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Thinking Dogs 「6年目だけど気持ちは2年目」、充実の時を迎えたバンドの現在地 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ/ソニー・ミュージックレコーズ

最新シングル「Heavenly ideas」は、ドラマ『映像研には手を出すな!』の主題歌

「Heavenly ideas」(9月23日発売/初回盤)
「Heavenly ideas」(9月23日発売/初回盤)

今年6年目に突入した4人組ロックバンドThinking Dogsの9枚目のシングル「Heavenly ideas」は、ドラマ『映像研には手を出すな!』(MBS/TBS)の主題歌として、当初5月に発売予定だったが、他の多くのアーティストの作品がそうであったように発売延期となり、9月23日に発売された。デビューからこれまで、映画、ドラマ主題歌、CMソングなど数々の大きなタイアップに恵まれ、一作ごとにその世界観をより魅力的に映し出す楽曲を発表すると共に、バンドとして進化を続けてきた。今回の作品は前作「SPIRAL」(2019年)に続いて、3曲全てをメンバーが手がけ、「これまでと違う感触のシングル」になったという手応えを感じている。その最新作について、そしてバンドの“今”と“これから”をTSUBASA(Vo)、わちゅ~(B)、Jun(G)、大輝(Dr)にインタビューした。

「6年目だけど、気持ちは2年目です」(Jun)

「デビュー当時はRPGで例えると、レベル1なのに伝説の剣を持たされて、使い方がわからないのにとりあえず振り回してるだけだった。今は地に足を着けた活動ができている」(TSUBASA)

――デビュー6年目、自分達が最初に思い描いていた5年後の姿、それを越えての6年目に突入したバンドとしての“実像”をどう捉えていますか?

大輝(Dr)
大輝(Dr)

大輝 ありがたいことに作品を定期的にリリースさせていただけているのですが、バンドとしての動きでいうと、がっつり全国を回るツアーをまだやっていなくて、東名阪ツアーとかはやっているのですが、もっとライヴをやって全国のファンに会いに行きたいという話はずっと出ています。でも今こんな時代になってしまって、ライヴ自体がなかなかできなくて歯がゆいです。

わちゅ~ デビュー当時は提供していただいた曲メインでやっていましたが、それは当時僕らが作っていた曲が、そのレベルに追いついていなかったからで、でもこの間にみんなでオリジナル曲をたくさん作って、いただいた曲から吸収させていただくこともたくさんあって。提供していただいた曲を自分達で演奏することによって、今まで自分達になかった引き出しが増えるというか、勉強することもたくさんあったので、それによって得られたものをオリジナル曲に反映させていけるので、曲のクオリティが上がってきていると実感しています。前作の「SPIRAL」も今回の「Heavenly ideas」もそうですが、シングル収録曲全て自分達の曲で、自分たちが生み出したものをちゃんと世の中に出すことができていると感じていて、今すごく充実しています。

Jun(G)
Jun(G)

Jun 最初は提供していただいた曲を、どれだけ歌ものとして寄り添っていけるか、ということに重きを置いて演奏していましたが、もちろんいつかシングル曲も自分たちの曲でいきたいという思いはずっとありました。それまでは、一流作家の方達が作ってくださった曲のいい要素をインプットして、それで初めて前作「SPIRAL」で表題曲を作らせていただけて、今回の「Heavenly~」もそうで、なので個人的に勝手にバンドとしては2年目って思っています(笑)。

TSUBASA 今思うと、デビュー当時は本当に浮き足立っていて、RPGで例えるとレベル1なのに、伝説の剣を持たされているみたいな感じでした(笑)。使い方がわからないのに、とりあえず振り回してるだけ、みたいな(笑)。でもそこから、自分たちで曲も作るようになって、ライヴを重ねていくうちに、やっぱり作る曲も変わってきて。ワンマンライヴの映像を自分たちで作ったり、そういう全ての経験がバンドの力になって、それがライヴや曲にも出ていると思うし、ファンの方に届いているということが実感できていて。なので、ようやく地に足を着けた活動ができるようになったと思うので、6年目だけど気持ちは2年目という表現は、そんなに間違っていないと思う。

ハードなサウンド、どこまでもキャッチーなメロディ

――今作の「Heavenly ideas」もそうですけど、貫かれているのは、音がハードで、サビがとことんキャッチーで、だからサビのポップさがより強調されて耳に残ります。リズム隊が太くて厚い音でどっしり構えているので、ギターも多彩な音で音像を作ることができますよね。

大輝 Junさんのギターがバッキングというよりも、フレーズを弾くのタイプなので、そういう意味では、リズム隊の土台がしっかりある上に、そういうギターを自由に弾いてもらえるというのは、どんなの楽曲についてもそれはバンドとして一番いい形だと思います。

――Junさんのギターは基本ハードなんですけど、時に90年代のビーイングサウンドのようなフレーズも聴かせてくれます。

Jun そこ大好きなんですよ(笑)。コテコテのペンタトニック(・スケール/1オクターブ内の5つの音で作られているスケール)がすごく好きで、特に渋めの泣きも入った感じが大好物です(笑)。ギターが歌っているようなラインが好きなので、機械的なフレーズよりも、もうちょっとソウルを感じるというか。音数が少なくてもカッコよく弾けたらといつも思っています。

「『Heavenly~』はUKロックというテーマがあって、今までやってきていなかった感じの音楽なので、バンドのカラーとのバランスが難しかった」(Jun)

――「Heavenly ideas」は、話題になったドラマ『映像研に手を出すな!』の主題歌で、そのストーリーとリンクした、“創造”“混沌”“最強の世界”というキーワード、お題があったと思いますが、どう向き合っていったでしょうか。

TSUBASA(Vo)
TSUBASA(Vo)

TSUBASA 3人の女子高生たちが、仲間内でやりたいことがあって、いわゆる秘密基地感みたいなものがある世界観で、やりたいことをやろうと思うと壁にぶつかって、でも打破していくというところを強調しました。自分も高校時代や大学時代に好きなことを好きにやろうとするとなぜか怒られて、戦った経験があるので原作を読んだ時からそういうものを描いて、歌詞のに中に入れたいと思っていました。

Jun 今回はもうひとつUKロックというお題もあったので、僕達のカラーとどれくらいバランスを取れるかということがテーマでもあって、時間をかけて作りました。UKロックというとどこか陰があって、湿った感じの雰囲気を想像しますが、湿ったというのも抽象的な表現じゃないですか。僕は逆にヴァン・ヘイレンとか、からっからに乾いたギターが好きでずっと聴いてきたので、どうしようって思って(笑)、まずUKロックのインプットから始めました。でも陰に寄り過ぎたらThinking dogsじゃないなと思いつつ悩みました。

――テーマという“お題”がある中で、リスナーに届けるキャッチーなものをどう作るかという難しい作業ですよね。。

TSUBASA 僕は何となく頭に思い浮かんだメロディを鼻歌で歌って録って、それをJunさんに渡して膨らませてもらいました。なのでキャッチーという部分では、メロディが最初にあるのでそこからものすごく外れるっていうことは、とんでもないミスを僕がしない限りないと思っています。

――懐かしさもありつつも、新しい感じがしますが、バンドとしてはチャレンジな一曲だった。

Jun みんなロックを聴いてきているんですけど、その中でもちょっと違ったロックになっていると思います。

「『Heavenly~』の歌詞には、自分が学生時代に抱えていた葛藤、反骨精神を込めた」(TSUBASA)

――歌詞も、先ほどおっしゃっていただいたように、もどかしい空気感を感じつつも、チャレンジしようよというメッセージが込められ、聴いた人のを背中を押してくれます。

TSUBASA 学生の時って、自分の人生は特別だって思っている時期があるじゃないですか。自分自身の思いを込めていて、僕は小学校でゴルフを始めてプロを目指して、自分は他の人とは違う特別なことをやっているんだ、みたいなことを思っていました。それで高校生になってバスケットボールを始めたらそこで挫折を味わって。次に大学でバンドを始めて、自分の特別さを求めていたんだと思います。でも色々な人と出会ううちにとんでもない人生を送っている人がたくさんいて、自分が思っていた特別はなんて小っちゃいんだろうって気づいて。バンドで180度考え方が変わって、その時の葛藤や学生時代からの思いを、タイトルの「Heavenly ideas」、ぶっ飛んだものが欲しいというニュアンスに重ねました。反骨精神って、誰もが持っているものだと思いますので、「映像研」ファン以外の方にも伝わると思います。

「バンドだからこそ、メンバーが“やりたい曲”を作っていきたい」(わちゅ~)

――カップリングの「I’m your Devil」と「break the mold」はより自由度が増して、このバンドの強さを改めて感じさせてくれます。「I’m~」はTSUBASAさんが歌詞を、わちゅ~さんが曲を手がけた、ちょっとロカビリーのフレーバーが薫る、どこか懐かしい感じです。間奏の長めのベースがすごくカッコイイのですが、これは作った人の権利ということで?(笑)

わちゅ~(B)
わちゅ~(B)

わちゅ~ そもそも僕がそんなに目立ちたがりなベーシストではなくて(笑)。フレーズが動き回るより、曲全体で動くのはギターの華やかさに任せて、ベースは下で支えますというタイプのベーシストなので、そういう曲が今まで多かったのですが、ライヴの中で各々の楽器やステージの見せ場を作るということを考えていくと、ちょっと欲が出てきたというか、ベースももう少し動く曲が欲しいなって思いました(笑)。存分に動かせていただきました。

――「break the mold」は転調が気持ちよくて、不思議な空気感を感じてクセになります。

わちゅ~ 「Heavenly ideas」が完成した時点でTSUBASAからこういう感じの曲が欲しいというイメージを聞かされて。

TSUBASA 本当に抽象的なんですけど、テンポがそんなには速くない、AメロとBメロの間で転調する曲が欲しいって伝えました。

――「Heavenly~」という曲ありきで、そういう風に思ったんですか?

TSUBASA ライヴのことを考えた時に、こういう曲があったらいいなって思いました。

わちゅ~ バンドだからこそ、メンバーがやりたい曲を作りたいなってずっと思っていて、今回TSUBASAからアイディアを聞かされて、僕も元々転調がすごく好きで、4枚目のシングルの「Are you ready?」のカップリング曲の「 ハートビート」という曲が、初めて自分達の曲で採用されて、この曲が転調だらけで(笑)。でもAメロとBメロの間に転調というパターンの曲は今までなかったので、面白かったです。意外とやってみたらすごく不思議な感じが生まれたっていうか。あの空気感は、あそこの転調なくしては出せなかったと思います。

――歌詞は大輝さんが書かれています。「Heavenly~」の世界観に通じるものがありますよね。

大輝 書き終わって、意味合い的にも「Heavenly~」と近いものはあるなって思いました。でも狙ったわけではなくて、できあがったらそうだったという感じなんです。

「これまでのシングルは一曲一曲が“独立”している感じだったけど、今回は同じ方向性の3曲が“つながっている”感じ」(Jun)

――「break the mold」って、現状を打破して、もっと自由にいこうよという意味があると思いますが、でもそのきっかけを作ってくれる存在としてDevil=悪魔という捉え方もできるし、表題曲ともつながっている感じがします。

ライヴPhoto/村田征斗
ライヴPhoto/村田征斗

Jun  つながってるかもしれません。今回9枚目のシングルで、これまではどちらかというと、一曲ずつという意識、曲単位で作っていたのですが、今回「Heavenly ideas」ができた時点で、シングル全体で方向性を決めて、Thinking dogsならではのロックを聴いてもらいたいと思いました。そんな思いで曲を選んでいったので、そういう意味でも3曲ともつながりがなんとなくあったのだと思います。

「『Heavenly~』で初めて僕達の音楽に触れた人も多いと思う。是非過去作品も聴いていただき、そのギャップを楽しんで欲しい」(大輝)

――表現が合っているのかわかりませんが、バンドが本来持っているやんちゃな部分がよりハッキリ見えてきたと思いました。

TSUBASA 今までいい意味でポップスというのが大前提だったので、そこを崩してはいけないという思いがありましたが、メンバーが作る曲が意外と“ちゃんとしたメロディ”のものが多くて、楽器隊がテクニカルなことをしても、メロディがしっかりしていたら、聴きやすさは変わらないということがわかりました。今回のカップリングの曲も含め、楽器隊は割とロックな感じのことはしていますが、そこはバランスがとれていると思います。

――先ほども出ましたが、音がハードな方が逆にメロディのキャッチーさが目立ちますよね。

TSUBASA それは嬉しいご意見です。

大輝 今回「映像研には手を出すな!」という話題のドラマの主題歌ということで、この「Heavenly ideas」でThinking dogsの音楽に初めて触れたという人もいたと思います。そういう方たちが、今までの作品を聴いてみようって1枚目のシングルから聴いたら、ん?って思うかもしれません。なんか全然違うって(笑)。でもそこのギャップも楽しんでいただけると嬉しいです。

「バンドとして一番重要なライヴができない今、今まで以上に聴き手に寄り添える音楽を作っていきたい」(大輝)

「プレイリストに入れてもらえるような曲を作りたい」(わちゅ~)

――Thinking dogsの最大の武器でもある演奏力の高さを、ライヴをもっとたくさんやって知らしめたほうがいいと思います。今は時期が時期だけにライヴができないので仕方ないですが…。

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大輝 ライヴでそれぞれのテクニックをちゃんと見せる場所というものを、もっと作って作っておけばよかったなって、今になって思います。

Jun デビューした当時は、ライヴを観ていただいた後に「楽器本当に弾けるんだね」ってすごくよく言われました(笑)。

わちゅ~ 一般的にそういうイメージを持たれているんだろうなって思いますので、これからそういうところの認知も変えていきたいです。

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大輝 バンドとして活動してきてライヴをやることに一番重きを置いてきましたが、こういう状況になって悔しいです。でも音楽自体が廃れることは絶対にないと思うし、音楽に救われる人もたくさんいると思うので、ライヴができなくても、Thinking dogsとして曲を作る上で、例えば歌詞も今まで以上に、聴いている人に寄り添えるものを作っていきたいです。

Jun この前久しぶりにスタジオに入って、爆音でギターを弾いたらものすごく心がざわざわして、共鳴しました。レスポールとマーシャルのアンプさえあればいい、と(笑)。

わちゅ~ ライヴができなくなって、より楽曲に向き合うことができました。最近はストリーミングやサブスクで、気になった曲をプレイリストに入れるという楽しみ方をしている人も多いと思うので、シングル曲ってもちろんそれを作る楽しみもあるんですけど、プレイリストの一曲にもなりそうな曲を作りたいという意識の変化が出てきました。それからはサウンド感が落ち着いたというか、音圧重視というより、逆にすごく小さい音量で聴いて、何が聴こえてくるんだろうって研究することがすごく楽しくて。そういう小っちゃい音でも楽しめる曲を作りたいって、曲を作るということの根本が変わりました。

Thinking Dogs オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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