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FLOWER FLOWER 新体制で配信ライヴ開催 yuiのリアルな歌が響き渡った感動の75分  

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

中止になった全国ツアー「インコのhave a nice dayツアー2020」を再現する配信ライブを、東京・キネマ倶楽部開催

FLOWER FLOWERが12月1日、コロナウイルス感染拡大の影響で中止になった全国ツアー「インコのhave a nice dayツアー2020」を再現する配信ライブ「~-Streaming Live-」を、東京・キネマ倶楽部で行なった。今年3月にリリースした2年ぶりの3rdアルバム『ターゲット』からの楽曲を中心に14曲を披露した。

この一か月前、11月1日にメンバーの脱退が発表され、ファンの間に激震が走った。しかし“新体制”として、サポートメンバーと共にライヴを行なうこともアナウンスされ、ファンはどんなライヴになるのか大きな期待と少しの不安の中で、この日を待っていた。そのサポートメンバーは、Chara、ポルノグラフィティ、秦基博他数多くのアーティストのレコーディング、ライヴに参加してきた名手・皆川真人という強力な助っ人が駆け付けた。

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歪んだギターの音が開演の合図だ。オープニングナンバーは「夢」。この曲のMUSIC VIDEOはビビッドな花の世界観が美しかったが、この日のステージも花で埋め尽くされていた。いい薫りが漂っていそうなステージ上では、sacchanのドラム、mafumafuのベースの鉄壁リズム隊が太い、いい薫りのする音を放ち、さらに疾走感が増す。紙吹雪が舞ってきたが、皆川の鍵盤の音が、この紙吹雪のようにサウンド全体に彩りを与える。そんな中で<追いかけてみなきゃ わからないこともあるでしょ>というyuiの言葉が熱を帯びて伝わってくる。キーボードの音が温もりを運んでくる「砂浜」は、軽やかなバンドサウンドがカラッとした空気を生み、そこにyuiの歌が乗るとハッピーオーラが生まれる。

MAFUMAFU(B)
MAFUMAFU(B)
succhan(Dr)
succhan(Dr)
皆川真人(Key)
皆川真人(Key)

ここで“皆ちん”こと皆川真人を紹介。mafumafuのベースが太いリズムを刻む「蜜」では、yuiはギターを持たずにスタンドマイクで歌い、続く「Sunday」ではハンドマイクで、歌をしっかり“伝える”。ドラマティックかつスリリングな展開のこの曲は、バンドの演奏も熱を帯び、ベースがまさに唸り、歌と相まってエキセントリックな空気を作り上げていた。一転してピアノの穏やかな音色から始まったのは「人魚」だ。なんともいえない孤独感を感じさせてくれる歌詞を、切々と歌うyuiの声が震える。感極まっているようだ。歌がさらに生々しくなり心に響く。yuiのアコギがメロディを奏でる「愛のうた」は、しっとりと柔らかな肌触りの歌が、そのメッセージと共に“強く”伝わってくる。

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yuiが「言い訳をさせて下さい。思いが溢れて((人魚」の)途中で声が出なくなってしまって。大切な曲なのでちゃんと歌いたいなと思っていたら歌えなくて……言い訳にならないですね」と語ると、メンバーに「助けて」と救いを求め、すかさずmafumafuが「深呼吸してみよう」と助け船を出す。穏やかな空気がステージ上を包む。「青春時代に聴いた音楽は体に染みついていて、そんな曲へのいたずら心を歌った曲」と彼女が10代、20代の頃レッチリやWEEZERと共によく聴いていたというベン・フォールズ・ファイヴの音楽を思い、書いた「ベン」のイントロが始まる。おもちゃのギターが手渡され、それを持ったyuiがステージ狭しとまさに暴れまわる。跳ねるピアノが心地いいこの曲では、yuiの気持ちも跳ねるようだ。最後は「音楽ありがとう」と、自身の血となり肉となっているアーティストと音楽に感謝の言葉を贈った。

ミゾベリョウ
ミゾベリョウ
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ここで昨年、相鉄線都心直通を記念するCMムービー「100 YEARS TRAIN」で共演したことがきっかけでアルバム『ターゲット』でコラボレーションしたodolのミゾベリョウが登場し「ふたり」と「熱いアイツ」を初披露。「ふたり」はクールな雰囲気で歌詞は艶っぽく、二人の相性抜群の声がしなやかに重なる。チャイナ・ファンクとでもいうべき「熱いアイツ」ではミゾベのハイトーンボーカルが炸裂。ミゾベは「この曲のレコーディングの時スタジオでyuiさんが中華の出前を食べていて、歌詞に小籠包が出てきて、『ふたり』にはチョコレートが出てくるし、食べ物シリーズのアルバムかと思いました」と制作秘話を明かしていた。

「もう誰も死なないで。置いていかないで。悲しいでしょ」

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「『ターゲット』の中で一番激しい曲です」とスタートした「浄化」は、凄腕のメンバーが揃うこのバンドの真骨頂である、圧倒的なテクニックから繰り出す変態的で強烈な音とyuiのボーカルがひとつになって、唯一無二のバンドアンサンブルが生まれる。全員がセッションを楽しんでいるようだ。このバンドのテーマソングとでもいうべき位置づけの「旅の途中」も、ドラムの激しいリズムとピアノの連打が印象的な、プレイヤビリティが炸裂している一曲だ。本編ラストは「朝」だ。ピアノの優しい音色がイントロを奏でる。yuiが「もう誰も死なないで。置いていかないで。悲しいでしょ」とメッセージし、ピアノだけで歌い始める。アルバム『ターゲット』でも最後に置かれているこの曲は、柔らかだが、yuiが絶対に“言わなければいけない”言葉、その母性が言葉に溢れ出ている強く、深い歌だ。感極まり、言葉に詰まるyui。感動が広がる。現在のyuiの生活感や生活のリズムが、メロディや言葉に色濃くリンクしているアルバムだからこそ、こんなにもリアルな歌になる。2番からはバンドの音が乗り、歌に寄り添う。このバンドと共に“本当”を追い続けるyuiの、そしてメンバーの姿が眩しい。

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アンコールは、アルバム『ターゲット』の空気感とはまた違う、ナチュラルで軽やかな空気感を放っている最新シングル「はなうた」からスタート。yuiがこのライヴが開催できたことを視聴者とスタッフに感謝し「これからも色々なアイディアで、楽しいことが一杯形にできると思うと」とコメント。mafumafuは「FLOWER FLOWERとしても、ソロのYUIとしても、応援して欲しい」と親が子供のことを語るように、優しいまなざしでファンにメッセージ。そして「僕からの思いを込めたYUIのソロ時代の曲をやりたい」と語り、sacchanも「ソロのYUIの曲の良さを感じる、どこか懐かしいような、でもしっかりバンドの音になっているハイブリッドな曲をやります」、そしてyuiは「寒いけどあったかい気持ちで終わりますか」と語り、mafumafuがアレンジを手がけた、YUI時代の楽曲「SUMMER SONG」が投下されると、SNSやコメントは「感動」の声が飛び交った。ちなみにmafumafuは「今日から大文字のMAFUMAFUになります」と宣言していた。

「次の作品の準備をしています」

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yuiは「新しい作品の準備をしています」と語り、ステージを去っていった。そして最後にはYUIとしてデビュー15周年を締めくくる2月23日の日付が表示され、次の活動への期待感が高まる形でのエンディングとなった。新体制で臨んだ今回のライヴは、バンドとしての未来予想図をファンに提示する場でもあったが、yuiとバンドが自由に、アグレッシヴにセッションを楽しみ、そこから生まれるグッドミュージックを聴き手に真っすぐ届けたい、その姿勢は変わらない――そんな3人の思いが伝わってきた配信ライヴだった。

FLOWER FLOWERオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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