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スカート「捻くれた音楽を、あえてそう聴かせない捻くれ」から生まれる極上のポップスは、3分にこだわる 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

インディーズ時代から一目置かれるそのセンスが、全国へ急速に広がる

澤部渡のソロユニット、スカートのポップスが秋の東京を包んでいる――東京に住み、J-WAVEからよく流れてくるのを聴いたり、コンベンションでライヴを観たり、テレビの音楽番組などで彼のポップスを聴いていると、そんな感覚の錯覚に陥るが、確かに全国にスカートのポップスは届き始めている。インディーズ時代から、そのセンスは一目置かれ、次代のポップス職人と、そのこだわりが絶賛されてきたが、10月18日にアルバム『20/20』でメジャーデビューを果たした。その音楽への向き合い方は、いい意味でインディーズ時代と何ら変わらない。日本全国へ広がるスピードが速くなっただけだ。

「1曲3分くらいがいい。詞も重要だけど”全体感”を楽しみたいし、楽しんで欲しい」

『20/20』(10月18日発売)
『20/20』(10月18日発売)

『20/20』は、スマホの写真ホルダーではなく、アルバムにペタッと貼られたプリントされた写真が放つ、一瞬のインパクトを次から次へと楽しみながら、ページをめくっていく感じ――まさに“アルバム”のような手ざわり、感覚を楽しむ事ができる。生活や感情の一瞬一瞬を切り取った、3分弱のポップスは甘く切なく、光も影も、清涼感も哀しみも感じさせくれる。この1曲3分弱という長さがいい。いわゆる昭和の歌謡曲はほとんどがこの長さだった。ゆえにドラマが凝縮され、聴き手の想像力を掻き立て、もう少し聴きたいなと思ったところで終わるからまた聴きたくなる。スカートのポップスがまさにそうだ。中毒性がたまらない。この曲の長さには本人もやはり相当にこだわっているようだ。「3分いかないのがベスト、3分ちょうどくらいが理想で、なるべく曲は短い方がいいなって思っていて。同じ事の繰り返しだったら、やる意味がないと思っているんですよ。曲って詞を楽しむものでもあるとは思いますが、僕としてはやっぱり“全体感”が好きなので、もしかしたら詞があまり得意ではないという裏返しかもしれないけど、あくまで全体のものだと思っているので」(澤部)。アルバムは40分前後が理想だという。「物足りなければもう1回再生ボタンを押してくれればいい。という感じが理想ですね。一枚聴き終わったら満腹になってしまうものはあまりやりたくない」。

潔いポップスだ。3分ちょっとの中に鮮やかなドラマが展開される。その卓越したポップスセンスから繰り出される美メロと、小さな屈折を感じる歌詞が刺激を生み出している。こだわりにこだわったサウンドと、「コンプレックスだった」という、ちょっと鼻にかかった高くて、どこか憂いも感じさせてくれる声も相まって、独特の親近感、大衆性とマニアックさ両方を感じさせてくれるポップスができあがっている。結果として純度が高いポップスだと感じているが、本人は自身の事を卑屈だという。「逆説的にそうなるのかもしれないです。曲はむちゃくちゃ捻くれていると思いますが、それをあえて捻くれていないように聴かせるという捻くれです」(澤部)。

「僕がやっている音楽は膨大な過去を引き継いで、そこに何かを投げかける事」

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そのポップスは、これまでの自身の心と体にしみ込み、何層にも折り重なっている邦洋のポップス歴史の上で輝きを放っている。「僕のやってる音楽は、膨大な過去を引き継いで、そこに何かを投げかけるという事だと思っています」と、はっぴぃえんどやYMOがルーツミュージックと言い、母親に薦められ聴いたXTC、そしてフリッパーズギター、NUMBER GIRL、yes,mama ok?、ムーンライダーズなどの音楽にも影響を受けてきた。そのフリッパーズギターを育てた現音楽評論家、牧村憲一氏と、進学した昭和音大で出会い、そのひとつひとつの言葉にも影響を受けたという。「作曲学科に入り、卒業制作で曲を作って歌入れをしている時、「幽霊」という言葉が出てきて、メロディと合わせると「ゆーれー」って言っちゃうんですよ。それを牧村さんが「澤部、「ゆうれい」って言った方がいいんじゃない? 言葉をちゃんと聴かせた方がいいよ」って、メロディに逃げるというよりは、日本語にちゃんと向き合った方がいいというメッセージだと、僕は勝手に受け留めました」(澤部)。

スカート=絶対に自分がなる事ができないものへの憧れ

スカートというアーティスト名は、「女性性」=絶対に自分がなる事ができないものへの憧れであり、象徴が“スカート”だという。澤部にとって、ポップスの存在自体が憧れであり、定義づけが難しいポップスを追い続け、聴き手の心に届ける。そしてその心の中に起こった波の広がりをみつめ、また自身に問いかけ続ける。「まだ僕はスカートをどんな人が聴いてくれているのかが謎なんです。ライヴでのお客さんの反応を見ていると、受け入れられていると感じるのですが、若い人達はこの音楽をどう聴いているんだろうって、気になりますね」(澤部)。

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ビギナーもマニアも納得させられるポップスが詰まったアルバム『20/20』。そこに収録されている「オータムリーヴス」を、秋から冬に移ろう季節の今聴くと、ますますスカートのポップスに包まれていると感じる。

スカート『20/20』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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