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「自分が好きじゃなかった」人気YouTuberで女優のめがねが、『おちょやん』に出演 高まる注目度

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックエンタテインメント

NHK朝の連ドラ『おちょやん』京都編に、女給・京子役として出演

YouTuberで女優のめがねに注目が集まっている。登録者数34万人を誇る人気YouTubeチャンネル「めがねっとわーく。」で、若い女性を中心に支持を集めながら、演技の世界でもその才能を発揮している。現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説『おちょやん』では第5週の京都編から、ヒロイン千代(杉咲花)が働く京都のカフェー「キネマ」の女給・京子役として出演中だ。元々舞台女優を目指していたという彼女に、YouTuberそして女優として、表現するということについてインタビューした。

「YouTubeでは、自分のことが好きじゃなくて、自分ではない架空のキャラクターを作りたかった」

「元々YouTubeを始めた経緯が、自分のことが好きじゃなくて、自分じゃない架空のキャラクターを作りたかったからです。誰かになることで自分を保とうとするというか、昔からそういう感じで、舞台女優になりたかった理由のひとつもそうです」。

表現への衝動の理由をそう教えてくれた彼女。自分とは別のキャラクターを演じ、作り上げることで、自分という存在を肯定することに高校時代から向き合ってきた。しかし女優を目指した理由はある舞台を観て、純粋に感動したからだった。

「舞台を観て、鳥肌が立った。鳥肌を立たせる側になりたいと思った」

「女優になりたいと思ったのは14歳の時、母親がわかぎゑふさんが座長を務める劇団「リリパットアーミーII」の舞台に連れて行ってくれたことがきっかけでした。観ていたら鳥肌が立って、その時、私も鳥肌を立たせる側になりたいと思いました」。

YouTuberよりも先に女優になるという夢があった。彼女の演技を初めて観たのは昨年、今注目を集めているフルリモート劇団の「劇団ノーミーツ」の、第3回長編公演『それでも笑えれば』(2020年12月26日〜30日)だった。生配信の演劇で彼女は、これからというタイミングで、コロナの影響でスケジュールが全て白紙になってしまうお笑いコンビの一人を演じていた。現実を重ねたリアリズムを追求する舞台なので、彼女も含めて役者の演技力の高さが圧倒的で、その繊細かつ圧巻の熱量が画面を通して伝わってきた。

「オンラインでの演技はテクニックに近いなって私は思っていて。ずっと決まった画角の中で、動きもそんなに大きくないので、その中で感情の浮き沈みを表現するテクニック、若干のタイムラグとの闘い、カメラを自分で動かしたりとか、役者の力量がめっちゃ必要だなって感じました。ギミックを知っておかなければいけないし、会わないで作っていくので役者同士の心の交わし方も全然違っていて。映画やドラマの撮影の時のように、空き時間のおしゃべりでその人から感じとる空気感も感じることができないので、本質的なところが全然見抜けなくて。だからいつもの何倍も人のことを気にして話しましたし、見ました。どう思ってるのかなって」。

劇団ノーミーツ『それでも笑えれば』に出演
劇団ノーミーツ『それでも笑えれば』に出演

「YouTubeを使って有名になりたかった」

彼女は、大阪の高校の古典芸能文化科に進学し、そこで一緒にYouTubeをやろうと誘ってくれた友人と共に、YouTuberとしてスタートした。

「元相方の子が、高校に入学した時から『絶対にあなたは売れると思うから一緒にやろう』って言われていて。その子の名前が3文字だったので、私も3文字にした方が語呂がいいと思って、眼鏡をいつもかけていたので“めがね”になりました。その子も私も夢があるから、YouTubeをステップにして、私たちを知ってもらうためのきっかけを作ろうよという感じでスタートしました。最初は女子高校生2人の放課後、青春みたいなことをやっていて、コント動画がバズったりしました。でもそこからソロになった時に、やっぱりボケツッコミありきで企画を考えてしまうというか、そうするとだんだん考えられなくなって。ティーンの視聴者に支えられていたので、脚痩せやダイエット、美容とか、みんなが好きなジャンルをやっていた時もありました。YouTubeって時間の隙間を埋めてくれるもので、でも私はその考えをすごくチープなものだと考えていて。隙間時間だから片手間で観れるというか、映画やドラマを観るという感覚ではないと思うので、時々自分の価値ってどこにあるんだろうってわからなくなることがあります」。

「ネガティヴの時からしか、いいものって生まれない気がする。幸せな時って何もできないと思ってしまう」

YouTubeでの彼女を観ていると、とにかく明るくて元気だが、中には具合が悪くて、落ち込んでいる姿を曝け出す動画があったりする。明るい笑顔の裏には様々な葛藤がある。光と影の影の部分の存在を、彼女はきちんと言葉にし、伝える。めがねという表現者を構成している大きなもののひとつが、伝えたいという強い気持ちと、“ネガティヴ”ということだ。しかしそれがめがねという存在を輝かせているのかもしれない。

「ネガティヴの時からしか、いいものって生まれないなって思う時もあります。幸せな時って何もできないなって私は思ってしまいます。小さい頃は画家になる夢を持っていて、辛かったり悲しかったりすると、ずっと絵を描いて発散してました。本を書いて、自分でインタビューごっこをしたり、妄想ばかりしていました。それで『リリパットアーミーII』の舞台を観た時に、演技ができれば強くなれると思ったのだと思います。本当に人の目が気になるタイプなので、家でお笑い番組を観ている時も、親が笑っているのを見て笑うとか、人のウケとか人が何を考えているのかとか、自分がどう思われているのかということがめちゃめちゃ気になる。そこはずっと14歳くらいのままなんですよね。私がこうやってやったから、微妙な感じになっちゃったかなというのを、ずっと続けているみたいな感覚です。そろそろ疲れましたけど(笑)」。

女優業とYouTuberとの狭間で

YouTuberと女優、両方があって初めて、めがねという人間の存在証明になると強く感じているという。

「先ほども出ましたが、売れたいという動機でYouTubeを始めて、でも一人になってからは、売れなきゃいけない、ファンを離してはいけないって、どこかノルマになっているようなところもありました。そうなってくると、よくも悪くも自分で全部考えてるからこそ、マイナス思考にもなることも多くて、動画の編集にもすごく時間がかかるし、やりたくないなっていう気持ちが大きくなっていって、でも女優業はもっとやりたいと思うようになって。2020年は年間を通してずっとお芝居ができて、確かに幸せではあったのですが、そうなるとやっぱりYouTubeのことがどんどん気になってきて。YouTubeがちゃんとできていない自分がすごく嫌になってしまい、なんでここから始めてここで有名になったのに、それを疎かにするのは違うだろって思って、この3年間くらいずっとモヤモヤしています。どちらも完璧にしなければいけないと思っていましたが、今年からはメリハリをつけようと思っています。女優としての私を観ていただいて、YouTubeでは例えば私が、ドラマの撮影期間中に悩んでいたこと、苦しんでいたこと、楽しかったこととかを、ただ話しているだけのチャンネルで、超等身大で、丸裸で、泥臭いものを見せていくとか……。でもそんなことを言いながらも私はやっぱりズルい人間なので、週3回は投稿しようと思っていて、2回はおしゃべり、あと1回は一番数字が伸びる土曜日に、企画もの、メイク動画とか、歌ってみたとか、キャッチーなものを配信しようと思っています」。

その言葉通り1月16日(土)には「スナック来て本気でplastic love を熱唱する21歳の女」と題した動画で、アコギの演奏をバックに大まじめにノリノリで美声を披露し、でもクスッと笑えて、「この曲の良さをどうしてもみんなに知って欲しい」と曲への思いを語っている。YouTubeで表現するということについて、その意味は自身の中で変化してきているのだろうか。

「私のYouTubeを観て、幸せな気持ちになって欲しいし、寄り添える人でありたい」

「最初は自分が出したものに対して、評価されたい欲がめちゃくちゃ強かったです。それは、自分のことが好きじゃないっていうのが根底にあるので、評価されることによって自分の存在意義を認めたいし、私間違ってないって思われたいという思いからです。でも最近は何かを伝えたいというと漠然としていますが、やっぱり幸せな気持ちになって欲しいと思うし、寄り添える人でありたいと思います。代弁者にもなりたいと思うし、それはきっと自分という人間は欲深くて、愛されたいと思っているから続けているところがあるのかもそれません」。

オーディションで3000人を超える人たちの中から選ばれた、NHK朝の連続テレビ小説『おちょやん』の女給・京子役。地元・大阪での撮影ということもあり、もちろん緊張感はありつつもリラックスした中での演技は、大きな刺激になり、かけがえのない経験になった。

「言語指導や仕草の指導の先生が、高校の時の先生という奇跡があったり、昔出た映画で共演した人が一緒だったり、とても嬉しかったです。みんなファミリーになったような雰囲気の中で撮影が進んで、そんな中で“朝ドラ芝居”ってあるんだなって感じました。圧倒的に前向きで、太陽みたいなお芝居。特に私たちのカフェー「キネマ」のチームはバラエティに富んだチームだったので(笑)、ボケてつっこんでまたボケてみたいな、わりとオープンな感じでずっと楽しんでやっていました」。

『おちょやん』でのワンシーン
『おちょやん』でのワンシーン

めがね、21歳。その演技が色々な人に評価されどんどん広がっている。今後どんな女優を目指していくのだろうか。

「“めがね”という唯一無二の女優さんになりたい」
「“めがね”という唯一無二の女優さんになりたい」

「東京の大きな劇場の舞台の上で、思い切りお芝居がしたい」

「自分とはかけ離れた、新たな自分を見つれられるような役を演じたいです。『劇団ノーミーツ』でのオンライン演劇で、自分と離れた役を演じた時、気持ちを理解するのに時間がかかりました。でも自分とは違う人間性の役に触れることで、自分の中の知らない自分にちゃんと向き合えたり、新しいお芝居の見せ方に気づけたり初めて知ることが多く、ものすごくやりがいがありました。ですので、また誰かになれるなら、自分とは遠い役を演じてみたいと思います。舞台にももっと立ちたいです。東京に来て4年目ですが、まだまだ大きな舞台に立つ経験は少ないです。東京芸術劇場や帝国劇場、東京の大きな舞台の上で、思いきりお芝居がしたいと思っています。そしてこれから私が歩みたい道として、“めがね”という唯一無二の女優さんになることです。YouTubeという世界から芸能の道に飛び込んできた私は、自分で夢を叶える力は、誰しも絶対あると信じています。だからその先頭に立つ、みんなが夢を諦めない道を作れるような人間でありたいです」。

めがね オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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