古川本舗 復活が待たれていた“才能”が5年ぶりに活動再開 より自由度が増した唯一無二の世界観<後編>

Photo/眞鍋アンナ

5年ぶりに音楽活動を再開した古川本舗へのインタビュー、<前編>に続き<後編>では、復帰第一作「知らない feat.若林希望」、そして佐藤千亜妃(きのこ帝国)をフィーチャリングした第2弾「yol」について、さらにコロナ禍においてアーティストは自分自身、作品とどう向き合うべきなのかまで、聞かせてもらった。

「“夜”が作品作りのテーマ。若林希望の、夜に聴きたい無機質で、少しだけウエットに感じられる声の成分に惹かれた」

2月3日にリリースした復帰第一作「知らない feat.若林希望」は、古川本舗のこれまでとこれからを感じさせてくれるチルナンバーだ。ジャジーなピアノとストリングス、若林希望のアンニュイなボーカルが重なり、「都会の夜」を描き、そこに溶け込んでいくような感覚になる。SNS上で、若林が古川本舗の曲をカバーしているのを観て、声をかけた。

「彼女が僕の曲をカバーしているのを聴いた時に、この着地は見えていました。彼女の声の成分に惹かれました。歌は技術的な部分なので、練習すればある程度まではいくと思いますが、声の成分は生まれつきのものです。今回はこの先に予定しているアルバムまで“夜”というテーマで楽曲を出したくて、それは、自分が夜行性なので、結局見ている景色や感じる景色は夜だからです。自分の感受性みたいな部分のスイッチが、午後11時くらいにならないと入らなくて(笑)。僕が住んでいる区は、昼間は都会の賑やかさがあるのに、夜中になると本当に誰もいなくなるし、車も通らなくて『あれ?この街俺のもの?』みたいな感じになります。大都会東京で、そう感じるところがすごく好きで、あのなんともいえない支配感がある時に聴く音楽って極上で、それをなんとか自分でも作れないものかと思いました。夜に聴きたい無機質で、少しだけウエットに感じられる声として、若林希望にお願いしました。彼女の本来のキーを無理やり下げて歌ってもらい、キーが低い楽曲をいかに抒情的に盛り上げるかという部分を大切にして、アレンジャーの和音正人君とこだわりました」。

「“夜”をテーマにアルバムまで作りたくて、そのテーマソングが『yol』。以前からファンだった佐藤千亜妃さんの歌に感動」

第2弾の、佐藤千亜妃(きのこ帝国)をフィーチャリングしたシングルは、その名も「yol」だ。古川本舗のこれまでをアップデートさせ、進化したエレクトロなサウンドに、佐藤のどこか物憂げで、静謐な中に強い意志を感じさせてくれる声、圧巻の表現力に引き込まれる。

「先ほども出ましが、「夜」というテーマでアルバムまでの流れを作ろうと考えた時の、いわゆるテーマソングみたいなものを作ろうと思って作ったのが、この曲です。その時にはまだ佐藤さんの声は自分の中ではあまり鳴ってなかったのですが、以前から大ファンで、スタッフにずっと『一緒にやりたいんだけど』という話をしていて、このタイミングできちんとオファーしたところやっていただけて。ご本人に歌入れをしてもらったら、とんでもないくらいうまくて、声の存在感も大きいし、いい意味で最初のイメージから曲の性質が変わって、アレンジャーと二人で『どうするよ、これ』って興奮していました。そこから佐藤さんの声を最大限活かすという方向で、コーラスとか削りまくりました。声自体にすごく色があるし、歌がうまいだけではなく、本人が自分の声の特性や魅力をきちんと研究して、それを出す努力をしているのは、話をしていて感じました」。

「曲を聴いてくれた人を勇気づけたいとか、元気にしたいとか、そんなメッセージソングは書かない。目の前で起きている事実しか書いていない」

2曲共、歌詞、メロディ、歌、そしてサウンドがひとつなって感じるのは、叙情的であるということ。メランコリックとでもいうべきか、切なさはもちろん哀しさまでが薫り立ってくるようだ。

「曲の完成形としては、誰かの生活を彩るというところに着地してくれればいいなと思っていて。作っている時の感覚としては、結構人情味がないというか、例えば悲しい状態だったら、悲しい状態なんですね、というのをそのまま描写しているだけで、この曲を聴いてくれた人を勇気づけたいとか、元気にしたいとか、そういうメッセージソングのようなものではないんです。逆にものすごく客観的な視点みたいなものが、感情移入しやすくなるというか、起きた事実しか書いていないから、聴いた人が自分の経験を重ねやすくなるのかなとも思います。リスナーは、何も押しつけられないから、何かを読み取るしかなくて、それがたまたま自分の経験や思い出とリンクした時に、メランコリック的なものを感じてもらえるのかもしれません」。

そんな古川本舗の叙情的な音楽が、このコロナで包まれてしまった不安な時代に、聴き手の心に深く浸透し、それぞれが“想い”を巡らせることができるグッドミュージックとして、新たなファンを獲得し、支持されているのではないだろうか。

「『いいタイミングに戻ったね』と言われることもあるし、その逆も然りで『何でこんな時期に…』みたいな感じのことを言われたりしますが、時期は一切関係ないと思いつつ、でも確かにその世情的なこと考えると、このご時世に誰かに頑張れとか頑張ろうとか言われても『はぁ?』みたいな感じになるじゃないですか。『お前が頑張れよ』とか思うよりは、『つらいっすね』くらいでメッセージとしては終わった方が『そうだよな』という程度に受け止めてもらえるかなとも思うし。昔から人に何かを伝えたいという歌詞を書いたりしないし、あくまで自分の感情の確認作業なので、それを心地いいと思ってもらえるのはすごくありがたいです」。

「それぞれのアーティストがどういう立ち位置、スタンスで音楽や表現と向き合っているのかが、はっきり見える時代になった」

聴き手に押しつけない音楽を自由に書き「お裾分け」し、それを受け取った人とのコミュニケーションを楽しむ表現者、メッセージソングを書かない音楽家として、この時代のアーティストはどうあるべきか、“メッセージ”をお願いした。

「コロナ禍になって自分が何か変わったかといえば、変わっていないし、コロナがあろうがなかろうが、我々のような仕事をしている人は、備えるために何をやるか、何を考えるべきか、みたいなことは常に考えるべきで。今回はちょっと洒落にならない状況ということは重々理解できますが、それはどちらかというとビジネスに関わる話であって、アーティストとして何か考えるということであれば、変わらなくていいと思います。音楽の力で人を励ましたいというのが活動の基盤になっている人たちは、大きく変わるものは絶対あると思います。自分みたいな考え方の音楽家だと、目の前の落ち込んだ状況をちゃんと描写するというのが自分の責務、やるべきことであって、先ほども出ましたが、急に俺が『じゃあこんな状況だから皆頑張ろうぜ』というのはそれはルール違反だし。逆にそれぞれのアーティストさんが、どういう立ち位置で、どういうスタンスで音楽とか表現と向き合ってるのかがはっきり見える時代だと思います。すごく面白くて納得したのが、打首獄門同好会が、ライヴでお客さんは声出し、騒ぐの禁止というお触れが出た時に、全員でスクワットができる曲(「筋肉マイフレンド」)を書いたという話を聞いて、クリエイティヴってこういうことだと思いました。みんながみんなそれをやる必要はないけれど、打首獄門同好会のように本当に聴いている人を楽しませるタイプのバンドが、ああいうアイディアを出してくると、これは本物だと思いました。本当に素晴らしいです」。

古川本舗 オフィシャルサイト