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終わらない青春、止まらない未来への突進力 40周年サザンオールスターズの、強靭な意志を感じたライヴ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/岸田哲平

僕らの時代には、サザンの音楽があったんだ

“僕らの時代には、サザンの音楽があったんだ”――何かを確かめ、誰かに誇るようなこの言葉は、6月26日NHKホールで行われた、今年40周年を迎えたサザンオールスターズの『キックオフライブ2018 ちょっとエッチなラララのおじさん』を観ながら、取材ノートの最後に書いたメモだ。きっとアンコールのラストナンバー「勝手にシンドバッド」で、最高に盛り上がり、感動して書いたのだろう。でもこれが25曲、2時間半越えのライヴを観て、個人的に一番素直に出てきた、しっくりきた言葉だと思うし、そこにいた人の多くの思いでもあると思う。

2008年、日産スタジアムで行われた『サザンオールスターズ『真夏の大感謝祭』30周年記念LIVE』を、雨に打たれながら観た記憶が鮮やかに蘇ってきた。あれからまた10年。社会も、そして前日25日とこの日、運よくチケットをゲットできた7,200人と、全国の映画館でライヴビューイングを楽しんでいる7万人のファン、全ての人にとって色々あった10年だったと思う。サザンのメンバーは全員還暦を超え、この日のMCで原由子は「還暦過ぎてこんな学生みたいなバンドをやっているのは私ぐらいになった」と自虐的に語っていたが、サザンを聴いてきたすべての人の“青春”、色々あってもいつまでも輝きを失わない時間を、今も“存在”させてくれているのがサザンなのだから、逆に感謝したい。

一瞬にして全員の心に“あの頃”がおりてくる名曲の数々

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スタジアム、ドーム、アリーナでのライヴが当たり前となっているサザンのライヴを、NHKホールで観ることができるなんて、これから先あるのだろうか。実は、サザンがデビュー記念日にライヴをやるのも、NHKホールでライヴをやるのも初めてのことで、それだけで心が躍る。開演前から客席には期待感が熱い空気となって充満し、ウェーヴが起こる。元NHKの有働由美子アナのナレーションで幕開け。毎回のことながらファンの間では、ネット上でオープニングナンバー予想が盛り上がっていたが、節目の40周年、還暦を超えたメンバーが選んだのは「茅ヶ崎に背を向けて」だ。桑田佳祐が大学2年生の時に作ったオリジナル曲で、デビューアルバム『熱い胸さわぎ』(1978年)に収録されているナンバーだ。“おかげ様で40年”“いつもいつもありがとう”といった感謝の言葉を歌詞に織り交ぜていく。イントロが始まった瞬間に大歓声が沸き起こったのは、2曲目の「女呼んでブギ」。ホーンセクションの派手な音と、サザンのメンバーといっても過言ではない、サポートメンバー・斎藤誠と、桑田が楽しそうにギターを弾いている。全編クライマックスとでもいうべきこの日のライヴだったが、そんな中でも空気がガラッと変わった、最初のクライマックスが早くも訪れる。「いとしのエリー」だ。総立ちのファンは涙を流しながら桑田と一緒に歌う。オリジナルアレンジで聴かせてくれ、一瞬にして全員の心に“あの頃”がおりてくる。間奏の原由子のキーボードがさらに切なさを誘う。

権威、固定観念をよしとしない、どこまでも自由な精神性を歌詞に投影し、常に進取性に富むアプローチで、瑞々しいメロディとサウンドを作り続けている

80年代、90年代、2000年代、そして2010年代と、4年代連続でアルバムで1位を獲得しているサザン。当たり前だがこの日もヒット曲オンパレードで、改めてどの曲にも感じたのがメロディの瑞々しさだ。稀代のメロディメーカー桑田が影響を受け、ミュージシャンとしての血となり肉となっている、ザ・ビートルズやボブ・ディラン、ビーチ・ボーイズ、エリック・クラプトン、ボブ・マーリーといったアーティストの音楽は、今も世界中で多くの人に愛されている。心地よさ、メッセージ性など共通点があるが、やはり瑞々しく色あせないメロディを湛えているからこそ、スタンダードナンバーになり得るのだと思う。サザンの音楽もそうだ。権威に鋭い視線を投げかけ、固定観念を良しとしない、そのどこまでも自由な精神性を歌詞に投影し、常に進取性に富むアプローチで、瑞々しいメロディとサウンドを作り続けている。今回がライヴ初演奏の最新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」(映画『空飛ぶタイヤ』主題歌)がまさにそれだ。<しんどいね 生存競争(いきていくの)は><弊社を「ブラック」とメディアが言った>という言葉が突き刺さる。一般人と同じ視線で、ジャーナリスティックな切り込み方を忘れない、“ロックなポップスター”だ。

「サザンはやっぱり楽しいね。目標は50周年!」(松田)

桑田が「14年ぶりに演る、すごく好きな曲です」といって「SEASIDE WOMAN BLUES」を演奏し始めると、オーッというどよめきが起こる。誰もが絶対聴きたいと思っている曲、そして予想を裏切るサプライズ曲で、ファンのテンションは上がるばかりだ。NHKホール全体に、ステージから発せられるエネルギーと会場にいるファンのエネルギーとがぶつかり、ひとつになって、壁を破っていきそうな“興奮”が広がっていく。「私はピアノ」では、原がしなやかな歌を聴かせてくれ、桑田が「40年経つと歌が女っぽくなるね」と照れながら褒める。ファンはもちろんだが、それ以上にライヴをメンバー、サポートミュージシャンが楽しんでいるのが伝わってくる。ドラムの松田弘は「サザンはやっぱり楽しいね。目標は50周年!」と、笑顔で語る。演奏で支えながら、桑田の声と相性抜群のそのコーラスも、“サザンの音”のかなり大きな要素だ。この日も松田のコーラスが聴こえてくると「これこれ」と、サザンを強く感じることが再認識できた。パーカッションの野沢“毛ガニ”秀之は「40年間考えていたことがある。このバンドにパーカッション、いるでしょうか?でもサザンを最後尾から支えていく覚悟の毛ガニです(笑)」と語っていたが、「勝手にシンドバッド」は、あのパーカッションが刻む強烈なリズムなしでは成立しないし、野沢のパーカッションも“サザンの音”だ。「40年前、教職試験に受かっていたのに、親の反対を押し切ってサザンを始めました。その後の僕の人生は幸せです」と、ベースの関口和之が言うと、桑田が「幸せが重たい(笑)」と返す、この二人のやりとりもファンは楽しみにしている。

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その後もサザンといえばこの曲、「希望の轍」「TSUNAMI」と並びファンが多い「真夏の果実」を熱唱。もちろん会場中に涙が流れる。「太陽は罪な奴」、「涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~」と続き、そしてここで一呼吸。場内が暗くなり、ドヴォルザークの「ユーモレスク」が流れる中、スクリーンにはほのぼのとした映像と「次の曲の転換、音響機材の準備に充てさせていただきます。当バンドはメンバー全員が還暦を超えており、程よく呼吸を整える時間が必要です」とメッセージが映し出される。場内では笑いが起き、一瞬クールダウン。しかし後半へとうまくつなぐ絶妙の“間”だ。後半の凄まじいテンションを予想させてくれる「栄光の男」、そして「東京VICTORY」ではライトがミラーボールに当たり、光のシャワーとなり、それに煽られるようにWow~と全員がこぶしを突き上げる。「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」では大合唱が起こり、「匂艶 THE NIGHT CLUB」のイントロが流れると歓喜の悲鳴が上がった。

<美しい思い出も大切だけど 人生はこれからを夢見ることさ>

まさに、サザンは止まらないと思わせてくれる怒涛の名曲ラッシュ。しかしまだまだ終わらない。「HOTEL PACIFIC」は、恒例の美人ダンサーとの絡みだ。桑田は、スカートをめくろうとしたり、胸を覗いてみたり、まるでやんちゃな少年のようだ。桑田のこの姿も、ファンは自分の少年時代を投影させ、楽しみにしている。この曲のレコーディングにも参加し、この日もサポートミュージシャンとして演奏していた、山本拓夫のフルートが差し色になり、曲を盛り上げる。本編ラストは「みんなのうた」。30周年の時に、ファンに感謝の気持ちを込め、イントロの前に短い歌をつけ披露して以来、様々なメッセージを歌詞に乗せ、歌ってきた。この日印象的だったのは<美しい思い出も大切だけど 人生はこれからを夢見ることさ>という、桑田からのブレない言葉だ。会場の興奮はマックスになったが、無数の紙吹雪が、ファンの感謝の気持ち、嬉し涙に見えてくる。

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もちろんこのままでは終わらない。再び登場したメンバーは「DIRTY OLD MAN 〜さらば夏よ〜」を演奏し、桑田の「横浜に行こう」という言葉と共に「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート〜」のイントロが流れる。待ってましたとばかりに全員が一緒に歌う。1998年、30年前の作品だが、切ない歌詞とメロディは、聴くたびに胸が締め付けられる。7月7日に放送された日テレ系の音楽特番「THE MUSIC DAY 伝えたい歌」でも、新曲の「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」「壮年JUMP」と共にこの曲を披露した。「ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~」では再びツインギターが炸裂。ラストはもちろん1978年のデビュー曲「勝手にシンドバッド」で、まさに大団円。誰もが知る、日本のポップス史に残る名曲だが、この曲も40年という時間を感じさせない新鮮さと、真新しさを感じる。当時は斬新な曲だった。ゆえに、ライヴ冒頭の有働アナの言葉を借りると「デビュー直後はコミックバンドと位置付けられ、音楽番組に出れば早口すぎて何と歌っているか分からないとテロップが入れられた」のだ。しかし美しいメロディと圧倒的な言葉数が、高い熱量となって輝きを与えている。この曲が世に放たれて以来、ファンはもちろん、日本人の多くが桑田の独特の声、メロディ、“サザンの音”に快感を覚え、生活を彩るものとして、なくてはならないものとして、40年間その快感を楽しんできた。国民的バンドのパワーだ。

動き出したアニバーサリーイヤー。8月1日に40周年プレミアムアルバム『海のOh,Yeah!!』発売、来春には全国ドーム&アリーナツアーを開催

40周年プレミアムアルバム『海のOh,Yeah!!』(8月1日発売)
40周年プレミアムアルバム『海のOh,Yeah!!』(8月1日発売)

言葉とメロディで常に聴き手を励まし、強く生きろと鼓舞する桑田、そしてサザン。さらにステージで懸命に歌い、笑わせ、泣かせ、感動させ、その想いを伝えていく。8月1日には、「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」「壮年JUMP」含む、現在進行形のサザンをしっかりと提示した強力な新曲を3曲を加えた、40周年プレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』を発売する。来年の春には全国ドーム&アリーナツアーも予定されている。

この日のライヴは、2時間半のポップス大絵巻を観ているようだった。サザンがいる幸せを全員と感じながら、かみしめながら、上機嫌で会場を後にした。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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