ベツカノがロングヒット中のwacci 聴き手の日常に寄り添う音楽を作り続け10年、より広がる“共感”

写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ/EPICレコードジャパン

まだまだ盛り上がりを見せる“ベツカノ”

4thアルバム『Empathy』(12月4日発売/通常盤)
4thアルバム『Empathy』(12月4日発売/通常盤)

現在『47都道府県ツアー 2019-20~Empathy~』で全国を回っているwacci.。2018年8月に配信リリースされた「別の人の彼女になったよ」(通称:ベツカノ)がロングヒットになっており、MVの総再生回数は約2150万回を突破し(1月30日現在)、更に伸びている。コメント数も約1万2000件とこちらも盛り上がりをみせ、これまで一貫して、聴き手の日常に寄り添う音楽を提示し続けてきたwacciの音楽が広がりを見せている。“ベツカノ”がまだまだ盛り上がりを見せている中、12月4日に発売された4枚目のアルバム『Empathy』が好調だ。気になる“ベツカノ”のサイドストーリーを描いている「足りない」や、「元カノの誕生日」という気になるタイトルの作品、さらに先行配信されたウエディングソング「結」や「Buddy」、ボーナストラックの“ベツカノ”まで14曲が収録されている。このアルバムについて、橋口洋平(Vo&G)、小野裕基(B)、村中慧慈(G)、因幡始(Key)、横山祐介(D)にインタビューした。

約一年振りのアルバムだ。wacciはアルバム制作の際は特にテーマを設けず、とにかくどれがシングルカットされてもいいように、一曲入魂で作っている。今回は“ベツカノ”がロングヒットし、大きな注目を集める中でのアルバムということで、いつもとは違う心持ちで制作に臨んだのだろうか?

「10年目のwacciが贈る、バンド史上最高の一枚」

「アルバムへの姿勢はブレていないです。10年間wacciというバンドをやってきたからこそ、色々な経験をして学んできたからこそできた曲、一枚だという部分が大きいです。バンドをやっていくうちに、いい曲を作るという価値観も変わってきているので、10年目のwacciが贈る、バンド史上最高の一枚というコンセプトになるのかもしれないです。“ベツカノ”が盛り上がっている中でのアルバムということは、個人的には言葉の部分では意識しました。あの曲の広がり方って明らかにこれまでとは違っていて。でも僕達はずっとリスナーに近い距離感の歌を作ってきて、でも表に出てスポットを浴びるものにならなかったというだけなので、ようやくその許可が下りたというか(笑)。今回のアルバムでは頑張ろう、元気を出そうという僕らの曲に多いメッセージは変わらずありつつも、それ以外の部分もたくさん書きました」(橋口)。

「元カノの誕生日」という気になるタイトルの曲もあるが、この曲は“ベツカノ”のような曲なんだろうかと思い聴いてみると、いい意味で裏切られるが、橋口が「万人に共感されなくてもいいので、超わかると言ってくれる男子が1割くらいいて欲しい」と言うように、男性からの共感を得そうな、ややブラックな歌詞に引き込まれる。

“ベツカノ”に続く女性目線の歌詞「足りない」

「『元カノ~』は“ベツカノ”のアンサーソングではないのですが、そう思って聴いた人にショックを受けて欲しい(笑)、アグレッシブなサウンドです。これは元カノの誕生日を男は覚えていがちというテーマから作りました(笑)。僕のことなんですけどね(笑)。時計の画面がその日付になった時に、僕は『あっ』と思ってしまうので。『足りない』は、冒頭の<幸せのカスを舐めて>という歌詞から、最初は「カス」というタイトルでした(笑)。仕事ができて、プライドが高い女性でも、恋愛に関してはそこが邪魔をして、傷ついた経験がある人って周りにたくさんいたので、そういう部分を女性目線で書きました」(橋口)。

左から小野裕基(B)、因幡始(Key)、橋口洋平(Vo&G)、村中慧慈(G)、横山祐介(D)
左から小野裕基(B)、因幡始(Key)、橋口洋平(Vo&G)、村中慧慈(G)、横山祐介(D)

「足りない」は、橋口のTwitter上で、歌詞動画が公開されているが、“ベツカノ”に続く女性目線歌詞は、リスナーはどう感じているのだろうか。「元カノ~」はタイトルとは裏腹に、イントロからアグレッシブなロックサウンドでベースが唸っている。この曲と「足りない」のアレンジを手がけた村中は、「『元カノ~』は、最初はテンポがもう少し速く、歌謡曲っぽい感じだったので、そういうアレンジも面白いかなと思いましたが、もう少し現代風にしたくて、時間をかけてアレンジを“見つけにいった”感じです。Aメロ、Bメロでファンクロックっぽい感じが浮かんでいて、ここからもう一展開作るのであれば、思い切り転調して、ディスコサウンド風な要素を入れた方が面白いかなと思いました。『足りない』はストーリー仕立ての歌詞を、映画のようにしたくて思い通りのアレンジができました」と教えてくれた。

「足りない」同様、橋口が女性目線で書いた作品が「三日月」だ。片思いとも不倫ともとれる歌詞を、女性はどう捉えるのだろうか。

「古人は「春三日月にはお酒がよく入り、秋三日月ではお酒がこぼれる」と興じていたみたいで、それを少し難しい恋に当てはめてみました」(橋口)。

橋口が「『元カノの誕生日』の次に、狙ったテーマ、タイトルです(笑)」という「東京ドリーム」は、ビッグバンドジャズ風の心躍るアレンジが印象的だ。

「夢や思いを抱いて東京に来て、苦労もあると思いますけど、お互い笑顔で頑張りましょうという歌です。僕は上京組ではないんですけどね(笑)。アレンジも最初からビッグバンドジャズっぽい感じが頭の中で鳴っていて、ちょうど映画『ラ・ラ・ランド』を観た後に作ったので(笑)。それを(因幡)始ちゃんに形にしてもらいました。ポップスバンドだからこそできるアレンジだと思います」(橋口)。

「僕と小野君は大学のジャズ研出身なのに、このバンドで今までジャズアレンジをやったことがなくて(笑)、今回はジャズど真ん中というより、曲がポップスなのでジャズっぽいエッセンスのいいとこ取りをするのに苦労しました」(因幡)。

「応援歌はある程度自分に向けて書かなければ、強い言葉は出てこないと思う」

wacciの音楽は背中を押してくれる応援歌も多い。それに励まされ、勇気づけられているファンも多い。「坂道」もそんな曲だ。橋口には応援歌を書く上で大切にしている事がある。

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「応援歌って、サビにくる言葉はどうしてもよく使われるものが多かったりするので、悪く言えば使い古された言葉に辿り着くまでに、どれだけ説得力を持たせるのかが、個人的には大事だと思っていて。だからAメロ、Bメロで悩みにどれだけ寄り添うことができているかが勝負です。応援歌って難しいなって思っていて、自分自身が応援歌であまり励まされたことがなくて、そんな人間が書いているので(笑)、だからこの歌にも<前を向け>って言葉がありますが、どの口が言うかって自分で思ってしまって(笑)。応援歌ってある程度自分に向けて書かないと、強い言葉は出てこないと思う」(橋口)。

アルバムのオープニングを飾る、テレビ東京系ドラマ(ドラマBiz『ハル ~総合商社の女~』)の主題歌になった「Baton」は、深澤恵梨香がアレンジに参加しているストリングスが美しい作品だ。

「『Handregard』という仮タイトルがついていたように、“手”に焦点を当てた曲が作りたかったんです。しわの数だけ、これまでの自分を、誰かのことを大切にしてきたんだということを言いたかったんです。生まれてきたばかりの赤ちゃんはまず、自分の手を認識するといわれているみたいで、大人になった今一度自分の手を見て見ようという思いを込めました。でもそれだと手の歌になってしまうので、その手を通じて、親から子へ、大切な人へ愛情を伝えていく、繋いでいくバトン、という内容にしました」(橋口)。

仮タイトルが「老眼」だったという「ピント」も普段気づかない、言葉にできないことを“サラっと”、でも深く伝えてくれる、どこかほのぼのした空気が流れる一曲だ。

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「この曲は、足元にある幸せほど見えづらくなるねということを歌っていて、特に近い関係、夫婦や家族、恋人同士はそうなりがちなので、たまには確かめ合おうねという曲です。近くにあると見えなくて、ちょっと距離があると見えるということで、最初は「老眼」というタイトルでした(笑)」(橋口)。

「緩いパーティソングみたいな感じにしようということになって、個人的に大好きだったジャック・ジョンソンとか、サーフロックっぽい感じを思い出してアレンジしました」(因幡)。

“ベツカノ”や「Baton」がきっかけでwacciの音楽に触れた人には、このバンドの別の側面を感じることができる「どうかしている」

「僕は高校生の時に軽いいじめに遭っていた時期があって、その時の経験が元になっている歌です。珍しく怒りの感情から書いた曲ですが、小野君のアレンジを聴いて、歌詞を書き直しました。多くの人はその場所から『逃げろ』と言いますが、そうではないなと思っていて。新しい場所に行った方がいいんですけど、その時、その瞬間はそうは思えないんです」(橋口)と語る「どうかしている」も、リアルな言葉が胸に刺さるが、“救い”をしっかりと置いてくれている。“ベツカノ”や「Baton」がきっかけでwacciの音楽に触れた人にとっては、このバンドの別の側面を感じることができる一曲になっている。

「結」「Buddy」は配信シングルで、「結」は、アレンジを手がけた島田昌典が、昨年9月、人気音楽バラエティ番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の中で、この曲を題材にアレンジの極意を披露したことでも注目を集めた、バンド初のウエディングソングだ。橋口は「改めて、島田さんのアレンジのおかげで素晴らしい曲になったと思います」と語り、島田も以前インタビューした際、wacciの音楽について「まるでアルバムの中の写真のような音楽」と絶賛している。村中も「僕達も、音楽って人生のしおりのようだと思っているので、そう言っていただけるのは本当に嬉しいです」と語ってくれた。

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「Buddy」は「これがアルバムの最後に来ることで、wacciらしいアルバムになったと思います。最初の47都道府県ツアーの時に作って、そのファイナルで披露した歌なので、そういう意味でも思い入れが深い曲です」(橋口)と語る、歌詞も曲調もポジティブなライヴで盛り上がる力強い曲だ。

「いつもは、ストリングスで音の帯を作ることが多かったのですが、今回はそれを人の声でやってみようということになって、クワイアに参加していただきました。“声”をメインにして構築していって、ライヴでみんなと盛り上がりたい曲です」(因幡)。

レコーディング中、色々な意味で一番盛り上がったのが「今日の君へ」だという。

「元々バラードだったんですけど、それをメロコアというか、疾走感を出したアレンジにしたいと思ったんですけど、誰もこういうジャンルの音楽を通ってきていないという(笑)」(橋口)。

「この曲のレコーディング中は、学生時代の部室でやっているような感覚で、とにかく楽しかったです」(村中)。

「今回はそれぞれがアレンジを抱えている分、レコーディングに突入してもみんなずっと頭を抱えていて(笑)。でもこういう何も考えずに弾いていい曲は、とにかく楽しかったです(笑)」(小野)。

「コード進行以外何も決めなくて、テンポだけ速くしようということだけ決めて、せーのでやったのでそれが楽しくて、音源になってもその感じが伝わると思います」(横山)。

「太陽みたいに」は「人との別れって突然で、その時に絶対後悔すると思うんです。そういう時に、寄り添える歌になって欲しいと思ったのと、自分も誰かの心の中で、笑顔で生き続ける人になれたらいいなと思いました」(橋口)と、まるでwacciというバンドのアイデンティティのような一曲だが、このアルバムには、バンドの現在地を明確に示し、作品全体を照らすように存在している曲がある。それが「ここにいる」

「今までやってきたことの集大成ともいえる『ここにいる』」

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「今回のアルバムではwacciらしさというか、今までやってきたことの集大成といえるのが『ここにいる』という曲だと思います。逃げずに真っ直ぐ、ポップスという“王道”に向き合ってきたバンドだし、歌ってなんだろうということにも改めて向き合って歌詞にした一曲です。サウンドと言葉がリンクしていると思うし、10年目のwacciという感じが出ていると思います。<なくても生きていけるけど あるから生きてこれた>という一節があって、例えば災害が起きた時に、音楽って食料やインフラと違って、確かに一番最初に必要なものではないけれど、生活がだんだん元に戻ってきたときに、あの時この歌に励まされたなっていう歌の力も確かにあると思っています」(橋口)と、存在の大きな一曲であることを教えてくれると同時に、意外な狙いがあることも教えてくれた。

「結構前からあった曲で、色々なタイアップを想定して曲を書いている時、<繋ぐ>というフレーズで、ケータイのタイアップとか来たらいいなって思っていました(笑)。自分達ではなくて、違う人が歌う曲なんだと考えて作ると、いつもとは違う曲ができるんじゃないかなと思って。僕は「ドラえもん」の主題歌を作るのが夢なので、それを勝手に想定して書いたり(笑)。「ドラえもん」関係の曲なら、誰よりもいい曲を書ける自信があります」(橋口)。

「“正直”に書き切ることができた一枚」

アルバム全体を通して感じたのは、言葉も音も、より“誠実”になっているということだ。10年間誠実に音楽を奏でてきたからこそ、『Empathy』を感じてもらえる、いつも一緒に日常を過ごしていけるバンドになった。

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「“誠実”という言葉はありがたいです。僕は“正直”という言葉が、アルバムが完成した時に出てきて、正直に書き切るって、歌詞を書く上では難しくて、どうしても聴き手のことが浮かんできて、こう思われたいという気持ちが出てきてしまいます。でも今回はどの曲もあまり自分と逸脱していないというか、正直に書けた曲が多かったと思います。先ほども出ましたが、応援歌を書く時、僕は常に背伸びしています。それが「大丈夫」という曲のように広がっていったりするので、『別の人の彼女になったよ』が広がっていったときは、安堵しました(笑)」。

2度目の47都道府県ツアー敢行中。「今年は“次”のステージに進まなければいけない」

2020年、バンドとして決意を新たに突き進んでいく一年になりそうだ。3月4日にはニューシングル「フレンズ」(TVアニメ『うちタマ?! ~うちのタマ知りませんか?~』オープニングテーマソング)が発売される(1/9~先行配信)。

 

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「ポップスバンドとして10年やってきたので、そろそろ“答え”を見つけないと、次のステージには進めないと思っています。今行なっている、2回目の47都道府県ツアーはその答えを見つける旅だと思っていて、このツアーの最後にホールツアーを組んでいて、現状では背伸びだと思いますが、それを大成功させることで、次に見えてくるものと向き合いたいです」(橋口)。

2019年は4月まで47都道府県ツアーをやって、また10月から『wacci 47都道府県ツアー2019-20〜Empathy〜』がスタートしている、前半は“アコースティックツアー”、中盤は“ライブハウスツアー”、そして後半はファイナルの7月19日 神奈川県民ホール 大ホール“まで続く“ホールツアー”という3つの編成のツアーで、wacciの全てを見せていく。多くのファンからの『Empathy』=“共感”が大きな塊となって、wacciを次のステージへと運ぶ。

wacci オフィシャルサイト