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シンガー・ソングライター集団・Goose houseの現在 ヒット曲ファクトリーが感動を生み出す瞬間

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
ライヴPhoto/oyaming
「笑顔の花」(11月22日発売)
「笑顔の花」(11月22日発売)

2011年にYouTubeでの活動をスタートさせ、2014年にメジャーデビューしたGoose houseは、シンガー・ソングライターの集団として注目を集め、それぞれの個性をぶつけ合い、磨き上げた楽曲を発表し続けている。聴き手に元気を与え、笑顔にするビタミンのような歌を作り続けているGoose houseが、11月22日に6人体制としては初の、16枚目のシングル「笑顔の花」を発売し、好調だ。結成当時からUstreamで、新旧硬軟を織りまぜたカバーをライヴで発信し、演奏部分だけをYouTubeで公開しているが、これが強力な武器になっている。歌、演奏共にそのクオリティの高さにファンが多く、これまでに11億PVを叩き出している。そんな才能集団・Goose houseの中から、竹渕慶沙夜香ワタナベシュウヘイの三人に登場してもらい、ヒット曲作りの秘密、制作の様子を聞かせてもらった。

シンガー・ソングライター集団の曲の作り方とは?

――まずは、個性派集団流の曲の作り方から教えて下さい。

ワタナベシュウヘイ
ワタナベシュウヘイ

ワタナベ メンバーが6人いて、その中で2人ずつだったり、作詞と作曲チームに別れて書いていくという感じです。それでコンペをやって選んで、最終的にみんなでブラッシュアップして完成させます。

――自分が作った曲を今回は絶対出したとか、そういう意志表示、リクエストは伝えますか?

ワタナベ みんな結構内側に秘めています(笑)。

竹渕 あまり表には出さないです。ダメな時は悔しいって思いますけど、いつも納得して、受け止めて、また次頑張ろうと思いながら続けています。

「自分で書いた曲にメンバー一人ひとりの血が入っていき、別のものに変わり、思いつかないところに着地する」(ワタナベ)

――厳しい世界ではありますが、自分自身が鍛えられ、アーテイストとしてブラッシュアップしていける環境ですね。

ワタナベ 例えば自分が書いた曲のアレンジを作っていく中で、メンバー一人ひとりの血が入っていって、全然別ものになっていきます。そういう点で、最終的に自分一人でやっていても思いつかないようなところに着地するので、色々と鍛えられていると思います。

――なるほど、やはりそれだけ作家がいて、たくさんの曲の中から選ばれた曲だから、いい意味で濃く、太いものに仕上がっていくんですね。皆さんの意見がつまっている、その才能が上乗せされていくという事ですよね。

ワタナベ ありがとうございます。みんなが歌えるので、そこが普通のバンドにはないところだと思うし、より濃くなるのかもしれないですね。

――曲は日々思いついた時に作る感じですか?それとも制作時期を決めて、みんなで集中して作る感じなのでしょうか?

ワタナベ それぞれのペースがあると思いますが、Goose houseの新しい曲となると、みんなで同じテーマに向かって、各々のユニットで籠って作っていきます。

「シングル曲に全然採用されなくて、才能がないのかもって落ち込んだり…」(竹渕)

――今回のシングル「笑顔の花」は1月以来になりますが、次のテーマやキーワードは、これも全員で話し合って絞っていく感じですか?

竹渕慶
竹渕慶

竹渕 今回は、元々私達はアコースティックユニットって呼ばれるくらいそういう曲が得意だったのに、振り返ってみると最近の曲は、バンドサウンドが多かったなって。なので今回はアコースティックに戻ってみようかということで、こういう曲調になりました。曲のテーマの出し方は、毎回違うのですが、今回は詞を作るチームと曲を作るチームにわかれて、全員でフワッとした大枠のテーマを考えてから、そこからストーリーラインという物語の世界観を大枠を作っていきます。それをまず書いて、作曲チームに渡してイメージで曲を作ってもらって、その曲に、ストーリーラインで作った歌詞を歌詞チームが当てていきます。

ワタナベ ひとつ大きなテーマがあって、全然違うストーリーがたくさん上がってきます。

竹渕 でも全然採用されない(笑)。だから昔作った曲から引っ張ってきたりすることもありますし。何が選ばれるか本当にわからなくて、ただ修業の時間なような感じです(笑)。アルバムだと特にそういう事があります。自分って才能ないのかもしれないって落ち込んだり(笑)。

沙夜香 私達カバーをやり続けているので、それも曲作りのヒントになっているはずだと思います。

「カバーをやり続けているので、それも曲作りのヒントになっているはず」(沙夜香)

「名曲をカバーし続けていると、そのコード進行に影響を受けやすいので、普段はギターで曲作りをしているのに、ピアノで作ってみたり、工夫をしている」(ワタナベ)

――カバー曲は新旧関係なく、色々な曲を披露してくれていますが、昔の曲を研究していくと、先人たちが作ったベースの上で、今の音楽は成立していると感じますか?

竹渕 強くそう感じさせてくれる作家さんもいます。

ワタナベ 実際楽器を弾く側からすると、コード進行はどんどん複雑にはなってきていて、いきなりある年だけ簡略化されたコードしか使わない年が出てきたり。昔の方がコードもメロディもシンプルでわかりやすくて、今はよく聴かないとどこの音にいっているのかわからないメロディもあったり。

――昔の曲を研究したり、カバーを多くやっていると、逆に気に入った曲の温度感や強さに持っていかれて、影響を受けすぎるという事はないですか?

沙夜香 わかります。いい曲にはクセがあるので、そこに引っ張られないように、ここはまた何となく自分の好きな方にいっちゃったかなと思うと、あえて違う音にします。本当はこの気持ちいいコードに行きたいけど、でも似た感じになってしまうので変えます。

ワタナベ 逆に僕は影響を受けやすいので、普段ギターでしか曲を作らないのですが、最近は弾けないピアノで曲を書くようにしたり、そうやって逃げるようにしています。ギターだと癖がついていて、この進行だったらこういくよという、セオリーみたいなところに陥りがちなので、ピアノで作るようにしています。

「わかりやすい歌詞、心にスッと入ってくる歌詞を目指して」(竹渕)

――言葉はどうですか?例えば歌謡曲で、職業作家の方が書く言葉の美しさや、少ない言葉なのにドラマティックなところは参考になりすよね?

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竹渕 作詞チームは、時代を問わず、色々な人の歌詞をひたすら読んでいますが、読めば読むほど、これ無理だって思っちゃう(笑)。ユーミンさんとか、松本隆さんとか、全然難しい言葉を使っていないし、言い回しもすごくシンプルなのに構成と、運び方とで全然心への響き方が違うんです。自分で書いてみようと思うと、言いたい事が客観的に見た時に、何を言っているのかよくわからなかったり、シンプルに書いてみようと思って、簡単な言葉だけで書いてみると、平易すぎたり。一体どこまで勉強したら、あそこまでなれるのかなと思います。最近の歌詞は、セリフみたいに長いものが多いと思います。それはそれでメロディと組み合わさるとカッコいいと思いますが、しっかり聴かないと何を言っているのかわからない、ちょっと考えないとスって心に入ってこないもの多いと思っていて、自分はそうならないように頑張っていますが、なかなかうまくいかないです(笑)。Goose houseに入る前はメロディ重視派だったので、言葉はあんまり気にしていなくて。歌う時もメロディが気持ちいいもの優先で、歌詞は正直重視していませんでした。でもここで曲作りを始めてから、どこが、何が大事なのかがやっと最近わかってきました。

――言葉が持つリズム、言葉が作り出すリズムもありますよね。

竹渕 そう思います。日本ならではだなって思います。洋楽は歌詞はそんなに深い事を言っていなくてもすごくヒットしたり、名曲といわれるものになったりしますが、日本ではそれでは伝わらないし、日本人は言葉を大切にしています。

――情景描写を細かく説明するものも、わかりやすくていいのですが、でも少ない言葉で想像させるというか、隙間を作って、聴いている人がその行間に自分を置ける感じというのもいいですよね。そこにメロディが乗るとさらに感動が広がるというか。

竹渕 それがやりたいです!頑張ります!

「「笑顔の花」は応援してくれているみなさんへの感謝の気持ちを込めた歌」(竹渕)

――今回の「笑顔の花」は、英語を全く使わず、日本語にこだわって作っていますが、応援歌というか、感謝を伝える歌ですよね。

沙夜香 誰かを励まそうという気持ちもあるのですが、今回は感謝を伝えるというコンセプトにしました。

竹渕 君に宛てた曲を作ろうと言って、私達、僕達がメインではなく、聴いている君とか、あなたに直接向けたメッセージにしようというのは最初から決まっていて。その上で普段応援してくれているみなさんに、感謝の気持ちを込めたいと思いました。ストーリーラインもすごく書いて、どうしよう、これ間に合うかな、シングル出せるかなという切羽詰まった状況になりましたが、新しいテーマでもう一回書いてみようという事になって、スッとこれに決まりました。

――それぞれのチームの曲作りを見てみたいですよね。

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竹渕 今回は個々に別れて作業をしていたので、朝、みんなにおはようって言ったら、それぞれの部屋に入って、一日顔を合わせない感じでした。

ワタナベ 僕はだんだん煮詰まってきて、パソコンを持って近くのカフェに行って作業していました。

沙夜香 私もカフェに行きたいのですが、ピアノがないと何もできなくて(笑)。

――意外と孤独な作業が続くようですが、それがひとつになると、心に残るいい音楽ができるんですね。

竹渕 確かに曲が選ばれて、そこに全員の声が入って全員の曲になるから、今、言っていただいた事を客観的に聞いていて、面白いなと思いました(笑)。

――今回のシングルには「笑顔の花」とタイプが違う曲が2曲収録されていますが、何曲か選んで、一番いいやつをシングルにするという感じですか?

ワタナベ そういう場合もあります。これがシングルって決まった後に作った、カップリング曲のつもりで作っていたものがシングル曲を越えて、入れ替わるという事も……過去に経験があります。

――そのショックさといったら…。

ワタナベ みんなにしばらく顔を見せなかったです(笑)。過酷ですね。

――曲を作り続けていて、アウトプットばかりだと思いますが、インプットはどんな手段で?

ワタナベ 僕はとにかく映画を観ます。家に帰ってから寝るまでに、必ず1~2本観ています。今まではそこまで一生懸命観ていなかったのですが、例えば感動するシーンに、僕だったらどういう音楽をつけるのかな、という事を考えながら観ています。

沙夜香
沙夜香

沙夜香 私も映画とドラマです。朝起きてまず布団の中から観始めて、駅でも電車の中でもスマホで、ここに着くまでずっと観ています。ジャンルは色々で、海外ドラマを4作並行して観たりしています。そのサントラや、YouTubeを観ながら、後ろで流れている音楽が面白いと思ったらチェックしたり。ボカロもよくチェックします。コード進行がすごい面白くて、ああいう音楽を聴いて、それは仕事ではなく普通に楽しんでるだけで、自分の趣味から得られた楽しい音楽です。気になる曲はメモをしたりしています。

――言葉を紡ぐ上で、何が一番参考になりますか?

竹渕 私は詩集も含めて本と、映画とテレビと友達と酒ですね(笑)。友達としゃべっている時が一番楽しい。本当に毎日メンバーとずっと一緒にいるので、自分から行かないと、他の人とほとんど接触する機会がないんです。なので隙あれば友達と飲みに行って、今の人たちはこういう感じなんだというのを吸収したり。だから最近は友達に「今の歌詞に使おうとしてるでしょう?」とか言われます(笑)。次の曲のテーマが決まったら、自分がそれに一番近いと思う映画を観て、言葉をピックアップしたり。

「カップリングの「何もかも~」は初めて、ライヴで一緒に声を出してもらうために作った曲」(ワタナベ)

――みなさんは早い段階からUstreamやYouTubeを上手く使って、若い人たちから圧倒的な支持を得てきましたが、リスナーの音楽に聴き方や買い方も変わってきています。でもライヴシーンはますます盛り上がってきていて、Goose houseもライヴの楽しさがひとつの大きな武器になっていますが、曲を作る上でもライヴを考えて作る事もありますか?

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竹渕 今回のシングルのカップリングの「何もかも有り余っている こんな時代も」は、ライヴで盛り上がれたらいいよねって言いながら、みんなで作りました。

ワタナベ でも実は、ライヴでお客さんに一緒に声を出してもらうための曲を、と考えて作った事は今までなくて、今回が初めてです。

沙夜香 ライヴの度に、いつも「こういう曲が足りない」って反省するので、足りない曲を作っていこうという感じです。

竹渕 ライヴのこのタイミングで、みんなで歌えたり、コールアンドレスポンスできる曲が欲しいと思う事がよくあって。「何もかも~」に関してはそうですね。

沙夜香 Goose houseのライヴを観てくれる人って、一緒に歌いたいと言ってくれる人が多いんですよね。だからできるだけ一緒に歌える曲を多くしたいよね、という話は出ています。

竹渕 言葉を作る側からすると、曲を聴いた時に、耳に残るキーワード、引っかかる言葉を必ずひとつ入れるという事は、みんな意識して作っています。今の時代、CDを買って歌詞カードを観ながら聴く人も少なくなっていると思いますし、スマホやネットを観ながらとか、何かをしながら聴いている時でも、引っかかる言葉を狙って入れています。

「ライヴは自分達もお客さんもお互いの存在を確かめ合い、ビックリして感動する場」(竹渕)

――制作に入ると、ライヴがやりたくなり、ライヴをやるともっとこういう曲が欲しいと思う感じですね。

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竹渕 私達のベースはYouTubeだと思いますが、いつも画面越しで、直接ファンの人に会えない分、ライヴは私達にとって存在証明をする場でもあるし、私達からすると本当に応援してくれているお客さんがいたんだ、みたいな感じになります(笑)。お互いが感動する場というか、ビックリする場でもあります。特に地方に行くと熱烈歓迎してくれて、本当に嬉しいです。

Goose houseオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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