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Aqua Timez解散から一年、太志始動 Little Paradeという名の希望に巡り合うまで

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「今はLittle Paradeだけど、いつか“Big Parade”にしたい」
写真提供/THECOO(株)
写真提供/THECOO(株)

Aqua Timezの解散ライヴから一年、太志の新プロジェクト「Little Parade」始動

Aqua Timezが『Aqua Timez FINAL LIVE「last dance」』と銘打って、ラストライヴを初めての横浜アリーナで行ったのは、2018年11月18日だった。あれからちょうど一年――ボーカル太志が新プロジェクトLittle Paradeを始動させ、イベントにシークレット出演したことが報じられたのは10月初旬のことだった。そしてSNS が開設され、11月18日(21時~)に配信限定ライヴを開催することが発表され、Little Paradeがいよいよ本格始動する。そんな太志に<風詩の目から見えるもの【art】/口ずさむもの【words】/耳にするもの【music】を繋いでいく今はまだ小さなパレード>とだけ紹介されている新プロジェクトについて、そしてなぜ今Little Paradeなのか、さらに解散してからどのような生活を送っていたのか、インタビューした。

「Aqua Timezは2000年に結成して、2005年にデビューしたので15年以上バンドを続けてきて、18年分のことを思い出したりして、ちょっとその余韻に浸っていました。12月に故郷の岐阜に帰って、まずやったことは、リフレッシュしてゼロに戻りたかったので久々に坊主にしました」。

Aqua Timezは2005年に発表したインディーズ1stミニアルバム『空いっぱいに奏でる祈り』の収録曲、「等身大のラブソング」で大きな注目を集め、このアルバムは約80万枚の大ヒットを記録。2006年「決意の朝に」でメジャーデビューを果たし、続く「千の夜をこえて」と、ヒットを連発。この年『NHK紅白歌合戦』へ初出場を果たす。ドラマ『ごくせん』(日テレ系)の主題歌「虹」や、アニメ『BLEACH』のEDテーマ「MASK」などを手掛け、15年間走り続けてきた。そして2018年4月に発表した8枚目のアルバム『二重螺旋のまさゆめ』の制作を終えた時点で「燃え尽き」、解散という道を選んだ。

「居酒屋で年下に怒られながら天ぷらを揚げ、洗いものをし、UVERworldのライヴ会場で撤収のアルバイトをやりました。新しい経験を求めていた」

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中心メンバーである太志が解散後に求めたのは、リフレッシュすることはもちろん、今まで経験しなかった、知らなかった世界を知ることだった。「バイトをしました。居酒屋でてんぷらを揚げたり、洗い物をしたり、でも手際が悪いので年下の子に怒られながらやっていました(笑)。音楽の世界に入ってきて、ほとんど叱られるということがなかったし、だからある意味叱られに行くという感覚でした。まず定時で働くということをやりたかったんです。それはいつの日からか、一日一日のありがたみがわからなくなっていたから。当たり前だけど、みんな本当に真剣に仕事をしていて、時間通り、言われた通りのことをやっていて。それが僕にとって逆に新しい経験というか。怒られて凹んでいる時はTwitterで呟いていました。『できないことが多い人は共感力が高いはずだ』って」。

さらに太志は思いもよらない行動に出る。「今までたくさんライヴをやってきて、その設営とバラしを見た事がなくて。ライヴが終わると照明さんや音響さんはじめスタッフに『お疲れさまでした!』って先に会場を出ていたので、撤収の現場をやってみようと思い、作業員としてバイトに行きました。どうせならと思って、UVERworldの去年のクリスマスのライヴ(日本武道館/12月25日)でやってみようと。というのは、ボーカルのTAKUYA∞君が俺たちの最後のライヴを観に来てくれて、その時クリスマスライヴに誘ってくれたので、『俺、バイトで行くから。ずっと撤収の現場を見たかったから』って言ったら、ビックリしていたけど『それなら意味あるな』って言ってくれて。だからライヴの間、TAKUYA∞君の熱い歌とMCを、武道館の裏でヘルメットを被って聴いていました。それで終演後作業に入って、こうやってやってるんだ、Aqua Timezのライヴもこういう人たちがいて、成り立っていたんだということを実感しました」。

「何もしていないという事の苦しさを知った。止まっている間に、ファンが離れていってしまうのではという焦りもあった」

一か月前まで、大きなステージの中央に立ち、スポットライトとお客さんからの大きな歓声を一身に浴びていた男が、ステージを降り、裏方に回り、ステージ、お店を支えている人達の思いや感覚を目の当たりにすることで、自分自身を“軌道修正”していたのかもしれない。ある意味“普通”ではいられない、エンターテイメントの世界で波にもまれ、麻痺していたとはいわないが、忘れかけていた感覚を取り戻そうと、自身を“律して”いたように思える。

「いい時間というか、意味のある機会でした。それと何もしないということが、こんなにも苦しいんだなって思いました。だから休みというものは、本来働いた後にあるから嬉しいものであって、学生時代も夏休みの最後の方は淋しくなって、学校に行きたくなっていました。やっぱり一人で何かやるって意外と難しくて、最初は曲も作らないって決めていたので。作るとまた始まっちゃうから、しばらくは作らずに、自然と色々なことがインプットできるだろうなって思って。もちろんその間も、Aqua Timezのファンの人たちのことは、すごく考えていたし、次の動きまで間隔を空けようって決めたのは自分だけど、その間にどこかに行って欲しくないって思っていました。俺が止まっているということは、他のバンドやアーティストを好きになる時間でもあるから、次の彼氏を作って欲しくないという感じに近い、複雑な気持ちでした(笑)」。

「心の中に芽生えている思いを、素直に吐き出そうと思った。未来に向かってというのは時期尚早。過去を引きずりながら進んでいくのが自然だと思った」

そんな表現者・太志のスイッチが入ったのは、今年春のよく晴れた日、自転車に乗って、風を感じている時だった。

風詩と小鳥
風詩と小鳥

「春のあまりにも天気いい日に、うちから20kmくらい離れているところに住んでいる母親の家に、自転車で行ってみたんです。天気がよくて風が気持ちよくて、そんなことを感じていると、ふと、俺自身は何も吐き出せていないという思いになって。バンドを解散して、少し時間が経って、心の中に芽生えている思いを吐き出していない、吐き出そうと。それで衝動的に作ったのが『ユニコーンのツノ』という曲です。Little Paradeのアイコンでもあるユニコーンの風詩(ふうた)のツノでもあって、歌詞はバンドをやってきたことについてで、未来に向かってっていうのはまだ早いと思うし、過去を引きずりながら進んでいくっていうのが、自然なことだと思うので」と、動き出そうと思ったきっかけを教えてくれた。さらに「あの日から、色々な事をインプットし続けて、でもそろそろ満タンだし、これ以上インプットすると、逆に何が自分の核になってるかわからなくなるから。悩んでることも全て歌詞になるから」と、何かを伝えたくなったその純粋な“動機”も語ってくれた。

解散して直後はメンバーとお酒を飲みに行く機会もあったというが、それぞれがそれぞれの道を歩き始めてからは、会う機会も減った。「TwitterとかSNSを始めてみて、メンバーもちゃんと更新しているから、もうそれぞれの道に進んだんだなって思って、そういうことも歌詞にしたし、無理して会うというのも違うと思うから。この20年間、家族よりも長い時間を一緒に過ごした仲間だから嫌いになるとかじゃなくて、今は会わないほうがいいのかなって。偶然どっかで会ったら超嬉しい、みたいな感じでいた方がいいと思う」。

今やるべき事が見えた、Makoto Tonoとの出会い。「新しいフィールドでの表現方法ができると思った」

そんな中で太志はLittle Paradeという、デザイナー/アーティストの、Makoto Tono/東野誠と新たな表現のプロジェクトを立ち上げた。

「これからもライヴ活動をやっていくし、でもライヴ活動だけじゃないという意味でプロジェクトって捉えていて、今Instagramでもやっていますが、とーの君という絵を描いてくれるアーティストと出会って、詩と絵のコラボというスタイルでも展開していきたいと思いました。『ユニコーンのツノ』という曲ができてから彼と出会って、今までは歌詞とメロディとバンドサウンドで表現をしていたけど、これからは詩とビジュアルというか、アートワークというか、そういうものも作れるんじゃないかなって。新しいフィールドというか、そういう表現の使い方。今はInstagramとかSNSですぐに発表できて、届ける事ができるからそういう方法が合っていると思って」。

「とーの君は、大人が見ても子供が見ても、誰もが心当たりのあるものを描いてくれる」

太志の方からTonoに声をかけ、Aqua Timezの曲、その曲に込めた思いを理解してもらえるよう「営業しながら(笑)」親交を深めていった。そしてLittle Paradeの構想を共有。TonoがLittle Paradeで描く絵には、柔らかで優しい雰囲気、圧倒的な親近感を感じる。そして確固たるメッセージの存在も感じる。

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「とーの君の絵の描き方を観てびっくりしました。絵の具を無作為に落として、何を描くか決めてないんですよね。とーの君が、落ちた絵の具が作る“偶然”に対して、それに線を入れ作り上げていく。すごく面白いと思いました。色も偶然の中のひとつだと思うし、最初はそれに対して、俺、書けるのかなって思ったけど、言葉がちゃんとマッチングしてきたと思っています。かわいらしいタッチなので、大人が見ても子供が見ても、誰もが心当たりのあるものを描いてくれるというか。俺も、こんな気持ちを絵では描けないけど、これまで歌詞では書いたことがあるという感覚があって、だからぴったりハマったというか。彼はワークショップもやっていて、そこに来ている子供たちの前で絵を描いたり、そういう現場ってバンドマンの時はなかったけど子供たちの思い出になるものを彼は作っていて、そういうものも含めて、楽しい場所、俺が知らない世界がいっぱいあるんだなということを学ばせてもらっています。一人になって、どうしていいかわからなかったし、曲は作っていましたが、これをただライヴハウスで歌うだけでは、今までと同じだし、何か足りないなって思っていて。新しい刺激を自分にチクチク刺しながら、どんどん新しい構想が生まれてきています。今はLittle Paradeだけど色々な人を巻き込んで、いつか“Big Parade”にしたい。『Big Paradeツアー』がLittle Parade名義でできたらいいなって思っています」。

「ライヴももちろんやっていくけど、これからは音楽と絵と詩を伝えていきたい」

もちろん音楽を軸にした活動だ。表現の幅を広げ、より伝えたいことを伝えるプロジェクトがLittle Paradeだ。「自分はやっぱり音楽が大好きだし、バンド、音楽を捨てたということでは全然なくて。ライヴはもちろんどんどんやっていくし、待ってくれている人たちの期待には、絶対応えるつもりでいます。ただそこに今の時代って音楽だけというよりも、YouTubeなどの動画の存在も大きくて、絵と音楽は同じように考えるべきだし、だったらそこもちゃんと自分たちで作って提供するべきだと思って。だからとーの君の絵はきっとハマると思うし、音楽が軸で、それがたまに絵が軸になることも、とーの君の個展があってもいいと思うし。すでにInstagramとTwitter上でも発表していますが、俺の詩ととーの君の絵っていう、そういう混ざり方だと思うし、その場所が、来た人が楽しんでくれるような工夫は必ずしたいです」。

「『Little Parade Project』は色々な可能性を秘めている。11/18のライヴは、本格始動前に自分で前座を務める感覚」

そのコミュニティメンバーと一緒に、作品やライヴを作り上げる参加型のコミュニティを目指す“場”として、ファンコミュニティ「Little Parade Project」を11月15日に開設した(入会後 1 週間は無料)。ここではライヴはもちろん、動画やラジオの配信、そしてグッズ販売やライヴチケットの先行予約受付などが行われる予定だ。そしてAqua Timez解散ライヴからちょうど一年経った11月18日にはライヴ配信を行い、新曲を披露する予定だ。

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「今できることを無理せずやっていきたい。「Little Parade Project」では、投稿の枠を作って、ファンが投稿してくれた絵に詩を付けたり、逆に誰かが投稿した詩にとーの君が絵を描くとか、その逆とか、色々なことができる可能性があると思う。11月18日のライヴは、多分その日が来て、自分の中で感じると思うけど、Little Paradeというものに対する、本格始動する前のフロントアクトみたいな感じはありますね。ちょっと変だけど、自分で前座をするみたいな。カバーあり、新曲あり、でもメッセージはしっかり伝えたいです」。

ファンコミュニティ『Littele Parade Project』

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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