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55周年を迎える加藤登紀子 終わりなき旅を続ける中で出会った107の物語を、「あなた」に捧げる

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

歌手生活55周年を迎え、これまでの歌手人生を彩る数多くの作品の中から、107曲をセレクトしたベスト盤『あなたに捧げる歌』

6枚組ベストアルバムBOXセット『あなたに捧げる歌』(3月20日発売)
6枚組ベストアルバムBOXセット『あなたに捧げる歌』(3月20日発売)

今秋、歌手生活55周年を迎える加藤登紀子が、「あなたに捧げる歌」をメインテーマに、「愛する日々の歌」「時を刻む歌」「究極の愛の歌」「生きるための歌」「故郷をうたう歌」と、テーマ別に、これまでの歌手人生を彩る107曲を収録した6枚組ベストアルバムBOXセット『あなたに捧げる歌』を、3月20日にリリースした。75歳を迎え、そのライヴ活動はますます精力的になり、新しい出会いを重ね、それを歌にして残し、旅に出る。まさに終わりなき旅を続ける「歌手・加藤登紀子」が、なぜ今『あなたに捧げる歌』という作品を発表しようと思ったのか、インタビューした。

「あなたに捧げる歌」の「あなた」とは?

「ある場所で、どうしてもってお客さんからリクエストされて、「あなたに捧げる歌」(1980年2月にシングルとして発表)を歌ったの。うちのスタッフさえ知らない曲なんですけど(笑)、歌ってみるとスタッフが「いい曲ですね!これからもっと歌ってください」となって。それからはライヴでたびたび歌うようになって、この企画が浮かびあがった時も、長い年月を見つめるという意味を込めた作品であるので、タイトルとしてもいいんじゃないかということで決めました。「あなた」というのは、出会った人に対する「あなた」で、父、母、私の夫・藤本敏夫、そしてこれまで出会った一人ひとりに対して贈りたいという思いをこめています。コンサートの最後にこの曲を歌っていて感じるのは、会場にいる一人ひとりとの出会いですね。今夜ここで会えた嬉しさを忘れずにいたい、そういうことを毎日繰り返してきたんだなという実感です」。

「加藤登紀子入門編になるように、わかりやすく、かつ深く味わえる選曲にしました」

6枚組BOX『あなたに捧げる歌』について加藤は、「この頃、私のコンサートに初めて来て下さる方が多くなっていますので、加藤登紀子入門編になるように、わかりやすくて、深く味わえる選曲にしたつもりです」と言うように、DISC-1『あなたに捧げる歌』には、素晴らしい出会いの連続だったという人生をなぞらえ、「ひとり寝の子守唄」「知床旅情」「この空を飛べたら」などの代表曲をピックアップ。 DISC-2『愛する日々の歌』には、「LOVE LOVE LOVE」「難破船」などのオリジナルのラブソングを、 DISC-3『時を刻む歌』には、「時には昔の話を」「さくらんぼの実る頃」「リリー・マルレーン」など、この100年余りの歴史の中で生まれた、まるで加藤と不思議な赤い糸で結ばれているような運命の歌を集め、 DISC-4『究極の愛の歌』には、「百万本のバラ」「愛の讃歌」「枯葉」など、デビュー以来一貫して自らの訳詞こだわり歌ってきたシャンソンの名曲を収録。 DISC-5『生きるための歌』には「この世に生まれて来たら」「愛を耕すものたちよ」など、結婚してから永遠の別れまでの日々を綴った、二人の愛の歴史を、さらに DISC-6には「遠い祖国」「帰りたい帰れない」「命結-ぬちゆい」など、故郷を離れる寂しさ、帰れぬ故郷を歌に求める、人々の望郷の歌を集めている。

「私の歌手としての道がはっきり見えてきた、歌手としての火蓋を切った1988年」

「今回収録した曲の多くが、1988年以降にレコーディングしているもので、87年に「百万本のバラ」が大ヒットして、さらに「難破船」を中森明菜さんが、「我が人生に悔いなし」を石原裕次郎さんが歌ってくださってヒットして、88年にはニューヨークの「カーネギーホール」でコンサートをやったり、人生を20年ずつに切ると、私は第4幕目に入っているけど、88年頃というのは、大きな切れ目ではないけれど、歌手としての火蓋を切った感じはありました。88年にレコード会社をCBSソニー(当時)に移籍して、自分の中で奮起したというか、だから旧譜もソニーに移籍してから、少し大人になった私が歌っているという意味で、それでもまだまだ若いけど、レコーディングをし直したりしました。今回のBOXは、そういう意味では歌手として奮起してからの、私の道がはっきりと、手探りではなく見えてきている私、という感じがしています」。

「知床旅情」という大きな存在

「自分として歌う気持ちになるためには、言葉が大切。自分が言いたい言葉でなければ、歌えない」と、シンガー・ソングライターとして、そして世界的な名曲と言われている作品を、自身で訳詞をして歌う喜びと、この2つの車輪で、加藤登紀子というアーティストが構成されているが、そこには「知床旅情」(作詞・曲 森繁久彌/1971年)という名曲との出会いが大きかったと語っている。

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「前年「ひとり寝の子守唄」がヒットして、シンガー・ソングライターとして評価され、翌年「知床旅情」がヒットして、この曲は森繁さんの曲ですが、「ひとり~」とつながりました。それは、こういう身の丈に会った、自分の曲を歌えばいいんだと思えたから。でも正直に言うと「知床旅情」で終わるのは嫌だと思いました。これを超えるヒットソングを書かなければ、自分の葬式の時、この曲がかかるのかって思って(笑)。もちろん「ひとり~」も「知床~」も私の身の丈にあった、自分のできるものからスタートしたんだけど、日本の音楽ってどうしてこんなにも淋しいんだろって思っていました。それは私は、元々外国の音楽を聴いて育って歌手になっているので、コンサートでは色々な曲を歌っていたけど、世の中に認められる私の歌が、淋しい感じの歌、歌詞で、それを登紀子節と言われ、認められて。この線でいって欲しいという雰囲気になってきた時に、それこそちょっと淋しいなって思い、抵抗しながらこれまでやって来たわけです。当時、南米旅行に行ったりしていたので、音楽って大体はワクワクするためや、大見得を切ったりするためにあるのに、日本の音楽ってとにかく淋しいと思っていました。それもよさのひとつだとは思うんだけど。だから早い時期からワールドミュージックを紹介してきたし、55年間やってきて嬉しいのは、そういう道筋が全部まとめて加藤登紀子だって見えていること。これも88年頃から認知され始めた実感があります。だから自分のオリジナルアルバム中に、ロシア民謡やラテン音楽があっても全然不思議ではないし、ロックが入っていてもいいっていう。そういうことができるようになったから、自分の中で意欲が湧いてきました」。

当時、いわゆる流行歌、演歌が主流だった時代に、「知床旅情」にはそれに感じる独特の「くささ」がないという。「それは思っていることを、ただシンプルに綴って、それが風景と一緒になっていて、あっさりしていたのがよかったのだと思う。「ひとり寝の子守唄」も私が感じて、私から出てきたものなんです。普通の子がギターで歌えるという、そういうシンプルなものがいいという感じは、60年代から始まって。元々民謡はワークソングなので、外で歌っているものなのに、お座敷で歌っている民謡が歌として認められて、民謡歌手の人はみんななぜか美しい着物を着ているという、不思議な感じでした」。

「異国の地に自分の故郷があるということが、私の大きなモチベーションになった」

加藤の歌手としてのモチベーションに「故郷」の存在がある。今回の作品もDISC-6に『故郷をうたう歌』というテーマを置き、その最後の歌は「君が生まれたあの日」だ。

「記憶にはないけれど、異国の地に自分の故郷があるということが、私の大きなモチベーションになりました。どこかにある、知らない土地の果てにある、どこかにあるという方がいいなと思って。だからいつでも帰ってらっしゃいという場所ではなくて、自分の「目的」のような、いつかたどり着くところという感じで、私の中で故郷というものは存在しています。それが歌手にとっての大きなテーマになっています。このアルバムの最後は、「君が生まれたあの日」という曲で終わっていますが、この曲は実際は故郷を歌った歌ではないけれど、結局、生まれた日、生まれた事とか生まれた者に対する思いというのは、故郷というものの究極の表現だという思いがこもっています」。

コンサート『LOVE LOVE LOVE』は「加藤登紀子という一人の女としての、普遍的に愛の歌だけで綴る女性史、女の一生のようなものを表現したい」

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4月7日からは『加藤登紀子コンサート2019「LOVE LOVE LOVE」〜愛の4楽章〜』がスタートする。東京は昨年に引き続きBunkamuraオーチャードホールで行う(6月9日)。珠玉のラブソングを集め、無垢な心、無惨な別れ、甘美な追憶、永遠を知る孤独、愛の始まりから最終章までの4楽章を歌う。加藤登紀子のオリジナルラブソングと、シャンソンの名曲が堪能できるコンサートだ。

「今回のアルバムの中では、意識してDISC-2と4にこのコンサートで披露する曲を全部入れました。加藤登紀子という一人の女としての、普遍的に愛の歌だけで綴る女性史のような、女の一生のようなものを表現したい。だから今年は20歳の私から始まります。原曲は150年前の「さくらんぼの実る頃」を、20歳の気持ちで歌います」。

終わりなき旅を続ける歌手・加藤登紀子は、今日もどこかで出会いを重ね、それを物語として歌に昇華させ、そして「あなた」に捧げ、時を紡ぎ続けている。

『加藤登紀子コンサート2019~LOVE LOVE LOVE 愛の4楽章~』

■4月7日(日)高知県・高知市文化プラザかるぽーと

■5月31日(金)大阪府・大阪フェスティバルホール

■6月2日(日)山形県・シベールアリーナ

■6月5日(水)沖縄県・琉球新報ホール

■6月9日(日)東京都・Bunkamuraオーチャードホール

■6月23日(日)長野県・まつもと市民芸術館

問い合わせ トキコ・プランニング (TEL03-3352-3875)

「otonano」 加藤登紀子『あなたに捧げる歌』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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