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歌詞、メロディ、歌声のインパクトにハマる人続出 2021年最注目のシンガー・ソングライター優里

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

「かくれんぼ」「ドライフラワー」がヒット中

ここ数年の音楽シーンは、まずTikTokが発信源となって楽曲が話題になり、ストリーミングサービスで聴かれて世の中の流行へとなっていく傾向が強いが、2020年はそれがより強くなり、瑛人の「香水」のようなメガヒットが生まれた。「香水」だけはなく、様々なヒット曲が生まれた中で、昨年下半期、強いスポットが当たったのがシンガー・ソングライター優里(ゆうり)だ。 2019年12月に配信リリースされた「かくれんぼ」が、まずTikTokなどのSNSで広がり、注目を集めストリーミング配信を中心にロングヒットになり、2020年8月、ソニー・ミュージックレーベルズから配信シングル「ピーターパン」でメジャーデビューした。

SNSでバズる曲のポイントは歌詞のインパクト

TikTokで注目され、若い人の心を捉えヒット曲になっている作品に共通しているのは、やはり歌詞のインパクトだ。歌詞動画を始めカバー動画など二次創作動画が作られ、歌詞と映像が交錯し生まれる“感情”に共感・共鳴し、広がっていく。そこに表れたのが瑛人「香水」だった。優里の失恋ソング「かくれんぼ」も歌詞のインパクトが強い。そして「かくれんぼ」や「香水」のように、誰もが歌ってみたくなる温かさを感じさせてくれるメロディも、動画が作られやすく、それが波及し、バイラルチャートにランクインしていく。

繊細でエモーショナルな声は、強さの中にしっかりと情緒を感じさせてくれる

約2300万回再生と多くの人に観られている「かくれんぼ」のMUSIC VIDEOと、もうひとつ、彼の魅力が最大限に引き出されているのが、アーティストの“一発撮り”を切り取った人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスだ。この動画はSTAY HOME中に作られたもので、「THE HOME TAKE」として公開され、その再生回数は800万回を超えている。

これまSNSで歌を届けてきた優里が、マイク一本だけの空間で全てをさらけ出す。緊張で唾を飲む音もマイクが拾い、いかに緊張しているのかがこちらにも伝わってくる。しかしひと声発した瞬間に、もうその世界に引き込まれている。その声はどこまでも繊細でそしてエモーショナル。強さの中にしっかりと情緒を感じさせてくれる。聴き手は「君」と「僕」のストーリーを自身の中で探しながら、<小田急線>という実在するリアルな名前が出てくることで、よりピントが合ってくる。例え小田急線に乗ったことがない人でも、想像を膨らませ、そのストーリーを頭の中で映像化していく。彼の歌詞ひと言ひと言に対するアタックの強さと引くところ、そのコントラストが強い歌が、歌詞の世界をより薫り立たせる。

「かくれんぼ」のアフターストーリーを、女性目線で描いた「ドライフラワー」

そして「かくれんぼ」のアフターストーリーとなる「ドライフラワー」が10月25日に配信限定リリースされ、各配信サイトのランキングを席捲。この作品も「THE FIRST TAKE」で披露している(約832万再生(12月30日現在))。男性目線の失恋ソングの「かくれんぼ」と、その裏側にある女性の思いを映し出し、初めて女性目線で書いた「ドライフラワー」。その歌詞に「私」が登場することで、歌が「かくれんぼ」の時とは全く違う表情になる。エモーショナルな歌が、深いところで“揺れる”。それに触れたとたん聴き手は感情を揺さぶられる。「かくれんぼ」に続いて「ドライフラワー」もバズり、優里の豊かな才能が証明された。

『THE HOME TAKE』での「かくれんぼ」も『THE FIRST TAKE』の「ドライフラワー」も、シンプルなアレンジで、彼の最大の武器であるそのボーカルが際立ち、より感情移入できるので歌詞への共感度も高くなる。「かくれんぼ」もそうだったように「ドライフラワー」も歌詞が飛び込んでくる。フレーズを丁寧に紡ぎ、「君」への思いを積み重ねていく。特別新しいことをやっているわけでもなく、よくあるタイプの曲と思う人もいるかもしれないが、心象風景を描くラブソングは、少しでも違和感を感じてしまうと、聴き手の中で“物語”は崩れてしまい、その曲への熱が冷め、共感できなくなることもある。思いをひとつずつ丁寧に積みあげていくことで、その時の空気や心の温度を伝えることができる。「ドライフラワー」という言葉も、その物語の温度感と音像を表すのに、これ以上は考えられないと思わせてくれるワードだ。今までなかったタイプの楽曲であり歌だ。

丁寧な曲作りと、歌詞の行間に見え隠れする感情の機微と温度を、きちんと掬うことができる深いボーカルが優里の魅力だ。彼の歌はすでに多くの人の心を捉えているが、2021年にはさらに音楽シーンを席巻しそうな予感がする。最新曲「インフィニティ」はTVアニメ『SK∞ エスケーエイト』のエンディングテーマに決定している。

優里 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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