Yahoo!ニュース

注目の女性ロックバンドFINLANDS 「元々あるトゲをもっと出していくことが、美しいことだと思う」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「強烈な“孤独”を描いたEPが『UTOPIA』」(写真提供/LD&K)

一年中、トレードマークのモッズコートを纏いライヴを行う

「くるりの「ロックンロール」のMUSIC VIDEOを観てピンときた」と、自分達のトレードマークであるモッズコートを一年中着てライヴを行う、女性2ピースバンドFINLANDS。2013年結成。そのスタイルもさることながら、全作詞・曲を手がけるボーカル・塩入冬湖が書く、冷静かつ深い視点で恋愛を捉え、心の声をトゲのある歌詞に昇華させ、感情のままに歌いギターをかき鳴らすストレートなロック、そして塩入の強く、圧巻の高音が炸裂する歌、パンキッシュな演奏が若いファンから支持されている。

EP『UTOPIA』発売日の翌日、メンバーのコシミズカヨが脱退を発表

画像

ライヴの動員は右肩上がり、各地のフェスにも引っ張りだこで、今年はさらに飛躍できる――と3月6日にリリースしたEP『UTOPIA』を聴いて確信したところに、7日、メンバーのコシミズカヨ(B、Cho)が、4月10日に東京・渋谷CLUB QUATTROで行われる「UTOPIA TOUR」ファイナル公演をもって、バンドを脱退するというニュースが飛び込んできた。二人のうち一人が抜けたFINLANDSは、そしてコシミズを精神的な支えにしていた塩入はどこに向かうのか心配になったが、塩入は「FINLANDSは勿論終わりません。一人になりますが、特に問題ないかな。と思っています。ただ、蓋を開けてみないと今後の変化については分かりません」と強気と少しの不安とが入り混じったコメントを、公式サイトで発表した。

「このアルバムを作ったことで迷いがなくなった」という、昨年リリースしたアルバム『BI』とそのツアーで、FINLANDSは確実にステップアップした。その次に発売する作品ということでEP『UTOPIA』には大きな注目が集まっている。コシミズ脱退のことなどはつゆ知らず、塩入にこのEPについてインタビューした。

手前左からコシミズカヨ、塩入冬湖、サポートバンド左、鈴木駿介(Dr)、右、澤井良太(G)
手前左からコシミズカヨ、塩入冬湖、サポートバンド左、鈴木駿介(Dr)、右、澤井良太(G)

「『BI』を作ったことで、自分自身が今まで以上に正直になっていたと思います。だからこそ迷いが生じたのだと思うし、伝えたいことはたくさんあるのに、それをなかなかまとめることができず、今回は難産でした。私たちは毎年夏にフルアルバムを出しているので、冬にも何か出したいという話をしていたら、スタッフからEPを提案されて。でもそもそもEPって何?というところから始まって(笑)」。

強烈な“孤独”を描いたEP

そんな中、コシミズ、バンドメンバーからの「いいと思ったら作って、いいと思ったものを4曲入れればいい」という、シンプルな思考で制作していこうという助言に助けられたという。

『UTOPIA』(3月6日発売)
『UTOPIA』(3月6日発売)

「「UTOPIA」という曲を作ったときに、すごくいい曲だなって思って、この曲を軸に色々な曲を作ろうと思いました。FINLANDSとしても新しいと思えるもの、これだってひらめいたものを入れました。シングルってシングル曲がタイトルじゃないですか、そのイメージがすごくあったので「UTOPIA」をタイトルにしました。前作の『BI』では、誰もが持っている二面性というものにスポット当て、歌っていましたが、今回の『UTOPIA』という作品全体に流れているのは、強烈な孤独というか、強烈な一人という部分を、4曲を通して描いています。それは自分の中にあるものだし、他人と関わっているからこそ、大勢の中の存在しているからこそ、孤独って絶対あると思うんですよね。ずっと一人だったら孤独ということも感じないと思う。強烈な優しさや、圧倒されるような面白さの中にいると、一人というものがもっと浮き彫りになってくると思いますが、私のことをわかってくれないからとかではなく、ただ本当に存在している孤独を歌いたくて」。

表題曲「UTOPIA」は、キャッチーではあるが、歌詞からは、迫ってくるような悲しさ、切なさをを感じる。4曲全てに、相変わらず鋭いトゲもあって、いい意味で捻くれていて、そんなFINLANDSの“強さ”が前面に出ているEPだ。2曲目の「call end」は、「UTOPIA」と地続きの、相手に、一人という孤独感や不安をもう少しわかって欲しいという思いが見え隠れてしている。「わかってもらってどうするんだということってあると思いますけど、何かわかってもらいたいと思うことがあって、わかってもらいたいと思う相手とは、未来があると思っていて。それは友人でも恋人でも。わかってもらいたいと思うと、ただ幸せなだけではうまくいかないと思いますけど、でもそれがすごく「UTOPIA」に繋がってくると思っていて。最悪、わかったふりでもいいからって思う時、ありますよね(笑)」。

廃盤になった1stミニアルバムに収録されたいた「天涯」を再び収録した理由

「天涯」は、2013年にライヴ会場限定で販売し、現在は廃盤になってしまった1stミニアルバム『悲しい食事』に収録されている楽曲で、このタイミングで再び光を当てようと思った理由とは。

「この曲は、その当時好きだった人のことを思って書いた曲で、書いたときのことははっきり覚えていますが、でも今自分が作る曲と、出てくる言葉とかが、全く違うなと思って。それが私にとってすごく新鮮で、面白くて。1stミニアルバムは廃盤になっていて、もうこの曲を聴ける方法がないので、今入れたら面白いと思いました」。

「衛星」に自分を投影すると見えてくるもの

「衛星」は配信シングルとしてリリースされていて、ファンの間で人気が高い楽曲。今回収録するにあたって、新たにレコーディングし直した。

画像

「この曲を好きと言ってくださ方が多くて、最初は入れるつもりはなかったんですけど、自分で作っておいてなんですが、グッとくる曲なので、『『UTOPIA』にお前も入っていいぞ』って(笑)、晴れて収録されることになりました。最初DVをイメージして作りました。精神的な支配というか、そういう男女の関係について書きましたが、時間が経って聴いてみると、ただそれだけではなく、今の自分自身も、バンドのことや自分がやっていることを、過保護に守ろうとしすぎてしまう節があって、それがいいことばかりではなく、遠隔で支配しようとしている感覚って自分にもあって。それがすごく煩わしくなってしまって、それで<衛星を離れていこう>と歌うことで、自分でグッときたという…。この曲は録音し直していて、ほかの3曲よりも向き合う時間が結構あって、その間にメンバー間でこうしたい、ライヴではこうしたいとか、色々な話をしてからの再レコーディングでした。自分で作ったものに対して、色々な解釈が生まれてくるんですよね、時間が経ってくると。これからもっと色々なことを感じていくと思います」。

今思うと、「天涯」しかりこの「衛星」も、バンドのことコシミズのことを考えながら、今回『UTOPIA』に、“どうしても収録しなければいけない”という思いに至ったのだろうかと、勝手な思いを巡らせてしまう。

「少なくなってきたと感じるトゲをもっと出していけたら、美しいと思う」

画像

「この次、何を作りたいのかは全然決まっていませんが、曲はたくさんできているので、その中で、FINLANDSとして、少しずつなくなってきたと感じているトゲみたいなものって、本当はもっとあるし、再度トゲをみつけて、それを見せていきたい。人は年を重ねてくると、徐々に丸くなっていくものだと思いますが、あえて尖る必要はないですけど、誰も気づいていないかもしれないけど、もっともっとトゲみたいなものを出していけたら、美しいんじゃないかなと思います。そこに新しい発見があると思っています」。

3月15日の福岡を皮切りに、ツーマンライヴツアー『UTOPIA TOUR』がスタートしたが、そのファイナル、4月10日渋谷CLUB QUATTOROが現在のFINLANDSとしてはラストライヴになる。二人の未来を感じることができるライヴになるはずだ。

FINLANDS オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事