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Suchmos 人々を熱狂させる、その音楽を構成する骨太な「説得力」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/Takayuki Okada

7月2日、新木場・STUDIO COAST。集まった約3,000人のファンが、彼らが作り出す極上のグルーヴに、気持ちよく体を揺らし、その音楽に酔っていた――Suchmosが自主レーベル企画ライヴ「F.C.L.S. Presents Suchmos the Experience Supported by adidas」を開催。6月20日に発売したミニアルバム『THE ASHTRAY』の収録曲はもちろん、新曲を含めて“今、この瞬間”メンバーが演奏したい、ファンに伝えたいナンバーを披露し、まさに白熱した2時間だった。幻想的な照明の中、自由に音楽を奏で、リアルなメッセージを伝える6人。今シーンの中で、こんなにもナチュラルなスタンスで、世の中と向き合うバンドがいるだろうか?

そんな、より自由になった6人の“今”が、強烈なグルーヴとなり、『THE ASHTRAY』という作品が完成した。YONCE(Vo)、TAIHEI(Key)、KCEE(DJ)に、この新作に込めた思いを聞いた。

『THE BAY』(2015年)に続き、アルバム『THE KIDS』(2017年)が大ヒット。乱ペースで慌ただしく過ぎていった一年、バンドに訪れた異変

ミニアルバム『THE ASHTRAY』(6月20日発売)
ミニアルバム『THE ASHTRAY』(6月20日発売)

“音楽にジャンルはない。あるのは良い音楽と悪い音楽だけだ”――これは、ジャズ界の巨人・デューク・エリントンのあまりに有名な言葉だ。Suchmosの新作『THE ASHTRAY』を聴いた時、改めてこの言葉が思い浮かんできた。Suchomosの音楽は、もちろんメンバーが影響された様々な音楽が昇華されている。だからジャンルは関係ない。気持ちよくてカッコいい音楽を6人は追求している。その最新型が『THE ASHTRAY』だ。2015年7月に『THE BAY』というオリジナルアルバムをリリースし、大きな注目を集め、2017年1月にリリースした2ndアルバム『THE KIDS』では、大きな期待を軽々と超えてみせ、ヒットチャートを駆け抜けた。一躍時代の寵児となり、2作品はロングセールスとなっている。『THE KIDS』携えた全国15都市18公演ツアーを敢行し、数々の大型フェスにも毎週のように出演。さらにCS放送とラジオのレギュラー番組4本をこなし、2017年が振り返る間もなく、慌ただしく過ぎていった。そして“次”の事、作品を考える段階になった時、バンド内にはそれまで感じた事がない空気が充満していたという。

LIVE Photo/Shohei Maekawa
LIVE Photo/Shohei Maekawa

「昨年末、6人で久々に腹を割って話し合う機会がありました。今まではそれぞれのスペシャルな部分をマッチングさせて、Suchmosの音楽としてスマートに聴かせることができていたと思う。確かにバンドは最強の集合体だけど、一人ひとりもアーティストだから、自分がやりたい事をもっと出したいという思いが、それぞれの中に出てきて。でもちゃんと深い話ができたことで、改めてお互いを認め合い、今やるべき音楽ということを一番に考えて作ったのが今回の作品です」(KCEE)。

「元々みんな友達なので、肩を組んで、俺達最強って言っていたのが絵になっていた6人だったと思う。でも年月を重ねて、見える景色も変ってくると、肩を組んでいることが、逆にそれぞれの持ち味を殺してしまい、お互いの動きを邪魔しているんじゃないかと思いました。それが理解できたことで、メンバーに対してのリスペクトが完璧なものになりました。この6人で音を出すことでスペシャルなものが生まれて、人の心が動いて、今回のツアー(『YOU'VE GOT THE WORLD TOUR』)では、2万人ものオーディエンスが集まってくれるという、俺達の音楽人生の中で、一番ヤバい事が起こっています。今のそういう思いや“何か”が、このアルバムには確実に出ていると思う。そういう意味では特別な一枚ともいえます」(TAIHEI)。

「確か去年の取材で「今、ちょうど自立しようとしている時期なんです」という事をよく言っていたと思います。まさにその最後の苦しい瞬間が年末あたりにあって、それをこの作品に封じ込める事ができました。そこからまたスッキリした状態で活動に臨めたし、ホールツアーも最高だったし、6人の関係性に進化して向き合えるようになれたと思う」(YONCE)

個性派集団ゆえの葛藤を乗り越え、6人で音楽に向き合うことの大切さを再確認し、取り組んだ『THE ASHTRAY』

Suchomsが強烈にリスペクトしているバンドのひとつがジャミロクワイだ。ボーカルのジェイ・ケイを中心に、メンバーの個性が目立つバンドで、でもそんな個性派集団がバンドという集合体になると、もの凄いひとつのエネルギーになり、素晴らしい音楽を作りあげた。バンドというものが持つマジックがそうさせるのだ。Suchmosもまさにそうだ。メンバーそれぞれが個性的で、一人ひとりが凄腕のミュージシャンだ。ヒット作を作り上げたことで、それまで自分達のペースで、自由に音楽に向き合っていたバンドが、シーンの、世の中の乱気流、乱ペースに巻き込まれて、自分達を見失ってしまう瞬間があったのかもしれない。しかしそこで改めて各々が、きちんとバンドというものに対峙することで、6人で音楽に向き合うことの大切さを再確認できた。その想いが表れているのが『THE ASHTRAY』であり、『YOU'VE GOT THE WORLD TOUR』だった。

「VOLT‐AGE」が“2018 NHKサッカーテーマ”に。「先方とのイメージのマッチングを考え、一から作り上げるというやったことがないクリエイティブだった。でも自分達の純粋さを失うことなく、作ることができた」(YONCE)

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そんな中、彼らから大きなトピックスが届けられた。『THE ASHTRAY』にも収録されている、「VOLT‐AGE」が、「2018 NHKサッカーテーマ」に起用されたことだ。そして先日行われたワールドカップロシア大会の、日本対コロンビア戦のハーフタイムに「VOLT-AGE」を、地上波で初めてパフォーマンスした。しかしこの曲の制作過程に関して、一筋縄ではいかなかったことを、作詞を手掛けたYONCEが教えてくれた。

「僕らを起用してくれたというのは、NHKにとってのある意味チャレンジだったと思うし、いわゆるタイアップという事を強く意識しなければいけないとも思いましたが、とにかくカッコいい曲を作りたいという思いだけでした。先方のイメージとのマッチングを考え、一から作り上げるという、これまで僕らがやったことがなかったクリエイティブなので、少々手こずりました(笑)。でも結果的に今回の取り組みも、僕達の純粋な部分を失うことなく、前向きに作り上げる事ができたという意義は大きいです」(YONCE)。

若い人から圧倒的な支持を得ているSuchmosにテーマ曲、イメージ曲を発注する側の思惑をきちんと理解しながらも、しかし企業、世の中に媚びることなく自分達が信じた音楽との向き合い方を、貫き通すその姿勢こそがSuchmosそのものだと思う。

「VOLT-AGE」の中では<Heartbeat>という言葉がリフレインされていて、気持ちを盛り上げてくれる。「昔から好きな言葉で、生まれた瞬間一番最初に鳴っている音だし、一番最後にあてになるものだと思っていて。でもそれは人生のバイオリズムによって、速くなったり、変なリズムを刻んだりする事もあります。それも自分の人生というか、宿命なので、常に対峙し続けるものだと思う。そこに対して、自分はどこまで嘘をつかずに死ねるかという事が、この作品に限らず、僕達の大きなテーマになっています」(YONCE)。

ルールに縛られることなく、自由に音楽を作り、奏でる6人の「カッコよさ」

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嘘をつかず、音楽を奏で続ける事ができる強さ。それがSuchmosの「カッコよさ」だ。「カッコイイ」は、人ぞれぞれで感じ方も捉え方も違う、定義しづらいものだ。すぐに上書きされ、更新されやすい、瞬間的なものかもしれない。ライヴや、その人の生き方、強い言葉が紡がれている一行の歌詞、ドラムやギターの1フレーズ、唸るベースの音、曲に彩を与えるDJプレイ…どこにその人が「カッコイイ」を感じるのかは千差万別だ。でもジャンル過多の日本の音楽のシーンの中で、ルールに縛られない音楽を奏でるSuchmosのようなアーティストこそが、「カッコイイ」ものを創り、提示してくれるのではないだろうか。

「世の中で起こっている嫌なことが目につくようになって、もやもやしていたものをぶちまけた“ONE DAY IN AVENUE”」(YONCE)

「今回の作品は音の幅は広がっているけど、音数、音の濃度は減っているはずです。でも一音一音に雑味がないので、一曲一曲、始まりから終わりまで、感動、グルーヴの糸が途切れない、純度が高いものになっていると思います」とKCEEが評してくれた『THE ASHTRAY』には、音楽に対してより自由度と純度が増したメンバーの姿が色濃く出ている。中盤に心地いいプログレ的な転調が待ち受けるロックアンセム「YOU'VE GOT THE WORLD」、TAIHEIが「非常にいいテイクが録れていると思う」という「ONE DAY IN AVENUE」には、痛烈かつ強烈な言葉が乗っている。「もやもやしていたものを、ぶちまけました。世の中で起こっている嫌なことが目につくようになっていて。それを取り繕って、全員で手を取り合ってハッピーに生きようよって、そこまで仮面を被る事はできないです。でも矛盾も大いに孕んでいて、それはロックバンドは、やっぱり歌詞にある<モンキービジネス>に加担している部分もあって、その相反するものから出てくる葛藤というものの魅力に、俺達は憑りつかれていると思うし、アディクトしている。だからある意味、無責任には歌えない曲になりました」(YONCE)。

浮世離れしていない、世の中とシンクロしている音楽を目指す、地に足がついたバンド

「FUNNY GOLD」は頭サビからポップで、歌詞はセクシーで甘美な世界が描かれ、サウンド的には“間”を生かし、妖艶なグルーヴが印象的な「余裕ができたから書けたかもしれない曲」(YONCE)だ。「名曲としかいいようがない」(TAIHEI)という「FRUITS」はレゲエテイストのイントロから気持ちよく、長めのアウトロはまるで波にたゆたうようで、両曲とも極上のバンドアンサンブルを楽しむことができる。「「FRUITS」という言葉は、マディ・ウォーターズの「FRUITS FROM ROOTS」という言葉からインスパイアされたもので、果実という名の音楽と俺達は、色々なルーツ、根っこ、そして親から栄養分をもらって育っています。アウトロ部分はバンド的には白眉だと思うし、音楽の醍醐味は楽器のアンサンブルが生み出す情景や色、匂いで、それを描き出す事が大切だと思います」(YONCE)。家族に対する感謝の気持ちを恥ずかしがらずに言葉にし、歌えるようになったというYONCEだが、彼が常に心掛けている、「浮世離れしていない、世の中とシンクロしている音楽を目指している」というポリシーに共鳴、共感するファンが多いのではないだろうか。

「俺達がやりたいことを、満足にできているかどうかに尽きる。それが勢いやヴァイヴスになって、聴き手に伝わる」(KCEE)

メンバーそれぞれが苦悩と葛藤を乗り越え、バンドとして“強さ”を手にし、ひとつ上のステージに上がることができた6人が、また歩み始めた姿が想像できるのが、ラストを飾る、KCEEが紡いだ「ENDROLL」だ。「俺達がやりたいことを、満足にできているかどうかに尽きると思う。それが音楽に乗っていると、勢いやヴァイヴスになって、ライヴ中も何かの瞬間に聴き手はそれを敏感に感じ取ってくれると思う。そこが俺達にとってはロマンだし、自由に、純粋に音楽と向き合っていれば、例えどれだけサイケな音楽になったとしても、ポピュラリティを持った、子供が聴いても踊れる曲を作っていけると思います。「ENDROLL」という曲は、LPレコードのラストに入っているオルタナティヴトラックのイメージで、歌詞には、壁を乗り越えてまたひとつになったメンバーのケツを叩く意味で、「やるぞ!」という思いを込めました」(KCEE)。

『THE ASHTRAY』というタイトルに込められた意味

左からKCEE(DJ)、TAIHEI(Key)、YONCE(Vo)、OK(Dr)、TAIKING(G)、HSU(B)
左からKCEE(DJ)、TAIHEI(Key)、YONCE(Vo)、OK(Dr)、TAIKING(G)、HSU(B)

「『THE ASHTRAY』というタイトルはベースのHSUが考えたもので、僕たちは全員喫煙者なので、この作品も含めて、俺達が1曲1曲と向き合っている時に、ひとつのものに魂を込めるために燃やしたタバコの灰の量たるや、という感じがモチーフになっています」(YONCE)。

『THE ASHTRAY』を聴いて、思い浮かんだ冒頭のデューク・エリントンの言葉に加え、純粋に、グッドフィールをグッドミュージックにする姿勢を貫くSuchmosの音楽に感じた素直な思いは――“どんな種類であれ、いい音楽はいい”<マイルス・デイヴィス>――。今から11月24・25日の、初の横浜アリーナ2daysライヴ『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA』が楽しみだ。

Suchmosオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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