wacci “全力で泣かせにかかる”渾身の最新アルバムに感じる、自由という名の「自信」と「深化」

左から小野裕基、因幡始、橋口洋平、村中慧慈、横山祐介

“全力で泣かせにかかります”

『群青リフレイン』(11月7日発売/通常盤)
『群青リフレイン』(11月7日発売/通常盤)

“全力で泣かせにかかります”というキャッチフレーズがついているwacciの3枚目のアルバム『群青リフレイン』(11月7日発売)。彼らの音楽を聴いていると、日常ほどドラマティックなものはないといつも教えてくれるが、今回はそれをより感じさせてくれる。このアルバムには前段部分があり、今年7月から4か月連続で“泣ける”配信シングルをリリース。昔から彼らのライヴでは、涙を流しているファンを多く見かけるが、今またあえて“泣かせ”にかかったのはなぜなのだろうか?小野裕基(B)、因幡始(Key)、橋口洋平(Vo,G)、村中慧慈(G)、横山祐介(D)の4人に話を聞いた。

「まずきっかけとしては、昨年の夏に『感情百景』という2ndアルバムを出して、すごくいい曲がたくさん入った自信作だったのですが、アルバムを手に取った人にしか聴かれないという現状があって、悔しい思いをしたので、今回はアルバムの前に4か月連続でシングルを配信して、アルバムの紹介になればいいなと思いました。さらにひとつテーマがあった方がいいと思い、僕らが活動する上で大切にしている、泣けて、笑顔になって、楽しめるというテーマのひとつ、1曲のパワーとしては、泣ける曲というのがいいと思いました」(橋口)。

wacciはメインのソングライター、ボーカル橋口が創る“いい歌”が、バンドのカラーだった。しかし今回の作品では、メンバー個々の音楽センスを前面に出したアプローチで、“いい歌”を“さらにいい歌”に仕上げている。これまでよりも強度を増したバンドアンサンブルが、一曲一曲に彩りを与えている。

「wacciのフィルターではなく、個人のフィルターを通しているから、サウンドが広がった」(村中)

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「今回は曲を僕が作って、アレンジをそれぞれメンバーがイニシアチブをとってやっているので、そういう部分がサウンドの広がりにつながっていると思います」(橋口)。「橋口君が歌ってきたデモに対して、それぞれが自宅で作業したというのが大部分にあって、なので今までのように、スタジオで全員で同時に聴いて、アレンジを考えるのではなく、それぞれが攻めた、より自分に近いものを作り上げました。それぞれが好きな、得意な音楽の領域に突っ込んでいけているので、4人の共通の知識からはみ出た部分が出ているのが、功を奏していると思います」(小野)。「wacciとしてのフィルターではなく、自分だけのフィルターを通すから、幅が広がったと思います。5人で考えながらやると、どうしてもバランスを考え始めるので、今回は曲を作った人の考え方にみんな従って、その人のイメージ通りに作ろうというコンセプトがありましたね」(村中)。

そんな中でも、ギターの村中が初めて作詞・作曲を手がけたソウルテイストの「月のむこう側」は、橋口が「僕では書けなかったテイストで、(村中)慧慈君が持っていたブラックミュージックの部分を、ふんだんに出した1曲になっています」というように、極上の気持ちよさとカッコよさを感じさせてくれる一曲に仕上がっている。

「気持ちよさを追及していたので、メロディも跳ねていて、全体を通してストーリーができあがっているというよりは、聴き心地のよさをを目指して作ってたので、気持ちいいという表現は嬉しいです。今回初めて1人で作詞をしてみて、橋口の苦労というか、これまでどれだけすごいことをやってきたんだろう、ということを改めて感じました。橋口が歌うから、というイメージにとらわれすぎていたので、歌詞はかなり手こずりました」(村中)。「僕の歌詞っぽくしようとしていて。でもそれは慧慈君らしくなくて、最初から最後までストーリーを作ろう作ろうとしているので、そうじゃなくて、言葉のハマりとか、雰囲気としていいものが、一番最初に書いたものには感じたので、そこを拡げてもらいました」(橋口)。

橋口が作るデモが、当然“wacciの素”になるので、その歌に影響され、アレンジも無意識のうちに、“wacciの枠”を超えないように、というところから始まっていた。そこを今回は気にせずに、メンバーの血となり肉となっている音楽を、曲に纏わせた。1st、2ndで自分達の「これまで」と「これから」の世界観をしっかりと伝え、今回の3rdアルバムで、「これから」の部分を進化させ、バンドの可能性をさらに広げてくれる曲達が、聴き手の「今」を彩っている。そんな曲達の中から、メンバーそれぞれに、自身がアレンジを手がけた曲も含めて、推し曲を教えてもらった。

「僕がアレンジした「Answer」は、バンド面でいえば、今までなるべく避けていた歌メロが鳴ってる後ろでも、楽器が主張している状態をずっとキープしていて。橋口君と疾走感のあるストリングスが鳴っている、アップテンポの爽やかめなノリという方向性を、擦り合わせて作りました。最終的に歌詞は変わっていて、バンドとして、サウンドに対して歌詞を書いてもらうということもありだなと思って、そういうアプローチを橋口君が選んでくれてよかったです」(小野)。

「「最上級」には自分の音楽の趣味を思い切り入れた」(因幡)

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「個人的に思い入れがあるのは一曲目の「最上級」です。最近の洋楽のような、音数が少なくて、シンプルな構成で厚みがあると思いきや、全部声だったり、音が同時に鳴るのではなくて、その抜き差しでアンサンブルを作りました。僕はカントリーやブルーグラス(マンドリンやバンジョーが入った、アコーステックなアンサンブルを奏でるストリングスバンドの音楽)も好きで、橋口のデモがアコギとキックだけだったので、これはそういうテイストを入れられると思い、自分の中のエド・シーランとマムフォード・アンド・サンズを表現しました(笑)。とにかくアコギの音を全面に出したかった。wacciってアコギの音は右側で鳴っていることが多かったのですが、今回はエンジニアさんに、歌と被ってもいいので音の位置をセンターにして欲しいとお願いしました。制作側の細かいこだわりなんですけど、チャレンジでもあったので、思い入れがある曲になりました」(因幡)。

「女性目線で書いた「別の人の彼女になったよ」は、刺さる人と刺さらない人が、完全に分かれる(笑)」(橋口)

「今回は「別の人の彼女になったよ」です。これは書き手として、“書いた”充実感があります。女性目線で歌詞を書く時に絶対言われるのが、男性がそう思われたいだけじゃないかということです。これは失恋ソングを女性目線で書く上では仕方がないことだと思うので、これを越える、女性からわかる!って思ってもらえるくらいの、女性のリアルを書きたいと思いました。難しかったですけど、僕の周りにも参考になる人がいたので、いざ書いてみると、刺さらない人には全然刺さらなくて、刺さる人には完全に刺さる感じですみたいで(笑)。SNS上でも賛否両論、色々な意見がありました(笑)。でも、女の人は恋愛は上書き保存っていうけど、みんな絶対忘れられない人がいるんですよね。それを周りにはなかったことにしつつ、自分の中では抱えていると思うので、これは歌になるなって。最近ではこの曲をカバーして、SNSにあげてくれてる女性シンガーが結構いて嬉しいですね。なぜかかわいい子ばかりなんですよね (笑)。ただこの曲、ライヴでは置き場所に困る歌なんです。これをメインにしたらダメだし、サラッと歌いたい。これをメインでもっていくと、多分泣けない人は泣けないので(笑)」(橋口)。

「僕は先ほども出ましたが、やっぱり「月のむこう側」です。作詞、作曲をやったチャレンジの曲でもあり、アレンジも、大好きなブラックミュージックのその要素を惜しみなく出せました。今までも「Weakly Weekday」や「シンデレラ」のようなブラックミュージックテイストの曲もありましたが、でももっと自分が出せたというか。7月に、シンガー・ソングライター藤原さくらさんのサポートギターをやらせていただいて、それが刺激になりました。曲調的にもアルバムの中でいい変化球になったと思います」(村中)。

「今までのwacciの枠を超えたアレンジをしたとしても、橋口のメロディを橋口が歌うことが、wacciの曲になるということが、はっきりとわかったアルバム」(横山)

wacciの音楽、橋口の歌を際立たせ、ポップの中でしっかりと太いグルーヴを作り出しているのが、小野のベースと横山のドラムの強力なリズム隊だ。このグルーヴがあるからこそ、色々なポップスを“躍らせる”ことができる。

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「まず、このアルバムを作る上で4月に配信した「walfflowers」がすごく大事な役割を担ったと思っています。たとえ今までのwacciの枠を超えたアレンジをしたとしても、橋口のメロディを橋口が歌うことでwacciの曲にちゃんとなるんだなってはっきりとわかって。だからこそ、その後のアレンジにおいて一切角を取らず、尖ったままを表現することができて、色々なパターンの曲が集まったアルバムに仕上げることが出来たように思います。その中に逆に「花束にして」というシンプルな曲があることが、アルバムとしてすごくいい形になっていて、個人的には一番好きな曲です。ほとんどダビングがなく、裸のwacciで勝負している曲で、橋口の歌がものすごく立っていて、アルバムのここに一曲入っているのが好きですね。橋口の歌も、アルバム3枚目ですごく変わったという感触があって。「最上級」もす今までになく歌が強い曲ですね。そういう変化とか進化、メンバーの成長した部分が入っているアルバムだと思います」(横山)。

「いつもは狭い世界、日常を描いているけど、「群青」は、広い世界を目指して書いた」

アルバムの最後に、そのタイトルにもなっている『群青』というバラードが入っている。歌詞も音楽も壮大で、wacciの世界観をより深いものしている。

「「群青」は意識的に広い世界観を書いたというか、詞の教科書みたいなものを、頭の中に広げて書きました。広さがあってこそ届く部分があると思うし、事務所の先輩、いきものがかりさんはいつも広い言葉を使って、たくさんの人に愛される歌を書いています。僕の詞の根本にあるのは、フォークなんです。部屋で二人で座布団折り曲げてゴロゴロして、みたいな世界からスタートしているので、だから広いところは、wacciというバンドになってから書かなければいけないと思っている部分があるので、その広い部分に、どれだけ狭い部分での説得力を持たせて書くかという気がします」(橋口)。

wacciは2009年に橋口を中心に結成。2012年にメジャーデビュー。毎年ライヴを精力的に行い、11月からは初の全国47都道府県ツアーと、来年の結成10周年に向けwacciの歌は広がり続けている。ボーカルでありソングライターである橋口は、現在のwacciの姿、ソングライターとしての自分の現在地をどう見ているのだろうか。

「少しの開き直り、あまり深く考えすぎないことのよさ、囚われないことのよさが、このアルバムには出ていると思う」(橋口)

「デビューして、ディレクターやスタッフからのアドバイス、ファンの皆さんからは、曲を発表するとリアクションをいただけて、そういう環境を全部ひっくるめた時に出てくる正解のようなものが、なんとなく頭の中であって。それを一生懸命突きつめようと頑張っているところで、変化しているというよりは、自分の正解にいつたどりつけるかなと、もがいてる感じではあります。名曲ってそういう部分から生まれてくるなのかなって信じています。僕個人的には、いい意味で開き直ってる部分が、今回の『群青リフレイン』にはあるかもしれません。wacciのイメージや、wacciとしてこうでなければいけないとか、聴いてくれている人みんなの背中をちゃんと押さなきゃ、とかそういうところばかりではなく、「好きで音楽をここまでやってきたじゃん」という純粋な部分を、もう少し素直に出した方がいいと思って。好きなことをやろう、好きなことを歌おう、好きなことを書こう、というところまではいかないけど、そういう開き直りがあった方がいいと思う。ライヴも同じで、最近小野君からも言われるんですけど、僕はなんでもちゃんとやろうとするというか、頭で考えてやろうとして、それができないと凹むというタイプで、でも開き直って、好きにやった時の方が意外とよかったりするんですよね。あんまり深く考えすぎないことのよさ、囚われないことのよさが、このアルバムには、結果的に出せているような気がします」(橋口)。

「マジメな部分と楽しめる部分のバランスが年相応になってきて、今の僕らのありのままを出せた」(小野)

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この橋口の思いは、メンバーの思いでもある。「みんながすごく楽しんで作っていたと思う。今まではもっと必死な感じがあって、基本みんなまじめなので、とにかくまじめにやれることをやり続けてきた。特に橋口君はそうだと思います。でも年齢を重ねてきて、ちょっと大人になってきたというか、仕事の仕方がわかってきたような気がしていて。遊べる部分では遊ぶ、締めるところでは締めるという、年齢なりのよさが出てきたと思っています。それこそライヴもそうで、まじめにやってキメる部分ばかりだと、お客さんも飽きると思うし、だから楽しめる、遊びの部分があるといいなと思っていて。このアルバムもいい意味での“余白”があって、シングルでリリースするようなしっかり泣かせる曲と「Have a good day」や「タフネス&サバイバー」のような、いい歌詞なんだけど、単純に楽しんで聴ける曲もあります。僕らが今出せるマジメな部分と楽しめる部分のバランスが、年相応になってきていて、今の僕らはこうですよって、ちゃんと言えるものができたと思うので、そういうツアーにしたいと思っています」(小野)。

初の47都道府県ツアー。「聴き手の日常に寄り添う音楽を、一人ひとりに直接届けに行く」(橋口)

「全県ツアーは初めてなので、不安な部分も多いですけど、聴き手の日常に寄り添うというところを大事にしているバンドだからこそ、みなさんが過ごしてる日常に、歌を自分の足で届けに行って、1曲でも1人でも多くの人に届けるということは、僕らのようなバンドは絶対にやらなければいけないと思っていました。今回そういう機会をいただけたので、とにかく一本一本のライヴを大切にして、一人ひとりに歌を届けたいです」(橋口)。

wacciオフィシャルサイト