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NOKKOが語る、30年前の“あの日”の葛藤と、「全部自分だった」と自分を解放できた“今”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「母親としてのミッションがある程度終わったらやりたい事はバンド活動と絵を描く事」
『BLOND SAURUS TOUR‘89 in BIG EGG-Complete Edition-』(10月23日発売/Bru-ray¥6000+税)
『BLOND SAURUS TOUR‘89 in BIG EGG-Complete Edition-』(10月23日発売/Bru-ray¥6000+税)

レベッカのライヴ映像作品『BLOND SAURUS TOUR'89 in BIG EGG-Complete Edition-』が10月23日に発売され、好調だ。1989年に行われた同バンドの全国ツアー「BLOND SAURUS TOUR'89」から、7月17日に開催された東京ドーム公演の模様を収録。1990年に発売された『BLONDSAURUS IN BIG EGG』には、その一部が収録されていたが、今回発売された“Complete Edition”には全18曲が収録されており、バンドの絶頂期のパフォーマンスの全てが楽しめる。この日、NOKKOはどんな思いでステージに立ち、歌っていたのか、そして現在の彼女の歌に対する思いを聞いた。インタビュールームに入ってきたNOKKOは、優しく柔らかなオーラに包まれ、笑顔が美しかった――。

「エネルギーをキープできた最後のステージだった」

――レベッカのキャリアの中で、あの東京ドーム(=ビッグエッグ)でのライヴは、大きなポイントになっている感じはありますか?

NOKKO 形としてはピーク、エネルギーのピークではあると思いますが、エネルギーをキープできた最後のステージだったという言い方の方が、正しいかもしれません。

――特典映像で、スタジオでリハ風景や、それぞれのインタビュー映像も収録されていますが、その発言を聞いていると、まだ色々迷いが、まだまだ先に何かあるんじゃないかという、希望と迷いのようなものを持ちながら、それぞれがあの日のステージに臨んでいたような感じです。

NOKKO この時は、すでに新しいものを作り出しているっていう興奮からは、だいぶ離れている状況、そこから飛び立ってしばらく時間が経っている状態でした。バンド自体の新鮮味が薄れてきているのを、自分でも感じていて、だからきっと何もかもを詰め込んでるいるようなライヴだったのだと思います。それは鮮度を保ちたかったからで、でもその限界って感じだったと思います。ダンスミュージックでもありたい、ブルースでもありたい、ロックンロールでもありたいっていう、すごく欲張りな葛藤がありました。説明できないことを、歌って動いて体現しているという感じです。振り付けも入っているし、3ステージ分くらいが、凝縮された感じになっているライヴです。

――確かにステージで動き回り、走り、更に激しいダンスをしながら歌い、ものすごい熱量でした。このドーム公演までも、1987年に日本武道館6days、横須賀港での5万人野外ライヴなど大きなライヴを行ってきましたが、このライヴ後の展望は見えない状態だったのでしょうか?

NOKKO ギリギリでやっていたし、いつも瀬戸際って感じだったので、展望は特になかったです。ただ、多分次のツアーでやめようとは思っていたはずです。

――それはメンバーと共有していたのでしょうか。

NOKKO してなかったです。私が盲腸をやったこと(「BLOND SAURUS TOUR」ツアー直前に急性盲腸炎になり、延期になってしまい、そのファイナルが東京ドーム公演)も、結構ショックでした。このままやっていると、作品を作ることも、生きることもできなくなっちゃう、限界だなって感じでしたね。事務所にも次のツアーでやめたいとは言ってはいませんでしたが、なんとなくわかっていたと思うんですよね。

――MCで「盲腸治ってよかったぜー!」って叫んでいましたが、あれはショックを隠してのシャウトだったんですね。今回の作品は全18曲が完全収録され、映像は最新レストアが施され、音はGOH HOTODAさんのリミックスにより、素晴らしい音に生まれ変わっています。新たな作品として生まれ変わったこの作品と改めてと向き合った時、どんな思いが頭の中をよぎったのでしょうか?

NOKKO アナログとデジタルサウンドが融合した、当時最先端だったパフォーマンスが、音も映像も鮮やかに蘇っています。でも、ここだけは変わらないなって思ったのは、MCがおぼつかないという事です(笑)。今も相変わらずなMCをしております(笑)。

――後半になるにつれ、声のパワーが増幅されていって、まさに圧巻のパフォーマンスでした。

NOKKO そうですね。若かったのと、どんどん“解放”されていく感覚でした。私は元々照れ屋で、恥ずかしがり屋なので、普通の状態では、舞台に上れるような性質ではなくて、それは今も変わらなくて。でもリラックスしている時の自分の中には可能性があって、それが開いていくのが、“解放”される感覚だと思います。

「『全部自分だったんだ』って思えるまでに時間がかかった」

――9月23日に全国の映画館で行われたこの作品の上映会でも、改めてレベッカの音楽と、NOKKOさんのパワーが、お客さんを圧倒していました。NOKKOさんがサプライズで登場した時の盛り上がりは凄まじかったです。

NOKKO 求めていただけるんだから、ちゃんとやりたいって改めて思いました。やっと割り切れたというか。

――再結成もそういう部分が大きいということですか。

同時発売された、もうひとつの伝説のライヴを収録した『REBECCA LIVE ’85 -Maybe Tomorrow Complete Editon-』(Bru-ray/¥5000+税)
同時発売された、もうひとつの伝説のライヴを収録した『REBECCA LIVE ’85 -Maybe Tomorrow Complete Editon-』(Bru-ray/¥5000+税)

NOKKO 禅問答みたいになってしまいますけど、いつも「私、こうじゃないの」って言ってずっと生きてきて、でもやっと、「全部自分だった。」っていう捉え方ができるようになりました。多分誰もがそういう時期や時間があると思いますが、私の場合、その波がちょっと大きかった分、飲み込むのに、咀嚼するのに、大分時間がかかったというか。

――レベッカが青春だった、レベッカの音楽が人生に寄り添ってくれているというファンは多いです。

NOKKO それぞれの人生だから、思いを馳せるのは自由だけど、やっぱり自分達の音楽がそういう存在になっているのは嬉しいし、その人たちも含めて大きな渦の中にいたんだなというか、その一部を担っていたんだなと思うと、すごいなって純粋に思えるようになりました。

――ここ何年間かのNOKKOさんのインタビューを読んでいると、今歌うことがすごく楽しいという発言が多いですよね。

NOKKO そうですね。先ほども出ましたが、枠から離れられたというか、自由ですね今の方が。当時は常に答えを求められて、締め切りに追い立てられている感じがして、でもそれをうまく説明できないもどかしさで、いつもイライラしていたと思います。生活がままならないというか、ホッとできる瞬間がなかったというか。でも若い時ってみんなそうですよね。だから自然な流れで解散して、今に至るというのは、自分としてはよかったなって思っています。

――2017年に再結成し全国ツアー『REBECCA LIVETOUR2017』を行い、「紅白歌合戦」にも出場しましたが、この時のツアーとレベッカの後期のツアーとでは、感触や感じ方はまるで違うものでしたか?

NOKKO 始まってしまうと、同じだったりするんですよね。2017年のツアーは5か所9公演だったので、もう少し全国各地を細かく回るツアーを、じっくりとやれるといいなとは思いました。今の時代ならではのやり方ができたらいいなというか、再結成も結構時間が空いての再結成だったので、ある意味東京ドームライヴの延長のような、お祭り的な感じが強くなってしまって、もう少しじっくりとバンド感を感じたかったなっていうのはあります。

「客観的に“NOKKO”を見つめ直して、改めて“NOKKOの声”を解明した」

――現在の歌、声はご自身ではどう感じていますか?

NOKKO あらためて客観的に「NOKKO」を見つめ直して、ボイストレーナーさんと一緒に、NOKKOってどういう声なんだろう?っていう風に解明していきました。それが非常に面白くて、今も歌うことができています。

――昨年はソロアルバム『TRUE WOMAN』をリリース、60人のオーケストラをバックに歌う「ビルボードクラシックス」に出演したり、ディナーショウを行ったり、様々なスタイルで歌を届けて続けてくれています。

NOKKO オーケストラをバックに歌っていると、今回の『BLOND ~』の中に入っているバンドのグルーヴとか、そういうのも歌の中に見えてくるから不思議です。バンドもオーケストラもものすごく面白いです。両方の歌を比べてみたり、聴き比べたりしたわけではないですが、確実に違うパフォーマンスになっていますね。でも歌は変わらないというか、よりNOKKOな感じになっている気がしていて。曲ごとにある違い、特にソロの曲とレベッカの曲というちょっとした違いというのも、オーケストラとやると、もっと集約されたNOKKO感が浮き彫りになるんですよ。だからもう恥ずかしいくらいにNOKKO感なんです(笑)。

クリスマスディナーショウにレベッカのデビュー曲のタイトルを付けたワケ

――12月18日にはクリスマスディナーショウ『ウェラム・ボートクラブ・ナイト』を行いますが、タイトルにREBECCAのデビュー曲のタイトルが付いています。

NOKKO 『REBECCA LIVETOUR2017』で、私が「ウェラム・ボート・クラブ」というデビュー曲をやりたいって言い出して、でもこの曲は、当時その後メンバーチェンジ等色々あって、ある意味アンタッチャブルな曲でした。でもそういうことに対してもっと冷静に、丁寧に向き合っていこうと思える年齢になったのだと思います。だからこの映像作品も直視できるというか。当時からファンでいて下さっているお客さんもバンドも驚いていると思うし、自分も驚いています。

――ディナーショウって、トークもメインですよね?

NOKKO そこはやっぱり相変わらずなNOKKOのトークですよ。丁寧にキレているというか(笑)。だから全然ディナーショウっていうムードじゃないです。“食事付きのライヴ”という感じです。お客さんもそれはわかってくれていると思います(笑)。

10月からラジオのレギュラー番組がスタート

――10月からはラジオ『NOKKOのオカエリ ただいま。』(ニッポン放送)というラジオのレギュラー番組もスタートしました。

NOKKO ラジオは人と人を結ぶというか、非常にパーソナルな時間の使い方ができるというか、それをリスナーの人と共有できるといいなと思っていたので、ずっとやりたいと思っていて、念願叶ってという感じです。ジングルも自分で作ったので、是非聴いて欲しいです。

―音楽以外の今の楽しみを教えて下さい。

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NOKKO 今は家事に追われていたりもしますが、それも楽しいです。時間があったらやりたいことは、絵を描きたいです。絵本を描いている時期があって、形にしたいなって思ってるんですけど、育児に追われてそのままになっていて。だから母親としてのミッションがある程度終わったら、バンドと共にやりたいと思うことは絵を描いて、絵本を作りたいです。CDに付くブックレットを絵本にしたり…。歌と似ていて、決して上手い絵ではなくて、私の味の絵なんですけど、チャレンジしてみたいです。

『NOKKOクリスマスディナーショー2019「ウェラム・ボートクラブ・ナイト」』

■12月18日(水) グランドプリンスホテル新高輪 大宴会場 飛天

『NOKKO Christmas Live』

■12月20日(金)Billboard Live OSAKA

■12月24日(火)NAGOYA Blue Note

otonano『BLOND SAURUS TOUR‘89 in BIG EGG-Complete Edition-』特設サイト

NOKKO オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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