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音楽番組、その先へ 『Sound Inn“S”@HOME』で、上白石萌音がテレワークセッション

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

『Sound Inn“S”@HOME』<テレワーク演奏で名曲カバーをやってみた>第1弾で、上白石萌音が名曲「あなた」をカバー

新型コロナウイルスの影響で、テレビ各局では生放送や収録が不可能となっている。新ドラマのスタートが先送りになったり、音楽番組も過去の放送回を再編集し、VTRで構成するなど内容の変更を余儀なくされている。そんな中でアーティストやミュージシャン達は、それぞれが“テレワークで弾いてみた”等で、ファンにパフォーマンスを届けると共に、全ての人を元気付けてくれている。

毎回一組のシンガーが、3人のサウンドメーカーがと創り出すスペシャルアレンジで、思い入れのある3曲を超一流のミュージシャンとセッションする、“純度”が高い音楽番組『Sound Inn “S”』(BS-TBS)も、その“志”はそのままで『Sound Inn“S”@HOME』と題して、<テレワーク演奏で名曲カバーをやってみた>という特別映像を、現在YouTubeチャンネルで配信中だ。その第1弾、上白石萌音が歌う「あなた」(小坂明子)が4月13日に公開され、話題を集めている。この番組のプロデューサーである、(株)TBSテレビ制作局制作一部・服部英司氏に、企画から配信までの裏側、テレワーク番組の作り方について聞かせてもらった。

上白石萌音と一流ミュージシャンの見事な“テレワークセッション”

「今、表現者達が様々な発信を行っていることに、とても刺激を受けました。とてもメッセージが伝わる動画が多く、貪るように動画を探しているうちに『自分たちでもやってみよう』との想いに駆られるのにさほど時間はかかりませんでした。まず音楽プロデューサーの島田昌典さん、斎藤ネコさん、本間昭光さんらに相談しました。皆さん一様に「やろう」となり、いつもお世話になっているミュージシャンにも声をかけ、全員手弁当ではじめました」と、まずはこの企画を立ち上げたきっかけを教えてくれた。ライヴや音楽番組の収録、そしてレコーディングさえも延期になっている現状で、ミュージシャン達の“表現できない”ストレスは、日に日に高くなっているはずだ。そんな中でのこの企画に、誰もが「やろう」と即答だったという。

「ヴォーカルについては、これまで様々な番組でご一緒した方々にお声がけすべきか正直迷いましたが、勇気を振り絞ってお声がけしました。マネジメントのご担当含め、即答で参加を決めてくださったことは喜びでもあり、驚きでもありました。とはいえ、初めての作業工程でしたので不安がつきまといました。クリックで縛っているとはいえ、個々に演奏した音の“縦”がきちんと揃うのかな?と。でも全くの杞憂に終わりましたが(笑)。今回参加されたミュージシャンの皆様の力量を持ってすれば、全く問題ありませんでした」。

制作サイドは以前『Sound Inn “S”』に出演したことがある、女優/歌手の上白石萌音に“ダメ元”でお願いをし、快諾を得た。上白石が番組に出演した際は、島田昌典のアレンジで、今回の企画で披露している「あなた」と、オリジナル曲「ストーリーボード」(作詞・曲 内澤崇仁(androp) 編曲/島田昌典)、そして斎藤ネコのアレンジで「On My Own」(ミュージカル『レ・ミゼラブル』より)を歌った。今回は、まず島田のデモ音源と楽譜が、上白石と参加ミュージシャンに届けられた。Arrange/Electric piano:島田昌典、Organ:本間昭光、Guitars:古澤 衛 佐々木貴之、Bass:川崎哲平、Drums:小笠原拓海、Flugelhorn:中野勇介、Flute:高桑英世、Horn:岸上 穣、1st Violins:室屋光一郎・徳永友美、2nd Violins:石亀協子・納富彩歌、Violas:菊地幹代・島岡智子、Cellos:堀沢真己・結城貴弘、Chorus:渡部沙智子・佐々木詩織という、なんとも豪華なミュージシャンがそれぞれの自宅等で録音し、スタッフの元に届けられた。

「音を“整えすぎず”、歌い手、ミュージシャンの思いを“あるがまま”音楽で伝える」

上白石の透明感のある美しい歌声は、まるで心を浄化してくれるようで、元気を与えてくれる。その歌に寄り添いつつも、ミュージシャン一人ひとりの想いが音に乗り、それぞれの楽器、コーラスの音と声が一つひとつ、粒のように鮮やかに輪郭を湛えて聴こえてくる。普段は見る事ができない、一流ミュージシャンの指先や手元、そのプレイスタイルを至近距離で観る事ができるのも嬉しい。「普段我々は、収録したものに対して、どうしても“整える”ということに注力しがちですが、今回は、上白石さんの歌はもちろん、この状況でのミュージシャン一人ひとりが、その思いをどう表現するか、どんな気持ちで演奏しているか、あるがままを見せることが“伝わる音楽”になると思いました。なので、“整えすぎず”、トラックダウンの際にもエンジニアには、きれいにしすぎないで欲しい、とリクエストしました」。オリジナルバージョンに加え、上白石のボーカルがより生々しく立ったリミックスバージョンも配信されている。

立案から配信まで約10日間で仕上げた“名演”に対して、コメント欄には、「一人一人が奏でる音や歌声が離れていても心が一つで温かいひとつの音楽として成り立っていて感動しました」「音楽は、素晴らしいですね。ほんとうに、この演奏に勇気づけられる人がたくさんいると思います」「萌音ちゃんが、よくコメントで伝えている“映画やドラマ、音楽、作品には、表に見えないたくさんの人によって、できています” という想いも、この動画で併せて伝わってきました」「優しい音がひとつになって生まれた音楽は日々の励みになります」など、絶賛する声が寄せられている。

渡辺美里、大原櫻子も登場予定

第2弾、第3弾も決定している。「渡辺美里さんと本間昭光さんで「BELIEVE」を、大原櫻子さんと斎藤ネコさんで、絢香さんの『みんな空の下』のカバーをお届けします。YouTubeでの展開はここまでとして、これからはライヴやレコーディングがなくなって、窮状に陥っているミュージシャン、表現の場を求めるアーティストの皆さんに、きちんと仕事としてお願いできるような仕組みを考える必要があります。私の立場でいうと、もちろん番組としての発注です。まず5月16日放送の『Sound Inn “S”」では、全編をリモート録音でお届けすることが決まっています。 “アンサンブル”という音楽の本来あるべき姿を考えると不本意ですが、今はこれしか方法がありません。表現方法を研究し続けます』。

「音楽はあくまでも音楽、テレビはあくまでもテレビ、ふたつが交わるところを探すことが、制作者の使命であり日常」

音楽番組ができること、伝えられることについて、制作サイドの考え方はこの状況の前と後では、変化があったのだろうか。「率直に言って、まだ今は検証できる状況ではないと思っています。ただ『届けることをあきらめない。何があっても、やめない方法を探して、実践し続けるんだ』という、決意を改めて意識する機会にはなりました。『音楽はあくまでも音楽で、テレビはあくまでもテレビ。その二つが交わるところを探す』ことが、私達テレビ制作マンの使命であり日常です。お届けしたものを、実演した方々と観ている方々に判断していただく。そこは、何も変わっていないと思っています」。

『Sound Inn “S”』 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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