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爆笑浪曲で注目、玉川太福「浅草芸能大賞 新人賞」受賞 浪曲界をアップデートする熱狂者の現在地

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

「第37回浅草芸能大賞 新人賞」に輝く。浪曲師としては25年ぶりの受賞

浪曲の世界で「伝統」をしっかりと継承しつつ、そこに「今」を強烈に息づかせ、まさに“型破り”な芸で新たなファンの開拓を担う若手浪曲師・玉川太福。ここ数年、その口演を楽しむために会場に足を運ぶ若い人が増えている。もちろん若い人だけではない。これまでは一部の熱心なファンに支え、愛されてきた浪曲だが、今では老若男女が太福の「地べたの二人」シリーズを始めとする新しい浪曲を楽しみにしている。浪曲を知らない人にどう楽しんでもらうのかを活動の柱にし、2018年には初のCD『浪曲 玉川太福の世界 古典編』と『~新作編』を発売し、注目を集めた。あれから2年が経ち、太福は今どのような思いで活動をしているのか、久々に話を聞かせてもらった。

玉川太福の最近の活躍ぶりがわかるシーンがあった。12月12日、太福は浅草公会堂のステージに立っていた。「第37回浅草芸能大賞 新人賞」を受賞したのだ。その授賞式に、大賞を受賞した女優・天海祐希、奨励賞を受賞した爆笑問題と共に登場しスピーチをした。

「この度はこのような栄えある賞をいただき、ありがとうございます。ここから目と鼻の先にある浪曲の定席小屋で浪曲の定席が始まって今年で50周年。そしてこの賞を浪曲師が受賞したのは今から25年前、国本武春という大先輩でした。武春師匠が亡くなられて5年、そして浪曲の定席が始まって50周年という節目のような時にこの賞をいただけたのは浪曲界全体にいただけたことだと思っています。そんな気持ちでこれからも頑張っていきたいと思います。浪曲界全体にいただいた賞ですので、この目録(賞金)は全て私の生活費として使わせていただきます」と堂々とスピーチすると、マスク越しの“静かな爆笑”が客席から起っていた。

「浪曲そのものにいただけた賞。これから私自身も含めて、もっと知名度を上げなければいけない」

「文化庁の賞(第72回文化庁芸術祭・大衆芸能部門新人賞受賞)も嬉しかったですけど、今回の賞は、演芸だけではなく、広く一般芸能人という枠の中から選ばれるものなので、また違う意味合いがあるというか。私以外メジャーな方しか並んでいませんでしたので、もうちょっと中間くらいの知名度の人がいてくれたら、私も傷付かなくて済んだのに(笑)。でも凄い方と並ばせていただいて光栄でした」。

授賞式では口演も披露、20分という短い時間の中で浪曲の魅力をギュッと凝縮して伝えていた。講談と落語は壇上で座って演じるのに対し、浪曲は演者が立った状態で語るという、浪曲のスタイルからわかりやすく説明し、大人気の『地べたの二人』シリーズから「おかず交換」を披露。会社の先輩・後輩、「サイトウさん」と「カナイくん」がお弁当のおかずを交換する様子を描いた作品で、日常の些細な出来事が“唸る”という行為と三味線とで非日常になり、浪曲が極上のエンターテインメントだということを教えてくれた。ここでも“静かな爆笑”と共に、惜しみない大きな拍手が送られた。

「今回の受賞者の中では、私はそこまでガツンと世の中に出てるわけではありませんし、浪曲全体はまだ厳しい状況でありますが、神田伯山さんの登場によって盛り上がっている講談に引っ張られるように、今キていますので、浪曲そのものにいただけた賞だと心から思っています。5年、10年経った時にこの並びの中で恥ずかしくないような存在になっていなければと思うのと同時に、浪曲自体の知名度もそうならなければいけないと思っています」。

全ては浪曲のために

2018年、先述したCD2枚の発売を機にメディアへの露出も増え、浪曲普及活動を熱心に行ってきた。この2年間の浪曲への、自身への光の当たり方はどうだったのだろうか。

『浪曲 玉川太福の世界 古典編』
『浪曲 玉川太福の世界 古典編』

『浪曲 玉川太福の世界 新作編』
『浪曲 玉川太福の世界 新作編』

「去年の4月からラジオパーソナリティ(『ON THE PLANET』(JFN系列)をやらせていただいたり、『笑点』にも呼んでいただきました。めちゃくちゃ地上波に出ているわけではないのですが、テレ朝動画さんで、自分が柱になっている『WAGEI』という番組もやらせていただくなど、メディアでのお仕事もグンと広がりました。CDをリリースさせていただいたのも浪曲師としては何十年かぶりのことでしたし、今回の「浅草演大賞」も浪曲師としては25年ぶりということで、そうした状況を代表して“請け負わせて”もらっている状況です。浪曲の演者も年齢層が下がってきています。やっぱり同世代がやっていると、単純に共感しやすかったり入りやすかったりすると思います。芸が若返ってきて善し悪しはあるとは思いますが、若い層や女性のお客様が来て下さって、昔の木馬亭の風景とはちょっと違う感じになってきているのは事実です。でも盛り上がってきている中で、こういう状況(コロナ禍)になってしまって。それでも浪曲は笑いだけではなく音楽的要素が強い芸なので、配信でもその面白さは伝えられると思います。とはいえ、私の芸は、特にお客さんと一緒に作っていく、空気を共有したい芸なので、それがないというのは本当に寂しいし、極端にいえば生きていて虚しいというか。舞台の上に立ってお客さんに喜んでもらう以上の喜びって生活の中ではないですから。自粛期間中はこの10年で一番というくらい練習したのに、6月1日に久しぶりにお客さんの前でやった時は、覚悟はしていましたが本当に下手になっていて(笑)。無観客の方がまだうまくできたのでは?と思うくらいお客さんがいる状況に本当に戸惑ってしまって。でもあの時の嬉しかった気持ちは一生忘れないと思います。キャリアのある師匠方は、若手時代にガラガラだった時代も経験していらっしゃるので、インタビューとかを読むと、“これくらい仕事がなかったりお客さんが来なかった時代も全然あるから、稽古していればいいんだ”と、スッと切り替えられた方もたくさんいらっしゃったみたいで、そこはすごいなって思いました」。

話題の創作話芸ユニット「ソーゾーシー」として、全国ツアーを行なう

現在、太福が注力しているのが落語家の春風亭昇々、瀧川鯉八、立川吉笑との4人による創作話芸ユニット「ソーゾーシー」の活動だ。

ソーゾーシーのメンバー、左から立川吉笑、瀧川鯉八、春風亭昇々、玉川太福(Photo/エリザベス宮地)
ソーゾーシーのメンバー、左から立川吉笑、瀧川鯉八、春風亭昇々、玉川太福(Photo/エリザベス宮地)

「2017年に結成して以来、年に何回かネタおろしを共有する場でしたが、昨年はみなさんがクラウンドファンディングに協力してくださり全国ツアー(5か所)を行なうことができて、ソーゾーシーとして一つ階段を上がれたというか、別の一体感が出ました。3人とは顔見知りではありましたが、そんなに仲がよかったという感じではなく、シブラク( 渋谷らくご )で顔を合わせる程度でしたが、ある日昇々さんからお誘いの連絡をいただき、ふたつ返事で合流しました。今年は9月から全国15か所を周るツアーをスタートしています。今回もクラウドファンディングで支援金を募り、実現させることができました。新しいネタを作って15か所回ることの意味を感じながら、山あり谷あり、すごく刺激的です。今年はツアーが本当にできるのか、やってもいいのかという葛藤もありましたが、みなさんが背中を押してくださいました。昨年は割と馴染みがある土地での公演が多かったのですが、今回は自分が行ったことがない土地が多くて、初めましてのお客さんに作りたてホヤホヤのネタをやるという挑戦でした。でもありがたいことに、毎回新しい町ほどこちらが思っていた以上に反応があって、喜んでいただけているという手応えがありました。お客さんも、5月に真打ちに昇進した鯉八師匠のお祝いがしたい!という方も多いようです(笑)。私を含めて全員まだ若手だと思っていますが、披露する新作については、『若手が頑張ってます』ではないものを披露していかなければ、ソーゾーシーというものの価値が下がってしまうと思っています」。

エリザベス宮地がメガホンを取り、全国を周る4人のリアルな姿、表情を余すことなく捉えているドキュメンタリー映画『ソーゾーシーTOUR2019ドキュメンタリー「高座から愛を込めて」』も公開予定だ。

Photo/エリザベス宮地
Photo/エリザベス宮地

「みんな毎回ネタおろしでいっぱいいっぱいなので、楽屋でもそんなにしゃべらないですし、それこそお互いのネタすら順番によっては聞けないこともありました。移動や食事、舞台以外のところを共有する中で、単純にそれぞれの人柄に惹かれ、距離が縮まっていくということも財産だなと思います。もちろん馴れ合いになってしまってはユニットとしての魅力がなくなってしまうので、舞台上でバチバチやっていた方が理想的だと思っています。でもツアーはお互いのことを心配したり、誰かのために頑張ろうという気持ちがないとできないと思います。来年はどうなるかわかりませんが、そういう意味での絆が深まって、よりソーゾーシーとして大きなムーブメントが起こせるようなものを4人で作っていきたいです」。

「現状では100点を出そうという気持ちが強かったが、200点、500点を目指さないと上のステージにはいけない」

来年の話がでたところで、もう少し野望や希望を教えてください、というと、話は再び「浅草演芸大賞」の授賞式の話になり――「あの舞台に立てたことは光栄で嬉しかったのですが、あの日の様子を伝える情報番組やワイドショーでは、新人賞ということもあると思いますが僕の出演部分がばっさりカットされていまして(笑)。逆にまだまだ頑張らなければと気合が入りました。現状の中で100点を出そうという気持ちが強かったと思うので、120点、200点、500点のものを目指さないと、もっと上の、違うステージにはいけないと思いました。映画「男はつらいよ」を浪曲にする“浪曲寅さん”や新作浪曲、今までやってきたことは突きつめつつ、その延長線上にはないような思い切った大胆なこと、玉川太福という新しい色で、扉を開けたいと強く思っています」。

浪曲のよさは自由であること。だから進化しながら、形を変えながら時代を生き抜いてきた。今その世界に玉川太福という熱狂者が現れ、その圧倒的な熱が大きな波となり、浪曲という伝統芸をアップデートすることに成功している。さらに表現の幅を広げるべく、精力的に活動を続ける玉川太福の動きに注目したい。

otonano『浪曲 玉川太福の世界』特設ページ

otonano『来福レーベル』特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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