大滝詠一 初のライブ音源のアナログ盤は、A面でため息が出て、B面で心躍る、“美しい”ポップスアルバム

1983年7月24日西武ライオンズ球場

初のライブアルバム『NIAGARA CONCERT ’83』のアナログ盤発売

『NIAGARA CONCERT ’83』(7月24日発売/完全生産限定盤)
『NIAGARA CONCERT ’83』(7月24日発売/完全生産限定盤)

今年3月21日に発売された大滝詠一初のライブアルバム『NIAGARA CONCERT ’83』が、アナログ盤(完全生産限定盤)として7月24日(水)に発売された。『NIAGARA CONCERT ’83』に収録されている、大滝詠一ソロ名義でのラストライブとなった、“ALL NIGHT NIPPON SUPER FES ’83 /ASAHI BEER LIVE JAM”は、1983年7月24日に西武ライオンズ球場で開催され、36年後の同日、時を経てアナログ盤として甦った。1982年10月1日に、世界初の商業用CDを発売したアーティストの1組でもある大滝は晩年、「アナログ盤と心中したかった」と語っていたといい、今回のアナログ盤化を喜んでいるはずだ。

ハーフ・スピードカッティングが施され、良好なレスポンス、バランスのいい音の広がりを実現。音楽そのものを楽しめる仕上がり

アナログ盤では、大滝が歌ったパートをA面に5トラック(オリーブの午后/ハートじかけのオレンジ/白い港/雨のウエンズデイ/探偵物語)、B面に5トラック(すこしだけやさしく/夏のリビエラ/恋するカレン/FUN×4/Cider‘83~君は天然色)の、全10トラックが収録されている(ストリングス・パートは未収録)。『DEBUT AGAIN』のアナログ盤や、『45RPM VOX』でもカッティングを手がけた、ロンドン・メトロポリススタジオの巨匠、ティム・ヤングの手による、広い周波数レンジや、良好なレスポンス、バランスのいい音の広がりが特徴の、ハーフ・スピードカッティングが施されている。これにより非常に安定した低音と、聴き心地がいいサウンドと“響き”を実現でき、ハイレゾとはまた別モノの、音楽そのものを楽しめる仕上がりになっている。

そんな、完成したばかりのアナログ盤を、ソニーミュージック乃木坂スタジオのマスタリングルームで聴けるという、貴重な機会に恵まれた――。A面でため息が出て、B面で心躍る、そんな一枚は、まさに“宝物”のような音だった。

スタジオレコーディングの環境を、そのままライヴで再現しようという試み

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当時のナイアガラ・レコードを支えていた石川鷹彦(G)、吉川忠英(G)、島村英治(Dr)他のミュージシャンが22人、さらに新日本フィルハーモニー交響楽団の40人のストリングスセクションを配置した、”Niagara Fall of Sound Orchestral”名義のビッグバンドが作り出す音は、圧倒的な音の種類と量で、厚く、そして豊潤で、その一音一音が鮮明に聴こえてくる。ステージ上でモニター音源のバランス調整をできるようにと、メンバーそれぞれの元にキュー・ボックスを置くという無理な要求を通し、マルチトラックレコーダーをライブに持ち込んだ。この辺の裏話は封入されている、能地祐子氏のライナーノーツに詳しく記されているが、これが36年前のライヴ音源とは信じ難いほどのクオリティと瑞々しさを、隅々にまで感じることができる。音源の再現性を求めているのではなく、スタジオレコーディングの環境を、そのままライヴで再現しようという試みだ。当時、というよりも現在に置き換えても、その規模、コストは異例中の異例だといえる。しかしその大滝 “無謀”なチャレンジ、努力をして突き詰めた結果、我々は今この“宝物”のような音を聴くことができ、幸せな一瞬を手にできているのだ。

サウンドはもちろん、大滝の歌をとことん味わうことができる一枚

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ライヴ本編は、5曲目まではインストゥルメンタル(ストリングスアレンジ井上鑑)だが、“6曲目”の「オリーブの午后」がアナログ盤ではA面の1曲目になる。序盤はやや緊張気味のようにも聴こえるが、練り上げられたサウンド共に、大滝ボーカルの艶と深みも、しっかりと感じる事ができる。大滝のボーカル力、表現力の輝きには、うっとりするしかない。一曲一曲、1フレーズ1フレーズを、まるで愛おしむように丁寧に歌い、歌に様々な表情をつけ、聴き手の想像力をくすぐる。

前半はボーカルがやや抑え目だったように感じた。後半エンジンがかかってくるが、逆にライブならではの音の隙間と、抑え目のボーカルとが相まって生まれる、レイドバック感が心地よかったりもする。しっとりとした歌が心地いい倦怠感を作り上げる「雨のウエンズディ」の後からの、セルフカバー“コーナー”も、聴きどころだ。A 面のラスト、薬師丸ひろ子への提供曲「探偵物語」での愁いのあるボーカルは、切ないストリングスの音色と重なり、美しい。

バンドアンサンブルが波のように押し寄せ、歌がストーリーを膨らませる

B面の1曲目「すこしだけやさしく」は「探偵物語」のB面でもある。確かに一音目、歌い出しが強くなっていると感じるのは、気のせいだろうか。森進一に提供した「冬のリヴィエラ」の英語詞の「夏のリビエラ」、「恋するカレン」では特にそう感じる。「恋するカレン」では、イントロからその世界観にグッと引き込まれ、まるで波間にたゆたうような感覚を与えてくれる。歌がストーリーを膨らませていく。「Cider‘83」からのラスト「君は天然色」は、まさにバンドアンサンブルが波のように押し寄せてきて、でも一音一音が粒のようで、しっかりと捉えることができる。そんな音の海に溺れるような感覚。これもアナログ盤ならではの再現力であり、肌触りなのだろうか。その中で大滝の強く、そしてどこか儚さも感じさせてくれる歌が、極上のポップスを作りあげている。

多幸感に包まれる、美しいポップスアルバム

なんといえない多幸感に包まれる、至福の時を与えてくれるアナログ盤であり、なんて美しいポップスアルバムなんだと、心から思える一枚だ。もちろんCDで聴くのもいいが、アナログレコードのプレイヤーを持っていないという人も、このアナログ盤を聴くために、この機会に手に入れてもいいと思う。それくらい今作に詰まっている音は貴重だと思うし、この36年前のライブ音源には、日本のミュージシャンの凄さ、日本のポップスの素晴らしさ、美しさが全てパッケージされているといっても、過言ではない。

ソニー・ミュージック『NIAGARA CONCERT ’83』特設サイト