリアの自治体に向き合っています。

写真左;OKB大垣共立銀行 広報部・長谷川智之氏、右;山内祐治氏(写真提供/ポニーキャニオン(以下同))
写真左;OKB大垣共立銀行 広報部・長谷川智之氏、右;山内祐治氏(写真提供/ポニーキャニオン(以下同))

また本年度は大垣市役所の職員が、研修生として弊社に出向してきています。コロナ禍でいかに情報発信を行っていくか、ニューノーマルの働き方をどう実践するか…彼は自治体職員として弊社の働き方を一年間学び、私たちはより深く自治体というものを理解する機会と捉え、お互いを学んでいる最中です。

左から(株)ポニーキャニオン代表取締役社長・吉村隆氏、大垣市職員・水谷健吾氏、前大垣市長・小川敏氏
左から(株)ポニーキャニオン代表取締役社長・吉村隆氏、大垣市職員・水谷健吾氏、前大垣市長・小川敏氏

また弊社からも『一般社団法人 移住・交流推進機(JOIN)』に管理職社員が出向しており、同機構に多数在籍する各自治体の若手職員に情報発信のノウハウをレクチャーしており、私たちはそこで得られた知見をより精度の高い自治体向けソリューション開発に活かしています」。

国案件へも着手

「エリアアライアンス部」が初期に手がけ注目を集めたのが、愛媛県松山市の「道後REBORN」というPR事業だ(平成30年7月~令和3年3月)。築125年の道後温泉本館を、営業しながら保存修理工事を進めることで、観光客減につながらないかと考える市と協力し、工事をやっているこのタイミングしか体感できない道後温泉をPRしようと、手塚治虫「火の鳥」とコラボレーションし、まちのPR全体を取り仕切った。この取り組みが「スポーツ文化ツーリズムアワード2020」(文化庁・スポーツ庁・観光庁共催)を受賞するなど、大きな話題となった。そういった過程を経てのアクションが国(府省庁)案件への着手だ。

「2020年度は内閣府、観光庁、防衛省等から事業を受託しています。若手二人がコロナ禍で大変な中、本当に頑張ってくれて。内閣府の事業では、コロナ禍において地方創生の最前線を担う方々を巻き込んだWEBコンテンツの制作として映像制作や首長インタヴュー等を行いました。防衛省では今、陸上自衛隊のオフィシャルツイッターに固定されている映像“日仏米共同訓練(ARC21)”を制作させていただいたりと、国とリンクすることで、これまでとは違う景色が見えている気がします」。

売り上げは2020年度過去最高をマーク。コロナ禍でワーケーションへの興味や、人々の移住意識が高まったり、同時に自治体は定住へのPR活動に熱を入れるなど、コロナ禍であってもその動きは加速している。

「これまではまちの一部の魅力だけを広める役割でしたが、今はまち全体をどう見せていくかということに取り組んでいます」

「地方自治体はIターン、Uターン、移住してくる人はもちろん大歓迎ですが、今そこに住んでいる人をいかに『定住』してもらうかにも注力しています。どうすればこのまちから出て行かずに定住してくれるのか、そのためのプロモーションを積極的に行なっています。シビックプライドの醸成という言葉がありますが、このまちに住んでよかった、このまちのために色々とやっていきたいという市民を増やしていく…まちの魅力を外部発信するのと同時に、住んでいる人にその魅力を再確認してもらうこと…それも同じくらい大切です。それをしっかりやるということと、将来IターンやUターンしてくれることを期待して学生にアピールすることも大事。しっかりとターゲットをセグメントし、エンターテインメントの解釈で、訴求していきます。現在は我々の事業もかなり変容してきていて、もちろんコンテンツ制作も行いますが、もっと大きな枠で取り組んだり、コンサル的な事業も増え…さらにはブランディングも多くなってきましたね。

蓄積してきた知見を多角的に使って、まち全体をサポートしていくことがタスクに加わりました。これまではまちの一部の魅力だけを広める役割でしたが、今はまち全体をどう見せていくかということに取り組んでいます」。

「次世代が持続可能なまちを創造していくためには、なによりも人材を育成していくことが大命題」

ポニーキャニオンが、学生が就職したい企業ランキングで上位にランクインしていることは冒頭で述べたが、村多氏は大学でもエンタメ×地方創生というテーマで講義を行なっている。そこでも学生のこの取り組みへの興味の高さを実感しているという。

「成城大学で不定期に講演しています。エンタメ見地の地域活性化の話は、学生たちにすごく響きます。立正大学でお話しした時も同じ感触でした。以前のインタビュー時以上に、若い人に所縁のある「地域」や「地元」に対する意識が高くなってきています。エンタメと掛け合わせて、何かをやりたいというポジティブな意見をアンケートに書き込む方も多くおられて、とても頼もしく感じています。次世代が持続可能なまちを創造していくためには、なによりも人材を育成していくことが大命題だと思っています。弊社とクラーク記念国際高校との業務提携もその文脈上のものです」。

村多氏はポニーキャニオン入社後、音楽制作ディレクター、プロデューサーとして長年原盤制作、プロモーション、イベント制作、映像制作等を手がけてきた。「エリアアライアンス部」のクリエイティブは、これまで村多氏が制作ディレクターとしてかかわってきたアーティストやスタジオミュージシャン、映像作家らも制作に関わっている。0から1を作り上げることができる人材が揃う、社内インフラも最大限に駆使し、時代性のあるコンテンツを作ることを心がけ、先方のニーズを満たす、時代性のあるPRを目指している。

「自治体のキャスティングボードを握っている40代~50代の方達は、音楽が好きな方、またはかつて好きだった方が多いので、それを大切なものと理解してくれている人が多いという印象をうけます。私の名前を見て『ひょっとして嶋野百恵とMummy-Dの曲をやっていた人ですか?』と問いかけてきた自治体職員の方がいました(笑)。事業ローンチして6年、部署として立ち上がって5年目で、最近は業務提携先も拡がってきていて、この3月には昭文社さんとも、地方創生事業においてのノウハウ、人的リソース、販売網等を活用、補完し合うことによって、日本各地の魅力を発信、それらによる地域の活性化に寄与することで、合意しました。相互の強みがもたらすシナジーで、地域の魅力発信と活性化に寄与したい。デジタルマーケティングの分野も注力しており、より精度が高い仕事をしていきたいと思っています」。

“エンタメの持つ力は計り知れない”――「エリアアラアインス部」が発行している、事業内容などを紹介している小冊子の冒頭で、村多氏はこう記している。総合エンターテイメント企業ポニーキャニオンの総力を注ぎ、コンテンツ、そしてアイディアを生み出し、「エリアアライアンス部」はそのコンセプトの通り「エンターテインメントで地域を、ニッポンを元気に!」する。

ポニーキャニオン エリアアライアンス部 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事