bird 「声に偽りなく向き合ってきた20年」 冨田ラボとの新作でみせた“新化”と“深化”

写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

bird×冨田ラボ(冨田恵一)、注目アーティストが創り出す『波形』

『波形』(3月20日発売)
『波形』(3月20日発売)

ソウルフルかつオーガニックな唯一無二の声で、自由に音楽を奏で多くの人を魅了してきたbirdが、今年デビュー20周年を迎える。そのデビュー記念日でもある3月20日にニューアルバム『波形』を発売する。前作の『Lush』(2015年)に続き、プロデュースとサウンドメイキングは、birdの音楽には欠かせない、冨田ラボ(冨田恵一)。二人とこの作品に携わった人たちが生み出す“波形”は、グラフ上でどんな変化を示しているのだろうか。このアルバムについて、そして20年間、ライヴを精力的に行い、歌い続けてきて改めて今思うことをbirdにインタビューした。

「全てはアルバムの一曲目、詞先で作った「波形」から始まった」

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「前回の『Lush』から4年経っていますが、このアルバムを作り始めたのは3年前からで、でも冨田さんも忙しいし、私も年がら年中ライヴをやっているので、なかなか進まなくて、少しずつ進めていたらこのタイミングになったという感じです。今回は大きな括りでいうと「言葉とリズム」で、それを心地よく聴いてもらえるようなアルバムを作りたいと思いました。まず1曲目に入っている「波形」という曲の歌詞から書き始めて、それを冨田さんに渡して、曲を書いてくださり、始まったアルバムなんです。なので「波形」という曲が作った流れが、他の曲にも影響してると思います。自分の声や楽曲の音の波形は、制作現場でいつも見ていますが、今スマホでも声や音を録る時に見ることができるし、波形って身近なものになっている気がしていて。日常生活の中でも、話をしていることが音の波形になってて、それが組み合わさっているというのは面白いなって改めて思って、タイトルにもしました。「波形」の歌詞も、息が音に変わって言葉になってという過程を描いているもので、自然と、シンプルにこのアルバムのスタートになりました」。

「言葉」と「リズム」を追求

前作『Lush』では改めてその「声」と向き合い、冨田がボーカリストbirdの持っている才能をさらに引き出し、彼女はそこで冨田が投げかけてくる様々な音楽の「リズム」に対して、歌でどうアプローチしていくのかを楽しんだ。そして今回はさらに「リズム」に対してチャレンジしたいと思い、同時に「言葉」にこだわった。前作でも挑戦した、“詞先”に今回も取り組んだ。

「詞先って制限がないので楽しいです。このメロディに埋めなくちゃいけないとなると、本当はこの言葉を使いたいけど入らないから、別の表現にしたり、近いものにどんどん変えていって、メロディに効果的に入るように書いていきます。でも詞先はそういうことを気にせず書いていけます。曲をいただいてから歌詞を書くことの方が圧倒的多いので、楽曲のイメージというか世界観、メロディ、アレンジにどんな言葉があればいいのか、バランス感覚はいつも考えています」。

「聴いて下さった方の思い出と曲がひとつになり、その人の一部になって、初めて形になる」

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birdが書く歌詞は、行間を楽しめる。決して押し付けではなく、想像力をくすぐってくれる言葉が並び、メロディ、冨田が作るサウンドがさらにそこを刺激してくれる。

「これは聴く人の好みだと思いますが、私の場合は、言い切るというより、その曲を聴いてくれた人が、ライヴとかに足を運んでくださった時に聴いて、曲が思い出とひとつになって、その方の中の一部になった時に、初めて形になるという気がしていて。だから最初にあまり作りこんでしまうと、聴き手のそれぞれの気持ちや思いが入る込む隙間がないという感覚です。でも色々な表現方法があっていいと思うし、ただそういう風になって返ってきた時に、嬉しい気持ちになるので、きっと余白のようなものを感じるのかもしれないですね」。

冨田恵一、KASHIF(PPP)、江崎文武(WONK)、角田隆太(ものんくる)が楽曲を提供

『波形』には、冨田をはじめKASHIF(PPP)江崎文武(WONK)角田隆太(ものんくる)など今、注目を集めているミュージシャンが楽曲を提供し、bird 本人の作詞・曲も収録されている。どの作品もメロディの心地よさが際立ち、それを冨田の抜群の“質感”を感じさせてくれるアレンジとbirdの歌が、極上のポップスに仕上げている。

「もちろんそれぞれの方によってメロディの作り方も違うし、かなり色々なタイプの曲が揃っていると思いますが、冨田さんがトータルプロデュースなので、アレンジで大分変わるというか、原曲とガラッと変わって、でもそれがアルバムの中で統一感が出るというか。冨田さんと一緒に音楽を作っていると、どんどんブラッシュアップされていって、アップデートされていく過程が楽しくて、毎回聴くたびに驚かされます」。

「言葉の響き、リズムの持っていきかた、今回のテーマが一番現れている「記憶のソリテュード」」

全10曲。歌詞に擬音を散りばめたり、それも含めて歌詞が生み出すリズムと、曲が持つリズムとが相まって、心地いいグルーヴを作り出している。全ての歌詞を手がけている彼女に、メロディとひとつになることにより、自分で書いた言葉により光が当たり、光度が高くなった、印象が強くなった曲を挙げてもらった。

「3曲目の「記憶のソリテュード」は、冨田さんが私の声のレンジで、一番いいと思われるところのレンジだけを使って曲を書いてくださって、限られた音の中で作る曲というのが私にとってすごく新鮮で。もちろん歌い手なので、色々なタイプの曲を歌いたいと思いますが、今こういう曲を歌えることがとても新鮮でした。心地よく歌えるというか。ずっと繰り返し聴きたくなる曲って、そういう曲だなって思うし、言葉の響き、リズムの持っていきかたという今回のテーマが、一番現れている曲だと思います。日本語って美しいけどすごく面白くて多彩で、そこをグルーヴに変えていける楽しさというのは、色々可能性があるという気がしていて」。

「声と一生懸命向き合えた20年」

20年間、歌う上でbirdが大切にしてきたこととは。

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「声に対して偽りなく向き合うということです。それは体は楽器なので、加齢などによって変化していくし、実際、声の成分も変わってきていて。1stアルバムを聴くと、この声はどうやって出していたのかって思うし。でも、この時は何を考えていたのかとか、自分の声を聴き直してみる作業って面白くて、その時その時で、毎回自分の声と一生懸命向き合ってきた20年だと思います。いい声もそうじゃない声もあると思いますが、その時にそれに対して、一生懸命向き合えた20年間でした」。

シンガーとして強くなれた『 bird “そうだ ○○、行こう。” acoustic tour シリーズ』

birdは、2011年から『 bird “そうだ ○○、行こう。” acoustic tour シリーズ』という、アコースティックギターとbirdだけで、日本中に出かけていくライヴを行っている。シンプルで、歌を真っすぐ伝えることができるが、一切の装飾を排して、お客さんと正面から向き合う、ごまかしが利かない真剣勝負の時間でもある。このライヴが歌い手としてのbirdをさらに深く、深化させたという。

「ギターの樋口直彦さんとこのシリーズを始めたことは、自分にとってすごく大きくて。今まで発表してきた色々な曲を、ギターと歌だけでやるということを続けることで、歌を歌う人間として鍛えられて、バージョンアップできたと思っています。私か樋口さん、どちらかが倒れたら終わりという状況の中でやっていくというのは、結構面白い体験です。なんかあっても大丈夫、なんとかなるみたいな、そういう心構えというか、ハプニングも楽しいっていうのが、ライヴの醍醐味だと思うんですよね。必ず同じにならない楽しさというか。音数が少ない分、ライヴに来ていただいているみなさんと、そこを一緒に埋めていくというか、一緒に作っていくというか、それがやっぱり楽しいです」。

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このアルバムの発売を記念したライヴ、『bird“波形”ライブ』が 4 月19 日Billboard Live TOKYO 、5月2 日Billboard Live OSAKAで行われる。birdの歌とミュージシャンが、どんなグルーヴを作り、その“波形”をどう提示し、感じさせてくれるか楽しみだ。

※江崎文武(WONK)の「崎」は、「立つ崎」が正式表記

「otonano」bird『波形』特設サイト