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中華圏で大人気の中孝介 誰の心にもある「懐かしさ」を呼び起こす声は、軽々と国境を越え、愛される存在に

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

昨年発売したベスト盤が、中国の大手通販サイトで1位を獲得。10周年記念ツアーは中国で先に行う

『THE BEST OF KOUSUKE ATARI』(2016年10月26日)
『THE BEST OF KOUSUKE ATARI』(2016年10月26日)

昨年デビュー10周年を迎えたシンガー・中孝介の中華圏での人気が加速している。昨年10月リリースしたベスト盤『THE BEST OF KOUSUKE ATARI』は、中国でも人気のアニメ『夏目友人帳』のエンディングテーマとなった「夏夕空」「君ノカケラ」、元モーニング娘。の高橋愛をフィーチャーした「雨の降らない星では愛せないだろう?」、さらに中国の人気女優/歌手セシリア・ハン(韓雪)とのデュエットナンバー「記憶」や「言葉はいらない」、アジアのスーパースター、ワン・リーホンの「心の陽」をはじめとした、「花海」「童話」「青蔵高原」など、現地で人気のカバー曲を収録した、シングルベストと中華圏ベストの2枚組だ。ちなみにこの作品は2016年4月に中国でリリースしたところ、中国国内の最大手ネット通販サイト「JD.COM」の週間ランキングで1位を獲得した。そんな熱烈な中国のファンの声に応えて、10周年記念ツアーは日本よりも中国で先に行った。これまでもアジア限定盤をリリースするなど、中華圏のファン、マーケットを大切にしてきた。

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今年も5月18日の成都を皮切りに、北京、上海、広州他28日ファイナル公演の西安まで、中国本土7都市を回るツアーを成功させている。いずれの会場もチケットは即完。“島唄王子”と中華圏で呼ばれている中の歌声が、人々の心に浸透している。

2006年のデビュー当時から、上海や台湾でイベントに積極的に参加

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鹿児島県奄美大島出身、在住の中は、2006年シングル「それぞれに」でメジャーデビュー。“地上でもっとも優しい歌声”というキャッチコピーがつけられたその歌声は、シマ唄の、「グィン」といわれるこぶしとファルセットを使う、奄美独特の歌唱法を取り入れ、どこか郷愁感と哀愁漂う、唯一無二のものだ。そして「それぞれに」が中華圏の大スター=アンディ・ラウによって、中国語でカバーされたことで一躍注目を集める存在になり、2006年から上海や台北のイベントに積極的に出演していた。そしてこの年の12月に台湾の野外フェス「Simple Life」に出演し、その歌声で約2万人を魅了。この時、偶然ライヴを観ていた映画監督サミュエル・ウェイ氏も、中の声と存在に魅了された一人だ。すぐに同監督から映画出演のオファーを受け、映画『海角七号』に本人役で出演した。この映画は2008年8月に台湾で封切られ、同国史上第2位(1位は『タイタニック』)の興行収入を叩き出す大ヒットになった。「それぞれに」も劇中歌として使用され、現在も多くの人に愛されている。

この映画の大ヒットで、中の知名度も大幅にアップした。台湾でのCD売上げが急伸、中国本土でも中の名前は知れ渡り、テレビやイベントのオファーが殺到した。そして2008年10月、台湾でリリースしたアルバム『絆歌』は、台湾国内の日韓チャートで1位を獲得、更に台湾国内アーティストも加えたドメスティックチャートでも9位にランクインするなど、日本人アーティストとして、台湾国内で異例の大ヒットを記録した。

中華圏でのコンサートに加え、映画、イベント、TV番組に継続的に出演する事で、中華圏での知名度は圧倒的

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さらに『台北カフェストーリー』(2009年)、『幸福迷途』(2012年/香港)など、中華圏の映画やイベント、テレビ番組に継続的に出演している。今年も中国映画『小情書(ラブレター)』の主題歌を担当するなど、中華圏での知名度は圧倒的だ。ツアーも2007、2008、2011、2012、2014、2015、2016、そして2017年とコンスタントに行っている。2014年からはMCを中国語にし、中国の歌をセットリストに加えた演出に変更し、中国本土での公演数が増えていった。

去年、今年と、中のライヴを観る機会に恵まれたが、その歌声はさらに瑞々しさと深さを増していて、彼がひと声発した瞬間、懐かしさを湛えた奄美の風の吹いてくるようだ。中華圏でも彼の声を聴くと、「胡弓のようだ」「自分の故郷を思い出す」「素朴だが、感情のこもった歌い方が心に染みる」という声が多い。中は常に、その歌が誰の心にも伝わるように普遍的な感情で歌っているのだと思う。奄美の伝統を伝えていくという強い思いと、そこにポップスを織り交ぜ、新しい音楽を作り続けている。「懐かしさ」という誰の心にもある大切な想いを呼び起こし、その声はアジアの風となった軽々と国境を越え、中華圏の人々の心を潤している。

11月29日、初の配信シングルを発売、12月には”冬の折り目”のコンサートを行う

配信シングル「One」(11月29日発売)
配信シングル「One」(11月29日発売)

11月29日には初の配信シングル「One」を発売。そして師走の東京に、中の声が温もりを運んでくれる。12月10日に『中孝介コンサート-フユウンメ2017-』が東京国際フォーラムホールCで行われる。<フユウンメ>とは奄美の方言で<冬の折り目>という意味で、中は「「冬の折り目を」、毎年この場で迎えさせていただけることを本当にうれしく思っています。アコースティックスタイルでのコンサート、僕の声をすごく近くに感じていただけると思います。「フユウンメ(冬の折り目)」にみなさんに感謝の想いを込めて、お届けします」と語っている。NAOTOのバイオリン、伊藤ハルトシのギターとチェロ、そして黒木千波留のピアノという編成で、中の歌声を聴き手の心により優しく、強く、まっすぐ届ける。師走という、年末の空気感が漂うこの時期に聴く中孝介の歌、どこまでも心に響きそうだ。

中孝介オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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