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「猫」、ストリーミング再生数1億回超えで注目を集める、「THE FIRST TAKE」の存在感

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

DISH//「猫」がオリジナルバージョンと、「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」のストリーミング再生回数が、合算で1億回を突破

DISH//
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ダンスロックバンドDISH//の配信シングル「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」のストリーミング再生回数が5895万回、さらに「猫」オリジナルバージョンは4239万回を記録し、合算で1億134万回再生と、1億回の大台を突破した(9月24日現在) 。この大台突破についてボーカル/ギターの北村匠海はメンバーを代表して、「1億という数を体感するのは初めてで、どう表現したらいいか分かりませんが、1億に変わる一回一回のありがとうを音楽で表現していけるよう、がんばります。本当にありがとうございます」とコメント。

2017年にあいみょんがDISH//に提供したこの作品は、当時のストリーミング再生回数としては約250万回だったが、2020年3月20日、アーティストの一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取る、話題のYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で、メンバーアレンジによるアコースティックバージョンで披露した動画が公開されると、大きな反響を呼び、約1か月あまりで1000万回再生を記録。静かにマイクの前に立つ北村は「とても緊張していますが、ただ楽しく歌えればいい、それだけです」と緊張気味に語り、「ただ、震えています」と、唾を飲み込む音までをマイクが拾い、一発撮りならではの緊張感が伝わってくる中、切ないメロディと歌詞を圧倒的な表現力で伝えている。

シンプルにただ「歌」というものに向き合うそのパフォーマンスは瞬く間に評判になり、その反響を受け、4月29日に配信された「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」は、各配信チャートで軒並み1位を獲得。その後もSNS上でも多くのリスナーがこの曲の「歌ってみた動画」をアップし、さらに香取慎吾、ナオト・インティライミ、AAA宇野実彩子など、現在も数多くの動画がアップされ続けている。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」の「猫」歌唱動画の再生回数は5153万回再生(9月24日現在)、9月28日付のBillboard Japan Hot 100で21週連続チャートインするなど、ロングヒットになっている。

海外からも注目を集める「THE FIRST TAKE」

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「THE FIRST TAKE」は昨年11月にチャンネルを開設、先日登録者数が200万人を突破するなど、その注目度は高まるばかりだ。感度の高い若い音楽ファンはもちろん、情報番組や音楽番組をはじめ多数のTVメディアで取り上げられたことで、幅広い層が興味を持ちそのクオリティの高いコンテンツの評判が広がっていった。海外の視聴者も多く、英語圏からのコメントも多く見られる。

話題のYOASOBI「夜に駆ける」も、「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスが大きな反響を呼ぶ

「THE FISRT TAKE」の視聴者数が急伸した要因のひとつは、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、緊急事態宣言が出されたことだった。多くの人がSTAY HOMEで家にいる時間が多くなる中、ネット接触率も高くなり、「THE FIRST TAKE」も、アーティストの自宅やプライベートスタジオでのパフォーマンスを収録した「THE HOME TAKE」や、ライヴハウスからアーティストたちの一発撮りを届ける「THE FIRST TAKE FES」という新しいコンテンツを公開し、視聴者を獲得していった。これまでに出演したアーティストは延べ45組、披露された楽曲は73曲に上る。昨年12月に配信された「夜に駆ける」が、約9か月経った今も各配信チャートを席捲しているYOASOBIも、今年5月15日に登場。そのパフォーマンスは大きな反響を呼び、その後「夜を駆ける」という楽曲、YOASOBIの人気は加速していった。再生数は現在までに5100万回を超え(9月24日現在)、まだまだ数字を伸ばしている。

ヒットの生まれ方の変化

ここ数年、そしてコロナ禍の中で、音楽の伝わり方、ヒット曲の生まれ方が新しくなってきている。世界的に見ると、各国のSpotifyのキュレーターがその曲をプレイリストに加えることで、ヒットへのきっかけになり、日本でもプレイリストの影響力は大きい。TikTokのパワーも大きい。TikTokを着火点にバイラルチャート(Spotifyユーザーが楽曲をSNSでシェアした回数に基づくランキング)、ストリーミングチャートを賑わせた、瑛人「香水」は今年最も注目を集めたヒット曲のひとつだ。バイラルチャートで注目を集めるのは新曲とは限らず、瑛人の楽曲は一年以上前に発売されたものばかりだ。LINEミュージックの「リアルタイムランキング」はリアルタイムの再生回数をカウントされ、今この瞬間どんな動きがあったのかが反映されるチャートで、やはりTikTokの影響が大きい。TikTokで流行している楽曲の「弾いてみた/歌ってみた」動画は、YouTubeや、Instagram、TwitterなどのSNS、様々な場所に投稿されている。当初は、印象的で耳に残るフレーズや、ダンスを使用したインパクト重視の動画がユーザーに支持され、広がっていく傾向が強かったが、その傾向も少し変わってきているようだ。コアユーザーは10代か思いきや、幅広い世代が使用していることも、ヒット発信基地としての注目度の高さにつながっているのではないだろうか。

それ以前にヒットへの流れがこれまでと様変わりしている。それはコロナ禍でさらに加速してきているのではないだろうか。ライヴや大型フェスで注目を集めたり、握手会・即売など接触イベントでの盛り上がり、ドラマやCMタイアップで話題になり、情報番組やワイドショーでも取りあげられ、歌番組へ出演し、それがまたSNS上で話題になる、というのがこれまでだとすれば、現在は先述したTikTok、YouTube(「THE FIRST TAKE」や動画コンテンツ)、WEBのプラットホームやアプリから火が付き、ドラマ主題歌やCMソングに起用され、さらに話題となり、アーティストによっては歌番組へ出演し、SNSで話題になり様々なメディアでも注目され、その波が広がっていく――。

「THE FIRST TAKE ver.」は“新しい音楽”として楽しめる

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そんな中で「THE FIRST TAKE」の存在感が増している。ここに出演したことで、急上昇チャートに登場するアーティストも少なくない。既存の音楽番組とは違う温度感。アーティストの生き様が伝わってくるような圧倒的な歌。アーティストが今一番出演したいコンテンツのひとつでもある。そんな、装飾物を削ぎ落し、そのアーティストの実力が剥き出しになった歌を楽しめる「THE FIRST TAKE」の音源は、“ライヴ”だが、通常のライヴ音源とはまた違う“新しい音楽”といえる。先述した「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」のヒットを皮切りに、加藤ミリヤ、マカロニえんぴつ、TK from凛として時雨、そして一発撮りならではの間違いで話題になったKANA-BOON feat.もっさ「ないものねだり- Revenge THE FIRST TAKE (feat. もっさ)」や、「THE HOME TAKE」に登場したMY FIRST STORYの「ハイエナ- From THE FIRST TAKE」も好評で、これからこの“新しい音楽” にさらに注目が集まりそうだ。

YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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