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Wakana  待望の“アニクラ”コンサートで響かせた、歌への情熱「人生の中でNo.1の思い出」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/大川晋司

約一年振りの有観客コンサートは、1966カルテットとの“アニクラ”コンサート

Wakanaの歌声が、美しい音響を誇る紀尾井ホールの隅々にまで響き渡り、1966カルテットが弾き出す弦とピアノの音と、そして客席の拍手と“響鳴”し、感動が会場を包んだ――Wakanaとクラシックのテクニックを駆使した洋楽カバーを演奏し、海外でも高い評価を得ている女性4人組・1966カルテットとの「Wakana Anime Classic 2020」が12月22日、紀尾井ホールで行われ、約一年振りの有観客ライヴとなったWakanaは歌える喜びをかみしめながら、一夜限りのスペシャルな夜をファンと共に楽しんだ。

会場のエントランスを入ると美しい花達が出迎えてくれ、ステージにも草木と花達が装飾され、さらに客席にはフラワーコサージュが置かれ、ファンはそれを胸のポケットに差したり、思い思いのところに付けて、まさに華やかなショウの幕開けを待つばかりだ。

『Wakana Covers〜Anime Classics〜』(12月9日発売/通常盤)
『Wakana Covers〜Anime Classics〜』(12月9日発売/通常盤)

昨年ソロデビューしたWakanaは今年、2月26日に2ndアルバム『magic moment』をリリース。3月にはライヴを予定していたが、新型コロナウイルスの影響で2021年4月に延期に。しかし12月9日にはカバーアルバム『Wakana Covers〜Anime Classics〜』をリリース。様々なアニメ楽曲をストリングスとピアノのクラシカルなアレンジで表現し、歌うことを決してやめなかった。そして歌を直接届けたいという思いが結実したのが、この日のライヴだ。

溢れるジブリ愛

1966カルテットのメンバー、松浦梨沙(V)、花井悠希(V)、伊藤利英子(Ce)、増田みのり(P)に続いて、白いロングドレスのWakanaが大きな拍手に迎えられ登場。オープニングナンバーは『Wakana Covers〜Anime Classics〜』の1曲目でもある「時には昔の話を」だ。Wakanaが「大好き」と公言しているスタジオジブリ作品『紅の豚』で、加藤登紀子が歌った名曲を、ひと言ひと言を慈しむように、そして一人ひとりに語りかけるように歌った。Wakanaの歌は高音部の美しさは言わずもがなだが、この曲では低音部の美しさが印象的だ。そして同じくジブリ映画『魔女の宅急便』から、荒井由実「やさしさに包まれたなら」は温かで伸びのあるボーカルで、まさに会場を優しさで包んでくれた。

「今日という日をドキドキしながら迎えました」

「本当にライヴができるのか、今日という日をドキドキしながら迎えましたが、皆さんのお顔を見ることできて嬉しいです」と笑顔で語り、カバーアルバムには収録されていないが「大好きな曲」の『風の谷のナウシカ』を披露。松本隆の詞の世界観とステージの草木と花達、そして1966カルテットが作り出す澄んだ音がマッチして、歌が更に輝きを増す。続いて、新海誠作品『言の葉の庭』から「Rain」を歌った。大江千里の名曲を、秦基博がカバーしたものが映画の主題歌として使われていた。人懐っこいメロディが印象的な、男性目線の歌詞を抜群の表現力で届けてくれた。ディズニーアニメ『トイ・ストーリー2』から「When She Loved Me」さらに、「もののけ姫」を圧巻の歌声で届ける。彼女の楽曲への深い愛が伝わってくる。

1966カルテットのリーダー・松浦と、レコーディングやライヴのリハーサルでのやりとりを明かして、客席からマスク越しに“静かな”笑いが起きる。そして第一部最後はジブリ映画『天空の城ラピュタ』の主題歌「君をのせて」だ。松浦が手がけたドラマティックなアレンジに乗せ、パワフルかつ繊細な歌を響かせていた。

「Kalafinaとしての10年間はあっという間だったけど、たくさんの時が詰まっている」

20分間の休憩をはさみ、まず黒の衣装に着替えた1966カルテットが登場し、Wakanaは肩にフラワーコサージュを着け、花があしらわれた艶やかなロングドレスで登場。第二部の幕開けはKalafina時代のアニメソング「傷跡」「未来」を披露。「傷跡」では1966カルテットが作り出す音像が、歌の輪郭をよりハッキリとさせる。ポップな「未来」ではハッピーな空気を客席に送り、MCでKafalinaとしての10年間を振り返っていた。「10年間あっという間だったけどたくさんの時が詰まっています。毎日色々な発見があって勉強にもなったし、たくさんの経験をさせてもらった。時が経つにつれ、音楽が私を励ましてくれることがたくさんあったと気付かせてくれました。歌うことは難しいことじゃないと、改めて教えてくれた曲を歌います」と、斉藤和義「歌うたいのバラッド」(『夜告げるルーのうた』)を歌った。序盤はピアノとチェロのみのアレンジで歌がひと際立ち、ヴァイオリンが重なり、優しくそして徐々に熱を帯びてきた力強いボーカルが会場を包む。

「Get Wild」「愛にできることはまだあるかい」等、アニメの名曲=ポップスの名曲を、豊かな表現力で自分色に染める

1966カルテット共にレコーディングをしたTM NETWORK「Get Wild」(『シティーハンター』)では、ビートルズなどのUKロックをメインに、アップテンポの曲を力強く演奏しつつクラシカルに変換させる、彼女達の真骨頂とでもいうべきプレイが炸裂。その演奏に乗せ、言葉数が多く起伏が激しいこの曲を、豊かな表現力でWakanaカラーに染めた。「この曲はレコーディングで1966カルテットの演奏に、女性ならではの華やかさ、繊細と共にすごく力強さを感じて、歌い方が変わりました」と語っていた。そして新海監督の最新作『天気の子』の主題歌で、RADWIMPS・野田洋次郎の「愛にできることはまだあるかい」を歌う前に、「こんなにストレートに、胸に語りかけてくれる言葉があるんだと感動しました」と語り、ひと言ひと言を丁寧に紡ぐように、情感豊かに歌った。「私が皆さんから元気をいただいています」と語り、本編最後は「子供の頃に観て、今でも大好きな映画」『ドラえもん のび太のドラビアンナイト』(1991年)の主題歌で、白鳥英美子が歌った「夢のゆくえ」だ。優しいメロディが印象的なこの曲を歌い終わると、客席から大きな拍手が送られ、2階からも降り注がれるように拍手が響き、彼女は愛おしそうにそれを全身で受け取っていた

「来年は音楽で楽しい気持ちになれるように、たくさんの音楽を届けたい」

もちろんこれで終わらない。アンコールは1966カルテットがクイーンの「Radio Ga Ga」をアグレッシブに、ドラマティックに演奏。1966カルテットは今年10周年を迎え、チェロの伊藤利英子が新加入し、新体制でのライヴはこの日が初めてだった。Wakanaは鮮やかな黄色のドレスに着替え、登場。シンガー・Wakanaの存在証明を、強い意志と共に明らかにした大切な2ndアルバム「magic moment」のタイトル曲でもある「magic moment」を、伸びやかな歌で届ける。歌の余韻を弦の音が掬い、感動が広がっていく。「みなさんさんからへの愛が溢れ出ているコンサートになったと感じています。今日のコンサートが、みなさんの2020年の楽しい思い出のひとつになっていたら嬉しいです。私は全人生の中でNo.1の思い出になりました」と感謝の思いを伝え「カントリー・ロード」(映画『耳をすませば』)を披露。その歌が“希望”へと続く道になる――そんな感覚を感じさせてくれる名演だった。最後にマイクを置き、涙をこらえながら「来年は音楽で楽しい気持ちになれるように、たくさんの音楽を届けたい。必ずまた会いましょう」とメッセージを送り、ステージを後にした。

華やかで優美な雰囲気の中で、1966カルテットのアンサンブルとWakanaの歌がひとつになってしなやかなグルーヴが生まれ、歌がより深く伝わってきて、同時に音楽の楽しさを改めて感じさせてくれた素晴らしい時間だった。なおこの日のライヴは、一部の曲でAR技術を駆使した3Dフラワー演出を施した映像と共に生配信され、12月30日(水)18:00までアーカイブ視聴が可能だ(アンコール以外の1部、2部のみの配信)。

BSフジ『Wakana Anime Classic 2020』オフィシャルサイト

Wakanaオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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