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コロナ禍でライヴハウスを3店開業 LD&K大谷秀政社長、大胆かつ緻密に攻め、音楽文化を守る信念を語る

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/LD&K

2020年、ライヴハウスを3店舗オープンさせる

LD&K。どこか心地よさそうな響きを感じる社名だ。ガガガSP、かりゆし58、打首獄門同好会、日食なつこ、湯木慧等、アーティストのマネージメント、レコードレーベル運営、宇田川カフェを始め全国で24店舗を展開する飲食事業、そしてライヴハウスを7か所経営するなど、様々な事業を手掛ける“何処よりも自由なエンタテイメント創造集団”だ。その集団を率いるのが大谷秀政社長だ。コロナ禍で多くの企業がそうだったように、音楽と飲食業を事業の核としているLD&Kも大打撃を受け、売上げが激減した。しかしそんなニュースよりも我々の元に届くのは、同社によるライヴハウス新規オープンラッシュという“攻めている”ニュースだった。7月末に横浜に「1000 CLUB(サウザンドクラブ)」、11月には福岡市にライブハウスとカフェバーを併設した「天国と秘密」、さらに12月19日は下北沢のライヴハウスGARDENの跡地に「下北沢シャングリラ」をオープンさせた。なぜ今出店ラッシュなのか大谷氏にその狙いと、ビジネスをするの上での流儀を聞いた。

「この時期にライヴハウスを増やすなんて、頭がおかしいんじゃないの?と言われますが、なぜそう言われるのかがよくわらない(笑)」

1000CLUB(横浜)
1000CLUB(横浜)

大谷 我々は音楽事業をトータルでやっています。昔から360度でビジネス展開していて、レコード会社をやりつつマネージメント事務所もやって、制作から販売、宣伝まで全てやっています。そう考えるとライヴハウスを増やすというのは既定路線です。CDが売れなくなって、ライヴのマーケットが大きくなっていくのだから、ライヴハウスを増やすというのは当然の経営判断で、『この時期にライヴハウスを増やすのって頭おかしいんじゃないか』とか言われることがありますが(笑)、逆になぜそう言われるのかがよくわからなくて(笑)。これからこの状況がどうなるかは誰にもわからなくて、新しい生活様式ということが叫ばれていますが、今の状況を見ていると、元の形に戻ろうとする流れが強いと思います。スポーツやイベントもガイドラインではキャパシティの半分とか、5000人までとかになっていますが、誰もそのままでやっていこうとは思っていないわけで。ワクチンの接種が始まったりしてここ1~2年で元に戻る前提で動いています。そう考えるとみんな、少しそそっかしいのでは?と思ったりもして。我々は渋谷で店舗とライヴハウスをいくつか経営していて、本社も渋谷で、オリンピック前の景気の上昇を目の当たりにしてきました。渋谷は再開発が進んで、家賃がここ数年で1.5倍くらいになっています。オリンピックの余波です。人材不足、工事費も高いこともあって出店を控えていました。LD&Kは昨年25周年でしたが、僕が大学を卒業してすぐ起業して、来年で30周年で、創業はバブル崩壊の年でした。世の中の流れは何回も同じこと繰り返していて、こういう状況がわかっていたので、とにかく出店を止めていました。そもそもオリンピックが終われば景気が悪くなると思っていたので、状況が変わってきたらお店を出そうと考えていました。そうしたらオリンピックの前にコロナで不況になってしまったので、出店時期が早まったということです。人は余り、家賃も下がり、出店する好条件が整ってきています。

「元々不況待ちだった。そのタイミングが早くきただけ」

――悪条件の中では無理に動かず、その分の資金をプールしていて、それが今強さを発揮しているという感じですか?

大谷 そうですね、それが非常に強みとなって、尚かつ金融機関が金融緩和をしているので、出店ができる環境が整ってきているというわけです。コロナだから変わったわけではなく、元々不況待ちだったのが、そのタイミングが早くやってきて、実行に移す時期が早まっただけです。

「福岡に『天国と秘密』をオープンしたのは新人開発が主な目的」

天国(福岡)
天国(福岡)

――福岡の「天国と秘密」も既定路線だった、と。

大谷 そうです。15年くらい前に一度場所を探しに行きました。沖縄では「桜坂セントラル」というライヴハウスをやっていますが、昔からミュージックタウンである福岡にライヴハウスを持って、新人開発に力を入れたかったんです。うちは「TOKYO CALLING」や、サーキットイベントを全国でやっていますが、それも新人の発掘と確保が目的という面が大きいです。福岡から東京にライヴをやりに行くのはやっぱり大変で、だったらこちらから出向こうと。ライブハウスを作って、でもそこまで大きいものではなくて、新人がやってもある程度形になるような規模にして、ということをやらなければなかなかリアルな新人開発はできないと思いました。

秘密(福岡)
秘密(福岡)

「いつも、音楽がある場所を作るということを考えながら、店を作ってきた」

――すべては音楽のためにということが、貫かれています。

大谷 そもそも音楽が使われている、音楽が聴ける環境というのはライヴハウスだけではなくて、音楽を広めていく環境って色々な場所があると思っていて。カフェもそうです。音楽がある場所を作るということを、いつも考えながらお店を作ってきました。だから最初から360度ビジネスなんです。やっぱり音楽業界というのは非常に無駄が多い業界なので、常々もっとミニマムにできるのでは?と思っていて。昔、不況になって、例えば3万枚くらいしか売れないからと、アーティストがレコード会社から契約を打ち切られたりして、その時3万枚で成立する仕組みを作ればいいのにって思いました。そうしないとクラシックやジャズはCDを出せないということになるわけで。音楽文化を潰してはいけないし、自分でずっとやってきて思いますが、1万枚でも成立させようと思ったらできるんですよ。

――仕組みというか考え方のアップデートが追いついていない業界、という感じですか?

大谷 うちも日々進化し続けなければいけなくて、例えば今年「サブスクLIVE」という配信のプラットホームを作ったり、「wefan」というクラウドファンディングの仕組みを作りました。これは音楽に関わっている人が、ちゃんと音楽を続けられる仕組みをどう作るかということを、ずっと考えてきたからです。そこまでやらなくて、じゃあ合わないからやめるという人たちばかりで、そうやってしがらみにとらわれている間に、結局IT企業に持っていかれてしまっています。イノベーションが進んでいるのに、なんで乗っからないんだろうってずっと思っています。

「ミニマムなところでどう音楽文化を作るかを追求してきた」

――大谷さんは、日ごろからあまり大きな会社にしたくないとおっしゃっていますよね。

大谷 時代がどんどん変わっていくので、大きな図体だと動けなくなりますよね。そもそもレコード会社の仕組みがおかしいというところから始まっている会社なので、先ほども出てきましたが、ミニマムなところでどうやって音楽文化を作るかということを追求してきました。だから規模が大きくなることに全く興味がないです。レコード会社の経営陣とかに『大谷さんはいつも楽しそうでいいですね』と言われますが、どう考えても僕が一番楽しんでいると思いますよ(笑)。

「ライヴハウスをオープンさせる時は、現場の人間の判断に任せる」

下北沢シャングリラ
下北沢シャングリラ

――11月の福岡に続いて、12月19日は下北沢シャングリラをオープンさせました

大谷 下北沢にはうちのカフェ(「Propaganda」)もあって、元々興味がある街だったので、お話を頂いた時は即決しました。ライヴハウスをオープンさせる時はいつも、僕がというよりも、現場の人間が興味をもって、やる気があるのであれば、決めます。

――LD&Kは現在社員とアルバイトを含めると400人くらいいらっしゃるとお聞きしましたが、みなさん大谷さんのブログで、新規事業が始まるということを知ることが多いというのは本当でしょうか?コロナ禍の中でブログに書かれた<スタッフに告ぐ>という檄文は、外の人間ですがグッときました。

大谷 みんなに言うのもめんどくさいので(笑)、SNSが便利です。新しいことはほとんど僕の思いつきでやっているので、カフェを始めた時も「どうやらカフェがオープンするらしい」とか、ライヴハウスの件も「えー!」みたいな感じで、一般の人達と同じタイミングで知って「うちってすげー!」みたいな感じになっているようです(笑)。でもSNSがあるおかげで、僕が何をやるかとか、何を考えているのかが一瞬でわかるようになったので、すごく楽になりましたという人が増えているのも事実です。

「仕事はやらせるのではなく、やりたいと言った人にやらせる、以上。という感じです」

――“何処よりも自由なエンタテイメント創造集団”という会社のキャッチフレーズがありますが、その集団を構成するスタッフに求めることを教えて下さい。音楽事業にはこういうタイプ、飲食事業にはこういうタイプの人が向いているという判断基準があるのでしょうか?

大谷 僕は社員旅行の係で(笑)、手配から全て自分でやっているので面接の時に、この人と一緒に旅行に行ったら楽しいかな、というのが採用する基準です(笑)。でもそれってコミュニケーションできるかできないかということにつながるので、大切な部分です。仕事においては、やりたいって言った人がやる、そこだけです。お店も、店長にもそうですが、やれとは言いません。やりたいって言う人がいたら、店を増やす。そうじゃないと、やらせている感が出てしまうと、頑張らなくなってしまいます。まだ店舗が少なかった時は、全ての権限を店長に委ねていました。店長が思うようにやっていので、下の人間はそれが羨ましくなってきます。そうなると僕も店長やりたいです、という人が増えます。飲食業は特にそうですが、自分で店を持ちたいという人が多いので、希望を叶えてあげないと辞めてしまうことも多いです。でも僕はそれが寂しくて。なぜならその人が好きだから雇っているからです。好きな人に囲まれて、毎日生きていきたいじゃないですか。だから希望を叶えてあげるということは店が増えていくということです。うちは年度予算とか目標設定とか一切なくて、やりたい人がいたらやらせる、以上。みたいな感じです。だからやりたいって言った人はやめない、ということです。自分の店だという意識が高くなって責任感が生まれます。今うちがやっている「KPDS」というK-POPダンススタジオがバズっていますが、そこの責任者も、自分もK-POPダンス習いに行っているので、ダンススタジオを是非やりたいですというので、物件探しから全部任せて、僕は契約書にハンコを押しただけです。でももう9年も続いています。

――やりたいといった人に全幅の信頼を置くことからビジネスが始まっているんですね。

大谷 面倒くさいことは任せて、いかにノーストレスで生きるか、です(笑)。何かあったら責任は持つからあとはよろしくという感じです。だって僕なんて何もできないですから。

――決断がとにかく早いです。

大谷 時間の無駄なので(笑)、返事は秒です。悩んでも無駄です。

「みなさんに『え、なにこれ?』って言われて、面白がってもらえれば、それでいいんですよ」

――大谷さんの中心にある音楽の部分で、そのアーティストと契約するかしないか、一番大切にしているところはどこですか?

大谷 うちのレーベルは40歳まで僕がA&Rもやっていました。やっぱり曲がちゃんと作れる人と、良くも悪くも何かしらに秀でている人ですよね。よく言っているのは、歌詞というのは人に手紙を書くスタンスで書いて欲しいということです。やっぱり「君」と「僕」ということにならないと、聴き手には響かないと思います。

――簡単な言葉になってしまいますが、いい意味でひと筋縄ではいかない、超個性的な才能を持ったアーティストが多いですよね。湯木慧さんにはよくインタビューさせていただいています。

大谷 湯木慧は僕がYouTubeで見つけて連絡をとって、うちのカフェに来てもらって、怪しいおじさんじゃないよっていう話をしながら(笑)、色々聞いてみると、メジャー2社から声をかけてもらっているけど、先方は若い女子だからとうことで、キャピキャピした音楽をやって欲しいと言っていると。本人的にはそれがとにかく嫌で、でも僕はコミュニケーションが苦手とか、あまり人のことが信じられないとか、どちらかというと内向きなファンに受けるようなシンガー・ソングライターを探していました。だから彼女には「全く媚びる必要はない」と言いました。「今のままのダークな世界を描いた曲の方がいい」というと、「そんなこと言ってくれる人、初めてです」と言うので、じゃあうちでやってみない?ということになりました。最初からど真ん中をいくような音楽をやっても、うちみたいな会社でそんなに売れるわけがないので、人がやっていないところを狙わないとダメだと思います。サブカルと思っていたものがいつの間にかメインカルチャーになっているので、その次を狙わなければいけません。例えばここ(「Café Bohemia」)のコーヒーはむちゃくちゃ濃くて、ど真ん中の美味しいコーヒーは巨大チェーン店にお任せして、うちは、煮詰まっているんじゃないかというくらいの濃いコーヒーでいいんです。いつも3〜5%の人を相手にしてると思っているので、だからお誘いいただいても駅ビルには出店したくなくて。偉そうではなく、万人受けするお店をやるつもりがないんです。渋谷の商圏人口は1000万人にもなるらしく、それは神奈川、千葉、埼玉とかから来る人もいるので、合わせると1000万人くらいで、そのうちの3〜5%というと30〜50万人を相手にしていると思っています。お店って、それでいいじゃないですか。僕はそういうお店が渋谷にはいっぱいあった方が、街は絶対楽しいと思います。もっとマニアックな店、訳のわからない趣味のお店がいっぱいあった方が、絶対面白いです。万人受けするお店が出てくると街は面白くなくなります。どこも同じような街になってしまって、それが嫌なんです。3~5%の人を相手にする店が100とか200あった方が、絶対面白いし、渋谷はそうあって欲しいと思うし、うちくらいはそこで争ってやろうと思って。僕が目指しているのは、みなさんに「え、なにこれ?」って言われて、面白がってもらえれば、それでいいんですよ。

【「下北沢シャングリラ」オープンの際の大谷社長のコメント】

人よんで「夜カフェの帝王」「渋谷の黒豹」「リアル・グレイテストショーマン」「生けるパワースポット」「褌先生」などと言われて来ましたが、呼び名に恥じぬ様、次は下北沢で一番大きなハコをやります。元ガーデン跡地を「下北沢シャングリラ」として今年年末オープンさせます。

大阪の「梅田シャングリラ」の15周年記念事業になり姉妹店となります。

両店共に、また弊社LD&Kを引き続きよろしくお願い致します。「DJ皆殺し」よりw。

LD&K オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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