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工藤静香 「30周年は、過去を振り返るだけではなく、“ムーヴ・オン”の私を見せたかった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
9月16日東京・ZeppDiverCity
約12年ぶりのオリジナルアルバム『凛』
約12年ぶりのオリジナルアルバム『凛』

とことんロックなライヴだった――今年ソロデビュー30周年を迎えた工藤静香が、8月30日に、約12年ぶりにリリースしたオリジナルアルバム『凛』を引っ提げ、行ったツアー『Shizuka Kudo 30th Anniversary Live “凛”』は、言葉もサウンドも、どこまでもロックだった。工藤が「この先もずっと大切にしていけるアルバム」という『凛』が持つ、強くて優しい、そして色気も感じさせてくれる、まさに“凛”とした佇まいがそのまま出ていたライヴだった。そしてこのツアーの初日、9月16日のZeppDiverCity公演の模様を収録したライヴDVDが12月20日に発売された。ツアーを終えた工藤に、ライヴで感じた事、30周年のその先にあるものを聞いた。

「ファンの皆さんが本当に盛り上げてくれて、嬉しかった」

――まず、12年ぶりのオリジナルアルバム『凛』を引っ提げてのツアーを回ってみての率直な感想から聞かせて下さい。

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工藤 あっという間に終わっちゃいました(笑)。お客さんがみなさん、アルバムをしっかり聴き込んできてくださったのが伝わってきて、嬉しかったです。すごく盛り上げてくれました

――緊張感はありましたか?

工藤 やっぱり新しい歌は、歌い方もまだ慣れていないので、特に緊張しちゃう。『凛』というアルバムは、先々ずっと大切にしていけるアルバムだから、これからも楽しみながら歌っていきたいと思いました。

――ファイナルの大阪公演を観させていただきましたが、ヒット曲オンパレードのセットリストの中で、だからこそ『凛』に収録されている曲の良さが伝わってきました。

工藤 嬉しいです。昔の自分が歌っていた歌と今の新しい歌は、歌う人は同じで、声もこのままだし、これをミックスしてお届けしたらどうかなというのが、一番やりたかったことです。

「ただ過去を振り返るのではなく、“ムーヴ・オン”です」

――30年を振り返るのではなく、これからこうしていくんだという、工藤さんの意志表示の場でした。

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工藤 ムーヴ・オンです。ただ振り返るだけではなく、前に進むんだという事を言いたかった。

――30周年で30曲、そしてムーヴ・オンの意味を込めて31曲という圧巻のステージでしたが、同時にきつくなかったのかな、とも思いました(笑)

工藤 やっちゃったなと思いました(笑)。誰が言い出したんだろう……って、自分なんですけどね(笑)。バンドのメンバーも最初はきつそうでした(笑)。

――お客さんは“やっちゃったな”くらいの方が満足度は高いですよね。

工藤 そうですね。ファンの方はずっと私の曲を聴いて下さって、人生を共にしているので、そういう方にはこれくらいやらなければ失礼だと思いました。

「初日に映像収録という事で、多少舞い上がっていたみたいで、もうちょっとかっこつけられないのかな、工藤さんはという感じ(笑)」

――ライブDVDは初日の東京公演を収録していますが、初日ならではのハプニングもあったとお聞きしました。

『Shizuka Kudo 30th Anniversary Live “凛”』(12月20日発売)
『Shizuka Kudo 30th Anniversary Live “凛”』(12月20日発売)

工藤 そうなんです(笑)。東京の時は自分なりに舞い上がっていて、喉のことをすごく気にしていたんだなあと思ったのが、バンド紹介のMCの時、ずっと吸入器持ってるの(笑)。31曲歌うので、最後までちゃんと歌い切らなければ、という思いが強くて、喉がくっついたりして歌えなくなる感じが嫌だったので。収録が入っているのに、もうちょっとかっこつけられないのかな工藤さんは、と思いました(笑)。でも自分らしくていいんですけどね(笑)。それにしても吸入器は置いてくださいという感じですね(笑)。ずっと手に持っているからカットできないし、そこだけは失礼しますと先にお詫びを言っておきます(笑)。

――東京、名古屋、大阪と回ってきて、それぞれのライヴの感想を教えていただけますか?

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工藤 初日の東京はドキドキしつつ、それよりやっとファンの方達に生の声を聴いてもらえるという嬉しさの方が大きかった。ディナーショーだとこれだけの曲数は歌えないし、ディナーショーは来れないけど、ライヴになら来れるという方も多いと思うので、もちろん今回は3都市しか回っていないので、地方から来てくださった方も多くて、その方達に目一杯楽しんでもらいたいという気持ちが強かったです。緊張もしましたけど、やっと会えたという感じがすごくありました。名古屋公演は東京の後、1日空いていたので喉的には緊張していて、リハまでずっと喋らないで、喉をセーブしていました。でも本番はすごく声が出て、いいライヴになりました。後藤次利さんも観に来て下さっていて、どうせだったら弾いてくれればよかったのにと思っていたら、終演後に会った時「言ってくれれば弾いたのに」って言うから、遅いわって(笑)

――後藤さんのベースで歌う静香さん、みなさん聴きたかったし、観たかったと思います。

工藤 そうですよね。あの曲達を生み出した人ですから、みなさんお会いしたかったはずですし、楽しみは次の機会にとっておきましょう(笑)。

「今はライヴで、私の歌を聴いて!!という感じは全くなくて、でも昔はとにかくバカにされたくないという気持ちが強かった」

――大阪公演はMCで「リラックスしてできた」とおっしゃっていました。

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工藤 大阪はハプニングもあったせいで、少し気が楽になりました。楽屋で、ポットに入っているミルクが噴き出すというミルク事件があったお陰で(笑)。やっぱり東京、名古屋、大阪、それぞれ客席のカラーが違うので面白いですね。でもどの会場もすごく盛り上がってくれて、ただ東京公演は関係者が多いという(笑)。

――そういう意味ではやりにくかったですか?

工藤 全然。こうしてやろうとか、私の歌を聴いて!とか全然思わないので。みんな味方だし、逆に楽だったかもしれない。もちろん昔は負けん気が強かったので、1stツアー、2ndツアーとかは特に、アイドルだから下手だと思われたくないという気持ちがすごくあった。バカにされたくないって。「かわいい」って言われるイコール、「子供という事ですか」って反発していたので、逆に大人びたメイクをしたり、大人びた洋服を着て距離を置いたというか。

――アイドルグループからソロデビューする人は当時からたくさんいましたが、そこが工藤さんと他の方との大きな違いにつながっていますよね。絶対負けないという精神が、大御所から提供される難しい曲を、完全に自分のものにしてやるという気持ちにつながっていると思いますし、その結果、名曲達が生まれていきました。あんなに難しい曲を、あの年齢では歌えないです。

工藤 やっぱりアイドル畑にいるという事でバカにされたくないという思いは、実はありましたね。もちろんおニャン子クラブあっての工藤静香で、それも嫌じゃなかったし、でも確かにレコーディングの時は、本当に神経が磨り減ったし、ライヴも緊張していました(笑)。「抱いてくれたらいいのに」もイントロ終わりで、最初の「だ」の音にどれだけ神経を集中させたか。ご飯が食べれなかったくらい、ずっと緊張していました。

「昔の曲も今の自分の立場で歌うと、より愛おしくなる」

――今回のライヴでも、昔の曲を歌う時は当時の事を思い出しましたか?

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工藤 そうですね、思い出す事もありましたが、昔の曲を今の自分の立場で歌っている時がありました。これはすごくありがたいのですが、「FU-JI-TSU」とかは、こんなにも染みる歌だったかなと思いながら歌ってみたり。当時の10代の中では「FU-JI-TSU」も「MUGO・ん…色っぽい」も、キャピキャピした歌という捉え方でした。でもそうじゃないんだなという事がわかって、当時よりも今の方が好きですし、今歌う方がしっくりきます。今回のツアーでは、歌も経験と共に成長していくんだという事に改めて驚きました。

――歌が上乗せされていく感じですよね。

工藤 変わっていくんだなって思いました。でもひとつだけ気をつけているのは、歌の譜割りを変えないという事。ほんの少しのアレンジはあったとしても、原曲の譜割りは変えないように気をつけています。

――ファンの方も聴いていて安心しますよね。

工藤 はい、CDと同じように歌って欲しいと思っていると思いますし、同じ歌い方だとしても、譜割りは変えて欲しくないと思っていると思います。

――今回のセットリストは、シングル曲とそのカップリング曲を順番に歌うと構成でしたが、これは工藤さんのリクエストですか?

工藤 今回やりたかったことのひとつでした。シングルとカップリングを続けて歌ったら、お客さんがCDで聴いていた当時に、あの時代に戻れるかもしれないと思いました。

――中島みゆきさんが手がけた曲のコーナーもありました。

工藤 足りなかったですね。もっと歌いたかった。やっぱり今回のアルバム『凛』でご一緒したかったという思いは今もあります。

「本編の最後に歌った「鋼の森」は、47歳の今の自分の新しいメッセージ」

――本編の最後が「鋼の森」でした。とても大切な曲とおっしゃっていましたが、ライヴで実際に歌ってみて、どんな手応えがありましたか?

工藤 この曲を本編の最後に歌というのは最初から決めていました。今の自分のような感じがしていて、歌的にも強いメッセージも、今47歳の自分が、新たに始めたものとしての形がこれなのかなという気持ちがありました。

――「鋼の森」が他の曲達を引き連れて最後まで来た、そんなライヴだった気がします。

工藤 そうしたかったんです。全部まとめた締めくくりを、どうしても新しい曲にしたかった。それで31曲目、ムーブオンに当たる曲は、絶対に「声を聴かせて」に決めていました。アンコールはいつも大体その場で歌う曲を決める事が多いのですが、今回はぶっつけではなく「声を聴かせて」を歌おうと決めていました。

――個人的には吉田山田が提供した「針」でウルっときました。アルバムで聴いた時もグッときましたが、ライヴで聴くと感動倍増という感じでした。

工藤 あの曲は歌う方も涙をこらえるのが大変でした。恋愛の歌なんですけど、私達の年齢になると、くっついたり離れたりって、恋愛だけじゃなくなってくるじゃないですか。やっぱり10代、20代の人達とは違う聴き方、感じ方になるのですごく堪えました。生の声に反応する歌だと思うので、ライヴではたまらない感じになりすよね。

「お客さんは私の歌と共にある思い出を広げたいと思い、ライヴに足を運んでくれているので、それにちゃんと応えたい」

――今回はZeppツアーという、ライヴハウスでのパフォーマンスでしたが、ライヴハウスというのはやりやすいですか?近すぎるとか?

工藤 私は会場は小さければ小さいほど好き。若い時から言っているのですが、自分の目的、着地点は、ピアノ1本で歌えるシンガーになることで、今それがどういう事なのかがわかりました。それはピアノ一本でも歌える歌手になりたいイコール、ちゃんとボーカル力がある人になりたいんだと、当時は思っていたと思うのですが、でもそれだけではなくて、場所も大切だったんだなと今は思います。謎が解けた感じです。

――一人ひとりにしっかり伝えたいという思いですか?

工藤 でもかといって、先ほども出ましたが、私の歌を聴いて!!みたいな感覚は全然なくて。お客さんは、私の歌を聴いてライヴに足を運んでくださっているので、その歌と共にあるそれぞれの思い出を広げたいと思ってくれていると思うので、それに応えてあげたい。だから場所も、会場の広さも問わないです。でもやっぱりみんなの声が聴こえる方が、自分らしいという気はしています。でも涙を流している人を見つけっちゃたら歌えなくなるから、困るかも(笑)。

「声優の方が私の曲をカバーしてくれて、かなり萌えました(笑)。嬉しかったし、本当に素敵なものができあがりました」

――アルバムのインタビューの時「やっぱりロックが好き」とおっしゃっていましたが、自ずとロック色が強いライヴになっていました。

工藤 今回『凛』がロック色が強かったので、それもいいスパイスになっていたし、本当に楽しかったし、気持ちよかったです。

――ところで、このライヴDVDと同発で、工藤さんの名曲の数々を人気声優がカバーしたトリビュートミニアルバム『Shizuka Kudo Tribute』が発売されますが、この企画を最初に聞いた時は、どう思いました?

トリビュートミニアルバム『Shizuka Kudo Tribute』(12月20日発売)
トリビュートミニアルバム『Shizuka Kudo Tribute』(12月20日発売)

工藤 最初は男性ボーカルでトリビュートアルバムを、というお話をいただいて、だとしたら特徴があるボーカルがいいですよねと言ったら声優さんが歌って下さって、嬉しかったです。皆さんすごくうまくて、すごくよかった。声を楽しめて聴けたというか、声優さんの声はずるい(笑)。

――工藤さんの歌は今まで色々な人がカバーしていますが、このトリビュートはちょっと違う仕上がりですね。

工藤 これは本当に面白かったし、素敵でした。声優さんの声で自分の歌を歌っていただけるなんて、かなり萌えましたって感じ(笑)。自分の歌い方とか捉え方じゃない表現があって、こんな表現もあるんだって、すごく素直に聴けました。

――30周年もライヴDVDとこのトリビュートアルバムで、仕上げという感じですね。

工藤 そうですね。今年の初めから、ファンの人には30周年という事をずっと掲げてきて、ズルズル引きずるのは嫌なので、私ももうおなかいっぱいな感じです(笑)。また来年は来年で色々と考えていて、祭りの後の静けさにはならないよう、私らしく細々とやろうと思っています。

工藤静香オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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